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    Works 3,356
  • ボタンの掛け違い

    まず最初にボタンを掛け違えてしまった。

     

    「そこじゃないってば」

     

    さらにボタンを掛ける途中でもボタンを掛け違えてしまった。

     

    「違うってば。ここよ」

     

    だいたい、もともとボタンの数とボタン穴の数が等しくなかった。

     

    「あんた、そっちの趣味があるの?」

     

    しかもその上、ボタン穴に入れる前にボタンが取れてしまった。

     

    「もう。だらしないわね」

     

    呆れたことに、ボタンが大きいかボタン穴が小さいかして 

    ボタンがボタン穴に入らなことすらあった。

     

    「だから、そこは無理だってば」

     

    それどころか逆に、ボタンが小さいかボタン穴が大きいかして 

    ボタンがボタン穴からはずれる場合もあった。

     

    「まったく。あんたって最低ね」

     

    そもそも、どうやら着る服を間違えていたようだ。

     

    「もう私に近寄らないで」

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  • 奇妙な体位

    その体位はとても奇妙なので 

    普通の人には思い浮かびもしない。

     

    また、仮に想像できたとしても 

    普通の人にはおそらく実行できまい。

     

    その体位がどれくらい奇妙かと言うと 

    まず言葉では説明できないくらいである。

     

    基本的に無理があるのだろう。

    色々と込み入った問題も起こる。

     

    とにかくあまりに奇妙な体位であるがため 

    なかなか尋常ならざる快感を得られるそうである。

     

    だが、あまりに快感が強いためか、無理を強いるためか 

    心身ともに深刻な後遺症が残る場合が多い。

     

    その実行困難なる体位を繰り返し試みようとして 

    体調を崩してしまったり、事故や事件なども発生しやすい。

     

    命を落とした人も少なくない。

     

    たまたま目撃した部外者が失神し 

    その後うつ病を発症したという事例もある。

     

     

    さて、これより筆者もアマチュア研究家として 

    その奇妙な体位を実地に試みてみるつもりである。 

     

    ただし、その結果を報告できるかどうか 

    じつのところ心もとない。

     

    これが遺書にならぬことを願うばかりである。

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  • 巨乳の惑星

    進化と呼ぶべきか、あるいは退化なのか 

    珍しいヒト型知的生命体が生息する惑星がある。

     

    女性ばかりか男性まで乳房が大きく、つまり 

    いわゆる巨乳の、しかも巨乳ばかりの惑星なのである。

     

    もしもこの星へ、胸部発育不全な、つまり 

    いわゆる貧乳の、ごく普通の地球人が訪れてご覧なさい。

     

    身軽で動きやすい。

    肩がこらない。安眠できる。

     

    羨ましがられること請け合いである。

     

    さらに、希少で珍しがられるため、性的な興味、つまり 

    おおいにモテることも確実である。

     

    さて、諸君。

    こんな巨乳の惑星は、いかがかな。

     

    しかしながら、諸君。

    こんな妄想で胸をふくらませてどうする。

     

     

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  • 小人の群

    小人の群に襲われた。

    逃げても逃げても追い迫る。
    からだ小さいくせに足はめっぽう速い。

    ゾロゾロゾロゾロ、無数の足。
    ペタペタペタペタ、無数の手。
    ニヤニヤニヤニヤ、無数の顔。

    蹴散らしても蹴散らしても、キリがない。
    踏みつぶしても踏みつぶしても、くたびれ損。

    ついに靴にしがみつかれて倒された。

    手も足も腰も肩も脇腹も、首も耳も髪の毛も 
    みんな小人の群に押さえられ 

    「助けて!」と叫んだら 
    上下の唇、塞がれた。

    さらに両目も両耳も塞がれ、服は破られ 
    全身つねられたり撫でまわされたり、され放題。

    無数の小人の無数の指がムカデのように 
    うごうご、めくめく。

    いやらしい。
    舌まで使ってる。

    たとえば、アリに群がられた角砂糖。
    細かく砕け、とけてゆく。

    くり返しくり返し 
    いくどもいくどもいくども殺される。

    やがて 
    塞がれた耳の穴の中・・・・ 

    「さて、もういいかな」
    ささやくようにひとりの小人がつぶやいた。

     

     

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  • 身体検査の日

    今日は学校で身体検査がある。

    身長や体重はいい。
    胸囲や座高もかまわない。

    血圧もいいだろう。
    視力や聴力も大事だ。

    検尿も血液検査も仕方ない。

    しかし、あれは困る。
    あれは恥ずかしい。


    個室で下着も脱がされて検査される。
    つまり、裸にされるわけだ。

    男子の検査は女医が担当する。
    しかも、若くて美人だ。

    なぜかそういうことになっている。
    その方が検査にとって好都合らしい。

    担任の先生も詳しくは教えてくれなかった。


    さて、とうとう次は僕の番だ。

    個室のドアの前で待っていると 
    先に入室した同級生のうめき声が聞こえる。

    あるいは泣き声かもしれない。
    しかし、あいつが泣くとはとても信じられない。

    たまに女医の笑い声まで聞こえる。
    いかにも楽しそうだ。


    いったいなにをやっているのだろう。

    いやいや。
    なにを検査しているのだろう。

     

     

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  • あえがせたくて

    ここをこうして こうやって 

     

    それから おっと 

    こんなことまでやらかして 

     

    さらには 

     

    あれ それはいくらなんでもごむたいな 

    みたいなことまでやってしまって 

     

    いやいや まだまだ 

    このていどではすむまいぞ 

     

    とかいいながら 

     

    あんなところを あんなふうにして 

    あまつさえ あんなものまでもちだして 

     

    とんでもない 

    あきれはてたるしょぎょうのかずかず 

     

    なになに まだまだ これからよ 

    ほれ そのしょうこに 

     

    みよ これでもしらをきるか 

    どうじゃ どうじゃ かんねんせよ 

     

    なりませぬ なりませぬ 

    ごしょうでございます ひどすぎます 

     

    いくらがたらこでも あんまりで 

    もはや にんげんのすることではあるまじろ 

     

    やけのやんぱち ばんちゃもでばな 

    しじゅはっても えいけいびい 

     

    さきがしれる たかがしれる

    おさともしれる しりわれる

     

    これこれ なにをなさっておられまするか 

    あなた ごぞんじでござりまするか 

     

    なんと するめがいかでした 

     

    むくつけきこと せんもなし 

    これまでか

     

     

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  • 恥ずかしがり屋

    ええと あのあの 
    すみません 

    じつは その あたし 
    恥ずかしがり屋 なんです 

    ええ そうなんです 

    とっても とっても 
    恥ずかしがり屋 なんです 


    あら いやだわ 
    恥ずかしい 

    困ってしまうわ 
    そんなに見ないで 

    ますます 恥ずかしく なっちゃうわ 


    あたしって 
    いつでも どこでも なんにでも 

    すっごく すっごく 
    恥ずかしいんです 

    箸が転んでも 恥ずかしいんです 
    バターを塗っても 恥ずかしいんです 

    外出なんか できないわ 

    だって ほら 
    みんなに見られて しまうもの 


    だから だから 
    お金くれなきゃ だめなんです 

    もしも あなた 
    あたしと一緒に いたいなら 

    だって ほら 
    あたしは 恥ずかしがり屋 

    恥ずかしがるのが あたしの商売 


    きゃっ 言っちゃった 
    ああ 恥ずかしい 

    ただでさえ 恥ずかしいのに 
    恥ずかしい顔から 火が出るわ 


    でもね でもね 
    あたしは絶対 お買い得 

    どんなに どんなに 
    どんなに 恥ずかしくったって 

    あなたのためなら 
    我慢する 

    きゃっ 

     

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  • つぼみ

    こんな木、見たことない。
    すてきな木だけど、誰も知らない。

    きっと花が咲いたら、わかるはず。


    やがて、つぼみがついた。
    みんなの期待もふくらんだ。

    ある朝、ついに花が咲いた。

    「だめよ、だめだめ。
     見てはいけません!」

    母親は我が子の目を両手でおおった。


    こんな花、見たことある。
    見たことあるけど、見せられない。

    なかなかすてきな花なのに。

     

     

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  • 図書室

    乱れた順番で歴史が並んでいる。
    地理における国境はあいまいだ。

    科学技術はあふれ、哲学と宗教はほこりに埋もれ 
    文学は陳腐化し、政治は硬直化している。

    とある公立高校の
    あいもかわらぬ図書室の風景。


    本棚のかげに女子生徒がひとり。

    その真剣なまなざし。
    その無防備な横顔。

    同級生の男子生徒が声をかける。
    「なに読んでるの?」

    驚く少女。

    頬を赤らめ、とまどいの表情。
    「たいした本じゃないのよ」

    少年は立ちつくす。

    あわてて少女が背中に隠した本の 
    その書名を読んでしまったから。

     

     

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  • ダメよ。

    あら、ダメよ。
    まだまだ我慢して。

    あせっちゃ、ダメ。


    まあ、いやな目。
    そんな顔、しないの。

    ほんとに、もう。


    ねえ、いい? 
    よーく考えてよ。

    モノゴトには、裏と表があるの。

    みんな、そうよ。
    聞こえる声が、いつもホンネとは限らないわ。

    そりゃ、信じるのは簡単よ。
    でも、疑うのも簡単。


    ううん。
    そうゆーのじゃなくて。

    踊ってるつもりで、踊らされてるような。


    ああ、もう。
    うまく言えないな。

    とにかく、もっと想いをめぐらせて欲しいの。


    ああ、ダメ。
    ダメよ。

    ホントにダメだったら!

    Comment (2)

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    • Tome館長

      2015/01/13 10:54

      「koebu」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2015/01/13 10:53

      「ゆっくり生きる」はるさんが動画にしてくださいました!

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