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2011/12/02
私はあなたが好きです。
あなたに好かれたい
とも思います。
お互いに好ましく感じているなら
どんなに素敵でしょう。
あなたが悩んでいるなら
私も悩ましく
私が喜ぶと
あなたも喜んでくれる
そんなふうになれたら
いいですね。
ともかく私は
そんなこと
わざわざ言わなくても
わかってくれる
あなたが好きです。
2011/12/01
しまった、と思った。
これは自分の財布ではない。
黒くて似ているが、Kさんの財布だ。
Kさんは、私が勤めている会社の上司。
財布が間違っていることに気づいたのは、
買い物を済ませ、部署に戻ってからだった。
自分のデスクの上に
自分の財布が出しっぱなしになっていたのだ。
あわてて支払った金額をKさんの財布に戻し、
それをそのまま、Kさんのデスクの上に置こうとした。
しかし、考えてみると、Kさんは外出中だ。
財布がなくて、とても困っているはず。
一刻も早く手渡さなければ。
私は会社を出て、最寄の駅まで走った。
なぜか駅にいるはずだ、という確信があった。
改札を抜けてホームに入ると、
知人が大勢いて、電車を待っていた。
見まわしてもKさんの姿が見つからない。
同僚のSがいたので、尋ねてみると、
Kさんは先に現地入りしている、とのこと。
困ってしまった。
こちらにまだ用があるので
私は現地へ向かうことができない。
ホームに電車が入ってきた。
悩ましいが、他に方法はない。
事情を説明し、Kさんの財布を
迷惑そうなSの手に無理やり押しつけた。
「向こうで、必ずKさんに手渡してくれ」
それでもSはしぶっていたが、ベルが鳴り、
仕方なさそうに電車に飛び乗った。
すぐにドアが閉まり、電車は動き出した。
窓からこっちを見ている知人たちに手を振り、
やっと私は胸をなでおろしたのだった。
駅の改札を出ようとするところで、
すうっと目が覚めた。
夢だったのだ。
私は自宅の寝室にいた。
夢の内容を思い出し、苦笑する。
Kさんは、前の前の会社の上司だった。
Sも同じ会社の同僚。
だが、もうその会社は倒産して存在しない。
私は現在、独身で無職。
隠居と称して、このまま求職もせず、
慎ましく好きなことをして往生するつもり。
しかし、なんでこんな夢を見たのだろう。
私は思い出す。
前の会社に転職した頃、Kさんは癌で亡くなっている。
見舞いもしたし、葬式にも出た。
でも、夢の中ではまだ生きているらしい。
また、Sとは音信不通。
私より若かったから、まだ生きていると思う。
けれども、この夢の状況からすると、
あるいは、Sが死んだ、というお告げだろうか。
そうかもしれないが、
なんにせよ、確認のしようがない。
それから、また思い出す。
たくさんの知人が、あの電車に乗車したけれど、
あれはどういう意味だろう。
思い出せそうで、ひとりとして思い出せないけど、
まさか・・・・・・
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2011/11/30
階段を上ってゆくと
広い海原に出た。
途切れることのない水平線に囲まれ、
あまりにも日差しは強い。
私は途方に暮れるしかなかった。
「おや、お困りのようですね」
それは自転車に乗った郵便配達夫だった。
「ええ、よくわかりましたね」
「なに、配達を長年やっておりますとね」
「はあ、そういうものですか」
「そういうものです」
「なるほど」
「とりあえず、この荷台にお乗りなさい」
私は素直に自転車の荷台に乗り移った。
郵便配達専用自転車の荷台は驚くほど広く、
この上では日光浴しながら昼寝さえできそうだ。
「あなたは、自転車で海を渡るのですね」
私は声をかけてみる。
海原と比べてしまえば
あまりにも小さな郵便配達夫の背中。
「ええ、そうですよ」
「どういう原理なのですか」
「さあ、よくわかりませんね」
「でも、不思議ですよね」
「あまり気にしないことですよ」
突然、自転車が海中に沈み始めた。
「ああ、大変だ」
「ほら、言わんこっちゃない」
「どうしたのでしょう」
「あなたが気にし過ぎるからですよ」
自転車は、郵便配達夫もろとも
難破船のように沈没してしまった。
それでも荷台だけは海面に浮かんで残り、
私は片方の靴が少し濡れた程度で助かった。
濡れた靴を脱ぎ、
その内側を覗いてみる。
そこには地下へと続く階段があった。
よくわからないままではあるけれど
とりあえず
この階段を下りるしかなさそうだ。
2011/11/29
僕の右足のひざには蛇口がある。
となりの左足のひざにはハンドルがあり、
これをひねると右ひざの蛇口から水が出る。
テレビを観ながらひねっていたら
不意にハンドルがはずれてしまった。
流れる水を止めることができなくて
絨毯を敷いた居間の床が水びたしになった。
「ああ。どうしよう」
「そうね、どうしたらいいのかしら」
ママはテーブルの上に正座して
熱心に編み物をしていた。
さっきまで床に寝そべっていたはずなのに・・・・・・
今は二本のかぎ針を動かすのに夢中で
ママはこっちを見ようともしない。
「ママ。なにを編んでいるの?」
「さあ、なにかしら」
パパにプレゼントするマフラーだ。
まだ夏になったばかりだけど、
でも、冬には間に合わないだろう。
だってママは、することがなんでも遅いから。
「あっ! ママ、だめだよ」
僕はびっくりした。
「あら、どうして、すてきな模様よ」
いつの間にひろったんだろう。
僕の左ひざからはずれたハンドルを
ママは毛糸のマフラーに編み込もうとしている。
「だめだったら、だめだよ」
「なにがだめなの?」
もうほとんど編み込まれてしまった。
こういうことになると、なぜかママは
いままでが演技だったみたいに素早い。
「ああ。僕はどうしたらいいんだろう」
「そうね。どうしたらいいのかしら」
僕は途方に暮れてしまった。
右ひざの蛇口からは水が流れ続けている。
もう居間は、ちょっとした池みたいで、
絨毯が床から浮き始めていた。
そういえば、絨毯の絵柄はおサカナだ。
「ああ。早く冬にならないかな」
「うふふふ。変な子ね」
ママこそ変な大人だと思う。
ママのマフラーが早くできあがって、
そして、パパがそれを気に入らなかったら
僕はとても嬉しいのだけれど・・・・・・
2011/11/28
手のひらが血まみれだった。
どうやら頭を割られたらしい。
まだ生きているのが不思議だった。
いったい、ここはどこだろう。
あたりを見まわしてみた。
いたるところに死体が転がっている。
真っ黒に焼けて、性別さえわからない。
からだを動かそうとすると、あちこち痛む。
なんとか苦労して立ち上がった。
弱々しい声がする。
耳を澄ましてみた。
猫の鳴き声のようにも聞こえる。
裂けた木材のかたわらに子どもがいた。
子どもが赤ん坊を産んでいた。
小さくて信じられない。
まるで猫の子だ。
それを舐める子どもと目が合った。
「大丈夫か?」
「ううう・・・・・・」
「それ、どうするんだ?」
「わかんない。でも、食べさせない」
「ばか」
「ばかだよ。でも、どうしようもない」
なかなか賢そうな顔をしている。
だが、あまりにやせすぎていた。
「お乳は出るか?」
子どもは首を横にふる。
ばかな質問をしたものだ。
近寄っても、子どもは逃げようとしなかった。
逃げる体力が残ってないのかもしれない。
しゃがんだら、額から血が垂れてきた。
割れた頭に手を触れてみる。
・・・・・・痛い。
まだ血は乾いていない。
真っ赤な手。
その手をおそるおそる赤ん坊に伸ばす。
指先で小さな口に触れてみる。
血がついて、口紅を塗ったみたいになった。
しばらく黙って赤ん坊を見守った。
「・・・・・・だめか」
「この子、まだ生きてる」
「そうじゃなくて、死に化粧じゃなくて」
「なに?」
「やっぱり、舐めないな」
「ばか」
めまいがした。
地面が顔に近づく。
なにも見えなくなる。
力が入らない。
意識が薄れてゆくのがわかる。
これがどうやら死ぬということらしい。
もともと生きているのが不思議だったのだ。
ゆっくり落ちてゆく。
どこか暗いところへ、ゆっくり落ちてゆく。
「あっ、舐めた」
どこか遠くで子どもの声がする。
そして、赤ん坊の泣き声・・・・・・
2011/11/27
ノックもなく、部下が部屋に入ってきた。
「ボス。こいつを見てやってください」
部下の手の中には、一匹の青いネズミ。
「なんだ、それは」
「じつはですね、このネズミを怒らせると
左のポケットに入ったりするんですよ」
「それで、どうなるというんだ」
「まあ、たいしたことはありません」
「ふん。くだらん」
「ですが、もっとネズミを怒らせると、
そこから右のポケットに移るんです」
「ふん。ますますくだらん」
「まあ、ボス。こいつの頭をちょっとだけ
小突いてみてくださいよ」
そのへんの子どもより無邪気な笑顔で
部下は青いネズミを私の目の前に突き出した。
私はため息をつく。
ああ、どうして私には
こんな部下しかいないのだろう。
・・・・・・しかたあるまい。
私は諦めて、
その青いネズミの頭を指先で小突いてみた。
ネズミは鋭い鳴き声をあげた。
すぐに部下の手を放れ、私に飛びかかると、
背広の左ポケットにもぐり込んできた。
「わあ、なんだなんだなんだ」
ポケットの中でネズミが暴れるのである。
椅子から転げ落ちそうになるくらい激しい。
「どうです。なかなかでしょう」
「こら。なんとかしろ。やめさせろ」
「えっ、やめるんですか、もう」
「そうだ。わあ、こりゃたまらん」
「いやあ、じつに残念ですね」
「た、頼む。早くしてくれ」
「ネズミに謝ればいいんですよ」
「な、なんだと」
「すみませんって、ボスが謝るんですよ」
「このおれが、ネズミにか」
「やめさせる方法は、他にありません」
「・・・・・・すみません」
「そんな小さな声では聞こえませんよ」
「すみません。すみません。すみません」
「もっと心を込めて」
「ネズミさん。謝ります。私が悪かった。
まことに申しわけありませんでした」
すると、ポケットの中が静かになった。
左ポケットからネズミが顔を出したところを
部下が手を伸ばして、そっと捕まえた。
くそっ。寿命が縮んでしまったぞ。
「なんなんだ、これは」
「いわゆる言葉のわかるネズミです」
まったくもう、私の部下ときたら。
「どうして左のポケットに入るんだ」
「さあ、どうしてなんでしょう」
おもむろに部下はネズミに話しかける。
「君、どうして左ポケットに入るの?」
すると、青いネズミがネズミらしい声で鳴く。
さすがに人の言葉は発声できないらしい。
「左からやるのがネズミの流儀だそうです」
お、おまえはネズミ男か。
「もっと怒らせて右のポケットに移ると、
それからどうなるのだ」
「そうなると、もうおとなしいもんですよ」
「嘘をつけ」
「本当ですよ、ボス」
「信じられんな」
「ただしですね、ボス。
左から右へポケットを移動するとき、
こいつ、体の中を通り抜けるんですよ」
青いネズミの小さな頭を撫でながら
明るく笑う部下の顔が目の前にあった。
ああ、まったくもう。
2011/11/26
猫に マタタビ
彼女に お酒
あらあら よっと
ほろ酔い加減のところで
アイマスクと手錠を掛けてやった。
「えっ? なになに? どうしたの?」
さらに冗談みたいにして
足首もひもで椅子に縛り付けてやった。
「なにするつもり? まさか・・・・・・」
とても不安そうな彼女の耳もとで
俺はそっと囁いてやった。
とても怖い都市伝説系の怪談ばなしを・・・・・・
2011/11/25
小学生の夏休み。
うるさいほどのセミの声。
段数を数えながら
神社の石段をのぼる。
いつも多かったり少なかったり。
鳥居には縄が巻いてある。
頂上には古い社が建っている。
その社の床下にもぐる。
床は高く、造作もない。
隙間だらけ、暗くもない。
アリジゴクの巣がいくつもある。
それを観察。
夏休みの自由研究。
アリが這っている。
いくら待っても這うばかり。
その一匹つかまえ、
巣に落とす。
滑る砂のすり鉢。
必死にもがく働きアリ。
ウスバカゲロウの幼虫、あらわれた。
食べるものと
食べられるもの。
それを眺めるもの。
夢中になって見下ろしていたら
よだれが垂れ、巣が壊れてしまった。
つまんない。
もう家に帰ろう。
床下から這い出て、立ち上がる。
林に囲まれた境内は
すり鉢そっくり。
空を見上げる。
黒い雲。
狛犬の眼が
ちょっと怖かった。
2011/11/23
場面は夜の病室なのだった。
家に帰らず看病していたとすると、
おそらく身内の者が入院していたのだろう。
それが誰だったのか思い出せないが、
きっと大切な人だったはずだ。
病室にはベッドがいくつか並んでいた。
つまり個室ではなかったわけだ。
小さな照明はあったが、暗かった。
就寝時間らしい。
深夜だろうか。
なぜか僕は病室の床に座っていた。
毛布を敷いていたかもしれない。
壁にもたれていたような気もする。
とにかくベッドの陰になる場所だった。
ひとりの看護婦が目の前に立っていた。
ベッドの患者を見下ろすようにして
なにか調べているような仕草だった。
体温とか脈拍とか、そんなものだと思う。
彼女は僕に気づいていなかった。
なのに嬉しそうに微笑んだりする。
僕は瞬きもせずに彼女を見つめていた。
彼女はなにか悩んでる様子だった。
ちょっと考えてから彼女は決めた。
なにか自分の手のひらに書いたのだ。
あれはボールペンだったと思う。
温度とか脈拍数のようなものを
メモ代わりに手のひらに書いたのだ。
白くて柔らかであろう手のひらに。
それから彼女は病室を出ていった。
僕と僕の視線に最後まで気づきもしないで。
2011/11/22
おれは暗い裏町を歩いていた。
どこまでも暗かった。
気が滅入りそうだった。
「おじさん、マッチ買ってよ」
若い女に声をかけられた。
「いくら?」
「いくらでもいい」
一本だけマッチを買った。
女はスカートの裾を持ち上げた。
下着はつけてなかった。
「いいのか?」
「どうぞ、おじさん」
マッチを擦った。
火がつかない。
もう一度擦った。
火がつかない。
きっと、しけてしまったんだ。
「おじさん、なかなかつかないね」
「ああ、つかないね」
まったく、おれはついてない。
まっち擦ッテ 燃エテルウチガ 人生サ