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  • 狂気の世界

    2016/04/02

    変な話

    彼は狂犬病と呼ばれていた。

     

    彼は自分の妻を未婚の母と呼び 

    自分の息子と娘を幼な妻、幼なじみと呼び 

    自分の両親をビタミンA、ビタミンBと呼んでいた。

     

     

    彼はナマコに関する研究論文を学術誌に投稿した。

     

    ナマコは外敵から攻撃を受けると肛門から内臓器官を排出する。

    内臓器官は海中で膨張し、敵の身動きを封じる働きがある。

     

    ある種のナマコに至っては、強い刺激を受けると 

    カラダを急激に収縮させ、いくつかの断片に分裂してしまう。

     

    この時、ナマコは肛門の内側で水肺呼吸しているため 

    肛門のない部分の断片は再生する前に呼吸困難により死んでしまう。

     

    その他、多くの生態学的および解剖学的事実を列挙したあげく 

    彼は結論を下す。

     

    ナマコは内向的性格である、と。

    さらに言うなら、先天的マゾヒストである、と。

     

    しかしながら、投稿先が機械工学の専門雑誌であったため 

    彼の論文が受理されることはなかった。

     

     

    これが狂気の世界である。

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  • 変態の世界

    2016/04/01

    変な話

    彼は変態と呼ばれていた。

     

    彼は自分の妻を変態女と呼び 

    自分の息子と娘を変態息子、変態娘と呼び 

    自分の両親を変態ジジィ、変態ババァと呼んでいた。

     

     

    ここに変態の定義がある。

     

    同性同士が仲良くするのは変態である。

    ペットの動物と仲良くするのは変態である。

    人形やぬいぐるみと仲良くするのは非常に変態である。

     

    ソーセージを食べるのは変態である。

    オレンジジュースを飲むのは変態である。

    カレーライスを食べるのは確実に変態である。

     

    壁の穴を覗くのは変態である。

    双眼鏡を覗くのは変態である。

    顕微鏡を覗くのは末期的変態である。

     

    上記項目のどれにも該当しない者は 

    性的抑圧が強いと判断できるので 

    もっとも危険な変態である。

     

     

    これが変態の世界である。

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  • 天才の世界

    2016/03/31

    変な話

    彼は天才と呼ばれていた。

     

    彼は自分の妻を天才の妻と呼び 

    自分の息子と娘を天才の息子、天才の娘と呼び 

    自分の両親を天才の父、天才の母と呼んでいた。

     

     

    クルマを運転できる人は天才ドライバーと呼ばれ 

    事故を起こすと「さすが天才は過激だ」などと褒められた。

     

    道を歩いている人は天才歩行者と呼ばれ 

    転倒すると「さすが天才らしい失敗だ」などと感心された。

     

    横断歩道で寝ている人は天才睡眠者と呼ばれ 

    クルマに轢かれて死ぬと「さすが天才らしい最期だ」などと喜ばれた。

     

     

    哲学者ソックリデスが語った数々の話の中に 

    有名な「非天才の天才」がある。

     

    「私は自分が天才でないことを知っている。

     

     私は世間で天才と評判の多くの人たちと会って話をした。 

     すると、彼らの誰ひとりとして天才でないことがわかった。

     

     ところが、彼らは自分が天才でないことがわかっていない。

     私は考えた。

     

     私も彼らも天才ではない。

     しかし、自分が天才でないことをわかっているのは私だけだ。

     

     ゆえに、私は彼らよりいくらか天才なのだ」

     

    そもそも哲学をする人は誰でも天才なので 

    ソックリデスは今でも天才哲学者と呼ばれている。

     

     

    これが天才の世界である。

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  • 白痴の世界

    2016/03/30

    変な話

    彼はウマウマと呼ばれていた。

     

    彼は自分の妻をウマウマと呼び 

    自分の息子と娘をウマウマ、ウマウマと呼び 

    自分の両親をウマウマ、ウマウマと呼んでいた。

     

     

    「ウマウマ」

    「ウマウマ」

     

    「ウマウマウマウマウマウマ」

    「ウマウマウマウマ、ウマウマウマウマ」

     

    「ウマウマ?」

    「ウマウマウマウマ」

     

    「ウマウマ!」

    「ウマウマ」

     

    「ウマウマウマウマ」

    「ウマウマ」

     

    「ウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマ」

    「ウマウマウマウマ」

     

    「ウマウマ・・・・」

     

     

    これが白痴の世界である。

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  • 不良の世界

    2016/03/19

    変な話

    彼は不良と呼ばれていた。

     

    彼は自分の妻を不良女房と呼び 

    自分の息子と娘を不良のガキ、不良のスケと呼び 

    自分の両親を不良おやじ、不良おふくろと呼んでいた。

     

     

    派出所の警察官は不良おまわりと呼ばれ 

    総理大臣は不良首相と呼ばれ 

    一般人は不良市民とか不良国民とか呼ばれていた。

     

    学校には不良教師と不良学生がいて 

    繁華街にはフリョーボーイとフリョーガールがいた。

     

    書店には不良作家の書いた不良文学が並び 

    不良文学少年少女たちが立ち読みをしていた。

     

    『不良失格』

    『不良の証明』

    『限りなく不良に近い不良』

    『フリョウの森』

    『容疑者Xの不良』

    『百年の不良』

    『フ・リョー・コード』

     

    すべてが不良なら不良と呼ぶ意味ないにもかかわらず 

    誰もがなんでもかんでも不良と呼んでいた。

     

     

    これが不良の世界である。

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  • 美術館

    2016/03/17

    変な話

    放課後の校舎、美術室にて 

    美術部の部員たちが絵を描いている。

     

    モデルはブルータスだかなんだかの石膏胸像。

    ただし、そのままの単純な構図では創作意欲が湧かない。

     

    そのため、全員による協議の末、副部長の意見が採用されて 

    1年生女子と抱き合わせの形にロープで縛って床に転がしてある。

     

    吹奏楽部のもの悲しい演奏が 

    音符の形状をして開け放たれた窓から流れ込む。

     

    同じ窓から夕陽も差し 

    ブルータスだかなんだかの胸像の頬を赤らめる。

     

    顧問の女教師は眠気と闘うべきか妥協すべきか悩んでいる。

    「あたし、本当はね、アニメーターになりたかったの」

     

    旧体育館から稽古中の剣道部の気合いが聞こえる。

    新体育館からはバスケット部の試合の声援。

     

    「先生、こんな感じでどうでしょう」

    正直なところ、よくわからない。

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  • クサノコ採り

    2016/02/23

    変な話

    目覚めたのちに思い出している。

    僕はクサノコ採りをしていたのだ、と。

     

     

    遠征から帰ってみると、車道は渋滞していた。 

    クルマを追い越しながら縫うように歩いて進む。

     

    ゴルフ場を連想させるエリアに戻れば 

    誰もかれもがクサノコ採りに余念がない。

     

    クサノコは吹き出物のように草地に生える突起物。

    小さいが食べられ、味も悪くない。

     

    まるで小さいキノコみたいだから

    草の子ども、クサノコと呼んでいる。

     

    ここはホームグラウンドのような場所なので 

    知人友人たちに会釈しながら奥へと進む。

     

    途中、びっくりするほどの美女が親しげに寄ってきた。 

    思い出せないが、どうやら幼馴染おさななじみであるらしい。

     

    はた目に羨ましがられそうだな、などと思いながら 

    一緒に並んで談笑しながらしばらく歩く。

     

    彼女は用あって図書館のような建物の中に入り 

    僕は待つ間、そこの庭の祭壇みたいな草地に寝転ぶ。

     

    そして、ちょっとだけ眠ったのだ。

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  • お隣のニワトリ

    2016/02/20

    変な話

    実家に入り、母に言う。

    「お隣のニワトリ、うるさいね」

     

    すると、母は言い返す。

    「あれはゴエンドンさんとこのニワトリだよ」

     

    屋号で言われてもよくわからない。

    だが、お隣の屋号でないことだけはわかる。

     

    「違うんじゃないかな」

     

    「おまえ、あれがゴエンドンさんのとこなのか 

    タケゾウさんのとこなのか、確認してくれないかね」

     

    「そんなの自分で確認すればいいだろ」

     

    私にとってどうでもいいことだし、それに 

    母は白内障の手術をしてから私より目がいいのだ。

     

    もうなんだかむしゃくしゃしてしまって 

    これ以上は母との会話を続ける気になれない。

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  • 灰色ウサギ

    2016/02/19

    変な話

    水の入ったバケツを兄の家に届けて帰ると 

    家には父が帰宅していた。

     

    「風呂に入りたいな」

    独り言のように父がつぶやく。

     

    あなたの望みは叶えてやりたいが、あいにく 

    バケツ一杯の水がなければ風呂に入ることはできない。

     

    「わかりました。すぐ戻ります」

    そう言い残し、急いで兄の家に引き返す。

     

    ところが、着いたところは兄の家ではなく  

    ガラス張りの白っぽいビル。

     

    ガラスのドアを引き戸式に開け 

    最上階にあるオフィスに侵入する。

     

    休日なのか誰もいない。

     

    バケツが見当たらないので出ようとすると 

    ガラスの入り口から放し飼いの黒ウサギが侵入している。

     

    このままドアを閉めてしまったら 

    無人のオフィスの中で飢え死にするだろう。

     

    持ち上げて通路に出てからドアを閉め、鍵をかける。

     

    黒ウサギとは別に灰色ウサギが一羽、通路にいて 

    開いた引き戸にあやうく挟まるところだった。

     

    こちらを不思議そうな表情で見上げる。

     

    いけないことかもしれないが 

    持ち帰るつもりで灰色ウサギを抱き上げる。 

     

    さて帰ろうとすると 

    二人の掃除婦がお喋りしながら階段を下りるところ。

     

    彼らをやり過ごしてからビルを出よう。

     

    しかし、よくよく考えてみると 

    掃除婦ならバケツの一つぐらい持っていたかもしれない。

     

    手持ちぶさたに視線を下せば 

    じっとこちらを見上げる灰色ウサギ。

     

    いかにも問い質したそうな 

    そのつぶらな瞳。

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  • 電気工事士

    2016/02/17

    変な話

    胸騒ぎがして急いで帰宅すると 

    キッチンで男が電気工事をしていた。

     

    見覚えのない男ではあるが 

    壁の電灯スイッチのパネルを外している。

     

    ドライバーらしき道具で作業している状況からして 

    電気工事士であることが推測される。

     

    「いやいや、どもども、すみません」

    などと謝ったのに、作業中の工事士は返事もしない。

     

    約束した時間帯に留守をしていたからなのか 

    どうやら彼は怒っているらしい。

     

    そう言えば、どうやって彼は留守宅に侵入したのだろう。

     

    パネルを外した部分に小さいけれど傷口みたいな穴が見える。

    かなり危険な状態であることは素人目にもわかる。

     

    ところで、キッチンの奥には小さなテーブルがあり 

    その近くに幼なじみの友人のように思える男がいる。

     

    そして、テーブルを挟んで向かい側には少女。

     

    友人の娘であろうか、かわいらしい顔立ちではあるが 

    発達障害なのか、それとも見た目よりも幼いのか 

     

    しきりに体を動かしながら歌うように喋り続けているが 

    何を言っているのかさっぱりわからない。

     

    ぼやけて見える表情にも奇妙な印象を受けるが 

    見続けていてもなかなか見飽きない。

     

    どうやら工事は長引きそうである。

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