Tome Bank

main visual

Tome館長

m
r

Tome館長

CREATOR

  • 3

    Fav 1,204
  • 9

    View 6,034,312
  • p

    Works 3,356
  • 鳥かご

    2008/11/07

    愛しい詩

    手作りのかごから抜け出して
     あの島へ君は飛んでいった

       一枚の羽を残したのは
        形見のつもりなのか

          しなやかで白くて柔らかい
           いかにも君の羽だと思う


    あきれるほど青い海の向こう
     鳥たちの棲む島へ君は帰ってゆく

       さわがしい羽音 さえずる声
        手の届かない空に鐘の音が消える

          鳥たちの島できっと君は
           鳥たちの女王様になれる


    君のいないかごの中
     遠い海から吹く風に
      白い羽がゆれている
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 毒入りの瓶

    2008/11/06

    変な詩

     
    おれは毒入りの瓶だ。
    ちゃんと髑髏マークのラベルが貼ってある。

    暗い過去を持つ由緒正しき危険物で、
    これまで多くの尊い命を奪ってきた。

    もしおれの言葉が信用できなければ、
    頭の栓を抜き、おれの中身を飲めばいい。

    ほんの少し、唇が湿るくらいで十分。
    苦しむ暇もなく、すぐに息絶えるはずだ。

    中身が全部飲まれてしまったら
    ただの空っぽの硝子瓶でしかないが、

    幸いにも、まだいくらか毒は残ってる。

    その証拠におれを持ち上げて振ってみれば
    液体に特有の舌鼓のような音がして、

    「こっちゃ来い、こっちゃ来い」

    と、聞こえるはずだ。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • とかげ

    ある不毛の大地に一匹のとかげがいる。

    とかげの目の前にも一匹のとかげがいる。

    すぐ後ろにもやはり一匹のとかげがいる。

    このことはどのとかげについても言える。

    とかげによるそのような列が実在する。

    とかげの列は前方に果てしなく続く。

    とかげの列は後方にも果てしなく続く。

    どのとかげも身動きせずに並んでいる。

    どのとかげも一瞬にしてある決意をする。

    とかげは目の前のとかげの尻尾を噛む。

    と同時に後ろのとかげに尻尾を噛まれる。

    とかげの尻尾は途中でぷつんと切れる。

    その尻尾が暴れるために列が乱れる。

    暴れる尻尾をとかげは苦労して飲み込む。

    尻尾は喉を通り胃袋を通り腸を通る。

    さらの尻尾の断面を通って尻尾が生える。

    再生した尻尾はぬらぬらと濡れている。

    そのためにとかげの抑制がきかなくなる。

    とかげは目の前のとかげの尻尾を狙う。

    すると自然にとかげの列が再びできる。

    不毛の大地に見事なとかげの列ができる。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 爪の絵

    2008/11/04

    暗い詩

    高名なる爪彫師に白い手首を贈ります。

      細い華奢な指たちが泳いでいます。

        いったい誰の髪を撫でたのかしら。
         それとも誰の背中を傷つけたの。

           ほら、ひどく懐かしい気がしませんか。


    思い出の指輪の跡が残っているみたい。

      あら、まさか忘れたのかしら。
       それとも、忘れたふりかしら。

         これもあれも、爪の絵だって消えるもの。

           ほら、彫刻刀の先が少し震えませんか。
     

    Comment (2)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
    • Tome館長

      2012/04/08 01:29

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2011/10/04 20:39

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • つぶやき

    2008/11/04

    変な詩

    こんなとこに夜が隠れている


    涙がコロコロ転がるうぶ毛の大地


    夕暮れの底に沈んでゆく群衆


    きっと僕たちはまちがっている


    蝶のことは蝶にまかせておこう


    眠ってしまったカタツムリ


    見てしまった夢はしかたない


    ただつぶやいてみただけ
     

    Comment (2)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
    • Tome館長

      2012/07/15 21:27

      ケロログ「しゃべりたいむ」かおりさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/07/09 21:01

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 蝶の沖合

    濡れた靴下を脱ぎ捨てて
    波に揺れる夕暮れの海面を

    ひたひたと裸足で歩いていたら

    まるで霧に包まれたように
    無数の蝶の群に囲まれてしまった。


    こんな遥か沖合まで
    あたりまえのような顔をして

    歩いてきたりしてはいけなかったのだ。


    途中で沈むとか溺れるとか
    せめて泳いでみるとか

    そういうことをすべきだったのだ。


    まあ、いまさら遅いけど。


    それにしても
    こんなふうに蝶の群に歓迎されたら

    そんなに悪い気はしない。


    このまま夜になってしまえば
    きっと蝶の群は蛾の群となるだろう。


    やがて水平線から朝日が昇れば
    びっしりと海面に敷き詰められた

    美しく眩い銀色の絨毯になるはずだ。


    そんな優雅な絨毯の上で
    ゆらゆら波に揺られてのんびりと

    いつまでも眠っていられたら
    ちょっと素敵な気がする。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 暖炉の前

     
    赤々と燃える暖炉の前、
    男の子と女の子が遊んでいます。


    「シュッシュ、ポッポ、シュッシュー」
    「ああ、やっと汽車が入ってきたわ」

    「プシュー、プシュー」
    「さあ、これから遠くへ旅立つのだわ」

    「お嬢さん。お荷物をお持ちしましょう」
    「あら、素敵な方。どうもありがとう」

    「いいえ、どういたしまして」

    「あなたもひとり旅ですの?」
    「そうかもしれません。そうでないかも」

    「どちらまで?」
    「お嬢さんと同じところまで」

    「あたくしの行く先をご存じなの?」
    「知りません。でも同じなのです」

    「あたくしは終着駅まで行くわ」
    「では、僕も終着駅まで」

    「そこからバスに乗るの」
    「だったら、僕もバスに乗る」

    「残念ながら、ひとり乗りのバスなの」
    「ひとり乗りのバスなんてないよ」

    「世界に一台だけ、そこにあるの」
    「そのバスの運転手、じつは僕なんだ」

    「ああ、そうくるわけね」

    「お嬢さん。そろそろ出発しますよ」
    「すると、この汽車の運転手もあなたね」

    「シュッ、シュッ、シュッシュッシュッシュッ」
    「あたくし、次の駅で降りますわ」

    「ポッポー!」
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 脱 皮

    深夜、ひとり居間で
    その家の娘が脱皮をしていた。

    蛍光灯に照らされ、
    娘の体は小刻みに震えていた。


    白い背中がめりっと縦に裂け、
    割れ目から新しい皮膚が覗いている。

    娘の脱皮に気づいた父親は
    入口の前で立ち尽くしてしまう。


    娘は裸のまま泣いているようであった。

    折れそうなほど背骨を曲げなければ
    古い皮を脱ぐことはできないのだ。

    親は娘の脱皮を手助けしてはならない。

    それが暗黙の決まりになっていた。


    新しい皮膚は血のように赤く生々しく、
    見るからに痛々しい感じがするのだった。

    娘の自慢の黒髪が汗で濡れ、
    悩ましく揺れていた。


    かすかに軋む音を耳にして
    あわてて娘が振り向く。

    「・・・・・・誰?」


    いつしか父親は柱にしがみつき、
    醜いサナギになっていた。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 大 砲

    2008/11/02

    暗い詩

    じつに立派な大砲である。
    太くて長くて黒々と光っている。

    大砲は二つの車輪の上に乗っており、
    牛馬で引いて移動することができる。


    その大きな二つの車輪のどちらにも

    頭と手足が正五角形になるような状態で
    若い女が鎖で縛りつけられている。


    敵国の皇族の姉妹だということだが

    破れた皮衣を着せられているだけで
    その白い両脚はむき出しになっている。


    今は車輪の上の位置に彼女たちの頭があり、

    豊かで長い髪が垂れ下がっているために
    彼女たちの顔を見ることはできない。

    だが、弾丸が発射されると

    その反動で大砲が後退し、
    いくらか車輪が回転するため

    彼女たちの美しい顔を見ることができる。


    そうやって顔を見ることはできるが

    いくら続けて弾丸が発射されても
    彼女たちの悲鳴を聞くことはできない。


    それが彼女たちに残された唯一の抵抗、
    あるいは誇りであるらしい。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 台所の鬼

    2008/11/01

    変な詩

    とある家庭の台所の風景である。


    異国の人形を大きくしたような少女が
    手前の調理台の上に仰向けに寝かされ、

    サラダ油か桃の缶詰の汁かわからないが
    びしょ濡れで天井を見上げて泣いている。


    その奥にはステンレスの流し台があり、
    まだ洗ってない食器が山盛りになっている。

    さらに奥にある明り取りの窓からは
    恐ろしい顔の鬼が台所の中を覗いている。


    調理台の真下の汚れた床の上には

    料理の道具ではないような気がするが
    殴られたら死にそうな金棒が転がっている。


    ハエが一匹、少女の上を飛んでいるが

    あまりたくさんのハエが飛んでいないのは
    おそらく鬼の顔が怖いからだろう。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
RSS
k
k