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  • 臨 月

    2012/03/11

    怖い話

    あっ、動いた!

    蹴ったのかな。
    それとも、殴ったのかな。

    案外、頭突きだったりして。

    なんにせよ、なかなか元気そうで
    母親としては喜ばしいことだ。


    でも、いったい誰の子なんだろう?


    父親がはっきりしないのだ。

    だいたいの形がわかればわかるはずなのに
    先生も看護師さんも教えてくれない。

    ということは、どういうことかというと、
    かなりやばいということだ。


    まさか核弾頭ミサイルだったりして。

    頭から生まれ落ちたら、母子心中だよ。

    でも、尖った部分ないみたいだから、
    きっと違うんだろうな。


    オートバイの子でもなさそうだし、
    電気ストーブの子でもない。

    この感じだと、金属製ではないと思う。

    鉱物でもないし、植物でもない。

    間違いなく、動物。
    それも、れっきとした脊椎動物だ。


    でも、絶対にゾウの子ではないはず。

    ゾウの子だったら、あたしゃ、すでに死んでるよ。
    あんな大きなの、おなかに入るはずないもん。


    ハリネズミだったらどうしよう。

    しかも逆子だったりしたら・・・・・・

    うう、いやだいやだ。
    想像するだけで失神しそう。

    帝王切開してもらうしかないだろうね。


    ヘビの子だったら楽なんだろうけど。

    いや、待てよ。
    腹を食い破られるかな。

    うわあ、いやだいやだいやだ。

    とんでもないこと想像しちゃった。
    つわりが戻ってきそう。

    爬虫類との肉体関係ないから、心配ないけど。


    ああ、もう父親なんかどうでもいいや。
    とにかく、先生にまかせるしかない。

    ねえ、先生。
    あたしゃ、あんたを信頼してるよ。

    なにしろ、先生は優しいんだから。

    それに、先生ったら、すごく・・・・・・


    あっ、そうか。
    そうかもしれない。

    この子、ひょっとして
    先生の子じゃないかしら。
     

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  • ワニの背中

    2012/03/10

    ひどい話

    水を飲んでいたら
    ワニに噛みつかれた。

    あの巨大な洗濯バサミのような顎に
    おいらの頭が丸ごと挟まれてしまったのだ。


    まったく油断していた。

    想像さえしていなかった。


    そのまま水中に引きずり込まれ、
    死ぬほど水を飲まされた。

    さらに上下左右に激しく振りやがる。
    おいらの首を喰い千切るつもりだ。

    さすがワニだけのことはある。
    どうにも逃れられない。


    ああ・・・・・・

    痛い。
    ものすごく痛い。

    まるでワニに噛まれているみたいだ。


    ああ・・・・・・

    もうすぐ死ぬ。
    ワニに喰われて。


    ああ・・・・・・

    それにしても、おいらの人生、
    短くもなく、長くもなかったな。


    ああ・・・・・・

    ワニの背中で洗濯してみたかったな。

    着物が洗えるか、それとも破れるか。


    ああ・・・・・・

    もっと立派なことを考えられないものか。


    ああ・・・・・・

    もうダメだ。
    意識が遠のいてゆく。


    ああ・・・・・・

    それにしても
    納得してから死にたかったな。

    そもそも近所の公園の噴水の池に
    なんでワニがいるのだ。
     

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  • 話し相手

    2012/03/09

    怖い話

    いつの間にか年を取ってしまい、
    家族も友人も親しい知人もいなくなってしまった。

    ひとりで寂しいような気もするな、と思っていたら
    とうとう飼い猫が喋り出した。

    「おいらが話し相手になってやるよ」


    おやおや、これはいけない、と思った。

    記憶力が弱まり、月日の立つのが早まり、
    年相応に呆けたな、とは自覚していたのだが、

    猫の喋る声が聞こえるようになってしまっては
    もう救いようのない末期症状である。


    「あんた、なにか言いたいことがあるんだろ?」
    猫が尋ねる。

    言いたいことがあったような気もするが、
    なかなか思い出せない。

    考えてみると、この猫の名前さえ思い出せない。


    「まあ、まだ慣れなくて、
     適当な言葉も浮かばないのだろうけどよ」

    猫は向こうの部屋へ行ってしまった。

    それからしばらくの間、
    わしは猫に話しかけるための適当な言葉を考え続けた。


    やがて猫は戻ってきた。

    わしは猫に尋ねてみた。
    「向こうの部屋には、なにがあったっけ?」


    「あんたの体」
    猫はあくびをした。

    「まだ辛うじて生きてるよ」
     

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    • Tome館長

      2012/03/20 01:23

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/03/17 14:35

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 浴槽の沈没

    2012/03/08

    愉快な話

    仕事を終え、疲れて家に帰り、
    風呂に入ったら、浴槽が沈没した。

    「おーい、助けてくれー!」


    妻が浴室に入ってきた。
    「あなた、どうしたの?」

    「見てわからんのか」
    「わからないわ」

    なるほど。
    言われてみると、そうかもしれない。

    だが、納得してはいけない。
    おれは危うく溺れるところだった。

    とっさに洗面台にしがみつけたので
    なんとか助かったのだ。


    浴槽は、もう救いようがなかった。
    すっかり沈没してしまった。

    なんであれ、沈没してしまった以上、
    それは事実として認めるしかなかろう。


    おれは諦めた。
    いつまで眺めていても仕方ない。

    とりあえず、今夜のところは
    小型の補助浴槽を使うことにしよう。


    「明日、救命胴着を買ってくるよ」
    「そんなの売ってるかしら」

    「ホームセンターのスポーツ用品売り場とか、
     とにかく、なんとか探してみるさ」
    「そうね。見つかるといいわね」


    浮き輪も欲しいところだが、
    季節外れだから

    ちょっと無理かもしれない。
     

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  • なんにもしない夜

    2012/03/07

    怖い話

    今夜は静かだ。
    なんにもする気がしない。

    テレビはつまらない。
    パソコンは面倒臭い。

    本を読む気にもなれない。
    音楽を聴く気にもなれない。

    そもそも考えるのが億劫だ。
    眠りたい。

    ・・・・・・いや。

    眠りたくもない。
    なんにもしたくないのだ。

    動きたくない。
    息もしたくない。

    脈だって・・・・・・

    ああ、そうか。
    そうなんだ。

    だから、静かなんだ。
    なんにもしたくないわけだ。

    なにかしたくても

    もう
    なんにもできないんだ。
     

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  • また来てね

    2012/03/06

    愉快な話

    ひとりで世界中を旅していた頃、
    僕はある女の子と出会った。

    僕たちは深く知り合うことになり、
    一緒に寝たりさえした。


    「また来てね」
    「うん。そのうちね」

    別れ際、そんな口約束をした。


    けれど、時は流れ、
    そのうち僕は旅をやめてしまった。

    いや、そうではない。
    旅は今でも続いている。

    現実の世界の旅ではなく、
    意識の世界の旅を始めたのだ。


    灯りを消した夜の暗闇の中で
    僕はひとり瞑想する。

    すると、あの旅の途中で出会った女の子が
    僕の意識の前に姿を現した。


    「お久しぶりね」

    僕は挨拶どころではない。

    「あなた、いつまで待っても来てくれないから
     こっちから来たのよ」

    戸惑うばかりの僕。
    「・・・・・・だって、君は・・・・・・」

    微笑む彼女。
    「冗談よ。あたしもあなたに再会できるなんて
     まさか思ってもみなかったわ」


    彼女の説明によると、

    どうもまだよくわからないのだけれど、
    どうやら僕たちの意識はひとつに重なったらしい。


    「それじゃ僕たち、好きな時に会えるんだね」
    「ええ。お互いに強く意識すればね」

    「それは素敵だ!」

    「でもね」
    彼女、首を横に振る。

    「あたし、もう来ないわ」

    僕は驚く。
    「どうして?」

    彼女、僕の意識を見渡しながら、溜息を吐く。

    「あたしもう、お邪魔みたいだから」


    僕は今さら気づく。
    (しまった!)

    僕の意識の顔が赤くなる。


    僕のまわりは、とても彼女に見せられないような
    ひどく恥ずかしい意識で一杯で、

    現実に溢れ出さんばかりの惨状だったのだ。
     

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  • ミツバチの巣

    2012/03/04

    ひどい話

    ミツバチの働きバチはメスである。

    主に花粉と蜂蜜を食べて育ち、働きバチとなる。

    働きバチの頭部から分泌されるローヤルゼリー、
    これのみで育てられたメスは女王バチとなる。

    オスは、巣の中では餌(えさ)をもらう以外特に何もしない。

    ある晴れた日、オスは交尾するため外に飛び立つ。

    オスバチは空中を集団で飛行し、
    その群れの中へ女王バチが飛び込み、交尾を行う。

    オスバチは交尾の際に腹部が破壊され、死亡する。

    女王バチは巣に帰還し産卵を開始する。

    交尾できなかったオスも巣に戻るが、繁殖期を過ぎると
    働きバチに巣を追い出され、死に至る。


        (「ミツバチ-Wikipedia」より、要約引用)

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


    (なぜ俺は結婚したんだろう?)

    はっきりとした理由が思い出せない。


    好きな女と一緒に暮らしたかったはずだが、
    その気持ちは長く続かなかった。

    けれど、子どもができた。

    別れられなくなった。


    まるで罠、または詐欺。

    遺伝子に組み込まれた増殖装置。


    もう増殖する必要などなく、
    むしろ間引きすべき状況ですらあるというのに・・・・・・


    愚かな、あまりに愚かな。

    しかし、繰り返される。


    「おじいちゃん!」

    あまりにも愛らしい、孫の顔。
     

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    • Tome館長

      2012/03/14 17:09

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 世界超能力コンテスト

    2012/03/03

    愉快な話

    ある国際的な秘密結社主催による
    世界超能力コンテストが秘密裏に開催された。


    このコンテストにおける「超能力」とは
    通常の人間には実行できない特殊能力を意味する。

    科学的に説明できない超自然的な能力とは限らない。

    たとえば、世界一足の速い人も超能力者とする。

    つまり、ギネスブックに名が載るような人は
    大雑把ではあるが、すべて超能力者と言えよう。

    ノーベル賞受賞者なども同様。


    ただし、それでは際限ないので
    某秘密結社にとって利用価値の高い能力に絞られる。

    また、本人にはコンテストに参加しているとも
    選考されているとも知らされていない。

    一部の例外はあるものの、能力調査や選別試験は
    あくまでも秘密裏に行われたのである。


    さて、そのコンテストであるが
    意外な結果が出た。

    複数エントリーされた超能力ジャンルにおいて
    ある人物がすべて第一位を獲得したのである。


    その人物が持ついくつかの超能力とは、
    煎じ詰めれば、たったひとつの能力に還元できる。

    それは透視や念力など、本来の意味の超能力より
    遥かに実用価値の高い能力と言えよう。


    その特殊能力とは、すなわち

    「とにかくコンテストで第一位を獲得する能力」

    である。
     

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  • 約束の場所

    2012/03/02

    切ない話

    約束の時間に
    約束の場所に着いたら、

    「約束が違うわ」
    と言われた。


    「約束通りだよ」
    と言うと、

    「約束通りの人じゃないじゃないの」
    と言い返された。


    「約束が違うよ」
    と言うと、

    「違う約束よ」
    と言い返された。


    ああ。

    約束なんかするんじゃなかった。
     

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  • 良心的な殺し屋

    2012/03/01

    切ない話

    俺は殺し屋。

    しがない稼業、とは思わない。


    ターゲットは依頼者本人のみ。

    つまり、本人からの嘱託殺人だけを専門に請け負い、
    自殺幇助、承諾殺人の自殺関与・同意殺人罪に相当する。


    その未遂も含め、自殺は処罰されないにも関わらず、
    なぜか自殺関与は処罰される。

    本人には自己の生命を処理する自由と権利があり、
    それを実行できるのは本人だけだから。


    まあ、そんな法解釈はどうでもいい。

    実際問題、素人の自殺は迷惑極まりない。

    鉄道への飛込み。
    ビルの屋上からの飛び降り。
    ガス自殺を起因とするガス爆発火災。


    まったく、他人への配慮なし。
    死後の現実は自分と関係なし。

    さらには、死刑になりたくて無差別殺人まで。


    そんな無神経で自己中な輩ばっかり。


    そこで、プロの殺し屋の登場だ。

    苦痛少なく、迅速丁寧、アフターサービス完備。


    しかも、ビフォーサービスまである。

    貧困問題なら、就職の斡旋。
    人間関係なら、改善のための提案や交渉。

    文学的苦悩なら、徹夜で議論までする。


    どうだい。

    下手な政治家より、よっぽど良心的だろうが。


    あんたもどうだ。

    一度、俺に相談してみないか。


    依頼するかどうかは、それから自分で決めるんだね。
     

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