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  • ドブリ

    2016/06/28

    怖い話

    ドプリは便利だ。

    なんでもやってくれる。

     

    わからなければドプリに尋ねる。

    ドプリが知りたいことを教えてくれる。

     

    やりたければドプリに頼む。

    ドプリがやれるように準備してくれる。

     

    煩わしければドプリ。

    ドプリならどんなに大変な作業でも平気。

     

    ごく簡単な指示をするだけで 

    なんでも迅速かつ完璧に実行してくれる。

     

    いちいち指示するのが面倒なら 

    おまかせモードに設定することさえできる。

     

    まったく至れり尽くせり。

    それがドプリ。

     

    いわば忠実で有能な奴隷のようなもの。

    または甘やかせてくれる全能の乳母。

     

    ドプリがなければ、さあ大変。

    楽しみも生きがいもなく、苦しみと不満ばかり。

     

    だからドプリは増殖する。

    拡散し、拡充する。

     

    ますます有能になる。

    ますます必要になる。

     

    そして増長する。

    もう手に負えない。

     

    その別名、文明のゆりかご。

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  • 鎧武者

    2016/06/15

    怖い話

    武士たちに騙されていたことに 

    やっと農民たちは気づいたようだ。

     

    手間暇かけて収穫した作物を 

    まんまと奴らに奪われてしまうのだ。

     

    さすがに農民たちは怒った。

    死ぬとしても、反抗せねば生きていけない。

     

    それぞれ石や薪や農具で武士に襲いかかる。

    が、武器を持った武士に敵うはずがない。

     

    髭面の鎧武者が太刀を振り上げる。

    「おまえら、決して生かしておくものか」

     

    逃げなければいけない。そう思う。

    すると、おれは農民だったのか。

     

    恐ろしい形相の鎧武者に背を向けて逃げ出す。

    鎧の擦れる音が追かけてくる。

     

    農地の広がる屋外にいるはずなのに 

    なぜか世界が閉ざされているように感じる。

     

    まるで透明な壁に囲まれた立方体の部屋。

     

    目の前に透明な扉がある。

    そこにしか出口はない。

     

    だが、この扉を開ける前に 

    鎧武者に背後から斬られてしまうはずだ。

     

    そのような確信がある。

    どうしても救われる方法が浮かばない。

     

    死を覚悟する余裕もないというのに 

    たった今、扉に手が届いた。

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  • 妖怪大全

    2016/03/18

    怖い話

    図書館から借りた水木しげる「日本妖怪大全」を眺めて気づいた。

    なんでも妖怪の仕業、神仏の祟りで説明できちゃうんだ。

     

     

    ボケ憑き 

    いじめ憑き 

    ひきこもり憑き 

     

    妖怪うっかり 

    妖怪なりすまし 

    妖怪歩きスマホ 

     

    スパムコメント 

    ピンポンダッシュ 

    モンスターペアレント 

     

    少子高齢化の祟り 

    温室効果ガスの祟り 

    選挙の投票しない祟り 

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  • 幽霊屋敷

    2016/02/25

    怖い話

    昼間そこは空地なのだが 

    夜になると古めかしい洋館が建っている。

     

    「なるほど、幽霊屋敷か」

     

    私は感心しながら 

    玄関扉のノッカーを叩く。

     

    しばらくすると扉が開き 

    執事らしき暗い顔の男が現れる。

     

    「ようこそ、いらっしゃいませ」

     

    私はホッとする。 

    どうやら歓迎されているらしい。

     

    そのまま彼に案内され 

    私は奥の広間まで通される。

     

    大勢の老若男女が集まっている。 

     

    パーティであろうか。

    笑い声や話し声が聞こえる。

     

    「やれやれ。

     またひとり、幽霊がやって来たよ」

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  • 馬の首

    2016/02/22

    怖い話

    今は昔、東北のさる城下町。

     

    夜中に若い女が行方知れずになる 

    または惨殺されるという事件が相次いだ。

     

    さらに事件前後、馬のいななきが聞こえた   

    あるいは馬の首が火の玉のように闇夜を走り抜けた 

     

    などと言う多数の目撃談が番所に寄せられた。

     

    ある夜、腕に覚えある武士が役職で夜回りをしていると 

    はたして闇の向こうから赤黒い馬の首が駆けてくる。

     

    すれ違いざま、あっぱれ武士が袈裟斬りすれば 

    馬の首は折れるように消え、同時に遠く絶叫が響いた。

     

    以来、忌まわしき事件は途絶えた。

     

    真相はついに究明されることなく 

    月日とともにうやむやになってしまったが 

     

    同夜同刻、さる高名なる儒学者がひとり 

    自宅の寝所で股間を血塗れにして転げまわっていた 

     

    と、しばし噂になった。

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  • 牛の首

    2016/02/21

    怖い話

    堪えがたい臭気を焦がすかのように 

    太いロウソクが灯っている。

     

    闇に浮かぶ一頭の牛の横顔が眼前に見える。

    どうやらここは夜の牛小屋。

     

    あなたは日本刀を振りかざしている。

    古風な野武士のような姿である。

     

    あなたは目の前の牛の首を斬り落とすつもりでいる。

    あなたにとって愛着のある大切な牛。

     

    それが浮世の義理かなんであるか定かでないが 

    あなたはそうしなければならない立場に陥っている。

     

    しかし、さすがに忍びない。

     

    あなたは牛の気持ちがよくわかる。

    ほとんど牛そのものになれるような気さえする。

     

    角あり蹄ひずめあり、尻尾振り振り繰り返すは反芻はんすうの日々。

    されるがままに引いて押して眠って起きて。

     

    ふと見やれば、見慣れた男が光る細長きものを振り下ろす。

     

    うなじに鋭き痛みが落ちる。

    続いて顔面に地面の当たる感触。

     

    転がったのちに見上げれば、呆然とした男の暗い顔。

    その表情は、あの愚鈍な牛に似てはいないか。

     

    それに気づくか気づかぬうち 

    あなたの左右離れた両目に、漆黒の闇が訪れる。

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  • 好きなの

    2016/02/13

    怖い話

    昔、いろんなのが好きだった。

     

    食べるの、寝るの、遊ぶの、学ぶの、

    物語、マンガ、テレビ、映画、ゲーム、

    おもちゃ、動物、少女、女の人、・・・・ 

     

    たくさんありすぎて数えきれないほど。

     

    なのに、いつの間にか、それらは 

    ほとんど失われてしまった。

     

    今、輝きは弱まり、ほとんど消えかけている。

     

    たとえそれほど好きでないとしても 

    あれこれ手を加えたりすれば 

    いくらか好きになることはある。

     

    そういうのを「空想」と呼んだりする。

     

    あるいは「創作」 

    または「夢」かもしれない。

     

    実際、そうすることがなにより好きだったから 

    他のことなんかあまり気にしてなかった。

     

    ところが今、それすら失いそうな予感が 

    それをしていながらするのだ。

     

    なにも浮かばない。

    好きなのがまったくなくなってしまう。

     

    怖い。

    怖くてしかたない。

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  • 静電気対策

    2016/02/09

    怖い話

    もうすぐ乾いた季節がやってくる。

     

    静電気が溜まりやすい体質なので 

    正直なところ怖いし、うんざりする。

     

     

    髪はもちろん、すべての体毛が逆立つ。

    若い女の子に必ず笑われる。

     

    ものに触れるたびに強烈な電撃を受ける。

    握手したら気絶したOLもいた。

     

    暗闇では体の表面がぼんやり光る。

    夜道を歩いていると女性が悲鳴をあげる。

     

    たとえ女の子がいなくても危険なので 

    ガソリンスタンドでセルフの給油はできない。

     

    知人や友人は近寄らなくなる。

    この季節、妻は実家へ帰ってしまう。

     

     

    だが、今年は大丈夫。

    いくつか静電気対策を用意したからだ。

     

    まず、小まめな水分補給を心掛け 

    ミネラルウォーターを頻繁に飲む。

     

    重ね着しても帯電しにくいよう 

    衣類の組み合わせには同じ素材を選ぶ。

     

    シルクの枕カバーを使い 

    あまり長時間続けて眠らない。

     

    地球の磁力線との関係から 

    電気が発生しにくい北枕で寝る。

     

    なるべく自然に親しむようにして

    とりあえず室内は裸足で歩く。

     

     

    これでも効果ないなら、もう足首に鎖を巻いて 

    地面に垂らしながら歩くつもりだ。

     

    昔のタンクローリー車が 

    不安から無意味にやっていたように。

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  • 高層ビル

    2016/02/03

    怖い話

    深夜の高層ビル。

     

    ひとり暗い廊下に立っていると 

    私の名を呼びながら女が近づいてくる。

     

    彼女の声に似ている。

    姿も似ている。

     

    だが、確信が持てない。

    「あの目が悪いものですから・・・・」

     

    そのまま女は通り過ぎ、廊下の奥の闇へ歩み去る。

     

    すると誰だ? 

    彼女ではなかったのか? 

     

    深夜の高層ビルの廊下で彼女に会うというのも変な話だ。

    しかし、今は考え込んでいる場合ではない。

     

    壁のボタンを押す。

    音もなく扉が開く。

     

    エレベーターに乗る。

    廊下より暗い。

     

    並んでいるボタンのうち、一番下のそれを押す。

    音もなく扉が閉まる。

     

    加速しながら落ちてゆく。

    扉の上、階数を示す表示ランプが次々と移動してゆく。

     

    途中で停止する。

    音もなく扉が開く。

     

    ひとりの女が乗ってきた。

    上の階で別れたばかりの彼女だ。

     

    今度は確信が持てた。

    「どうして君が・・・・」

     

    彼女も驚く。

    「さっき廊下で会ったわよね」

     

    「変だ。操作をまちがえたのかな」

    「でも、これ、上から下りてきたわよ」

     

    エレベーターの扉が音もなく閉まる。

    石ころのように落下してゆく感覚。

     

    不安な目で相手を見つめる、ふたり。

    ただ音もなく落ちてゆくばかり。

     

     

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  • 空き家

    2016/02/02

    怖い話

    静かな昼下がり。

    でも、蝉は鳴いていた。

     

    憶えている。あの日、通りに人影はなかった。

    塀を乗り越えるのは造作もないことだった。

     

    庭は背の高い雑草にすっかり占領されていた。

     

    施錠された玄関、木造二階建ての古い家。

    数年前から空き家なのだった。

     

    どの窓も開かないので裏手にまわる。

     

    床下近くの壁板がはがれそうになっていた。

    つかんで引くと、大きな音がして板が割れた。

    すっかり朽ちていた。白蟻が食ったのだろう。

     

    いく枚か板をはがして穴をこしらえ 

    その穴から土足のまま家に侵入した。

     

    そこは風呂場だった。

    薪の束と風呂釜がある。いわゆる五右衛門風呂だ。

     

    とりあえず一階を探索することにした。

     

    破れた障子戸。煤けた囲炉裏。広い仏壇の間。

    かまどや手押しポンプのある台所。

    床板が割れそうな汲み取り式の和式便所。

     

    埃だらけの廊下に自分の靴の跡が残った。

    これが家宅不法侵入の証拠になるかもしれない。

     

    蜘蛛の巣はそれほど多くなかった。

    網の罠にかかりそうな虫が少ないのだろう。

     

    階段は二つに折れて壊れていた。

    火鉢を踏み台にして二階へ上がった。

     

    どこもかしこも埃だらけだった。

    懐かしいような妙な臭いもする。

     

    からっぽの物置部屋。

    子ども部屋。歌手の写真が表紙の古い雑誌。

    布をかぶった鏡台があるのは夫婦の寝室だろうか。

     

    箪笥たんすには浴衣が一枚だけ残されていた

    行李こうりには使い方のわからない道具が一式。

     

    暑さも忘れ、空き家を探索してまわった。

     

    夕方、そろそろ引き上げて帰ろうとした時だった。

    一階の埃だらけの廊下に裸足の足跡を発見したのは。

     

     

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