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  • いじめ

    2012/12/18

    切ない話

    「お願いがあるの」
    かわいらしい少女でした。

    「はい。なんでしょうか」

    「いじめて」
    天使のようにほほえむのです。

    「あたしをいじめて欲しいの」

    僕は返事に困りました。
    「それはまた、どうして?」

    「どうしても」
    「どうしても、と言われても」

    「あたし、いじめられたいの」
    「いじめられたいの、と言われても」

    「困ったわ」
    「困りましたね」

    少女は今にも泣きそうです。
    「いじわる!」


    うしろ姿がさびしそうでした。
    すごく悪いことをしてしまったような気がしました。

    「わかりました」
    僕は覚悟を決めました。

    「やってみましょう」

    すると、天使が振り返りました。

    「ほんと?」
    白い翼さえ見えたような気がしました。

    「うれしい!」


    でも、僕には彼女をいじめる自信など
    これっぽっちもないのでした。
     

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    • Tome館長

      2013/10/17 22:36

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/10/17 14:49

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 異国で迷子

    わき道に入ったら迷子になった。

    近道のつもりが遠まわりになり、
    角を曲がるたびに道幅が狭くなるのだった。


    見慣れぬ光景が次々と目に入る。

    カエルの干物を売る店、
    カメの甲羅を頭で割る男、

    飾り窓から尻を突き出す厚化粧な女。


    見知らぬ異国の街なので
    まったく言葉が通じない。

    身振り手振りで話しかけたら
    なぜか怒られ、殴られてしまった。

    それで、しゃがんで泣いていたら
    変なところで猫が鳴く。

    声のする方を見上げると
    通路の壁に首まで猫が埋まっていた。


    頭を撫でようと手を伸ばしたら
    その指を思いっ切り噛まれた。

    壁猫は指を噛んだまま放さない。

    それで困っていたら
    通りすがりの洗濯女がナイフを貸してくれた。


    さて、どうしよう?

    ここは
    ちょっと迷うところだ。

    首を切るべきか、
    指を切るべきか。
     

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  • 道端の彫刻

    2012/12/17

    怖い話

    殺人事件が発生した。
    被害者の死体は彫刻の前で発見された。

    その彫刻は辺鄙な村の農道の端にあり 
    抽象的というか幾何学的な形状をしていた。

    なにを意味しているのか 
    まったく不明。

    また、なぜこんな道端に彫刻があるのか 
    村人も役人も誰も知らないのだった。


    「またか」
    刑事はうんざりしていた。

    「これで四人目だ」
    すでに彫刻の前で三人も殺されていた。

    いずれも頭を割られていた。
    凶器は道端の彫刻だった。

    今回も同じ。
    なぜなら彫刻の角に血糊が付着している。

    まさかこんな重い彫刻を振り回すことはできまい。
    頭を彫刻にぶつけたものと思われる。

    おそらく犯人は腕力のある男に違いない。

    ただし、目撃者はいない。
    ほとんど手がかりはないのだった。


    「まさか彫刻が殺すわけないしな・・・・」
    刑事は道端の彫刻を見上げた。

    もうすぐ日が暮れようとしている。
    彫刻の前には、この刑事しかいない。

    現場検証は済み、もう死体も片付けた。
    ただし、農道は通行止めにしたままだ。

    それにしても奇妙な形をした彫刻である。

    こんな変なの、誰が作ったんだ?  
    きっと頭のいかれた奴に決まってる。

    刑事には芸術など理解できなかった。

    だが、この奇妙な彫刻に 
    事件解決の鍵があるはずである。

    刑事は彫刻のまわりを歩いて一周してみた。

    わからない。
    さっぱり理解に苦しむ。

    見る角度が悪いのだろうか。
    刑事は首をかしげて彫刻を見上げてみた。

    なるほど。
    愉快な形に見えないこともない。

    地面すれすれまで顔を低くして見上げてみた。
    なんとなく素敵な形に見えてくる。

    さらに刑事は逆立ちして彫刻を見た。
    なかなか素晴らしいではないか。

    走りながら見る。
    これは面白い。

    側転しながら見る。
    傑作ではなかろうか。

    刑事は道端の彫刻に夢中になった。
    彫刻の上によじ登って見下ろす。

    彫刻を蹴飛ばしながら睨む。
    彫刻を抱きしめて見つめる。

    彫刻の角に頭をぶつけて・・・・

    にぶい音がした。
      

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    • Tome館長

      2013/10/16 12:04

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/10/15 14:27

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 動物の絵

    2012/12/16

    ひどい話

    イヌが一匹、
    街中を歩いていた。

    あっちへ行ったり、
    こっちへ来たり。

    飼い主の姿は見えない。

    なんとも挙動不審。
    迷っているみたい。

    あっ、なにか見つけたのかな。
    すごいスピードで走り出した。

    あぶない。
    壁にぶつかる!

    と思ったら
    壁に吸い込まれた。

    信じられない。
    イヌが消えてしまった。


    その壁には絵が描いてある。

    つまり壁画。
    いろんな動物の絵。

    実物大。
    ソウやキリンの絵もある。

    よく見ると、イヌの絵もあった。
    さっきのイヌに似てないこともない。

    でも、まさか。
    きっと気のせいだ。


    おや。
    壁画の一部がえぐられている。

    なんだろ、これは?
    ワニの形に見えなくもないけど・・・


    その時だった。

    足にするどい痛みが走り、
    地面に思いっ切り引き倒されたのは。
     

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  • 街角の少女

    2012/12/15

    切ない話

    「こらっ! 酒を買ってこんかい!」
    親父が怒鳴る。

    「おカネないよ」
    娘がつぶやく。

    「なんか売ってカネにしろ!」
    「売れるもの、なんにもないよ」

    「おまえのカラダを売ればいいだろが!」

    それで娘は家を追い出されてしまった。


    夜の街角に立つ少女。

    冬の冷たい風が吹き抜ける。
    夏服の少女は凍えてしまいそうだ。

    少女は通行人に声をかける。
    「あたしのカラダ、どなたか買ってください」

    中年男が立ち止まる。
    「よし。その足、買った!」

    少女は片足を売り、そのカネで酒を買う。

    少女は片足になって家に帰る。


    親父は酒を奪い、すぐに飲み干してしまう。
    「もっと酒を買ってこい!」

    「お金なくなったよ」
    「もっとカラダを売ればいいだろが!」


    再び夜の街角に立つ少女。
    「あたしのカラダ、どなたか買ってください」

    中年男が立ち止まる。
    「よし。その足、買った!」

    「この足は売れないよ。歩けなくなるから」
    「それじゃ、こっちの手でいいや」

    少女は片手を売り、そのカネで酒を買う。

    少女は片手片足になって家に帰る。


    親父は酒を奪い、すぐに飲み干してしまう。
    「もっと酒を買ってこい!」

    「お金なくなったよ」
    「もっとカラダを売ればいいだろが!」


    こうして同じことが繰り返される。

    少女はカラダを売り、
    中年男は少女のカラダを買い、

    親父が酒を飲む。


    少女にはもう売れるカラダが残っていなかった。

    売れるところはみんな売ってしまった。
    残しておいた片足まで売ってしまった。

    それでは歩けないから
    這ったり転がったりして進むのだ。

    でも、泥だらけになって惨めな姿なので
    もう誰も買ってくれないのだった。


    夜の街角に転がる少女。
    夏服も着れなくなって北風が身にしみる。

    親切そうな中年男がマッチ箱をくれたけど
    それを擦るための指はない。

    少女は通行人に声をかける。
    「あたしのイノチ、どなたか買ってください」
     

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  • 踏んだ朝

    2012/12/14

    怖い話

    (ああ、踏んじゃった!)

    出勤途中、いやなものを踏んでしまった。
    近眼乱視のくせにメガネをかけないせいだ。

    ガムじゃなかった。
    犬の糞でもなかった。

    なんと言えばいいのかよくわからないけれども
    とにかく、それをしっかり踏んでしまった。

    急いでいたので確認する暇もなかった。

    (ああ、遅刻しちゃう!)

    そして、朝から晩まで会社で働かされた。
    くたくたに疲れてしまった。

    朝の出来事など、すっかり忘れていた。


    帰宅途中の夜道は暗かった。
    痴漢に襲われてもおかしくなかった。

    「踏んだわね」

    女の声がした。
    なんだか変な声。

    振り向いても誰もいない。

    「よくも踏んだわね」

    正確にはオカマの声だ。
    あたりを見まわしても人影はない。

    「よくもよくもアタシを踏んだわね!」

    下を見たら、人が倒れていた。

    血塗られた顔。
    胸も脚も歩道も血だらけだ。

    おそらく轢き逃げされたのだろう。

    それにしても、違和感。

    倒れた人物の手のひらを踏んでいることに
    やっと私は気づいた。

    しかも、ハイヒールの鋭い踵で。

    「ご、ごめんなさい!」
    私は急いで足を上げた。

    すると、その男か女か
    よくわからない人物は上体を起こし、

    血を吐きながら笑った。

    「そうよ。ちゃんと謝ればいいのよ」
     

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    • Tome館長

      2013/10/12 13:15

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/12/27 11:57

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • クニオ君

    2012/12/13

    変な話

    昼休みの教室。

    同級生のクニオ君が僕の肩を叩いた。
    「ちょっといいかな」

    そのまま僕の隣の席に腰かける。

    返事は必要ない。
    クニオ君は普通の少年ではないから。

    彼は他人の意識を意識できる。
    つまり、人の心を読む超能力者なのだ。

    大人びているから
    とても同級生とは思えない。


    「じつは最近、能力がアップしたんだよ」
    「ふーん」

    「人の無意識の領域まで意識できるようになった」
    「ほほー」

    「さすがだね、君。
     あんまり驚いていない」

    クニオ君の笑顔は素敵だ。
    ちょっと照れくさそうな表情になる。

    「それでね、君の無意識はすごいんだよ」

    僕には返事のしようがない。

    「君は当然ながら意識してないはずだけど
     君の内に潜在する無意識に比べるとね」

    クニオ君はまわりを見渡す。

    「同級生とか先生とか誰でもそうだけど
     他の人の無意識は全然つまらないよ」

    そのまま素直に信じていいものかどうか
    僕には判断できない。

    なんにせよ複雑な気分。

    そんな僕の意識を意識しているのか
    クニオ君は僕の目をじっと見つめている。

    それにしても

    クニオ君の意識と無意識の領域の区別は
    いったいどうなっているのだろう。


    あの素敵な笑顔を見せながら
    すぐにクニオ君は隣の席を立った。

    「それだけ」

    僕は黙ってうなずいた。

    クニオ君が彼の席に着く前に
    午後の始業チャイムが鳴り始めた。
     

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  • つる草

    2012/12/12

    切ない話

    森に分け入った若者が道に迷った。

    歩き疲れ、すっかり希望を失い、
    ここで死ぬのだ、と若者は覚悟した。

    そこへ美しい女が現れ、
    森を抜ける道を若者に示した。

    すぐに若者は恋に落ちた。

    けれど女の反応は冷たかった。
    「私は森の女。一緒にはなれません」

    それでも若者は諦められない。
    「一緒になれぬなら、ここで僕は死ぬ」

    森の女は若者に一粒の豆を与えた。
    「あなたの寝室の窓の下の地面に埋めなさい」

    森の女は姿を消してしまった。

    若者は森を抜け、家に帰ると
    さっそく庭に豆を埋めた。

    その夜、若者は森の女の夢を見た。

    「会えて嬉しいよ」
    「ええ、私もよ」

    翌朝、若者が寝室から庭を見下ろすと
    つる草がもう窓辺まで伸びていた。

    若者は喜んだ。

    その夜も若者は森の女の夢を見た。

    「いつまでも君と一緒にいたい」
    「ええ、私もよ」

    翌朝、つる草は窓から寝室の中に侵入し、
    ベッドの脚にまで絡み付いていた。

    若者は不安になった。

    その夜、若者は再び森の女の夢を見た。

    「もう君を離したくない」
    「ええ、私もよ」

    翌朝、若者が目を覚ますと
    つる草が体中に巻き付いていた。

    若者は驚いた。
    まったく身動きできないのだった。

    救いを求めて、若者は大声で叫んだ。
    だが、その声は誰の耳にも届かなかった。

    若者には家族がなく
    近所には人家もないのだった。

    その夜、またもや若者は森の女の夢を見た。

    「ああ、もう死んでもいい」
    「ええ、私もよ」

    翌朝、若者は目を覚まさなかった。

    つる草には一輪の小さな花が咲き、
    朝露に濡れ、とてもきれいだった。

    もう若者が目を覚ますことはなかった。

    つる草の花はやがて枯れ落ち、
    しばらくするとそこに豆の鞘ができた。

    その鞘はみるみる大きくなるのだった。


    ある朝、若者の寝室から産声があがった。

    あの豆の鞘が大きくなって割れ、
    赤ん坊が生まれたのだ。

    鞘の割れ目から覗く赤ん坊の顔は
    あの若者の顔にどことなく似ていた。

    赤ん坊は大きな声で泣き続けた。

    その泣き声は信じられぬほど力強く、

    はるか遠くの
    あの森の奥まで届くようであった。
     

    Comment (3)

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    • Tome館長

      2013/10/11 02:01

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/10/10 17:26

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/12/23 17:36

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 冬の花火

    2012/12/12

    愉快な話

    花火セットを友人が捨てるという。

    花火大会をしようと買ったのだが
    夏に使う暇がなくて、もう季節は冬。

    花火が家にあるのは危険かもしれない。
    だが、そのまま捨てるのはもっと危険だ。

    「社会人として行動に責任を持つべきだ」

    そのように主張した結果として
    花火セットを持ち帰ることになってしまった。


    今、枕もとに花火セットが置いてある。


    冬の夜は寒い。
    布団から出たくない。

    家の外はもっと寒いはずだ。
    冷たい北風が吹いている。

    団地なので自分専用の庭もない。
    花火を打ち上げる意欲など湧くはずがなかった。

    布団にくるまったまま悩むだけだ。


    ふと幼い頃の一場面を思い出した。


    ある夜、隣家の庭で花火大会をやっていた。

    花火がきれいだった。
    光がまぶしかった。

    自分の家には花火なんか一本もなかった。

    理由は知らない。
    おそらく家庭の事情だろう。

    にぎやかな笑い声がする。

    ひどく羨ましかった。
    とても悔しかった。


    もしあの時、この花火セットがあったら・・・

    恐る恐る点火して、すごい音がして
    こっちの方があっちよりきれいだぞ。

    回転花火、ロケット花火、もっとあるぞ。
    すぐ横には父と母の笑顔だってあるんだ。

    あの夏の夜、この花火セットがあって・・・


    ふと枕もとを見た。

    花火セットはなかった。


    そうそう、あの夏の夜は楽しかったな。
     

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  • 下宿の思い出

    2012/12/11

    思い出

    田舎の高校を卒業して、上京。
    江戸川区の下宿で独り暮らしを始めた。


    大家である老夫婦が一階の半分に住み、
    一階のもう半分と二階に下宿人が住んでいた。

    便所と流しは共同の四畳半で、家賃は月9,000円。

    風が吹くと揺れるような古い木造のボロ下宿だった。


    閉めた窓から風が入り、
    光は壁と柱の隙間から廊下に漏れた。

    ゴルフボールで「パットの練習」とかすると
    いつも同じ場所に戻ってきた。

    家全体が歪んでいたのだ。


    母親と娘が二部屋に分かれて住んでいたが

    そのうち娘が妊娠したそうで
    やがて出て行った。

    中国の女子留学生が隣の部屋に入り、
    中国の恋人の写真とか見せてくれたが

    そのうち東大生の恋人ができて
    やはり出て行った。

    そんなふうに
    色々な下宿人が出入りしたのだった。


    毎月、家賃を払いに行くと

    「おじさん」は必ず晩酌の相手をさせ、
    遠い昔の思い出を語った。

    「おばさん」は手料理を食べさせてくれた。

    似合いの老夫婦だった。

    人が良すぎて、豊田商事の詐欺に引っかかり、
    600万円騙し取られたりした。


    風呂は近所の銭湯で、冬は冷えた。

    夏は暑く、引き戸も窓も開けたまま裸で寝た。

    どうせ安いからと、もうひとつ部屋を借り、
    ハーフサイズのビリヤード台を置いたりもした。


    アルバイトをして、大学を中退して
    就職して、転職して、結局11年間も住んだ。

    もう「おじさん」も「おばさん」も亡くなったはず。
    あの下宿も取り壊されたはずだ。


    若い人たちに笑われそうな、昔話。

    あの下宿も、もう思い出の中にしか存在しない。
     

    Comment (2)

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    • Tome館長

      2013/10/08 20:14

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/10/08 13:05

      「こえ部」で朗読していただきました!

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