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  • ミミムシ

    2011/08/18

    愉快な話

     
    子どもというのはおかしなことを言う。

    「あっ、ミミムシ! ミミムシ見つけた!」

    娘に抱きつかれ、耳を引っ張られた。


    休日の昼下がり、居間で読書中のことだった。
    せっかく物語に夢中になっていたのに。


    鋭い痛みが両耳の付け根に走った。

    「ほら。とっても大きなミミムシ」

    幼い手のひらに耳が載っていた。


    なるほど。耳の虫か。
    なかなか面白い発想だ。

    言われてみれば、虫のように見えなくもない。
    蝶の羽のような形をしている。

    それに、ちゃんと六本の脚も生えている。

    なんと、二本の触覚まで伸びている。


    ミミムシは両耳を動かし、空中に浮き上がった。

    つまり、羽ばたいたわけだ。


    その羽音が妙にうるさく感じられた。

    なんだか心配になって声を出してみた。

    「おい、ミミムシ。どこへ行くんだ?」

    やはり、声がおかしい。

    というか、それを聞く耳がおかしいのだ。


    立ち上がって、壁の鏡を見る。

    両耳がなくなっていた。


    隣の家の犬の吠える声が聞こえる。

    目の前の娘は開いた窓を指さしている。

    「ミミムシ、窓から逃げちゃった」

    そんな娘の声が遠くかすかに聞こえた。


    これはどうも大変だ。

    とにかく、ミミムシを捕まえなければ!

    なんとかしないと大問題になりそうだ。


    「ちょっと捕虫網を貸してくれ」

    そう喋ったつもりなのに、
    なぜか自分の声が聞こえない。

    だが、うなずいて娘は居間を出たのだから、
    確かに声は出たはずである。


    さてさて。
    ともかく落ち着いて行動しなければいけないぞ。

    ミミムシなどいるはずがないのだから。
    仮にいるとしても、幻覚に違いないのだから。


    すると、これは幻聴なのだろうか。

    「まったく変人よね。ふたつ隣の家のご主人って」


    それは、ふたつ隣の家の奥さんの声だった。
     

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  • 花いちもんめ

    2011/08/17

    暗い詩

    買ってうれしい
     花いちもんめ

       まけてくやしい
        花いちもんめ


    となりの姉さん
     ちょっと来ておくれ

       靴がないから行かれない


    裸足でいいから
     ちょっと来ておくれ

       服がないから行かれない


    布団かぶって
     ちょっと来ておくれ

       布団がないから行かれない


    しょうがない
     しょうがない

       お金やるから出ておいで


    あの子が欲しい
     あの子じゃわからん

       この子が欲しい
        この子じゃわからん


    まあるくなって
     考えよう

       考えたってわからない
     

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  • 母子像

    2011/08/16

    怖い話

    雄大な海を見下ろす崖の上に
    不釣合いに見える母と子の姿があった。

    美しい夫人が醜い赤ん坊を抱いていた。

    夫人は遠い水平線を見詰め、
    そんな母親を赤ん坊が見上げていた。


    ところが不意に、夫人はめまいに襲われ、
    意識を失って崖の上に倒れてしまった。

    赤ん坊は崖から海に落ちてしまい、
    いくら探しても死体さえ見つからなかった。


    そのため、夫人は気が触れてしまった。
    でも、なぜか誰もそれに気づかない。

    もう夫人の美しさは怖いくらい。
    正気の美しさではなかった。


    ・・・・・・知らんぷりして、時が流れた。


    雄大な海を見下ろす崖の上に
    絵のように見える母と子の姿があった。

    美しい夫人が美しい赤ん坊を抱いていた。

    夫人は遠い水平線を見詰め、
    そんな母親を赤ん坊が見上げていた。


    すると不意に、まだ幼い赤ん坊が
    しっかりした言葉を喋り出した。

    「ママ。今度は落とさないでね」

    あの醜い赤ん坊の顔。


    「ええ。心配しなくていいのよ」

    怖いほどに美しい夫人の微笑み。

    「今度は、ママも一緒に落ちてあげるから」
     

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  • 冬の夜の目

    2011/08/15

    怖い話

    さびしい夜道をひとり歩いていました。

    ときおり冷たい風が吹き抜けてゆきます。
    両親の待つ家に急ぎ帰るところでした。

    こんなに時刻が遅くなってしまったので
    きっとひどく父に叱られることでしょう。

    もう子どもでもないのに
    いまだに私は父が怖いのです。


    ふと不安になり、
    あたりを見まわしました。

    誰かに見られているような気がしたのです。


    見上げると
    大きな目が光っていました。

    でも、なんということはありません。
    木の枝の間から満月が覗いていたのです。


    それにしても人の目にそっくりでした。

    その目がまばたきをします。

    私が歩くと視点の位置が変わるので、
    木の枝のまぶたが動くように見えるのです。


    それは花も葉もない冬の桜の木でした。

     
    私は立ち止まり、しばらく
    その枝越しの満月を見上げ続けました。

    本当に目としか見えないのでした。


    だんだん私は腹が立ってきました。

    そして、こんなふうに叫んだのです。

    「そんないやらしい目で私を見ないで!」


    突然、その目がつぶれてしまいました。

    カラスが飛び立って
    枝の形の邪魔をしたのです。

    あるいは、その鳥はフクロウだったかもしれません。


    すぐに私は家まで走って帰りました。


    玄関に入ると
    そこに父が立っていました。

    「・・・・・・遅くなってごめんなさい」

    いつものように私は謝りました。


    けれど、今夜の父は
    いつものように私を叱ろうとはしませんでした。

    ただ黙って
    片目でじっと私を見るのです。


    そして、なぜか今夜の父は
    不自然に片目を手で押さえているのでした。
     

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  • 明日になれば

    2011/08/13

    切ない話

     
    「明日は、なにして遊ぼうかな」

    天井を見上げたまま僕がそう呟くと、
    お父さんが水をさすのだった。

    「いくら待っても、明日は来ないぞ」

    寝耳に水とはこのことか。


    僕は上半身を起こす。

    「どうして?」
    「どうしてもさ」

    お父さんは背中を向ける。
    僕は途方に暮れる。


    「あのね、どうも明日が壊れちゃったらしいのよ」

    お母さんが小声で教えてくれた。

    「うそだ!」
    「夜中なんだから、大きな声ださないで」

    「でも、うそだ」
    「本当なのよ」


    僕は頭を枕に戻して、また天井を見上げる。

    大人の言うことなんか信用できない。
    明日が来ないはずあるもんか。


    だって、ほら。

    僕の家の天井はとても高くて、
    あんなにたくさん星がまたたいているんだから。
     

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  • ヘビの論理学

    2011/08/11

    論 説

    AがBよりも強く、
    BがCよりも強いなら

    一般にAはCより強いとされる。


    だが、成立しない場合がある。

    たとえば、ジャンケン。

    グーがチョキに勝ち、
    チョキがパーに勝ち、

    なのにグーはパーに負けてしまう。


    これは、三匹のヘビがいて

    ヘビAがヘビBの尻尾を噛み、
    ヘビBがヘビCの尻尾を噛み、
    ヘビCがヘビAの尻尾を噛む、

    という三つ巴の関係である。

    つまり、順番の列がまっすぐでなく、
    曲がり、連結し、環状になっている。


    このような環状の構造を持つ世界では

    まっすぐな構造を持つ世界での常識が
    ほとんど通用しなくなる。


    もし、陸上競技場のトラックで
    ウサギとカメが競走したら、

    ウサギがカメをいくら追い越しても

    ウサギの前にいるのは
    いつもカメである。


    また、環状の構造を持つ論理では
    真でありかつ偽である命題が成立する。

    つまり、矛盾が許されてしまう。


    完全な矛が存在する。
    その矛は、とにかくなんでも貫く。

    完全な盾も存在する。
    その盾は、とにかくなんでも弾く。

    そして、もし矛と盾が衝突すれば

    矛は盾を貫き、
    盾は矛を弾くのである。

    互いの尻尾を噛み合う二匹のヘビのように。


    なお、矛盾しない矛盾の正体は
    自分の尻尾を噛む一匹のヘビである。
     

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  • 寝物語

    2011/08/10

    怖い話

    うん、一緒に寝ようよ。

    ううん、なんでもないんだ。
    ただ寝ながら話をしたいだけなんだ。

    ひとりで寝るのが怖いわけじゃないよ。

    小さい頃はそういうこともあったけどね。
    もう平気さ。子どもじゃないんだから。

    まあ、あんまり大人でもないけどね。

    返事したくなければ黙ってていいよ。
    眠くなったら眠ってかまわないからね。

    そう、いい子だね。


    昔、ある国にね、王様とお姫様がいたんだ。

    王様は立派な人で、お姫様は美しかった。
    少なくとも国民はそう信じていた。

    でも本当は違っていたんだ。

    王様はじつにくだらない人物で、
    お姫様はじつに醜い女の子だった。

    王様もお姫様も国民を騙していたんだね。

    で、ある日のこと。
    お姫様を見て、王様がしゃっくりをした。

    化粧をしてなかったんだね、お姫様。

    王様のしゃっくりが止まらないので、
    お姫様は笑い出してしまった。

    醜い顔がますます醜くなって、
    そのままいつまでも笑い続けた。

    しゃっくりをしながらも王様は怒ったね。
    そして、お姫様を殺してしまったんだ。

    やっと笑い声もしゃっくりも止まった。

    まったくとんでもないことだよね。
    国民が黙っているはずがない。

    だけど、王様はまたもや国民を騙したんだ。

    お姫様は生きている。
    死んではいない。

    ただ眠っているだけなんだ、と。

    なるほど、お姫様は眠っているみたいだ。
    王様と一緒に眠っている。

    まるで死んだように・・・・・・


    おや、もう眠ってしまったのかい。

    ねえ、お姫様。
     

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  • 恋の痛み

    2011/08/09

    ひどい話

    ニッコリ笑って
    彼女が僕の胸を刺した。

    まさに悩殺的。
    切っ先が心臓まで届いた。


    「な、なぜ?」
    「何故って聞くの?」

    僕は必死にうなずく。


    「恋はね」
    彼女、ナイフをねじりながら

    「殺すか、殺されるかよ」


    ・・・・し、知らなかった。
     

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  • ネズミ少女

    2011/08/08

    愉快な話

     
    とても信じてもらえないだろうけど、
    僕の妹はネズミに育てられたネズミ少女だ。


    生まれてすぐ、妹はネズミにさらわれたのだ。

    屋根裏に運ばれて、そこで大きくなった。
    ちょうど僕の部屋の真上あたり。

    そんなこと、僕、全然知らなかった。
    大きなネズミがいるんだとばかり思ってた。


    それは、ある朝のことだった。
    ネズミ捕りに少女が挟まっていたのだ。

    「チュー、チュー、チュー!」

    ネズミそっくりの声で鳴くのだった。


    父も母も、僕の妹に違いないと断言した。
    なぜなら少女の顔が僕の顔にそっくりだったから。

    「おまえ、僕の妹なんだってさ」
    「チュー」

    やはり人間の言葉は話せないのだった。


    妹に服を着せておくだけでも大変だった。
    無理に着せても、すぐに破ってしまうから。

    ネズミ色の服なら、どうにか我慢してくれたけど。


    なんでもかじる癖を直すのも苦労した。
    家族全員、生傷だらけになったものだ。

    立って歩かせるのにも時間がかかった。
    食べ物を天井から吊り下げたりしたっけ。


    でも、妹は確実に人間らしくなってきている。
    少しずつだけど、でも本当に嬉しい。


    最近、髪飾りなんかするようになった。

    「なんか、女の子らしくなってきたよ」
    「チュウ?」

    まだ猫を見ると逃げ出してしまうけど。


    おや、その妹がやってきた。
    人間らしく微笑んでる。

    おやすみのキスの時間だ。

    「チュッ!」


    まだちょっと、ドキドキする。
     

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  • 恋人の溜息

     
    エレクトロニクスの進歩はすさまじい。

    なんと最新式の電子秤は
    微妙な感情の重さまで量れるという。


    「おれたち、別れる時期を逃しちゃったな」

    いやがるようなことばかり言って、
    恋人から溜息を吐き出させることに成功した。


    出たばかりのそれを
    さっと専用のポリ袋に入れて、

    その口をくるっと結ぶ。


    そして、そのまま

    その恋人の溜息なるものを
    電子秤にかけてみた。


    表示は「35.7g」



    う〜ん、微妙。
     

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