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Tome館長

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    いわゆる女子高生であった。
    つまり、セーラー服を着た少女である。

    (やれやれ、またか)

    さすがに疲れが出る。
    まだ休憩時間には程遠い。

    だが、やらねばならんのだ。
    これが仕事なのだから。


    まず、ざっと全身を目視検査する。

    幼い表情。
    顔立ちは整っている。

    すらりと伸ぴた脚。
    いくらか産毛の多い腕。

    やや胸は小さいが、さほど間題はない。
    すぐに、脱衣作業に入る。

    「うっそー、信じられない」

    信じられなくても裸にしてしまう。
    さすがに抵抗するが、あまり力はない。

    手首と足首をベルトで台に固定する。
    この台は透明で、床は鏡になっている。


    表皮に傷は付いていないようだ。

    (分解するしかないな)
    電動ドライバーのスイッチを入れる。

    「な、なにをするつもり?」

    品物に返事をする気分ではなかった。

    どこかにネジが隠されているはずだ。
    ちょっと見ただけではわからない。

    指先で皮膚を押しながら探り出す。

    「いや、やめて!」

    ちょっと声が大き過ぎるようだ。
    だが、それが返品の理由にはならない。

    やはり内部に故障があるのだろう。


    (・・・・おかしいな)

    ネジが見つからないのだ。
    不思議な事に一本も。

    どこにもネジの感触がなかった。
    こんな事は初めてだった。

    どこか異常な気がした。
    あるいは最新タイプなのだろうか。

    台の上で裸の少女は泣き続けている。
    その瞳が作りものとは思えなかった。

    「キミ、本物の女子高生?」

    不安になって間いかけてみた。

    少女は必死にうなずくのだった。
    数値制御された表情とは思えなかった。

    (あるんだ、こんなことって!)

    仕事で感動するのは久しぶりだった。
    なんと、本物の女子高生なのであった。

    あたりを見まわす。
    監視ロボットの姿はない。


    疲れが消えてゆくのがわかった。
     

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  • 真っ暗闇

    2013/04/19

    怖い話

    はかどらぬ仕事に疲れ果てた。

    もう深夜だった。
    少し寒かった。

    「そろそろ寝よう」

    立ち上がり、照明を消した。

    真っ暗闇。
    何も見えなかった。

    ともかく手探りで歩いた。
    あれこれ考え事をしながら。

    しばらくして、気がついた。
    まだ扉に手が触れていない事に。

    窓や壁にさえ当たっていない。
    こんなに家は広くなかったはず。

    街明りも星明かりもなかった。

    「ここはどこだ?」

    わからない。
    誰からも返事はない。

    ひどく寒くなってきた。
    とても耐えられそうもないほどに。
     

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  • 彼女は異星人。

    2013/04/17

    変な話

    彼女は異星人だ。

    それを隠すため、子どもを産む。
    たくさん、たくさん、彼女は子どもを産む。


    だから、ほら、もう

    この星の半分ほどが
    彼女の子どもだ。
     

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  • 靴下を脱ぐ

    2013/04/16

    愛しい詩

    靴下を脱ぐのなら
    できれば無地の白い靴下で
    脱ぐのは無垢な少女であって欲しい。

    木陰に隠れて覗くと
    そよ風が遠慮がちに吹いて
    彼女の柔らかな長い髪をなびかせる。

    その小さな頭の近くに
    黄色い蝶でも飛んでいたら
    なかなか絵になりそうな気がする。

    ふと少女と視線が合ってしまい
    「だめ! 見ないで!」と
    叱られてみたい気もする。
     

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  • 首が痛い

    2013/04/15

    愉快な話

    「首が痛い」
      と
     冷蔵庫が言う。


    「どこに首があるんだ?」
      と
     問うてみたくなった。
     

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  • 黒い機関車

    2013/04/14

    切ない話

    黒煙をモクモクと吐きながら
    真っ黒な機関車が迫りくる。

    線路はまっすぐ
    私の胸へと続いている。

    そうなのだ。
    私の胸には大きな穴があいている。

    大きくて暗くて深くて
    どうしようもない。

    ああ、本当にもう
    どうしようもない。


    列車の振動で頭が痛い。
    線路の枕木では眠れそうにない。

    鋭い警笛が鳴る。
    見上げれば青い空。

    今、黒い機関車が
    トンネルの穴に突き刺さる。

    深くて暗い穴の奥に
    列車は飲み込まれてしまう。


    その後の黒い機関車の行方を
    私は知らない。

    トンネルから抜け出たという話は
    まだ聞いた事がない。

    あるいは、モクモクと
    黒煙を吹き上げながら

    まだ暗いトンネルの中を
    今でも駆け続けているのかもしれない。

    そう言えば
    トンネルに出口はあったのだろうか。

    どうもよくわからない。
    自分の背中は見えにくいものだから。


    それはともかく、これからは
    あんまり線路に近づかない事だ。

    踏切の手前でのんびり待っていても

    不意に遮断機に
    首を切り落とされるかもしれない。

    落ちた自分の首を
    自分の手で拾うなんて

    まったく、まったく
    まったくもって

    やり切れない気分になるに違いない。
     

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  • 首 輪

    恋人の首に首輪をつけた。
    あんまり勝手に動きまわるものだから。

    牛革の丈夫な奴。
    鎖でつながっている。

    その鎖の端は僕が握っていて放さない。

    「いやだ、こんなの。はずしてよ」
    「だめだ。はずせば逃げるだろ」

    恋人としての自覚に欠けていると思う。

    いい男を見つけるとすぐに色目を使う。
    犯罪と呼べるほど肌を人目にさらす。

    僕の腕に噛みつくことだってある。
    だから、たまに鞭でこらしめてやる。

    「もっと人間扱いしてよ」
    「うるさい。黙れ」

    わがままな恋人の尻に鞭をくれてやる。
    悩ましい悲鳴があたりに響き渡る。

    まわりの人たちはびっくりする。
    さわやかな朝の散歩が台なしだ。

    「ひどい、ひどいわ。人でなし」
    「なんだと。恋人のくせに」

    もう僕は完全に頭にきてしまった。
    恋人としての自覚がなさ過ぎる。

    よし、決めた。
    思い知らせてやる。

    家に帰っても、朝ご飯は抜きだ。
     

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  • 大きな瞳

    2013/04/12

    変な話

    大きな瞳に見つめられている。


    あたりは深い闇に包まれ、
    その瞳の他に何も見えない。

    触れたくなるほど魅力的な瞳。
    その瞳に吸い込まれてゆく指。

    指先が瞳の中心に突き刺さり、
    そのまま手首まで埋まってしまう。

    さらに腕がズブズブ奥へ入り込む。

    メリメリと音を立て
    肘さえ潜り込む。

    瞳と腕の隙間から
    透明な液が溢れる。

    涙だろうか。
    痛いのだろうか。

    それとも、喜んでいるのだろうか。


    ああ、しかしながら

    瞳の気持ちも推し量れぬうちに
    もう肩まで深く飲み込まれてしまった。
     

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  • ル ル

    2013/04/11

    切ない話

    ルルという名の女の子の話だ。

    あの頃、僕もまだ男の子だった。


    もうルルには二度と会えない。
    会えたとしても、もうルルじゃない。

    どうして別れてしまったんだろ。


    ルルの写真は一枚も残っていない。
    だから肖像画を描いてみたりする。

    でも、いくら描いてもルルにならない。
    どこかしら微妙に違う。

    どうして別れてしまったんだろ。


    ルルのいた家はまだそこにある。
    けれど、全然知らない家族が住んでる。

    あの窓にルルの笑顔はない。
    あの窓にルルの泣き顔もない。

    どうして別れてしまったんだろ。
     

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  • 首の吊り橋

    2013/04/10

    怖い話

    若者がひとり山道を歩いていた。

    前方には深い谷がある。
    やがて、吊り橋が見えてきた。

    たった今、向こう側から
    老婆が渡り終えところである。

    不気味なほどに腰が曲がった老婆だった。

    「あんた、よそ者だな」
    「ええ、道に迷いまして」

    「それにしても、大きくて重そうだな」
    おかしな事を言う老婆だった。

    「この先はどこへ行くのでしょうか?」
    吊り橋を指して若者は尋ねた。

    老婆はシワだらけの顔をゆがめた。
    「そりゃ、あの世だな」

    「おかしな地名ですね」
    「つまりな、死ぬんじゃよ」

    吊り橋の先は行き止りだという。

    山道は森の中へ分け入り、
    その途中で消えているらしい。

    この吊り橋を渡るよそ者は少ない。

    少ないが、必ず自殺する。
    なぜか首吊りをするのだそうだ。

    「おどかさないでくださいよ」

    またもや老婆は顔をゆがめた。
    笑ったつもりなのだろう。


    若者は吊り橋を渡り始めた。

    深い深い谷底。
    古めかしい木と縄の通り道。

    歩くたびに揺れるので怖い。
    だが、怖くても渡らなければならない。

    若者は自分を励ますのだった。

    (これから首を吊る者が
     吊り橋を怖がってどうする)
     

    Comment (2)

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    • Tome館長

      2014/02/02 00:43

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/05/20 10:21

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

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