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  • 永遠の球根

    2013/03/12

    愉快な話

    やらなければならないんだ。
    損とか得とか、そんな低次元の話じゃない。

    仲間が死んでも、その恋人が泣いても
    皆から非難され軽蔑されても

    そんなこと関係ない!

    比べられないんだ。
    絶対にやり遂げねばならないことなんだ。

    これは永遠に引き継がれるべき問題。

    数年で忘れられ、消え去るような幽霊どもめ、
    とっととあっちへ行ってしまえ!

    ・・・・あっ。
    いや、ごめん。

    狂ってはいない。正気だ。

    だから、頼む。
    どうか助けてくれ。

    一生に一度の、いや永遠に一度の頼みだ。
    ちょっと手伝ってくれるだけでいい。

    つまりね、なんと言うか・・・・

    ほら、そこに球根が転がっているだろ?
    それ、チューリップの球根なんだ。

    ありふれた球根のように見えるけど
    絶対にそれでなければ駄目なんだ。

    やってくれるかい?

    おお、ありがとう。
    心から礼を言わせてもらうよ。

    それでね、とりあえず
    その球根をまず両手でしっかり持ってくれ。

    ああ、そうじゃなくて・・・・
    そうそう、そんな感じ。

    ううん、大丈夫さ。

    そうだよ、君。
    勇気を出すんだ。

    次にね、ええとだね、
    僕がこうやって尻を突き出すからさ、

    それ、肛門に突っ込んでくれ。
     

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  • 麗しき楽団

    2013/03/11

    愉快な話

    その楽団の団員は
    みめ麗しき美女ばかり。

    見ているだけで得した気分。
    聴けばもっと得をする。


    さて本日は、森の広場で演奏会。

    招待客は小鳥や小鹿、リスや蝶。
    そして勿論、あなたもね。


    手作り楽器に即興曲。
    譜面を見つめる真摯な瞳。

    揺れる髪と花飾り。
    端正な横顔、陶酔のまぶた。

    「あっ、いけない」

    失敗して、あせる様子も微笑ましい。

    そよ風が、ドレスの裾をなびかせる。
    木の葉の音符も舞い踊る。


    おや。
    臆病な少年、覗いてる。

    バラの茂みに隠れたつもりで。

    おやおや。
    あれは昔のあなたかな。
     

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    • Tome館長

      2014/01/14 23:34

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/04/23 17:20

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 海の墓場

    2013/03/10

    切ない話

    海の底にいるのに息は苦しくない。
    おそらくエラ呼吸でもしているのだろうよ。

    エラがあるかどうかは知らないがな。


    おれは難破船と難破船に挟まれて身動きできない。
    すでに物心ついた頃から挟まれていた。

    いつ物心がついたのか忘れたがな。


    ここは日光さえ届かない。
    暗く深く寂しい、海の墓場だ。

    空腹を感じると魚を食べたりする。
    あまり旨くはない。

    あまり不味くもないがな。


    たまに潜水艦が現れて
    サーチライトで海底を照らす。

    完全に照らされたこともある。
    だが、救助してくれそうな気配はなかった。

    そのうち浮上するだけだ。
    ただそれだけ。

    潜水艦の乗組員を責めても仕方ない。

    もっとも
    責めようにも方法はないけどな。


    こんな環境に置かれ続けていると
    つい考え込んでしまうよ。

    なんのために生きているのかな、とね。

    生き続ける理由はないような気がする。
    なんとなく死ぬ瞬間が怖いだけだ。


    「おやおや。あんまり元気なさそうだな」
    隣の難破船の船長が声をかけてきた。

    「まるで幽霊みたいだぞ」

    そして大笑い。

    ふん。
    こいつ、いつも笑顔を絶やさない。

    なに、大したこっちゃない。
    ただ己の死を認めたくないだけなのさ。
     

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  • 海の魚

    2013/03/09

    変な話

    なぜか海中に潜っている。

    ぼんやりとした淡い光に包まれ、
    気ままに泳ぐ魚の姿を眺めている。

    呼吸装置を使わないのに息は苦しくない。


    なぜか両手にナイフを持っている。
    これを振りまわし、泳ぐ魚を切りまくる。

    残酷な行為。
    でも、あまり気にしない。

    むしろ夢中になって殺生を続ける。


    奇妙な形の大きな魚が泳いでいた。
    一本足のようなものが腹から下がっている。

    (こいつも追かけて切りつけてやれ!)

    すると突然、小さな丸い物体が飛んできて
    おれの胸にぶつかった。

    (なんだろう?)

    胸に貼り付いて剥がれない。

    すると再び、また同じものが飛んできた。
    今度は首に当たって貼り付く。

    さらに次々と飛んでくる。
    抵抗できない。


    そのうち、なんとなく分かってくる。

    この小さな物体はウロコであろう。

    魚のウロコで全身が覆われてゆく。
    つまり、本物の魚になってしまうのだ。

    両腕が胸びれになる。
    もうナイフは握れない。

    両脚がくっついて尾びれになる。
    こうして海の魚になってゆく。


    やがて言葉も使えなくなるだろう。

    やがて口をパクパクさせ、
    ただ餌を求めて泳ぎまわるだけの

    海の魚になるのだ。
     

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    • Tome館長

      2014/01/31 09:36

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2014/01/12 15:20

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 腕相撲

    2013/03/09

    切ない話

    見知らぬ女の子が笑っている。

    「ねえ、腕相撲しようよ」

    断る理由が見つからない。


    向かい合ってテーブルに肘をつく。
    互いの手と手を組んで構える。

    彼女の小さな手。
    腕も細い。

    どう考えても勝負は見えている。

    「こっちは二本指でやる」

    僕は薬指と小指の二本だけ伸ばす。

    彼女は笑顔で頷き、二本指を握る。
    頼りない握力。

    やはり勝負は見えている。

    「一本指でやろう」
    僕は小指を一本だけ伸ばす。

    笑顔で小指を握る彼女。
    「勝負!」

    それでも勝ってしまった。

    「強いのね」

    見知らぬ女の子が笑っている。
    僕を喜ばせようとして。


    なぜか僕の心は折れてしまった。
     

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  • うつむく少女

    画面中央には美少女らしき人物を置きたい。

    今にも消え入りそうな
    憂いを含んだ暗めな表情。

    たとえ顔は見えずとも、ポーズで表現させる。

    破れた白いドレス。
    薄い肩と幼い胸が見える。

    背景は藍色の夜空。
    少し欠けたばかりの月を浮かばせようか。

    満月にしてしまうと
    太陽との区別が紛らわしい。

    木の枝には顔のひっくり返ったフクロウ。
    それだけで謎めいて怪しげな森を演出できる。

    太い木の幹の樹皮には
    不気味に笑う老人の顔があって欲しい。

    うつむく少女の肩に妖精を座らせてみようか。

    画面の右下隅には
    傷ついた一角獣を佇ませたい。

    その脇腹に宝石飾りの短剣でも刺しておく。

    同じく左下隅には
    苔むした粗末な墓でも建てておこう。

    かわいいリスが木陰から少女を覗いていたりして。

    さてこれ以上、さらになにか配置したら
    もう画面がまとまらなくなりそうな気がする。

    あとはバランスとタッチに注意して、完成だ。

    どこにも絵なんてないけどね。
     

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  • 美しい髪

    2013/03/07

    変な話

    その昔、たいそう美しい髪の女がおりました。

    流れるごとく滑らかな黒髪だったそうです。

    「そなたの髪は天の川より美しい!」
    などと人々は褒めそやすのでした。


    ところが、この女は若くして亡くなりました。

    その長く美しい髪をみずから切り、
    それを結んでつないで首を吊ったのでした。


    坊主頭のまま女の亡骸は埋葬されました。

    残された美しい髪は
    子孫の方々によって引き継がれ、

    今でもどこかに大切に保管されているそうです。


    伝わっているお話はこれだけです。


    さて、よくわからないのですが

    本当のところ
    この女は美しかったのでありましょうか。
     

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  • 薄暗い部屋

    2013/03/06

    怖い話

    夕暮れの薄暗い畳の部屋で
    自殺したはずの作家に組み敷かれている。

    異常な性格であるという彼の噂を思い出す。

    私は敷布団の上に仰向けのまま
    彼の顔を両手て挟むように押さえている。

    彼の首をねじ曲げようとしているのだ。


    いやな臭いがする。
    彼に対する嫌悪感が異臭化しているのだろう。

    あのビー玉の眼。
    あの文楽人形の固まった表情。


    必死に歯を喰いしばっているらしい。

    彼の額から筋となって汗が流れ、
    それが吸い込まれるように彼の目に入る。

    今にも泣くのではないか、と不安になる。

    彼の首をねじ切ってしまいたい。
    もうすぐ彼の顔はスクリューのように一回転する。


    視界の端に誰か
    部屋の暗い片隅で正座している。

    なんとなく
    母かもしれない、と思う。
     

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  • 歌 姫

    古き良き音楽の都。
    ここで歌姫は美しい産声をあげた。

    父は骨董品の蓄音機。
    母は由緒あるパイプオルガン。

    教会の鐘の音に合わせて泣いたとか。


    鳥が集まるため、生家は鳥屋敷と呼ばれた。
    幼い歌姫の声に呼び寄せられたのだ。

    近所の子どもにいじめられることが多かった。
    近所の大人にくすぐられることも多かった。

    皆、歌姫の泣き声や笑い声を聴きたかったのだ。


    やがて歌姫は美しい娘に育った。

    教会で賛美歌を歌うと、国王陛下も聴きに来た。
    そして、同行の王子が一耳惚れの一目惚れ。

    すぐに国を挙げての結婚式。

    幸福な日々。
    そして、男子の誕生。

    王家も国民も大喜び。

    高名な音楽家からお祝いの楽譜が届いた。
    それは美しい旋律の子守唄。

    歌姫が歌うと、赤ん坊は安心して眠った。

    つられて王子も眠った。
    国王も后も臣下も眠った。

    安心したのか平民も眠った。
    すべての国民が眠ってしまった。

    歌い疲れ、歌姫も眠ってしまった。


    それでも歌姫は、夢の中でも歌い続けている。

    いつまでも、いつまでも、いつまでも・・・・
     

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    • Tome館長

      2014/01/07 14:21

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/04/12 17:42

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 隕 石

    2013/03/04

    切ない話

    長年の苦労が報われる瞬間であった。


    「この瞬間のために生きてきた」
    そう言っても過言ではない。

    幼い頃からの夢が実現する。
    探し求めていた真実が見つかる。

    または

    命懸けの恋がついに結ばれる。
    生涯をかけた事業が実を結ぶ。

    あるいは

    諦めていた愛しい人に再会できる。
    絶望の淵からの脱出に成功する。

    それら諸々が
    やっとひとつになってまとまる。


    まさに、そのような瞬間であった。

    頭に隕石が落ちてきたのは。
     

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