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  • 氷の階段

    2012/03/21

    怖い話

    靴音が聞こえる。
    踊り場で休んでいるというのに。

    それにしても長い。
    長すぎる。

    誰が築いたのか、この階段。

    石段も石壁も厚く、硬い。

    すでに破壊は試みた。
    そのため両手は砕けてしまった。

    両足も痛む。
    呼吸も苦しい。

    立ち上がれない。

    石の床が冷たい。
    氷のようだ。

    体温を奪う。
    座り続けることもできない。

    ここで息絶えるのか。

    「そんなばかな。うそだ。でたらめだ」

    それは階段の上からの声。

    幻聴ではない。
    靴音も幻聴ではなかったのだ。

    信じられない。
    自分の他に生存者がいたとは。

    しかし、暗くて見えない。
    壁の光る苔のわずかな明りだけ。


    「おい。そこにいるのは誰だ。
     そこは出口か」

    渇いた喉の奥から声を絞り出す。
    ひび割れた声。

    だが、返事はない。

    立ち上がる。
    膝がきしむ。

    階段を上る。
    歯を喰いしばる。

    「来るな。ここに来てはいけない」

    あの声だ。
    力なく、弱々しい。

    やはり階段の上に誰かいる。

    どれくらい上ったろうか。

    階段の途中に誰か倒れていた。

    冷たい体。
    息も脈もない。

    汚れた顔。
    見覚えのある砕けた両手。

    「そんなばかな。うそだ。でたらめだ」

    胸が苦しい。

    そして、あの声が聞こえてくる。
    渇いた喉の奥から絞り出す、ひび割れた声。

    「おい。そこにいるのは誰だ。
     そこは出口か」

    階段の下から。
     

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    • Tome館長

      2013/05/10 22:38

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/05/10 22:38

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

  • 泡の割れる

    2012/03/20

    楽しい詩

     




    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜\ぱちん/〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

                      ○

                     ぷ
                      く

                      ○

                    ぷ
                    く

                     ○

                      ぷ
                       く

                       ○

                     ぷ
                    く

                     ○








                      に
                     ん
                      ぎ
                       ょ
                      ひ
                    め



     

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    • Tome館長

      2012/08/02 23:07

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 夜よ明けるな

    2012/03/19

    切ない話

    約束されていたかのように夕暮れが訪れ、
    初めて君を迎えた部屋は静かに暗くなる。


    ふたり、とりとめのない話を
    いつまでも話し続けようとしていた。

    笑うと嬉しくて、嬉しいから笑い、
    ふたり、薬も酒も飲まずに酔っていた。

    まるでふたり、
    重なった夢を見ているようだった。


    なんだろう?

    この気持ち。この感情。


    誰も教えてくれない。
    誰にも教えられない。

    気がふれたと蔑まれて
    黙ってうなずくしかないような

    そんな狂おしい瞬間が
    ダラダラダラダラ引き延ばされてゆく。


    それでも、いつの間にか夜明けが訪れ、
    ありふれた部屋の輪郭が浮き上がってくる。

    ふたり、まだ指さえ触れてないというのに。
     

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  • 眼がかゆい

    2012/03/18

    ひどい話

    春はあけぼの、かゆい季節。

    眼がかゆくてかゆくて、やりきれない。


    花粉アレルギー反応。
    いわゆる、花粉症。

    まぶたの上から、こすったってダメ。

    洗眼しても、なおらない。


    かゆい、かゆい。
    痛い、つらい。

    本当に情けない。
    泣きたくなる。


    なみだで濡れても、症状はかわらない。


    もうダメだ。
    もう我慢できない。

    このままでは狂ってしまう。


    目に指ズブリ、突っ込んで
    ムンズと眼球つまみ出し、

    爪を立て

    バリバリバリバリ
    ひっかいた。


    ああ、その気持ちのよきことよ。


    もう目の前、真っ赤。

    マッカッカ。
     

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  • 吹雪の夜に

    2012/03/17

    愉快な話

    寒い冬の夜。
    窓の外は吹雪。

    でも、家の中は炬燵にストーブ、
    春のように暖かい。

    しみじみと幸せを感じていた。

    すると突然、家の屋根が吹っ飛んだ。
    どっと闇と雪と暴風に襲われた。

    照明器具もなにもかも天井ごと持っていかれた。

    呆気にとられた。
    屋根を盗られた。
    しくじった。

    幸せどころか、不幸の天井知らずだ。

    ところが突然、家の上に屋根が落ちてきた。

    それは他人の家の屋根だった。
    やはり吹き飛ばされてきたのだろう。

    ご近所の長谷川さんとこの屋根かもしれない。

    我が家の間取りにぴったりとは合わないが
    それでもいくらか吹雪がしのげる。

    やれやれ。
    ありがたいことだ。
     

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    • Tome館長

      2013/03/12 18:59

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/12/09 17:15

      「さとる文庫 2号館」もぐらさんが朗読してくださいました!

  • お願いがあるの

    2012/03/16

    変な話

    ねえ、あんた。
    いいかしら。

    お願いがあるの。


    ううん。
    なんてことないの。

    ごく簡単なこと。


    あのね。
    その前に、確認ね。

    世界は今だけだって、知ってた?


    知らなかったの。

    でも、そうなんだよ。


    たとえば、「後悔」は
    過ぎ去ったことを悔やむ、今の気持ち。

    それから、「希望」は
    やがて訪れるであろうことを望む、今の気持ち。


    そんなふうにね、
    すべては今でしかないんだよ。

    移り変わるけどね。


    まあ、いいよ。
    とりあえず、そういうことにしておいてよ。


    それでね、お願い。

    この今を大事にして欲しいの。


    先のことでも、後のことでもない、今。

    この瞬間、この瞬間の、今。


    だって、他に世界はないんだよ。

    あんたが今、まさに意識していることが
    あんたの世界のすべてなんだよ。
     

    放っておいても世界はある、なんて
    大間違いだからね。

    そんなことしてたら、

    放っておかれたような世界しか
    残らないんだからね。
     

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    • Tome館長

      2012/04/22 13:56

      「さとる文庫」もぐらさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/03/24 10:11

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • つれない素振り

    2012/03/15

    怖い話

    おいらが橋の下へ潜り込むと
    そこには先客がいた。

    見覚えのない女だった。


    「お邪魔するよ」
    とりあえず挨拶しておく。

    「まったくだね」
    迷惑そうな声。


    薄暗くてはっきりとは見えないが
    女は取り込み中のようだ。


    「何してんだい?」
    つい尋ねてしまう。

    「詮索しないでもらいたいね」
    つれない素振り。


    雨足が激しくなってきた。

    傘も持たずのにわか雨だった。


    「しばらく出られそうもないな」
    おいらは黙っていられない。

    女は返事もしない。


    「近頃、この辺は物騒でな」
    おいらは小石を川に投げる。

    「知り合いが何人も行方知れずになってんだ」


    水かさがいつもより増えている。

    すると、この雨雲は上流から来たものか。


    「よく喋る男だね」
    女は石ころで叩いている。

    「あたしが黙らせてやろうか」


    骨の折れるような音がした。
     

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  • 君のいる場所

    2012/03/14

    切ない話

    僕は、どこへでも行ける。


    灼熱のアラスカ、
    草木生い茂るサハラ砂漠、

    遥かなる馬頭星雲の鼻面だろうが、
    未発掘の古代ファラオの棺の中だろうが、

    僕が想像しうる場所であるなら
    どこへでも行くことができる。


    ただし、君のいる場所を除いて。


    君がどこにいるか、僕は知らない。

    いや。
    知っているのかもしれない。


    思い出したくないだけ。
    それを認めたくないだけ。
    知らないふりをしてるだけ。


    そうかもしれない。
    あるいは、そうでないかも。


    でも、どちらでもいい。
    そんなのどうでもいいこと。

    いずれにせよ、どうせ僕は
    君のいる場所へ行けないのだから。


    君がどこにいても。

    たとえ、僕のすぐ目の前にいるとしても。
     

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  • 転がる想い

    2012/03/13

    愉快な話

    なにがなんだかわけがわかんなくなって
    僕は背を丸めて考え込んでしまって

    足とひざを抱えたら
    ますます丸くなってしまって

    そのうち僕は
    まん丸なボールになっていて

    たまたま坂道にいたものだから
    そのまま坂道を転がり始めてしまって

    ボールだから
    ときどき跳ねたりして

    それはそれで
    ちょっと楽しかったりしたのだけれど

    なかなか止まらなくて

    このまま転がり落ちたら
    どんどん下へ下へと行ってしまうから

    上まで戻るのが大変な気がするのだけれど

    そんなこと考えなければ
    これはこれで悪くもなくて

    そりゃまあ
    良くもないけど

    そろそろ平らになってきたみたいだし

    あっ
    クルマにひかれそう
     

    Comment (3)

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    • Tome館長

      2015/06/16 09:23

      「さとる文庫 2号館」もぐらさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/03/10 13:17

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/03/21 15:52

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • どこまでも続く道

    2012/03/12

    変な話

    広い道に出た。
    曲がりくねって先が見えない。

    ちょっと散歩のつもりが
    すっかり道に迷ってしまった。


    なぜか長靴を履いている。

    空は今、見事に晴れているのだから
    出る時、雨でも降っていたのだろうか。

    それにしては傘を持ってない。

    どうも思い出せないのだけれど
    きっと適当な靴がなかっただけなのだろう。


    道は相変わらず曲がりながら延びている。

    たまにクルマが通り過ぎる。


    いい加減歩き疲れたので
    僕はヒッチハイクをすることにした。


    手を上げる。
    止まってくれない。

    手を振る。
    止まってくれない。


    足の裏が痛くなってきた。

    道端に座り込み、長靴を脱いでみた。
    靴下も脱ぐ。

    痛いはずだ。
    足の裏がマメだらけだ。

    数えてみたら、両足合わせて13個もある。


    どうしようもない。
    そのまま道端に寝転ぶ。

    でも、どうしよう?


    うとうとしていたら、声がした。

    「おい。大丈夫か?」

    かたわらにトラックが止まっていた。

    「ああ、大丈夫です」
    「轢(ひ)かれたんじゃないのか?」

    「いいえ。疲れてしまって」
    あわてて僕は起き上がる。

    「すみません。乗せてもらえませんか?」


    それで僕は、トラックの助手席に乗せてもらった。

    とても親切な運転手さんだった。
    いろんな話をした。

    けれども、互いに目的地が違うので
    道の途中までしか乗せてもらえなかった。


    別れ際、オカマを掘られた。

    乗せてもらったお礼に
    僕は我慢した。

    そのため足だけでなく、
    尻まで痛くなってしまった。


    日は傾き、ひどく空腹だった。

    なのに売店も畑も見当たらない。

    そもそも、ここはどこなんだろう。


    まだ道は続いている。

    こんな感じで適当に曲がりながら
    どこまでも続いているような気がする。

    歩いている理由を
    そのうち忘れてしまうくらい、どこまでも。
     

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