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Tome館長

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  • 鉈(なた)

    2011/07/30

    怖い話

    狭い通路だった。

    両側は頑丈な石の壁。
    人ひとりがやっと通れる幅しかなかった。

    俺の前には人の列が延びている。
    この列は俺の後ろにも延びている。


    後ろにいる者から背中を押される。
    そのため、前にいる者の背中を押してしまう。

    前にいる押された者が、さらに
    その前にいる者の背中を押してしまう。

    これを繰り返して、列は前進するのだ。


    キラキラ光る何かが前方に見えてきた。
    俺は背が高いから、頭越しに見えるのだ。

    通路の先、男がこちら向きに立っていた。

    そいつは鉈を振り上げては次々と
    列の先頭にいる者の首を切っていた。

    天井の照明が、鉈の刃に反射して光るのだ。


    首を切られたものは倒れ、姿を消す。
    すると、通路の列が一歩だけ前進する。

    (どういうことなのだ?
     なぜこいつらは抵抗しないのだ?)


    なにがなんだかわからないまま列は進み、
    とうとう俺は先頭に立つことになった。

    だが、首を切られてはたまらない。

    俺は向かい合った男の手から鉈を奪い、
    それで男の首を切り落とした。


    首をはねられた男は、倒れて姿を消した。

    そこで通路は行き止まりになっていた。
    両側と同じような頑丈な壁だ。


    背後から加えられる力で、俺は
    その行き止まりの壁に押し付けられる。

    ものすごい圧力。
    苦しい。

    このままでは死んでしまう。

    俺は必死にからだをねじる。
    からだの向きを変え、列と対峙する。


    列の先頭の顔が迫ってきた。
    向かい合った俺の胸と腹を押してくる。

    通路の列はどこまでも続いて見える。

    この狭い通路のどこにも逃げ場はない・・・・・・


    叫びながら、俺は鉈を振り上げた。
     

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  • 落とし穴

    2011/07/29

    怖い話

    腰が痛む。
    腕も疲れてきた。

    随分と深く掘ったものだ。
    見上げると、空が丸く小さく見える。


    いやいや。
    まだまだ浅い浅い。

    あの憎い奴を陥れるための穴なのだから。
    穴の深さは、怨みの深さ。

    「待ってろよ。地獄に落としてやる!」

    満身の力を込めてスコップを土に刺した。


    すると、足場が消えた。
    土の底が抜けたのだ。

    ぽっかり開いた穴に落ちてしまった。

    痛いの痛くないの。
    死ぬかと思った。


    「おやおや。また亡者が落ちてきたぞ」

    地の底から唸るような声がした。
    恐ろしい声だった。

    汗が冷え、寒気がしてきた。


    あたりは、この世と思えぬほど真っ暗で、
    まるで地獄にいるような気がしてくるのだった。
     

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  • 人形の館

    2011/07/22

    怖い話

    森の奥で迷子になった。
    すぐに夜の闇に囲まれてしまった。

    森には魔物が棲むという。

    一緒だった弟ともはぐれてしまい、
    ひとりでは心細かった。

    きっと弟も迷っているはず。
    もう魔物に食べられたかもしれない。

    怖かった。
    立ち止まるのが怖かった。


    やがて、闇の向こうに明かりが見えた。

    人家の窓だ。
    すごく嬉しかった。

    それは大きくて立派な館だった。
    玄関らしき扉を見つけた。

    おそるおそるノックしてみた。
    いかめしい音を響かせて扉が開いた。

    驚いてしまった。
    現れたのは弟だったのだ。

    「兄さん。待っていたんだよ」
    弟に案内されて館の中に入った。

    それは異様な光景だった。

    赤い廊下が遠くまでのびている。
    床に敷かれた細長い血の色の絨毯。

    その廊下に人形がずらりと並ぶ。

    どれもこれもよくできていた。
    まるで生きているように見えた。

    「兄さん。人形を数えてみてよ」
    弟が笑った。

    ちょっと怖かった。
    たぶん、廊下の灯りが少ないからだろう。

    人形を数えながら廊下を進む。
    「一、二、三、四、・・・・」

    うしろから弟がついてくる。
    「・・・・、二十五、二十六、二十七、・・・・」

    本当に生きてるような人形たち。
    「・・・・、五十八、五十九、六十、・・・・」

    まだまだ続く暗い廊下。
    「・・・・、七十七、七十八、七十九、・・・・」

    ようやく人形の列が切れた。
    「・・・・、九十九! 人形が九十九もある」

    背後から弟が肩をたたいた。
    「違うよ、兄さん。人形の数は百だよ」

    弟が笑った。
    やっぱり怖かった。

    弟は床の赤い絨毯を指さした。
    最後の人形のすぐ隣。

    それから、その位置に弟は立った。
    そして、笑った。

    「ほらね、兄さん。ちょうど百」
     

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    • Tome館長

      2014/08/03 22:55

      「さとる文庫 2号館」もぐらさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/12/18 00:47

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 2011/07/21

    怖い話

    僕は病気なんだ。
    全身がだるくて、頭も重い。

    悪いことばかり考えているせいだと思う。

    ママが心配して、僕の額に手を当てる。

    「今日は学校を休みなさい。熱があるわ」

    優しいママの声が、どこか遠くで聞こえる。


    学校?
    なんだろう。

    僕は思い出せない。


    ママは黒い服を着て、大きな鎌を振り上げる。
    猫のように笑う口が、耳まで裂けている。

    「頭が重いのなら、切り落としてあげるわ」

    僕は身動きできない。

    鋭い鎌の刃が振り下ろされる。


    そこで目が覚める。
    ・・・・・・夢だったのだ。

    いつの間にか、僕は眠ってしまったらしい。


    ママがドアを開け、僕の部屋に入ってくる。

    白い服。
    大きな鎌なんか持ってない。

    「さあ、飲みなさい。ママが作ったのよ」

    取っ手付きのカップ。
    僕はママを見上げる。

    猫そっくりに笑う。
    でも、口は裂けていない。


    ベッドの上、僕は上体を起こす。
    軽いめまいがする。

    カップを握る指が震えるのはなぜだろう?


    「色は悪いけど、温かくておいしいのよ」

    カップの中の黒い液体。
    歪んで映る顔。

    飲む前に
    そのママの顔を僕は見てしまう。


    猫そっくりの口が裂け始めている。
     

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  • 小さな虫

    2011/07/16

    怖い話

    ピクニックには最高の天気だった。


    僕と妹、ふたりで草原を走りまわった。

    僕が鬼になって妹を追いかけ、
    妹は笑いながら遠くまで逃げた。

    やっと妹を捕まえると、僕はそのまま
    柔らかな草の上に寝転んだ。

    笑うと、呼吸が苦しかった。
    でも、つい笑ってしまうのだった。


    遊び疲れたのか、そのうち
    妹は眠ってしまった。

    こんな広い草原に妹とふたりだけ。
    なんとも不思議な気分だった。

    パパとママはどこへ行ったんだろう?


    しばらくすると、小さな虫が飛んできた。

    小さな虫は眠る妹の顔の上をグルグルまわり、
    それから妹の片耳にとまり、

    そのまま耳の穴の中に入ってしまった。


    僕はびっくりして、目が覚めた。

    いつのまにか、僕も眠っていたらしい。

    すぐ隣で、まだ妹は眠っている。
    草と一緒に妹の髪がゆれている。


    すると、あの虫は夢だったのだろうか?

    わからなかった。
    僕には判断できなかった。


    妹を起こさなければいけない。

    僕がそう思った途端、妹が目を開いた。
    上体を起こして、じっと僕を見る。

    「大丈夫か?」

    僕は心配になった。
    なんだか妹の様子がおかしいのだ。

    やや間があってから、妹は返事をした。

    「大丈夫よ」

    別人ではないか、と僕は思った。
    妹の顔で、妹の声なのに、どこか違う。

    「だって、ただの虫の夢なんだから」

    僕は信じられなかった。

    なぜ、妹は僕の夢を知っているんだ。
    まだ、なにも話してないのに。

    「だって、わたしも同じ夢を見たからよ」

    まただ。
    なぜか妹は知っている。

    僕の心の中を知っている。


    もう僕はわけがわからなくなった。
    ただ妹の顔を見つめるしかなかった。

    違う。いつもと違う。
    どこか奇妙だった。

    「そうかしら?」


    やっと気がついた。
    妹の片方の目が異常だったのだ。

    片目の中の黒い瞳が、小刻みに動きまわっていた。


    それは、まるで小さな虫みたいだった。
     

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  • タクシー

    2011/07/15

    怖い話

     
    深夜、霊園の前で、タクシーの運転手が
    白いワンピースを着た少女を乗せた。

    か細い声で行き先を告げると、
    少女はそれっきり黙ってしまった。


    途中、運転手がバックミラーを覗くと、

    後部座席の少女は前髪を垂らし、
    眠っているのか目を閉じていた。


    しばらくして、少女が目を開くと、
    タクシーは暗い闇の底を走っていた。

    街灯も家の明かりも見えない。


    「どこですか? ここは」

    震える声で少女は尋ねた。

    だが、返事はなかった。

    目の前に運転手の姿はない。


    なぜか運転席が、びっしょり塗れていた。
     

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    • Tome館長

      2012/11/30 14:00

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

    • Tome館長

      2011/12/04 13:53

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 近郊の電車

    2011/07/08

    怖い話

    見知らぬ駅名の見知らぬホームは
    いつもの乗換駅ではなかった。


    (まいったな。帰りが遅れてしまう)

    読書に夢中になり、乗り過ごしてしまったのだ。
    下車したものの、途方に暮れた。

    (いったい、どこまで来てしまったんだ?)

    すでに辺りは暗く、蛍光灯がまぶしい。
    小さな蛾が飛びまわっている。

    (もう、そんな季節か・・・・・・)

    それでも夜風は寒く感じられた。


    (とにかく、逆方向の電車に乗ろう)

    階段を下りて、それから別の階段を上る。

    扉が閉まる寸前の電車に駆け込む。
    行く先を確認する時間はなかった。

    「駆け込み乗車は大変に危険です。
     手負いの獣は怖いので注意しましょう」

    聞き間違いかと思った。
    妙に女っぽい男声の車内放送だった。

    「次は狐の尾。狐の尾です」

    なんとなく聞き覚えある駅名だった。

    (多分、この方向でいいのだろう)

    とりあえず、シートに腰を下ろす。
    乗客は少ない。

    皆、うつむいて眠っている。
    皆、服装が粗末で古めかしい。

    なぜか、向かいの網棚の上に猟銃があった。

    鞄から本を出し、再び読書を始めた。


    やがて、女っぽい車内案内の声。

    「間もなく、南熊瀬に到着します」

    知らない駅名であった。

    (狐の尾は過ぎてしまったのか?)

    やがて扉が開き、扉が閉まる。
    ますます乗客が減ってきた。

    向かいの網棚の上で猟銃が揺れている。
    その下のシートには誰もいない。


    「次は鹿沼。鹿沼です」

    やはり知らない駅名であった。

    (・・・・・・乗る電車を間違えたか?)

    だんだん不安になってきた。

    「鹿沼。鹿沼。鹿沼です」

    やがて扉が開き、扉が閉まる。

    見知らぬ駅名の見知らぬホームは
    いつもの乗換駅ではなかった。


    深い闇の彼方に遠吠えが聞こえる。

    猟銃を握る手に汗がにじんだ。
     

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    • Tome館長

      2013/04/09 10:16

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださった動画、紹介してくださいました!

    • Tome館長

      2012/12/07 15:47

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • おとなしい人

    2011/04/03

    怖い話

     
    普段おとなしい人が怒ると怖い、という。

    怒り慣れてないくせに
    我慢の限界を超えて無理に怒るものだから

    つい羽目をはずしてしまうのだろう。


    うちのお父さんが怒った時は

    ひとりで黙って家を出て
    かなり遠くにある川原まで行って
    大きな石ころをいくつも拾ってきて

    それを転がしも放り投げもせず
    私の部屋の床にそっと並べるように置いて

    裏返った声の変なアクセントで私に言ったのだ。

    「おまえ、いい加減にしろよ」


    うん。確かに怖いものはあった。
     

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  • 幽霊の正体

    2011/03/07

    怖い話

    幽霊を怖がる心理は
    科学技術の発達とは無関係でありまして

    幽霊が見えるから怖いのではなく、
    怖いから幽霊を見てしまうのであります。


    恋愛において

    相手を選ぶから好きになるのではなく、
    好きになるから相手を選ぶように。


    一般に女子は
    恋愛トークと怖い話に目がありません。

    どちらも本能と関係が深く、
    どちらも興奮しやすい。

    また心拍数を上げないようでは
    恋人でも幽霊でもありません。


    とすれば

    牝猫が発情すればするほど牡猫を誘うように
    本人が怖がれば怖がるほど幽霊が現れやすくなる理屈です。

    恋愛感情が実在するように
    幽霊を怖がる感情は実在します。

    そして実感として
    およそ感情ほどにリアルなものは

    この世に存在しません。


    つまり、恐怖心そのものが幽霊なのであります。


    さて、ここまで話を聞かれたあなたは
    いくらか怖くなりましたでしょうか。

    あなたの背後に
    そろそろ幽霊が姿を現す時分ではないかと思われますが

    いかがでしょうか。
     

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  • 帰らぬ人

    2011/02/19

    怖い話

    彼は帰宅恐怖症。

    家に近づくと動悸がする。

    家の明かり見えると冷や汗が出る。

    「あなた、おかえりなさい」

    やさしい妻の笑顔。

    「お父さん、おかえりなさい」

    元気な娘の笑顔。

    「・・・・・・ただいま」

    なのに彼は笑顔を作れない。

    妻と娘を恐れている。

    ふたりとも足がなくて透けている。

    どうして成仏しないのか。

    どうしても彼にはわからない。
     

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