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  • 口の中の感触

    2013/04/08

    変な話

    夢から覚めたらしい。

    そこは会社、または教室のようである。
    机が並んでいて、人が歩いている。

    なぜか口の中が異様に感じる。
    グラグラして、歯が抜けそうだ。

    そこで、片隅にある洗面台で歯を磨き始める。

    突然、背後から会社の上司に抱きつかれる。
    「なにをしているのだ?」

    すると、ここは会社なのだった。

    「夢で、ここで歯を磨いている夢を見て、
    だから、ここで歯を磨いているのです」

    上司は呆れた表情になる。
    なに、いつもの事だ。

    そのまま彼の話に聞き耳を立てる。

    これから上司たちは飲みに行くらしい。
    なんだか自慢話を聞かされているような気分。

    そういうつまらない事に出費するくらいなら
    歯の治療でも受けるべきだ、と思う。

    ところが、すでに場所は移動。

    女将が呼んだのか、呼ばなかったのか、
    すでに上司たちは飲み屋に集まっている。

    女将は珍しく着物姿だ。

    それはともかく、食欲もないのに
    今にも食事を始めようとしている自分。

    生のトウモロコシを口に含んだ感触。
    口の中は異物感で一杯である。

    カウンター内に入り、女将にすがりつく。
    「お願い。僕の口の中を見て」

    そして、大きく口を開ける。

    「あら、取れているわ」
    女将は口の中から歯を一本つまむ。

    「一本だけではないはずなんだけど」
    「あら、そう言われてみば、そうね」

    結局、ほとんど全部の歯を抜かれ、
    そのまま女将に体をゆだねてしまう。

    安心してしまった。
    上司たちの食事より優先してもらったのだ。

    大事にされている証拠のような気がして
    口を開けたままボロボロ泣いてしまう。
     

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  • 空白の時間

    2013/04/07

    変な話

    出勤前に立ち寄るところがあった。

    電車の切符代を必要以上に払い過ぎたり、
    閉鎖された改札口を飛び越えたりしながら

    混乱した状態で目的地を目差した。


    そして、空白の時間があった。


    それから出勤してみると、
    今日は得意先への企画提案の日である。

    まだ企画書は完成していない。

    だが、もう出かけなければならない時刻だ。
    部下に残りの作業をまかせるしかない。

    これから得意先に出かけるが

    企画書が完成したら営業に渡し、
    私に届けさせるよう、部下に指示する。

    だが、暇だから自分で届ける、と部下は言う。

    どうせ営業は得意先に行くのだから
    それは無駄手間だ、と部下を説得するが

    なかなかわかってもらえない。

    だが、とにかくもう時間がない。
    急いで出発しなければならないのだ。

    ところが、玄関に自分の靴がないのである。

    その会社らしくない家庭的な玄関には
    ところ狭しと数多くの靴が置いてある。

    しかし、肝心の自分の靴が見つからない。

    ふと思い出したのは、あの空白の時間。
    出勤前に立ち寄った場所に忘れてきたのだ。

    あせってしまう。
    サイズの合う靴さえない。

    裸足で得意先に行くわけにはいかない。
    いくら考えても良い解決策が浮かばない。

    いたずらに
    ただ時間ばかり過ぎてゆく。
     

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  • 近所の子

    子どもの頃、女の子と遊んでいた。

    目が大きくて、口が小さくて、髪が長かった。
    見上げる笑顔が可愛らしかった。

    ふたり、色々なことをして遊んだ。
    ただし、いつも家の中に閉じこもって。

    なぜか家の外では遊ばないのだった。

    たとえば色紙で鶴を折って、それを飛ばす。
    そのうち飽きると、その鶴を壊してしまう。

    「これよりを拷問をおこなう」
    「はい、魔王さま」

    「まず鶴の腹を縦に裂くのだ」
    「はい、魔王さま」

    もちろん折り鶴の腹の中は空っぼ。

    お医者さんごっこも憶えてる。

    「これより診察をおこなう」
    「はい、先生」

    「では、まずスカートを脱いで」
    「はい、先生」

    それから看護婦さんごっこもやった。

    「これから注射をします」
    「はい、看護婦さん」

    「では、まずお尻を出しなさい」
    「はい、看護婦さん」

    ここから先は、よく憶えていない。

    ふたり並んで窓から外を眺めた。
    山の上の空が赤紫色に焼けていた。

    この時は何も喋らなかったと思う。


    それにしても
    あの子は誰だったのだろう。

    どうしても名前が思い出せない。
    なぜか忘れた。

    近所の子だ、と思っていた。

    でも、そんな子は近所にいなかった。
    古いアルバムを開いても見つからない。

    母に尋ねてみても知らないと言う。
    そんな女の子、見たことないと言うのだ。

    「おまえはいつも、ひとりで遊んでいたよ」

    そんなはずはない。
    確かにあの子はいたんだ。

    いなかったはずはない。
    絶対に、絶対にいた。

    ふたり、あんなに楽しかったのだから。
     

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  • 切り貼り絵

    2013/04/05

    ひどい話

    一冊のスケッチブックを買った。
    それが、そもそもの始まりだった。

    普通の白い画用紙だけでなくて
    さまざまな色付きの画用紙があるもの。

    いわゆるカラースケッチブックだった。
    折り紙セットを大きくしたような感じ。

    で、これにペン画など描いてみた。

    そのうち、画用紙をハサミで切り抜き、
    台紙に貼り合わせて遊び始めた。

    つまり、色紙による切り貼り絵である。

    幼稚な印象を与えるけれど、やってみると
    これがなかなか楽しいのだ。

    適当に切った色紙を童ね合わせてみる。

    メリハリのある色と形の組合せによって
    斬新なデザインが簡単に生成される。

    好きな色紙を好きな形に切った後、

    それらを重ね合わせながら、貼る直前まで
    配置バランスの調整ができるのも長所だ。

    貼り付けには両面テープを使った。
    糊よりは修正が楽だし、手が汚れにくい。

    定規とカッターは、穴の部分と
    見えない部分を除いて使わなかった。

    あのハサミ特有のぎこちないラインが
    視覚に心地好いはず、と考えたからだ。

    指で裂いて切る方法も面白そうだが、
    全体の統一感や細部表現が難しい。

    それに、山下清の亜流になりそうだ。


    なかなか傑作ではなかろうか
    と自画自賛できるものも数点できた。

    しかし、それで止めておけば良かったのだ。

    つい調子に乗り、色画用紙だけでなく、
    チラシや新聞や雑誌の切り抜きとか

    革の切れ端、布切れ、商品パッケージなど
    色々なものを画材に使い始めた。

    「コラージュ」とでも言うのだろうか。

    摘んだ雑草、切った髪の毛の束、
    外国硬貨や外国紙幣なども貼った。

    さすがに両面テープだけでは無理があり、
    糊や瞬間接着剤も使うようになった。

    湿気た海苔、噛みかけのガム、
    踏まれて潰れた甲虫の死骸まで貼った。

    こうなると画用紙の上では固定しにくい。

    ピンや画鋲でも留められるように
    ベニヤ板を土台に用いるようになった。

    この段階で止めたら、まだ救われたのだ。

    ところが、もう止められなくなっていた。
    切り貼り絵の虜になっていたのだ。


    読んで気持ち悪くなるだろうから
    あまり詳しく書くつもりはない。

    包丁やノコギリで画材を切るようになった。

    釘やネジ、さらにヒモや針金を用いて
    厚い木の板に貼りつけるようになった。

    鼻が悪いのてあまり気にならなかったが

    アトリエとして使っていた部屋が
    近所に異臭を放つまでになっていたようだ。

    そして、とうとう許されない領域にまで
    いつの間にか踏み込んでいたのだった。

    記録的に暑かったあの夏の日、あの昼下がり、

    近所の学習塾に通うおさげ髪の女の子を
    待ち伏せして誘拐してしまったのは

    つまり、そういうわけなのだ。
     

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  • 霧の講義

    2013/04/05

    変な話

    ここはどこだろう?
    あたりには霧が立ちこめている。

    正面の壇上の老人は教授だろうか?

    その証拠でもあるかのように
    多くの学生が熱心に聴講している。

    「一般に、位相空間上に座標系を導入する場合、
     計算結果は座標系に依存しないという性質を」

    どうも講義の内容が理解できない。

    「かような連鎖移動反応によって
     高分子重合体が多分散系を作り」

    あたりに顔見知りの学生はいなかった。

    若者ばかりでなく、老人や幼児までいる。
    なんと、眼鏡をかけた猿まで。

    「概念は一般に内包と外延を持ち、
     内包が等しければ外延は等しいとされる」

    ますます霧が濃くなってきた。
    もう教授の顔さえ見えない。

    次第に講義の声も遠くなり、
    やがて消え去りそうに感じられるのだった。
     

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  • 木の股

    愛の形には色々ある。
    異性への愛、同性への愛、自已への愛。

    また、人を愛せない場合もあろう。
    それでも愛は消えない。

    これは樹木しか愛せなかった男の子の話。


    「おまえはの、木の股から産まれたんじゃよ」
    ある日、老婆から男の子は教えられた。

    そうかもしれない、と男の子は思った。
    なぜなら男の子はみなし児だったから。

    森に捨てられていたのを拾われたのだ。


    毎日、男の子はひとり森で遊ぶのだった。

    姿形の良さそうな樹木を見つけると
    なぜか興奮するのだった。

    抱きつかずにいられない。

    樹皮がはがれるほど強く幹を愛撫した。
    指の爪が割れてしまうこともあった。

    そのうち裸になって
    悩ましく腰を幹に擦りつけたりもした。


    「だめよ、坊や。だめよ、だめ」
    その声は、血まみれの樹木から。

    「わたしの股から産まれたくせに」
     

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  • 木登り

    2013/04/01

    ひどい話

    私は探していた。
    太くて丈夫そうな木を。

    そして、とうとう見つけた。


    これはまた、随分と背が高い。

    枝ぶりも立派だ。
    登りたいくらいだ。

    無理だろうな。
    もっと若かったら・・・・


    おや、誰か登っているぞ。
    あんなところまで。

    まるで猿みたいだ。
    小さな子猿。

    「やーい。ここまでおいで」
    「のぼれっこないわ。いじわる!」

    泣き虫の女の子が見上げている。


    ・・・・ああ、そうだ。
    あれは、いつのことであったか。

    まぶしい。
    見上げれば、遠く青い空。


    私は握りしめる。

    手頃な太さと長さのロープを
    震える両手で。
     

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