Tome Bank

main visual

Tome館長

m
r

Tome館長

CREATOR

  • 3

    Fav 1,204
  • 9

    View 6,032,728
  • p

    Works 3,356
  • 飛び降り

    2008/08/08

    切ない話

    授業中であった。

    一番前の席の女子生徒が手をあげた。

    「先生」
    「ん? なんだ」

    「私、飛び降りてきたいんですけど・・・・・・」


    教室がざわついた。

    「おまえもか・・・・・・」
    「すみません」

    「・・・・・・仕方ない。無理するなよ」
    「ありがとうございます」


    彼女は教室を出ていった。

    まだ教室がざわついている。
    チョークで黒板を叩いた。

    「静かにしろ。次の問題に進むぞ」

    しかし、生徒たちの気持ちもわかる。
    内心、私も驚いていた。

    まさか、彼女まで飛び降りるとは。
    そんな子ではないと思っていたのだ。

    教室の窓から見える風景が気になって
    なかなか授業に集中できなかった。

    一瞬、その窓に黒い影が映った。

    「あっ!」

    小さな悲鳴があがった。
    地面に衝突したらしい音も聞こえた。

    ふたたび教室はざわついた。

    私も諦めて彼らを放っておき
    黒板に図形を書いて時間をつぶした。


    しばらくすると、ドアが開き、
    頭を下げながら彼女が入ってきた。

    髪が乱れ、制服が土で汚れていた。

    顔色が悪く、歩き方もおかしかったが、
    そのまま彼女は自分の席に戻った。

    「保健室で休んでいてもいいんだぞ」
    「・・・・・・かまわないで・・・・・・ください」

    彼女の声ではないみたいだった。

    「・・・・・・そうか」

    教室は静まり返っている。

    みんなの気持ちが痛いほどわかる。


    私は黒板を見上げ、
    「さてと、この問題のわかる者は?」

    誰も手をあげようとしない。

    そうであろうなあ、と思う。
    私にもさっぱりわからない。

    しかし、どうすればいいというのだ。


    終わりのチャイムはまだ鳴らない。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 「いってきまーす!」

    「鎖に絡みつかれないようにするのよ」
    「はーい、わかってまーす」

    いつものように家を出た。

    細い鎖が手首に絡みついていた。
    でも軽いから気にもならなかった。

    途中、友だちと待ち合わせをしていた。

    友だちはラクダ。
    それもフタコブの。

    ラクダはバス停の横にしゃがんでいた。

    「おっはよー!」
    あたしは友だちに手を振った。

    「うん」

    ラクダは極端に口数が少ない。
    返事してくれるだけでもマシな方だ。

    バス停には長い人の列ができていて 
    皆、首や肩に太い鎖が絡みついていた。

    (・・・・かわいそうに)

    あたしはラクダの背にまたがった。

    「乗ったよ」
    「うん」

    ぐらぐら揺れながらラクダは立ち上がる。

    振り落とされたら大変だ。
    あたしは友だちのコブにしがみついた。

    すると手首の鎖がほどけて地面に落ちた。
    その程度の鎖だったわけだ。

    バス停の人たちが羨ましそうに見ている。

    「しゅっぱーつ!」
    「うん」

    ラクダはよたよた歩き始めた。

    向こうからバスがやってきた。

    バスはおそろしく太い鎖に絡みつかれ
    そのため車体が醜くゆがんでいた。

    運転手なんか鎖に隠れて見えなかった。

    (そんなに無理しなければいいのに・・・・)

    ラクダは学校へ向かっていた。

    前方に校舎の屋根が見えてきた。
    真っ黒だ。鎖がとぐろを巻いている。

    なんだか気分まで重くなってきた。

    どうしようかな、と考えていたら
    同じ道を同級生の男の子が歩いている。

    「おっはよー!」

    ビクッとして男の子は振り向いた。
    「なんだ。おまえか」

    まぶしそうにあたしを見上げる。

    「なによ。朝の挨拶もできないの?」
    「ああ、おはよう」

    「ふん。もう遅いわよ」
    自分でも生意気と思うが、やめられない。

    「みたいだね。完全に遅刻だ」

    知らなかった。
    そんな時刻だったのか。

    そういえば彼には鎖が絡みついてない。
    あたしは嬉しくなった。

    「ねえ、これから土手まで行かない?」

    ちょっと驚いた表情の男の子。
    少しは迷いがあるらしい。

    「いいけど、ひとつ条件がある」

    子どものくせに大人びた口をきく。
    でもあたし、そういうのきらいじゃない。

    「なによ?」

    男の子はぐるりと背後にまわった。
    それからラクダの尻尾をつかんで

    「ぼくも乗せてよ」

    あたしのかわりにラクダが返事をした。
    「うん」

    で、また今日も学校、さぼっちゃった。
     

    Comment (2)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
    • Tome館長

      2012/09/15 18:36

      「しゃべりたいむ・・・」かおりさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/04/09 00:15

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 勃 木

    父が怖くてしかたなかった。

    酔ってない父の顔をあたしは思い出せない。
    あたしと弟は毎日のように殴られていた。

    母だって信じられなかった。

    謝ったり泣いたりするだけの女だった。
    なぜ父と別れないのか不思議でならなかった。

    だから、あたしは弟を連れて家を出たんだ。

    あたしたちは生きるためになんでもした。

    さすがに人殺しはしなかったけど
    それに近いことはしなければならなかった。

    いやなこと。もう忘れてしまいたいこと。
    家に帰るくらいなら死ぬつもりだった。

    でも、なんとか生きのびることができた。

    アパートだって借りることができた。
    ボロくて狭くても、野宿よりずっとましだ。

    結局、そこも長くいられなかったけど。


    あれは、あたしが十七になった夏のこと。

    突然、弟が奇病にかかったのだ。

    朝、目が覚めてびっくりした。
    あたしたちの部屋に木が生えていたのだ。

    それもすぐ横に寝ていた弟の腹から。

    仰向けの弟の腹から真上にのびて
    木のてっぺんは天井に届きそうだった。

    窓からの風に緑色の葉がゆれていた。
    幹も太くてなかなか立派な木だった。

    弟に寝返りでも打たれたら倒れそうだった。
    あたしは眠っていた弟をそっと起こした。

    「あのね、大変なことになっているよ」

    夢をやぶられ、しばらく弟はぼおっとしていた。
    それから、自分の腹の上を見て驚く。

    弟は、泣きそうな顔をするのだった。

    「ねえさん、どうしたらいいんだろう」

    そんなこと、あたしにもわからなかった。
    相談できる大人などいなかった。

    「重くない? 苦しくない?」
    「ちょっとだけ。そんなに苦しくない」

    強がりを言ってるな、とあたしは思った。
    こいつ、つまらないところで強がるんだ。

    あたしは木の幹にそっと手を触れてみた。

    「あっ」

    弟が小さく声をあげた。
    木がゆれて葉が一枚、敷布団の上に落ちた。

    すぐにあたしは木の幹から手を離した。

    「どうしたの? 痛かった?」

    頬を赤らめて弟は首を振るのだった。

    「ううん、ちょっと・・・・・・」

    そのまま弟は黙ってしまった。

    なにがちょっとなんだ、とあたしは思った。
    いらいらさせる性格なんだから。

    とりあえず、あたしは朝食を用意した。

    そして、起きられない弟の口へ運んでやった。
    ヒナの口に餌をやる親鳥のような気分だ。

    「ねえ。お医者さん、呼ぼうか?」

    弟はすぐに首を振った。

    「いいよ。大丈夫、すぐになおるよ」

    ぶっきらぼうな返事をするのだった。

    そんなこと、あたしは信じられなかった。
    なんとかしなければ大変なことになる。

    弟を見下ろしたり木を見上げたりしながら
    畳に正座したまま、あたしは悩んだ。

    しばらくして、いい考えがひらめいた。
    あたしは、決意して立ち上がった。

    「ちょっと待ってて。すぐに戻るから」

    ドアを開け、あたしはアパートを出た。


    弟をひとり部屋に残すのは心配だったけど、
    あたしは、近所の市立図書館を訪れた。

    弟に生えた木の種類を調べるつもりだった。
    わかれば、対策が見つかるかもしれない。

    だから、たくさんの植物図鑑を借りた。

    ところが、それは役に立たなかった。


    帰宅すると、弟は部屋の掃除をしていた。

    Tシャツに着替えた弟の腹に木はなかった。
    すでに布団も押入れに片付けてあった。

    あたしは呆然となった。

    「なおちゃったの?」

    畳の上の落葉を掃き集めながら弟は答えた。

    「うん。まあね」

    なにがまあねだ、とあたしは腹が立った。
    あんなにおろおろしていたくせに。

    「あの木はどこ?」
    「消えちゃった」

    「消えたって、どこに?」
    「さあね。ただ消えちゃったんだ」

    あたしは力が抜けて植物図鑑を床に落とした。
    ものすごい音がして床に広がった。

    ばかみたいだ、とあたしは思った。
    こんなにいっぱい心配してやったのに。

    「その葉っぱ、ちょうだい。調べてみる」

    あたしは諦めなかった。

    でも、弟はあたしを無視した。
    ゴミ箱に最後の葉も捨ててしまった。

    「もういいよ。もうなおったんだから」

    それで、あたしは切れてしまった。

    弟の頬を力一杯ひっぱたいたのだ。
    あたし、はじめて弟を叩いてしまった。

    一瞬、酔った父の顔を思い出した。
    いやな顔。思い出したくなかった。

    すぐに弟はあたしの手首をつかんだ。
    弟は両手であたしの両腕を押さえつけた。

    あたしはびっくりした。
    こんなに弟に力があるなんて知らなかった。

    背の丈もとうにあたしをこえていた。

    弟の目を見た。赤く血走っていた。
    もう弟じゃない、とあたしは気づいた。

    「ねえさん・・・・・・」

    その声は低く、ひどくかすれていた。
    そして、あたしは感じていた。

    弟がいままで狡猾に隠していたもの
    むくむくふくらみ、突き上げてくるものを。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 流されて

    2008/08/05

    切ない話

    あいつと一緒に丸木橋を渡っていたら
    背中を押されて谷川に落とされてしまった。

    落ちる途中で気を失ったくらいだから
    かなりな落差があったはずだ。

    気がつくと、私は谷川を流されていた。

    あいつの罠にまんまとはまったわけだ。

    二人だけで山歩きしようなんて誘われて
    のこのこのった私が愚かだったのだ。

    いまさら悔やんでもしかたないけど、
    まさか突き落とされるとは思わなかった。

    もう私は流されてゆくしかないのだ。


    川はすでに谷川と呼べなくなっていた。
    流れは緩やかになり、幅も広くなっていた。

    水面に浮かんでも山並みは消えてしまい、
    川沿いに人家や看板などが見えたりした。

    水面に浮かんでばかりもいられなかった。

    空から鳥が急降下してきたりするからだ。
    どうも私の目玉を狙ってるらしい。

    水中に潜れば魚につつかれたりする。
    なわばりというものが魚にもあるのだろう。

    ときどき川の底を転がったりもする。
    石ころに当たってアザができることもあった。


    「おねえさん、なにしてるの?」

    水面に浮かんでいたとき、声をかけられた。
    橋の欄干から男の子が見下ろしていた。

    「あら、見てわからない?」
    「わかんない」

    「私ね、流されているの」
    「どうして?」

    「いろいろとあるのよ」
    「わかんないな」

    「大人になったらわかるわよ」
    「ふ〜ん」

    あいつにもこんな時代があったんだろうな。
    大人になんかならなければいいのに。

    見えなくなるまで男の子は橋の上にいた。


    ずるずると私は流されてゆくのだった。

    警察官に不審尋問されたこともあった。

    「おい、そこの君。なにをしておるのか?」

    あわてて川底まで潜って水をにごした。

    友だちや親兄弟に説得されたこともある。

    「流されてばかりいてはいけないぞ」
    「一度くらい、流れに逆らったらどうだ!」

    ぶざまな水死体のフリをしてやった。

    そんなふうに私は流され続けるのだった。


    あいつの顔なんかもう忘れてしまった。

    夜、川に流されながら星空を見上げる。
    そんなとき、ふと私は思ってしまう。

    どこまで流されたら、川は終わるのだろう。
    いつまで流されたら、海にたどり着くのだろう。

    もう十分、大人になっているはずなのに
    ちっとも私にはわからないのだった。
     

    Comment (3)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
    • Tome館長

      2014/05/07 19:12

      「ゆっくり生きる」はるさんが動画にしてくださいました!

    • Tome館長

      2012/04/05 01:33

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/01/22 13:04

      「さとる文庫」もぐらさんが朗読してくださいました!

  • ウンコタウン

    2008/08/04

    愉快な話

    地図はまちがっていた。デタラメだった。
    要塞があるはずの場所に火葬場があった。

    さすがに疲れてしまった。もう歩けない。
    橋があるはずだった公園の芝に寝転んだ。

    土の臭いがした。
    いや。大便の臭いだ。

    公衆便所が近くにあるのだろう。
    ありそうな話だ。ここは公園なのだから。

    それとも犬が近くで糞でもしたのか。
    まあ、どちらでもいい。どうでもいいのだ。

    そのまま眠ってしまった。
    大便の強烈な臭いに包まれたまま・・・・・・

    そうして、ウンコタウンの夢を見た。


    『ウンコタウン』と町の入口に看板がある。
    とにかく、その名に恥じない臭い町だった。

    空は晴れているのに人々は傘をさしていた。
    白い傘ばかり。すぐにその理由がわかった。

    俺の頭に鳩の糞が落ちてきたからだ。

    軒下に逃げた。軒下には美しい婦人がいた。
    夢見るような表情で優雅にしゃがんでいた。

    婦人の尻は丸出しだった。
    信じがたいことに排便中だった。

    俺の靴があやうく汚れるところだった。

    「あら、これは失礼しました」
    婦人はしゃがんだまま上品にお辞儀をした。

    そこから離れようとして俺は滑って転んだ。
    まだ乾燥していない大便を踏んだらしい。

    「あら、おかしいわ」
    排便中の婦人が口もとを隠しながら笑った。

    他に隠すところがあるだろうが、と思った。


    いたるところで似たような光景を目撃した。

    立ち大便という芸当も見た。しかも少女だ。
    路地裏では子どもが糞を投げ合っていた。

    食う奴までいそうだが、幸いにも見なかった。

    当然だが、町中が排泄物だらけであった。
    条件反射だろうか、なんだかもようしてきた。

    公衆便所などあるとは思えなかった。
    みんながやっているのだから問題なかろう。

    決心して、俺は大通りにしゃがんだ。

    「こらこら、ここでやっちゃいかん!」
    黄土色の制服の警察官に怒られてしまった。

    「この標識が見えんのか」

    目の前に『排便禁止』の標識が立っていた。

    不潔な町であることは疑いようもないが
    この町にも規律はあるようだ。

    俺はウンコタウンを少し見直した。


    ・・・・・・それにしても、
    なかなか覚めない夢だ。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • ンバダ

    2008/08/03

    変な詩

    ンバダ ンバダ ンバダ ンバダ
    ドケタ セネガ モゲタ ヘゲナ

    オキセネ コゲタ ヌキシテ ドネガ

      サパニコ モッケ
      ルバンダ フッコ


    ンバダ ナバダ ンバダ ナバダ
    ザッケ ヘネガ モミネ ソゲタ

    ドケシテ コネガ ミランダ ユッケ

      ムチキタ コゴト
      ワガンダ ブッド


    ルイヤ ヌイヤ ルルイヤ ヌイヤ

      ソメチネ タタイヤ
      キネキネ ドクト


    ンバダ ンバダ ンバダ ンバダ
    ンバダ ナバダ ンバダ ナバダ

      ン
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 花 火

    2008/08/02

    愛しい詩

    君が
    花火を見たいというから

    ふたり
    高台に登ったんだ


    べつに
    花火なんか見たくなかったけど

    じつは
    たくらみがあったから


    君を
    花火を見る君を見たくて


    君は浴衣姿
    裾が風になびくはず

    夜空の花火は
    君の頬を照らすだろう


    無邪気な横顔を七色に染め
    白痴みたいに手をたたいて喜ぶ君

    宝石みたいに瞳を輝かせ
    唇を少し開けたままの君


    「きれいだ!」


    ほら
    こんなに素直に言える
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 傷を舐める

    2008/08/02

    空しい詩

    僕たちは戦場にいた。
    敵も味方も関係なかった。

    僕たちはみんな傷ついていた。
    どこもかしこも傷だらけだった。

    なのに医者ひとり、薬ひとつなかった。


    とりあえず血を止める必要があった。
    とりあえず手探りで止血点を見つけた。

    血が止まれば傷口を舐められる。
    そう、僕たちは傷口を舐めた。

    舐められるところは自分で舐めた。
    自分では舐められない傷も多かった。

    だから僕たちは互いに傷を舐め合った。
    手負いの獣がやるようにやった。

    僕たちはいつまでも傷を舐め続けた。

    唾液を出し続けるのも大変だった。
    このやり方には唾液が必要なのだ。

    唾液が乾いて傷の表面に膜を張る。
    この薄くて透明な膜が傷口を保護する。

    やがて膜の下に黒い血が溜まってくる。
    おそらくこれは肉の再生の邪魔になる。

    上から舐めると固まった血が溶ける。
    傷口のむき出しの肉が見えてくる。

    それがたまらなく愛おしい。

    舐めてやらずにいられなくなる。
    だから何度も何度も舐めてやる。

    唾液が裸の傷口をやさしく包む。
    未熟児を抱きしめる母親のように。

    こんなこと誰も教えてくれなかった。
    生きるために大切なことなのに。

    どうでもいいことしか教わらなかった。
    僕たちはそれに気づきもしなかった。

    どうしようもないくらい愚かだった。


    だから戦争なんか始めてしまったんだ。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 爆弾のある教室

    2008/08/01

    切ない話

    爆弾を抱えたまま授業を受けていた。

    教科書と鉛筆と消しゴムがおもな材料の手製爆弾。
    机上の小型コンロで、魚を焼くように爆弾を焼く。

    やがて教室に危険な臭いが立ちこめる。


    「たまらないな」

    神経質そうな教師が神経質そうに窓を開ける。

    校庭とポプラ並木、そして青い空が見えた。
    なんだか悲しくなってくるのはなぜだろう。


    その窓から遅刻した同級生の顔が現われた。
    彼は、おもむろにナス型の手榴弾を教室に投げ込む。

    「みんな、くたばってしまえ!」

    その手榴弾は教師の頭に命中した。

    そのまま床に転がったナス型の手榴弾は
    よく見ると、本物のナスにしか見えない。

    そういえば、彼の実家は八百屋だった。

    ナスのヘタ部分がむしられているのは
    安全装置をはずした、という意味か。

    笑うべきか悲しむべきか、迷うところだ。


    「もう手に負えないな」

    教師は黒い帳簿を開き、なにか書き込む。


    その瞬間だった。教室が爆発したのは。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • かまいたち

    2008/08/01

    変な話

    オープンカーで風を切っていた。

    助手席ではサングラスの女が脚を組み、
    ロングヘアーが吹き流しになっていた。


    「けどまあ、晴れてよかったな」

    声をかけたのに、女は返事をしない。

    「おまえ、まだ怒っているのか?」

    それでも返事がない。


    横を見ると、サングラスがない。
    自慢のロングヘアーもない。

    整った鼻も唇も、そもそも顔がない。

    助手席には首から下だけの女の体。
    スパッと水平に首が切れていたのだ。

    (かまいたちだ!)

    思わず開いた口の中に風が吹き込んだ。


    一瞬、視界の端に人影が映った。
    急ブレーキを踏む。間に合わない。

    はねてしまった!
    若い女だった。

    ドアを跳び越え、駆け寄る。

    即死だった。
    首が完全に千切れていた。


    おれは道端に転がっていた若い女の首を拾い、
    大急ぎでクルマに戻る。

    助手席で脚を組む首のない彼女の上に
    拾ったばかりの若い女の首をそっと載せる。

    彼女は目をパチクリさせた。

    「ああ、びっくりした!」

    びっくりしたのはこっちの方だ。


    どうやら目撃者はいないようである。

    「両手で頭をしっかり押さえておけよ」

    すぐにクルマをスタートさせた。


    アクセルを踏みながら横を見る。
    彼女は両手でしっかり頭を押さえている。

    とても素直な子なんだな、と思った。

    それに、ショートヘアーも悪くない。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
RSS
k
k