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  • 遊園地の犯罪

    2008/08/12

    変な話

    遊園地でアルバイトをしていた。

    その日は、回転ボートの担当になった。

    回転ボートとは
    池の上を旋回するだけのボート。

    こんなものでも子どもたちは喜んでくれる。

    担当は、切符を受け取り、客を入場させる。
    小さな子どもなら、抱えてボートに乗せてやる。

    愛想はよい方だから、楽な仕事だった。


    この回転ボートのコーナーの隣には
    メリーゴーランドのコーナーがある。

    同じくアルバイトの女の子が担当していた。

    彼女と仲良くなりたいな、などと思いながら
    幼いお客さんをボートに乗り降りさせていた。

    ところが、ちょっと目を離した隙に
    子どもの腕が一本、池に落ちてしまった。

    だから、子どもはきらいだ。
    いとも簡単に壊れてしまうんだから。

    あわてて池から腕を拾い上げた。

    けれど、人が多く、どの子の腕かわからない。
    片腕の子も、泣いてる子も見つからない。


    腕を持ったまま途方に暮れていると、
    その問題の腕を引っ張る奴がいる。 

    腕に噛みつくのは、一頭の木馬だった。
    隣のメリーゴーランドから逃げてきたのだ。

    腕をニンジンとまちがえているらしい。

    隣のコーナーのアルバイトの女の子が
    泣きそうな顔をしてこちらを見ている。

    「わたし、そういうの、困ります」

    そうであろうなあ。
    どうも彼女とは友だちになれそうもない。


    木馬は腕を一本、みんな食べてしまった。

    なんということだ。犯罪ではないか。
    共犯者にされてしまう。お尋ね者だ。

    それは、まずい。ここから逃げよう。

    ひらりと木馬にまたがると、拍車を当て、
    客を蹴散らしながら出口をめざした。


    パカラッ パカラッ パカラッ パカラッ


    しかし、どこへ逃げたらいいのだ。

    遊園地だから走るのであって、
    外に出たら、木馬は木馬。

    走るはずがない。
     

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  • かまいたち

    2008/08/01

    変な話

    オープンカーで風を切っていた。

    助手席ではサングラスの女が脚を組み、
    ロングヘアーが吹き流しになっていた。


    「けどまあ、晴れてよかったな」

    声をかけたのに、女は返事をしない。

    「おまえ、まだ怒っているのか?」

    それでも返事がない。


    横を見ると、サングラスがない。
    自慢のロングヘアーもない。

    整った鼻も唇も、そもそも顔がない。

    助手席には首から下だけの女の体。
    スパッと水平に首が切れていたのだ。

    (かまいたちだ!)

    思わず開いた口の中に風が吹き込んだ。


    一瞬、視界の端に人影が映った。
    急ブレーキを踏む。間に合わない。

    はねてしまった!
    若い女だった。

    ドアを跳び越え、駆け寄る。

    即死だった。
    首が完全に千切れていた。


    おれは道端に転がっていた若い女の首を拾い、
    大急ぎでクルマに戻る。

    助手席で脚を組む首のない彼女の上に
    拾ったばかりの若い女の首をそっと載せる。

    彼女は目をパチクリさせた。

    「ああ、びっくりした!」

    びっくりしたのはこっちの方だ。


    どうやら目撃者はいないようである。

    「両手で頭をしっかり押さえておけよ」

    すぐにクルマをスタートさせた。


    アクセルを踏みながら横を見る。
    彼女は両手でしっかり頭を押さえている。

    とても素直な子なんだな、と思った。

    それに、ショートヘアーも悪くない。
     

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  • 天使の風

    2008/07/31

    変な話

    病院のベッドに僕が寝ていたとき、

    僕の真上、天井のすぐ下に看護婦さんがいて、
    吊り下げ扇風機みたいにくるくる回転していた。


    「あの、そんなふうにまわり続けていたら、
     そのうち目がまわりませんか?」

    かすれた声で僕が尋ねてみると、

    透き通るような白衣を着た看護婦さんは
    回転しながら返事をしてくれた。

    「あいにく目がまわったりはしないけど、
     なんだか世界がまわっているみたい」

    僕は、ちょっと微笑んでしまう。

    「できれば、そんな平らな姿勢ではなくて、
     もっと体をねじっていただけたら、
     きっと、ここまで風が来ると思うのですが」

    慣れ慣れしいけど、僕を許して欲しい。
    なにしろ、生死の境にいるのだから。


    「・・・・・・こう?」

    素直な看護婦さんで良かった。

    「ええと・・・・・・ああ、違います。
     それとは逆にねじらないといけません」

    「・・・・・・こうかしら?」

    「ええと・・・・・・そう、それで結構です。
     ああ、ここまで、いい風が来ました」


    はっきりとは確認できないけれど、

    せわしなく回転する看護婦さんの顔が
    ちょっと微笑んだような気がした。
     

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