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2012/04/21
なにごともゆっくりです。
はやく話せません。
ゆっくり話すと、言葉になりません。
というか、誰も聞いてくれません。
だから、文字で書きます。
こうして、ゆっくり書きます。
ここまで書くのに百年かかりました。
話すより遅いかもしれません。
考えていると、百年なんかすぐに過ぎます。
人が生まれ、老いて死にます。
あっ、と言う間です。
ひとつの文明が誕生します。
どんどん発展します。
そのうち戦争を始めます。
いくつもの都市が消えてしまいます。
忠告を与える暇もありません。
だから、こうして書いて伝えます。
そんなに急いではいけないよ、と。
なにごともゆっくり、じっくりと・・・・・・
でも、よく考えてみたら、もう手遅れかな。
2012/04/20
彼女は若くて賢くて美人。
大富豪ゴルディアス家の一人娘。
「私を抱きたかったら、この帯をほどくことね」
彼女の着物をきつく締める帯。
その結び目は複雑怪奇。
これまで多くの殿方が挑戦してきた。
しかし、その結び目をほどいた者はいない。
帯を切ろうとしても無駄。
特殊な超合金繊維で織られてあるから。
ある日、一人の若者が彼女の前に現れた。
「我が名は、アレキサンダー」
若者は、帯には手も触れなかった。
ただ服を脱いで裸になっただけ。
その美しい肉体を誇示するかのように。
・・・・・・そして、
彼女の帯はほどかれた。
彼女みずからの手によって。
2012/04/19
白痴はいつも
太鼓を叩いていた。
近くにいれば
必ず太鼓の音がした。
太鼓を叩いていなければ
眠っているのだった。
きっと太鼓を叩く夢でも
見ているのだろう。
いつも白痴は
どこか旅していた。
太鼓が唯一、
白痴の道連れだった。
白痴だから
ほとんど言葉は話せなかった。
その代り、
太鼓で話をするのだった。
太鼓の音だけで
意味が伝わるのだった。
鳥や獣とも
話せるようであった。
風や雨の音とも
合奏できるのだった。
ドム ドム ドム
ドム ドム ドム
太鼓の響きが
大空に広がってゆく。
それだけで
なぜか泣けてくるのだった。
まだ白痴は
旅を続けているだろうか。
あの太鼓の響きが
今でもまだ
耳から離れない。
2012/04/18
君が泣きそうだから
僕は笑いそうになる
僕が笑いそうだから
君は怒りそうになる
君が怒りそうだから
僕は泣きそうになる
それで やっと僕たちは
一緒に泣くことができる
まるで 傘を持ってるから
雨が降るみたいに
2012/04/17
その女の髪には花が飾ってある。
造花ではなく、本物の花。
切り花ではない。
頭に生えているのだ。
花蜜に誘われ、蝶や蜂が寄って来る。
そして、花粉にまみれて飛んで行く。
「今夜、帰りたくないの」
花弁に似た唇が囁く。
「わかるでしょ?」
その手相は、まるで葉脈のよう。
「本当の私を見せてあげる」
風に揺れるような悩ましい動き。
「とても綺麗な花が咲いているの」
甘く切ない蜜の香り。
2012/04/16
ねえ、君。
ご存じかな?
「ニャー」という名の鍵盤楽器を。
見た目、ほとんどアップライト・ピアノ。
もっとも、アップライトの中古ピアノを改造したのだから
当然と言えば当然だけどね。
つまり、僕が作ったんだ。
「ニャー」の命名も僕。
じつは、こいつなんだ。
これが実物の「ニャー」なのさ。
この「ニャー」を演奏するためには
それなりに、なかなか準備が大変なんだよ。
まず最初に、上蓋を開き、
所定の位置に生きた猫をセットする。
元気な猫ほど望ましい。
薬で眠らせたり、死んだ猫ではいけない。
そっと見てごらん、君。
うちのタマさ。
しっかり固定されてるだろ?
そりゃ、大変だったよ。
ほらね。
両手とも、傷だらけさ。
まあ、なんと言うか、仕方ないよね。
それはともかくとして、
あとは普通に演奏するだけさ。
さて、いいかい。
キーを叩いてみるよ。
とりあえず、ドレミファソラシドね。
♪ ニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャー ♪
どうだい?
なかなか素敵だろ。
よし。
次は「猫踏んじゃった」ね。
♪ ニャニャ ニャンニャン ニャー
ニャニャ ニャンニャン ニャー
ニャニャ ニャンニャー ニャンニャー
ニャンニャン ニャー ・・・・・・・ ♪
2012/04/15
愛なんか知らない。
神様なんか関係ない。
学校なんか言い訳さ。
家庭なんかタテマエさ。
他人の殺人事件には興味ない。
冒険らしい冒険ほど退屈なものはない。
いかにもの謎なんか、解きたくもない。
ありふれた夢なんか、見たくもない。
幽霊が現れたら怖そうだけど
現れないから怖いのかもね。
だからなんだ、と怒られたら
なんでもないです、と謝ろう。
2012/04/14
もの悲しくも
切なくも
腕なくし
脚萎えし
傷痍軍人
白装束の楽団の
アコーディオンの音
かつて
同郷の友と
上野の森にて
不意に
聴かされり
2012/04/13
僕の婚約者が僕ではない男と心中をした。
結局、ふたりは死んでしまった。
それはそれでいい。
ありそうな話だ。
ところが、その男にも婚約者がいた。
もちろん、僕の婚約者とは別の女だ。
お互いに婚約者に心中されたわけだ。
初対面は病院の霊安室だった。
お互い、慰めの言葉もなかった。
「まぬけね」
「そっちこそ」
ふたりとも笑ってしまった。
すぐに僕たちは婚約した。
それから、心中の相手をさがし始めた。
たぶん、お互いに。
2012/04/12
僕は学校帰りに自転車で転んで
頭を強く打って
気がついたら
黒い犬がいて になっていて
制服のスカートが破れ 私は
手が悴んで
とても困ったことに
そんなこと
「ああ、お願い。 やめて!」
どうして辺鄙な
軍艦なんか
でも、 片目の人形がこっちを
「 もっと強く。 血が 」
「 逆転すると困る ?」
「案外ね」
いくら炊飯器だって
俺にもわからない。
「ただいま」
「 遅かったわね」
そういうわけなのでした。