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  • 秘密の隠れ家

    2014/09/18

    思い出

    雑木林を抜けると、広場があった。

    近所の子どもたちの遊び場だった。
    寺の裏山なので、墓地から続く道もあった。

    この広場の端に家を建てた。

    丸太や枯れ枝で組んだ掘っ立て小屋だった。
    ささやかな秘密の隠れ家なのであった。

    あの夏の日、にわか雨が降り出した。

    「えらいわ。ぜんぜん雨水がもらない」
    同じ学校の女の子だった。

    「うん。いっぱい葉っぱ、重ねたからね」
    地面をたたく雨音が拍手のようだった。

    「ほら、見て。あれ」
    「なに?」

    ヘビであった。
    黒い大蛇が這っていた。

    大粒の雨に濡れ、ぬらぬら光っていた。

    目の前の地面をゆっくりと横切ってゆく。
    こちらなんか見向きもしない。

    「立派ね。すごいわ」

    なにも言えなかった。
    その尻尾が草かげに隠れてしまうまで。

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  • 懐かしき日々

    2014/06/20

    思い出

    土を掘り 種を植え 
    水をやり 雑草を抜き 

    やがて芽が出て 
    葉をつけて 

    ついに 
    いくつか花が咲いた。


    けれど 
    もはや根は拡がらず 

    ささやかな夢は 
    ついに実ることなく 

    うなだれ しぼみ 力尽き 

    ひっそり 
    ひっそりと 

    枯れてしまった。


    なのに 
    その苦いはずの記憶は 

    なぜか 
    懐かしい思い出として 

    今 ここにある。

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  • 卒業

    2014/06/15

    思い出

    高校の卒業式は 

    受験のため 
    出席できなかった。

    思い出の絵巻の中に 

    そこだけ 
    ポッカリ穴があいている。


    それだから私には 
    高校を卒業した実感がない。

    届けてもらった卒業証書も 

    いつの間にか 
    なくしてしまった。

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  • 手の痛み

    2013/06/15

    思い出

    保母さんの弾くオルガンの音が聞こえる。

    幼い僕たちが小さな手と手をつないで
    輪を作ってお遊戯をしている。

    僕のすぐ隣はひとつ年長の女の子。
    突然、その子とつないだ手に痛みが走る。

    僕の手のひらに、彼女が爪を立てている。
    幼いながらもすごい力。

    驚いて横を見る。
    その子の顔には憎しみが込められている。

    わけがわからない。
    憎まれる理由なんか思い浮かばない。

    ほとんど会話したことさえないのだから。


    そして、大人になった今でも謎のままだ。


    ふと思い出すたびに考えてしまう。

    彼女、僕のことが好きだったのでは?
    などと自惚れてみたりもする。

    案外、ぼんやりしていた僕が気づかないで
    彼女の足を踏んだだけかもしれないけど。
     

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  • 煙草の幻覚

    2013/05/31

    思い出

    若い頃、煙草を吸いすぎて気持ち悪くなり、

    目を閉じて項垂れていたら
    幻聴が始まった。


    遠いざわめきのようなかすかなノイズが
    次第に近く大きくなり、

    はっきり言葉にならないものの
    大勢に囲まれて罵倒されているような声になる。


    無理に言葉にすれば、こんな感じ。

    「・・・・この馬鹿、なにやってんだ、恥知らず、
     うすのろ、死ね、死んじまえ、餓鬼が、

     嘘吐き、やめろ、キチガイ、クズ、ウジ虫、
     能なし、ろくでなし、くたばれ、ゴミ、糞、

     あっち行け、黙れ、うるさい・・・・」

    なにも悪い事してないのに
    たまらんなあ、と思う。


    次に、体が変形する幻視が始まった。

    暗闇にいたので実際に見えたわけでなく、
    ただそのように感じられたのだ。

    自分の両脚が骨抜きにされて
    ヘビのように曲がって伸びてゆき、

    遠い風景の彼方にある何か
    はっきり目に見えるものではないが

    トンネルの穴状のものの中に入ってゆく。

    なんとも不気味な感じがして
    いやだなあ、と思う。


    それだけの話。

    あれから随分経つが
    現在、喫煙は完全にやめている。
     

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  • オレンジ色

    2013/03/24

    思い出

    今日もまた暑くなりそうだった。

    少年の頃、夏休みの昼下がり。
    冷房のない蒸し暑い部屋。

    友だちなんかいなくて
    床に寝転んで天井を見上げていた。

    暑くてだるくてなにもする気がしない。

    汗が出てハエがいてセミがうるさくて
    とても昼寝なんかできそうにない。

    我慢するだけのくだらない時間が
    ダラダラ過ぎてゆく。

    ぼんやりした頭で思うのだった。

    (みんな、今、なにしてるんだろう?)

    仲闇と一緒に楽しく海水浴してる?
    避暑地でのんびり読書してる?
    暑さ忘れてデートしてる?

    きっと素晴らしい経験をしているに違いない。

    なんだか焦る。
    どんどん経験の差が拡がってしまう。

    あわてて目を閉じる。
    とにかく想像力だけは自信ある。

    実際の経験はできないとしても
    より素晴らしい想像の経験をしてやる。

    あんなことやこんなこと、それから
    とんでもないことやいけないこと・・・・


    で、どんな経験をしたのかというと

    あの昼下がりと同じように目を閉じて
    今でもはっきりと思い浮かぷのは

    まぷたの裏が鮮やかなオレンジ色だった
    ということ。
     

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  • 泣かないで

    2013/01/24

    思い出

    高校二年の授業中、
    校内放送があって名前を呼ばれた。

    (なんだろう?)

    職員室へ行き、
    受話器を受け取り、

    父親の事故死を告げられた。


    階段裏の掃除道具なんか置く
    狭くて暗い場所で

    しゃがんで
    泣いた記憶がある。


    父親が死んだことが悲しくて泣いたのは
    二日くらいあとのこと。

    その時は
    母親がかわいそうで泣いた。


    早退して

    高校から近くの市立病院まで
    走って行く途中、

    尿意がして
    我慢できなくなった。


    公衆トイレに駆け込み、
    情けない気持ちで小便しながら

    (現実はドラマみたいにならない)


    そう思った。
     

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  • 下宿の思い出

    2012/12/11

    思い出

    田舎の高校を卒業して、上京。
    江戸川区の下宿で独り暮らしを始めた。


    大家である老夫婦が一階の半分に住み、
    一階のもう半分と二階に下宿人が住んでいた。

    便所と流しは共同の四畳半で、家賃は月9,000円。

    風が吹くと揺れるような古い木造のボロ下宿だった。


    閉めた窓から風が入り、
    光は壁と柱の隙間から廊下に漏れた。

    ゴルフボールで「パットの練習」とかすると
    いつも同じ場所に戻ってきた。

    家全体が歪んでいたのだ。


    母親と娘が二部屋に分かれて住んでいたが

    そのうち娘が妊娠したそうで
    やがて出て行った。

    中国の女子留学生が隣の部屋に入り、
    中国の恋人の写真とか見せてくれたが

    そのうち東大生の恋人ができて
    やはり出て行った。

    そんなふうに
    色々な下宿人が出入りしたのだった。


    毎月、家賃を払いに行くと

    「おじさん」は必ず晩酌の相手をさせ、
    遠い昔の思い出を語った。

    「おばさん」は手料理を食べさせてくれた。

    似合いの老夫婦だった。

    人が良すぎて、豊田商事の詐欺に引っかかり、
    600万円騙し取られたりした。


    風呂は近所の銭湯で、冬は冷えた。

    夏は暑く、引き戸も窓も開けたまま裸で寝た。

    どうせ安いからと、もうひとつ部屋を借り、
    ハーフサイズのビリヤード台を置いたりもした。


    アルバイトをして、大学を中退して
    就職して、転職して、結局11年間も住んだ。

    もう「おじさん」も「おばさん」も亡くなったはず。
    あの下宿も取り壊されたはずだ。


    若い人たちに笑われそうな、昔話。

    あの下宿も、もう思い出の中にしか存在しない。
     

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    • Tome館長

      2013/10/08 20:14

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/10/08 13:05

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 雪国の思い出

    2012/12/05

    思い出

    生まれも育ちも雪国なので 
    雪にまつわる思い出など。


    日本そして世界有数の豪雪地帯なので 
    冬になると積もった雪で電線をまたげた。

    ブルドーザーが道を作ると 
    自分の身長の三倍くらいの高さの雪の壁ができた。

    その壁に穴を開けて 
    玄関までトンネルを掘ったりした。

    二階から出入りする家もあった。


    雪は、子どもにとって遊びの宝庫だった。

    「ウルトラマーン、ジュワッキ!」と叫びながら 
    二階の屋根から雪の小山になった庭へ 
    飛び込み前転をして遊んだ。

    保育所の庭にモグラの通り道のような 
    雪のトンネルの迷路を掘ったツワモノもいた。

    なにかあれば、すぐ雪合戦になった。


    キンコロも作った。

    踏みつけて硬くした雪面に雪玉を靴底で転がし 
    「キンコロ」という感じに硬くしたもの。

    これを雪合戦に使ったら死ぬかもしれないので 

    互いのキンコロをぶつけ合って 
    どちらのキンコロが割れるかを競った。


    雪の落とし穴も作った。

    雪道の途中にシャベルで穴を掘り 
    掘った雪の上部を板状にしたもので蓋をして
    その跡を軽く雪で隠したもの。

    それで誰かがネンザした 
    という話は聞かない。


    雪の彫刻も作った。

    スポーツカーの形にして 
    座席に乗ってドライブ気分。

    部活の気に入らない先輩の形にして 
    蹴り倒して鬱憤を晴らしたりもした。


    学校では、同級生たちに手足をつかまれ 
    二階の教室から雪の裏庭に落とされた。

    逆に、スカート制服の女子を 
    仲間と一緒に落としたこともある。

    いじめではなく、純粋に遊びなので 
    雪を払いながら一階の職員室の窓から中に入り 
    「すみません。落とされました」と言えば 
    教師たちも笑って許してくれた。


    シミワタリも忘れられない。

    普段ならカンジキでも履かなければ歩けないのに 
    日中の暖かさで解けかかった雪面が 
    夜間の放射冷却で凍り 

    朝になると踏んでもへこまないくらいに硬くなり 
    歩いてどこまでも渡れるようになるのである。

    タイヤにチェーンを巻いたオートバイで 
    この雪原の荒野を飛ばした奴がいる 
    という噂も聞いた。


    当然、スキーやソリも楽しんだ。

    近所は山だらけなので 
    長靴に革ベルトの木製スキーと竹製ストックで 
    リフトはないが、繰り返し昇り降りしたものだ。

    ジャンプして回転して着地するような 
    尊敬すべき友人もいた。


    あまり明るくない灰色の低い空から 
    次から次へ舞い降りてくる綿雪の群を 
    ぼんやり眺めていると

    これは天から大地に雪が降りてくるのではなく 

    雪に覆われた大地が天に向かって 
    ゆっくり昇っているところなのだ 

    という錯覚に襲われたりする。


    身長ほどの氷柱、道なき道の登校、吹雪の下校。
    スキーの授業、雪下ろしのアルバイト。

    ・・・・あれこれ思い出せば、キリがない。

    まるで夢のような世界だった 
    と今さら気づく。


    地球温暖化のためか 
    上京した頃から雪が少なくなった。

    正月に帰省しても 
    屋根の雪下ろしや家の前の雪掻きなど 
    ほとんど手伝う必要がないくらい。


    ところが、ここ数年、中越地震の後くらいから 
    また大雪の豪雪地帯に戻ってしまった。

    太陽黒点の影響か、あるいは 
    氷河期に入る前兆なのかもしれない。
     

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  • カワニナの研究

    2012/10/24

    思い出

    中学時代、科学部に所属していた。

    研究対象は伝統的にカワニナと決まっていた。

    カワニナは小川に生息する巻貝で
    ホタルの幼虫の餌になる。

    当時、まだホタルは普通に見られた。


    川辺にゴザを敷き、毛布や飲食物を用意して
    キャンプみたいに「24時間観察」などしたものだ。

    目印を付けた複数のカワニナの動きを
    単位時間ごとに24時間連続チェックするのである。


    三年生の時、
    部員はたった二人だけになってしまった。

    とりあえず部長だが、リーダーシップはなく、
    放課後の理科室で遊んでばかりいた。

    しかし、活動実績は残さなければならない。
    夏休み明けに研究発表をしなければ・・・・・・


    夏休みに入ってからあわてて
    研究テーマを探し始めた。

    そして、あろうことか(中学生のくせに)
    カワニナの精子の研究をすることになった。


    かわいそうだが、カワニナの殻はカナヅチで割る。
    (中学時代、千匹は殺したはず)

    メスの保育嚢(のう)の近くに貯精嚢があり、
    これはオスの精子を一時的に貯めておく器官。

    その中身を顕微鏡で見ると
    カワニナの精子の姿が見える。

    で、この精子が同じ形をしていない。

    「ダイコン型」「ネギ型」「タマネギ型」「イカ型」
    適当に命名したが、大きく4種類に分類できる。

    尻尾の本数も一定していない。

    単体の動物の精子が数種類あるという話は
    (じつはあるのだが)聞いたことがなかった。


    どうなっているのだ?


    途中を省略して、この研究発表が
    なぜか県知事賞を受賞してしまった。

    結局、この伝統あるカワニナの研究で母校の科学部は
    県知事賞を前後合わせて三度受賞することになる。


    少子化の影響により母校が廃校になる年、

    これまでの部活動の集大成として研究成果をまとめ、
    新聞社主催の全国科学研究発表コンクールに応募。

    最優秀賞を受賞した、と聞いた。

    勢いで、カワニナの本まで記念出版された。


    現在、カワニナの姿を故郷で見つけることは難しい。

    田中角栄の日本列島改造論ブームで
    必要もないような道路工事があちこちで始まり、

    カワニナは川に棲めなくなったのだ。

    ホタルの光も、二十年以上前の墓参りの時、
    弱々しく一匹だけ光るのを見たきり。


    そして、母校の廃校跡地には
    中越地震の時、被災者用仮設住宅が建った。
     

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