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  • 笛吹きの森

    ある山の麓に森があって、

    滅多にないことだが
    お山の方角から風が吹くと、

    美しい笛の音が聞こえる。


    それゆえ村の者は、その森を
    「笛吹きの森」と呼ぶ。


    笛の音が聞こえたからといって、

    べつになにか恐ろしいことや
    めでたいことが起こるわけでもないが、

    そのままなにもしないというのも
    なんとなく申し訳ないような気がして、

    村の者は、皆きょろきょろして、

    棒を見つければ
    それで石ころを叩き、

    箸を持っていれば
    それで茶碗を叩き、

    それぞれ適当に
    笛の音に合わせて拍子をとる。


    まったくもって
    人が好いというか、なんというか。
     

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  • 糸電話

    「もしもし、きこえますか?」
    「もしもし、きこえますよ」

    幼い兄弟が糸電話で遊んでいる。

    「いま、なにしてますか?」
    「でんわでおしゃべりしてます」

    「それはえらいですね」
    「どういたしまして」

    たわいない会話である。

    「そちらはどこにいますか?」
    「こちらはここにいます」

    「こちらもここにいますよ」
    「それはえらいですね」

    「奥さん。旦那には内緒だぜ」

    「なんですか、これは?」
    「なんですかね、これは?」

    「へんなこえでしたね」
    「いやらしいこえでしたね」

    「たぶん、こんせんですね」
    「それはえらいですね」
     

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    • Tome館長

      2014/06/14 02:05

      「ゆっくり生きる」はるさんが動画にしてくださいました!

    • Tome館長

      2011/12/19 16:38

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 恋人の溜息

     
    エレクトロニクスの進歩はすさまじい。

    なんと最新式の電子秤は
    微妙な感情の重さまで量れるという。


    「おれたち、別れる時期を逃しちゃったな」

    いやがるようなことばかり言って、
    恋人から溜息を吐き出させることに成功した。


    出たばかりのそれを
    さっと専用のポリ袋に入れて、

    その口をくるっと結ぶ。


    そして、そのまま

    その恋人の溜息なるものを
    電子秤にかけてみた。


    表示は「35.7g」



    う〜ん、微妙。
     

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  • おうちにつくまでが遠足です

     
    ある日、学校からの帰り道が大きく曲がって
    お花畑の中を通り抜けるみたいになっていた。


    「わあ。これじゃ、まるで遠足だね」
    タカちゃんが嬉しそうに言った。

    「でも、家に帰れるのかな」
    トシちゃんは心配そうに言った。

    「だって、他に道はないもん」
    わたしは普通に言った。


    それから、みんなでワイワイおしゃべりしながら歩いた。

    途中、変なおじさんが声かけてきたけど

    「あっ、変なおじさんだ!」
    って、タカちゃんが叫んだら、逃げちゃった。

    本当に変なおじさん。


    きれいな色違いの花があたり一面いっぱい咲いていて
    帰り道がいつもよりずっと楽しかった。

    そして、とても不思議なんだけど

    みんなでふざけているうちに、気がついたら
    わたしの家の前までついていた。


    「みなさん、おうちにつくまでが遠足です。
     気をつけて帰りましょう」

    校長先生がおっしゃっていたのはこのことだったんだな
    と私は思った。


    なにを気をつけなければいけないのか
    まだよくわかんないんだけどね。
     

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    • Tome館長

      2014/09/22 01:00

      「しゃべりたいむ・・」かおりさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/01/22 21:53

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 見知らぬ町で

    見知らぬ町で女の子を拾った。
    もちろん、見知らぬ女の子だった。

    「拾ってくれて、ありがとう」

    知らんぷりするには、もったいない笑顔だった。

    「なんでまた、こんなとこに落ちてたのかね?」
    「あたし、捨てられたの」

    「誰に?」
    「いろんな人に」

    なるほど、ありそうな話だ。

    「さて、どうしようかな」
    「どうするの?」

    「とりあえず交番に届けようか」

    すると、彼女は顔をそむけ、しゃがんで泣き始めた。

    「ひどい、ひどい、ひどい、・・・・・・」

    髪飾りの花が小刻みに揺れた。
    きれいな花だが、やはり見知らぬ花だった。

    「でもね、落しものは交番に届けないと」

    「おじさん、あたしがきらい?」
    「いや、そんなことはないが・・・・・・」

    むしろ好みかもしれない。
    できれば持ち帰りたいくらいだ。

    「とにかく立ちなさい」

    手を差し出すと、彼女は素直に立ち上がった。

    「さて、どうしたものかな」
    「交番に行くんでしょ?」

    「そうなんだけどね、
     どこに交番あるか知らないんだよ」

    すると、彼女は微笑み、手を引っ張った。

    「あたし、知ってるよ」

    そして、見知らぬ通りを一緒に歩き始めた。

    「ところで、おじさんの名前は?」

    なんだか拾ったのではなく、
    拾われたような気がしてきた。
     

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  • 暴走族

    と言っても
    おもちゃの暴走族。

    仲間とミニチュアのバイクを操って
    深夜に段ボールの国道を暴走するのだ。


    集団は左右にわかれ
    暴れまわる。

    「やっちまえ! 蹴散らせ!」
    「ふざけるな! ぶっ殺せ!」

    狭い室内は修羅場と化す。

    割り箸の角材、ストローの鉄パイプ。
    あたりに飛び散る赤いトマトジュース。

    ついにパトカーと白バイが現われる。
    逃げ惑う秩序なきバイクの群。


    「あんたたち、いいかげんにしなさい!」

    この家の女主人が怒り狂う。

    子どもの邪魔をするのはいつも大人だ。


    夜が明けると、集会は散開。
    みんな、それぞれの家に帰ってゆく。

    ひとり、この家の子だけ残される。

    背中を丸めてうずくまる少年の
    そのさびしそうな横顔。
     

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  • 影踏み

    影はなんでも知っている。


    ひっそり隠れた耳たぶ。
    観察する切れ長の目。
    ほくそ笑む薄い唇。

    影を葬ることは誰にもできない。

    昼間どんなに明るくても
    影は皮膚の内側にも潜むから。


    「ほら、影を踏んだぞ!」
    息を切らして男の子が叫ぶ。

    「嘘よ。踏まれてないわ」
    負けずぎらいな女の子が逃げる。

    けれど、男の子の靴の下で
    千切れた影がのたうっている。

    その影を男の子が責める。
    「あの子の秘密を言え!」


    そう。
    影はなんでも知っている。
     

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  • かくれんぼ

     
    「もういいかい」
    「まあだだよ」

    「もういいかい」
    「もういいよ」

    「どこだろう」
    「どこかしら」

    「見つからない」
    「どうしたの」

    「消えちゃった」
    「見つけてよ」

    「教えろよ」
    「しいらない」

    「もう出てこい」
    「まあだだよ」
     

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    • Tome館長

      2012/01/27 12:40

      「しゃべりたいむ」かおりさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2011/08/11 23:18

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 本の虫

    電車に揺られながら読書していた。


    近所の図書館から借りた本。
    かつて題名が話題になった小説。

    権威ある文学賞も受けている。
    夢中になって読んでいたと思う。


    その本の見開きに虫がとまった。
    蝿でも蚊でもない変な虫だった。

    ページの上を六本脚で這う。

    地へ下りたり、天へ上ったり。
    喉に寄ったり、小口へ迫ったり。

    それを見ているとおもしろい。
    小さいのによくできている。

    主人公の恋人の名を平気で踏む。
    ときどき立ち止まったりもする。

    この虫も迷っているらしい。


    どこかの駅に到着して扉が開く。
    扉に近づき、虫に息を吹きかける。

    本の端にしがみついて離れない。
    三度目でやっと虫は本から消えた。


    扉が閉まり、窓の景色が流れた。



      キミノ棲ム世界ハソッチダヨ

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  • 迷惑な趣味

    彼女、死んだ真似がとてもうまい。

    白目むいて、公園で倒れていたりする。
    わざと服装を乱して、下着とか見せて。

    または、街路樹の枝で首を吊るとか。
    遺書まで用意して、足下に置いたりする。

    真に迫っていて、誰でも騙されてしまう。
    慌てる人々の反応をこっそり楽しむのだ。

    それが彼女の趣味。迷惑この上ない。
    町内では知らない人がいないほど有名。


    まだ若いけど、彼女は主婦をやってる。
    さすがに彼女の家族はもう慣れっこだ。

    最近、家で死んだ真似をしなくなった。

    「あっ、ママがまた死んでる」

    反応が冷たいからだ。
    死に甲斐がない。


    本当に死んでやろうか、と思ったりする。
    だけど、それだけはできないな、と思う。

    「あっ、失敗して本当に死んじゃった」

    そして、死ぬほど笑われるのだ。
     

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    • Tome館長

      2012/08/17 18:16

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/02/25 17:06

      「しゃべりたいむ」かおりさんが朗読してくださいました!

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