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  • 幽霊の診察

    2008/10/04

    愉快な話

    次の患者は幽霊だった。

    「先生、どうも具合が悪くて・・・・・・」


    若いナースが床に倒れた。
    どうやら気絶したらしい。

    悲鳴をあげ、みんな逃げ出した。


    だが、私は医者だ。
    患者を見捨てて逃げるわけにはいかない。

    それに、腰が抜けて立てないのだ。


    おそるおそる幽霊の手首に触れてみた。
    冷たかった。やはり脈はなかった。

    はだけた胸に聴診器を当ててみた。

    「息を吸って、止めて、はいて・・・・・・」

    生臭いにおいがしただけだった。


    「いつから具合が悪いのですか?」
    「亡くなるちょっと前から・・・・・・」

    どうやら自覚しているらしい。
    死を宣告しても無駄なようだ。


    「どんな具合に悪いのですか?」
    「なんとも、死にきれないくらい・・・・・・」

    ふざけているのだろうか。


    「舌を見せてください」

    腐乱していた。見なければよかった。

    どうにも手のほどこしようがない。


    「お気の毒ですが、もう手遅れです」
    「先生・・・・・・」

    うらめしそうな顔をするのだった。
     

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  • 舞踏会

    2008/09/30

    愉快な話

    舞踏会は華やかに
    今やたけなわ。

    美しく咲き乱れる踊り子たち。

    きらびやかなドレスを身にまとい、
    楽団の演奏に合わせてステップを踏む。


    「踊っていただけますか?」

    赤い郵便ポストの誘いであった。
    どちらかというと無難な相手。

    さっきまでクレーン車と踊っていた。
    というか、振りまわされて投げ飛ばされた。

    フロアにのびていたところを誘われたのだ。


    「ええ、喜んで」

    だけど、郵便ポストは踊りが下手だった。
    というより、まったく動かないのだった。

    まっすぐフロアに立っているだけ。
    そのまわりをグルグルまわるしかない。

    「ラブレターを入れてくださいね」
    「そうね、そうね。そのうちね」

    目がまわるばかりので
    途中、背中にまわったところで逃げてきた。


    楽団が演奏のテンポを上げた。

    「お嬢さん、オレと踊ろうぜ!」

    打って変わって、活動的な若者。
    大型バイクからの乱暴な申し込みだ。

    かなり激しいパートナーだった。
    押し倒されるんじゃないかと怖かった。

    エンジン音がうるさくて
    ろくに会話もできない。

    ガソリン臭や排気ガスも
    あんまり嬉しくなかった。

    ついにシートから振り落とされた。

    それに気づきもせず、
    自分勝手な彼は走り去ってしまった。

    もう大型バイクはたくさんだと思った。

    ヘルメットをかぶってまで
    踊りたくなんかない。


    腰をさすっていたら、声をかけられた。

    「一曲、いかがでしょうか?」

    いわゆる美形の紳士だった。
    頭髪から靴先まで完璧なのだった。

    土木工事用重機だとか爬虫類とかではなく、
    まともな人間の男性なのであった。


    「すみません。疲れてしまいましたの」

    あっさり断ってしまった。

    信じられないという表情の美形の紳士。
    その気落ちした背中を見送る。

    「ごめんなさい」

    小さな声で私はつぶやいた。


    本当はそんなに疲れていなかった。
    まだまだ踊っていたいのだった。

    でも、やっぱり駄目なのだ。

    踊る意欲が湧いてこないのだから。


    ありきたりのパートナーでは、もう。
     

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  • 棺の姫

    2008/09/29

    愉快な話

    毎晩、棺の中で眠る姫がいた。

    死んだように熟睡できるという。
    ベッドの上では眠れないのだそうだ。

    姫のわがままを王は許していた。

    ある朝、棺の中で姫は死んでいた。
    「なんと、このまま埋められるぞ」

    冗談好きな医師は首をはねられた。

    姫の亡骸はベッドの上に移された。
    王は泣き、白いシーツが濡れた。

    すると突然、姫が跳ね起きた。
    「だから、よく死ねないのよ!」
     

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  • 光の遊園地

    2008/09/28

    愉快な話

    子どもを連れて光の遊園地へ行ってきた。
    光と遊ぶためのテーマパークなのだそうだ。

    入場すると、まず蛍光コートを着せられた。
    これは暗闇でも光る特殊素材でできている。

    壁や天井や床まで鏡張りの迷路を通り抜ける。
    天地左右に合わせ鏡の廊下が見えた。

    内側が総鏡張りの正多面体の部屋に入った。
    正四面体から正二十面体まで体験した。

    同じく円柱の部屋、球体の部屋も。
    発狂する心配をしていたが、無事だった。

    息子も娘も平気で楽しんでいたようだ。

    ホログラフによる立体映像には感心した。
    大人向けに裸の美女とか映して欲しかった。

    残像現象を利用した浮かぶ絵も楽しかった。
    光るプランクトンの水槽もきれいだった。

    光には無限の可能性が秘められている。
    そんな神秘的な印象を受けた。

    やがて、閉園時間。
    日常に戻らなければ。

    受付のお嬢さんに蛍光コートを返却する。

    出口では従業員が電源スイッチを切っていた。
    明るかった園内の照明が次々と消えてゆく。

    寂しいものだな、と感傷的な気分になる。

    やがて、光の遊園地そのものが消えた。
    電源スイッチのパネルと従業員だけが残った。

    従業員の男は深々と頭を下げた。

    「ご来園、ありがとうございました」
      

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  • 発 病

    2008/09/25

    愉快な話

    おととい、息子が発病した。
    昨日、妻も発病した。

    そして、ついに今日、
    私まで発病してしまった。


    「もう、おしまいだ」

    われながら情けない声であった。


    「もう、いやだよ」

    息子がうしろ脚で立っていた。


    「もう、気が狂いそうだわ」

    妻の頭からツノが消えていた。


    親子そろって抱き合って泣いた。

    もう不安で不安でしかたがない。
    これからどうやって生活するのか。

    いくら悔やんでも悔やみきれない。
    あんなの、迷信だとばかり思っていた。

    だが、考えが甘かったのだ。


    とうとう人間になってしまった。

    食べた後、すぐに寝なかったから。
     

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    • Tome館長

      2012/05/31 16:28

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2008/09/25 21:20

      阿刀田高氏の「ショートショートの広場」にて、入選。
      選者が星新一氏だったら、落選かも。

  • 婆さんの話

    2008/09/23

    愉快な話

     
    ひどい目にあうぞ。それでも聞くのか。

    そうか、そんなに聞きたいか。
    しょうがないの。わしゃ知らんぞ。

    これは、わしがまだ子どもだった頃に
    わしの婆さんから聞いた話じゃ。

    ほんにその婆さんもな、
    この話だけは語りたくなかったようじゃ。

    でも、わしが一所懸命せがむもんで
    婆さんはしぶしぶ話してくれたんよ。

    そりゃもう、おっかない顔してな。

    で、その婆さんのおそろしい話はの、
    こんなふうに始まるんじゃ。


    ひどい目にあうぞ。それでも聞くのか。

    そうか、そんなに聞きたいのか。
    しょうがないの。わしゃ知らんぞ。

    これは、わしがまだ子どもだった頃に
    わしの婆さんから聞いた話じゃ。

    ほんにその婆さんもな、
    この話だけは語りたくなかったようじゃ。

    でも、わしが一所懸命せがむもんで
    婆さんはしぶしぶ話してくれたんよ。

    そりゃもう、おっかない顔してな。

    で、その婆さんのおそろしい話はの、
    こんなふうに始まるんじゃ。


    ひどい目にあうぞ。それでも聞くのか。



    そうかそうか。もう聞きたくないか。

    やれやれ。まったくもって、弱虫じゃの。
     

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  • ノンノン堂

    2008/09/23

    愉快な話

    植木に水をくれていたところだった。

    「あの、すみません」

    垣根越し、女の子に声をかけられた。

    「ノンノン堂という店はどこでしょう?」


    知らなかった。
    初めて耳にする名前だった。

    そこそこ住み慣れた町である。
    生まれ育った町ではないが大抵は知っている。

    「どんな店なの?」
    「この近くにあると聞いたんですけど・・・・・・」

    返事が拙いのは幼いからだろうか。
    どんな店か説明しにくい店かもしれない。

    教えてやりたいが残念だ。

    「わからないな」
    「・・・・・・そうですか」

    その子は行ってしまった
    気落ちした表情が同情を誘った。


    夕食のとき、家族に尋ねてみた。
    やはり誰も知らないのだった。


    数日後、ふたたび道を尋ねられた。
    茶色に髪を染めた少年だった。

    「あの、ノンノン堂はどこですか?」

    またか、と思った。

    「なにを売ってる店?」
    「いや、友だちに聞いただけなんで・・・・・・」

    あの女の子と同じような返事だ。

    「ごめん。わからないな」
    「・・・・・・どうも」


    その翌日も道を尋ねられた。
    少女と男の子だった。

    「ノンノン堂という店はどこでしょう?」

    「ノンノン堂はどこ?」

    この町の住人でないことだけは確かだ。

    「知りません」

    「知らん」


    さらに翌日は十人に尋ねられた。
    やはりノンノン堂だらけであった。

    隣に住む奥さんまで尋ねるのだ、

    「ねえ。ノンノン堂って、ご存じ?」

    さすがに頭にきた。
    怒るよ、もう。


    立て札を作って垣根の前に立てることにした。
    板切れを近所から譲ってもらった。

    『ノンノン堂とかいう店は知らん!』

    そんな文面を考えていた。

    だが、途中で気が変わった。
    立て札はやめることにした。

    ノコギリを挽きながら吹き出してしまった。
    別のものを作ることにした。

    そして、完成した。

    『ノンノン堂』

    なかなか立派な看板ができあがった。

    家の門柱に掲げるつもりである。
    これでもう道を尋ねられることはあるまい。

    だが、その前に決めておく必要がある。


    さて、なんの店にしてやろうか。
     

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    • Tome館長

      2012/05/29 22:39

      「mirai-happiness☆」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/05/29 01:29

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 動物病院

    2008/09/20

    愉快な話

    熊のぬいぐるみの具合が悪いので
    動物病院へ連れてゆくことにした。

    まちがっているけど、しかたないのだ。

    私は動物が好きなのだけれど

    私が住んでいる団地では、規則により
    犬猫を飼ってはいけないのである。

    それで犬猫のぬいぐるみを探したけれど
    なかなか良い犬猫のぬいぐるみがなくて

    気に入ったのは結局、熊のぬいぐるみ。

    すぐに買ってしまって、もう嬉しくて
    いつも寝るときに抱きしめて寝ている。

    なぜか抱いていると安心して眠れるのだ。


    ところが最近、この熊のぬいぐるみが
    一緒に寝るのを拒否するようになった。

    きっと精神的な病気に違いない。

    とすれば、仮に動物ではないとしても
    おもちゃ病院では治らないだろう。

    つまり、まあそういうわけなのだ。


    動物病院を訪れるのは初めてだった。

    しばらく私たちは待合室で待たされた。

    意外にも本物の動物の患者は少なくて
    杖を突いた老犬が一匹いるだけだった。

    狐によく似た顔の人間の患者もいた。

    ぬいぐるみの患者も多かった。
    ライオン、ワニ、キリン、それに毛虫。

    かれらに付き添いはいないようだ。

    高そうな陶器の犬までおすわりしていた。

    私は内心、ホッとした。
    笑われたらどうしようか、心配だったのだ。


    驚いたことに、ナースは羊だった。

    キャップというのか、髪飾りというのか
    あのナースのマークを頭にのせている。

    白衣は着ていないが、羊毛は白っぽい。

    さらに驚いたことに、医者は牛だった。

    それらしい白衣を首のあたりに巻きつけ、
    聴診器を鼻の穴からぶら下げている。

    よだれをダラダラ垂らしながら
    しきりに尻尾を振ってハエを追い払う。

    「どうしたのかね?」

    よかった。人の言葉を話せる牛で。
    さすが医者だわ、と私は感心した。

    「クマちゃん。先生にお話しなさい」

    私は熊のぬいぐるみの頭を撫でてやる。

    「怖くないわよ。草食だからね」

    それでも、なかなか話し出そうとしない。
    ぬいぐるみのくせに人見知りするのだ。

    「クマちゃん。どうしたの?」
    「・・・・・・べつに話すことなんかないよ」

    困ってしまう。反抗期かもしれない。

    しかたないので、私が病状を説明した。

    口にするのが恥ずかしいようなことも
    正直に話さなければいけなかった。

    そういう意味では、相手が牛でよかった。

    「・・・・・・なるほど」

    牛の医者は大きくうなずいた。

    なんて、偉そうなんだろう、と私は思った。

    「つまり、これは倦怠期ですな」
    「まさか!」

    私は信じられなかった。

    牛の医者はますます偉そうに首を振る。

    「他の可能性は考えられませんな」

    突然、目の前が真っ暗になった。

    「暴れないでください。落ち着いて」

    それは羊のナースの声だった。

    背後にこっそり立っていた羊のナースが
    私の頭になにかをかぶせたのだ。

    さらに、あれこれ理不尽な指示をする。

    ようやく目の前が明るくなった。

    羊のナースが手鏡を差し出す。

    「パンダの着ぐるみです」

    手鏡に映る私はパンダの姿であった。

    つまり、私は羊のナースの前脚で

    パンダのぬいぐるみのようなものを
    乱暴に着せられたのだ。

    「どうですか?」

    牛の医者がまじめな顔で質問する。

    「どうですか、と言われても・・・・・・」
    「なかなか似合うよ」

    その明るい声は熊のぬいぐるみだった。

    「・・・・・・そう?」
    「うん。かわいいよ」

    私は嬉しくなってしまった。

    なんだ。こんなに簡単なことだったんだ。

    「でも・・・・・・」
    「なあに?」

    頭をかく、熊のぬいぐるみ。

    「ぼく、パンダより、ウサギがいいな」
     

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  • タイムマシン

    2008/09/17

    愉快な話

    さてさて。
    ついにタイムマシンが完成した。

    さっそく過去へ行ってみよう。

    スタート!


    おや。
    もう着いたようだ。

    どれどれ。
    なつかしい風景が見えるかな。


    あっ!
    なんということだ。

    失敗だ。
    未来に着いてしまった。


    くそっ。
    まだなにもないぞ。

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


    やれやれ。
    ひどい目にあった。

    今度は大丈夫。

    やっと過去に着いた。


    苦労したよ。
    タイムマシンの調子が悪くて。

    どれどれ。
    なつかしい風景を見せてくれ。


    あっ!
    なんということだ。

    これが過去か。


    くそっ。
    もうなにもないぞ。

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


    いやはや。
    なんとか現在に戻ることができた。


    しかし驚いたね。
    未来も過去もないとは。

    タイムマシンなんか役に立たない。
    ただ現在があるだけなのだ。

    なるほど。
    理屈ではあるな。


    どれどれ。
    その現在はどうなっているのかな。


    あっ!
    なんということだ。

    これが現在か。


    くそっ。
    もうおしまいだぞ。
     

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  • 猿 山

    2008/09/13

    愉快な話

    とうとうお山に雪が降り始めました。

    子猿が空を見上げて叫んだものです。
    「大変だ。落ちてくる。空が落ちてくる」

    子猿は降る雪を初めて見たのでした。

    雪はいく日もいく日も降り続きました。
    ようやく晴れたのは元旦の朝のこと。

    きれいな初日の出がお山から見えました。

    「よかった。昇ってる。空が昇ってる」
    子猿は東の空をじっと眺めるのでした。
     

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    • Tome館長

      2014/09/10 13:50

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2011/03/03 15:41

      ケロログ「しゃべりたいむ」かおりサンに朗読していただきました!

    • Tome館長

      2008/09/13 22:25

      申年の年賀状における小話。

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