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2011/11/08
草の葉の上で
てんとう虫があぶら虫を食べている。
あぶら虫は泣きながら訴える。
「なぜ私を食べるのですか?」
でも、てんとう虫は返事をしない。
(尻からでなく、頭から食うんだった)
そんなことを考えている。
草の葉の裏側では
クモのおばさんが編み物をしている。
美しいチョウの羽が編み込んである。
じつに器用なものだ。
「娘に着せるつもりよ。舞踏会用にね」
あいにく娘さんには会えなかった。
草の葉の下では
地面がキラキラ輝いている。
アリの列が砂金を運んでいるのだ。
こういうのを金脈と呼ぶそうだが、
女王アリの所望かな。
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2011/11/07
私の目の前を歩いているあなたは
ひょっとして
私ではありませんか?
思わず声をかけそうになって
途中で怖くなって
やめてしまった。
だって、ほら
その瞬間に背後から
声をかけられそうな気がして。
2011/11/06
有限を対象とするならともかく、無限を対象とする場合、対角線論法は詭弁である。
無限なものを有限であるかのように扱うから騙される。
番号順に並べられたとする実数の行列の対角線部分の数列を別の数値に置換したなら、そうして作られた対角線上の新たな実数は元の番号順に並べられたとする実数の行列の最後に加えられるべきであって、この操作を無限に繰り返さねばならないからこそ、無限なのである。
番号順に並べ終わった有限のものとして扱うから矛盾するのであって、無限に並べ続けねばならない無限のものとして扱うなら、矛盾は繰り返し無限に回避される。
対角線論法の背理法により証明されるのは、実数の有限性の否定であって、可付番性の否定ではない。
そもそも確定した実数に番号を付ける(自然数を一対一に対応させる)ことは可能である。
0以上1未満の実数に番号を付ける場合を以下に説明する。
便宜上、十進法表記を二進法に書き換える。
0.0 1
0.1 2
0.01 3
0.11 4
0.001 5
0.011 6
0.101 7
0.111 8
・ ・
・ ・
・ ・
「0.0」の後に出現する「0.00」、同じく「0.1」の後の「0.10」など、前出に等しい実数は無視するとして、小数点以下の表示桁数を増やしながら、上記ナンバリング作業を無限に繰り返すだけである。
上記小数表示の行列の中に無理数は含まれるか、という問題は、1/3が含まれるか、という問題と重なる。
なんにせよ、有限において上記小数表示ができない実数は、無数にあるはずである。
しかし、有限において小数表示できない実数があることと、それら実数が存在しないこととは、別問題。
それら有限において確定できぬ実数は、無限のかなたに無限の状態においてのみ存在する。
そして、ナンバリング作業も無限に続き続ける。
つまり、無限の小数表示では個々が確定できない。
個々が確定せねば、番号を付けることもできない。
よってまた、無限小数表示の対角線論法には無理があるのである。
そもそも限りなきを限ること自体に矛盾が潜む。
「実数全体」と限れば、すでに矛盾している。
「無限」を有限の如く語れば、矛盾するしかあるまい。
あるいは、これこそ詭弁であろうか。
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2011/11/05
幻獣とは伝説でしか存在しない動物。
剥製も骨格標本も化石さえ存在しない。
エゾルグはじつに不思議な幻獣である。
まず、どんな姿なのかよくわかってない。
腰でつながった一卵性双生児の人魚だとか
翼のある双頭の龍なのに豚鼻であるとか
鶏頭牛尾だとか
口が虎で肛門が狼だとか
定説はない。
つまり、なんでもありなのだ。
見る者によって異なって映るようだ。
また、エゾルグの生態も不可解である。
オスとメスの他に第三の性があるという。
この第三の性をウスと呼ぶ。
オス、メス、ウス、三頭で一組になる。
三つ巴というか、三位一体というか、
どの一頭が欠けても交尾が成立しない。
そして交尾直後、
ウスはオスとメスに食べられてしまう。
これはなにかの象徴であろうか。
さらに、エゾルグほど恐れられる幻獣も少ない。
その出現は大災害の前兆とされる。
火山の噴火、地震、津波、竜巻、疫病。
幸い、人前に現れることは滅多にない。
それから、エゾルグにも天敵がいる。
これがいわゆる幻獣エグゼソである。
ただし、残念ながら
エグゼソの内容はほとんど伝わっていない。
ゆえに、まったくの幻獣と言えよう。
2011/11/04
別れ際に恋人から刺された。
驚いた。けれど痛みはなかった。
彼女の後姿が小さくなってゆく。
ありふれた別れの言葉さえなかった。
どうしてこんな仕打ちを受けるのか、
納得できる理由は浮かばなかった。
とりあえず胸からナイフを抜く。
ありふれた安物の果物ナイフ。
傷口は穴になっていた。
出血はない。ただの細長い穴。
そのすぐ近くにナイフを刺してみた。
やはり痛くない。予想通り。
細長い穴が二つになっただけ。
腹にも刺してみた。
細長い穴が三つ。
尻にも刺したら、
胸の穴から床が見えた。
穴が繋がったらしい。
腕にも足にも背中にも頭にも
ところかまわず滅茶苦茶に刺してみた。
体中が穴だらけになった。
なんにも入ってない
空っぽの体。
風が吹き抜ける。
寒い。とても寒い。
喉にも刺したから
いまさら恋人の名を呼んでも、
声にすらならない。
2011/11/03
少年は崖っぷちに腰かけていた。
その背後には
平原が果てしなく広がっている。
奈落の底を見下ろせば、
目眩する高さ、吐き気する深さ。
上昇気流に逆らい、吸い込まれそうな
えぐれているようにさえ見える断崖絶壁。
どれほどの時が過ぎたろうか。
不意に少年は立ち上がる。
少年は確信できたのだ。
(僕は臆病者なんかじゃない!)
崖っぷちに背を向け、
少年は広大な平原を振り返る。
そして、少年は歩き始める。
ところが、すぐに足が止まった。
少年は立ち尽くしてしまう。
あまりにも長かった崖っぷちでの時間。
断崖の深さと平原の広さを
もう少年は区別できなくなっていたのだ。
2011/11/02
花園を背負ったような馬が庭にいる。
飾り立てられ、玄関の前に佇んでいる。
その花園はまばゆいほどに輝き
さる高貴なる令嬢の顔を有している。
やがて、こちらへ馬は歩んでくる。
なぜか、僕のところにやってくる。
おそるおそる手を差し出すと
馬は僕の指を舐め始める。
その太くて長い緑色の舌。
「かわいらしいわね」
馬上の令嬢がお声をかけてくださった。
「ええ。かわいらしいですね」
僕は心にもない返事をする。
むしろ僕は、この馬が怖い。
唾液の多い舐め方も気に入らない。
馬の背から、ひらりと令嬢が飛び降りる。
はしたなくも美しくも
花柄の下着が少しばかり見えてしまった。
「あなたを食べるつもりかしら」
そう言いながら令嬢は僕の髪に花を挿す。
「まさか。それはないでしょう」
どうして僕は正直になれないのだろう。
馬の口から手が抜けないというのに。
2011/11/01
この花の名前は知らない。
けれど美しい花だと思う。
初めて咲いたときは
小さくてつまらない花だと思った。
でも、球根を譲ってくれた知人は言う。
「もしも君が、花を美しくしたかったら、
雄しべをね、すべて切ってしまうといいよ」
それで僕は、ピンセットを使って
花粉が雌しべに触れないように注意しながら
全部の花から雄しべを抜いたんだ。
こうすると、近くに同じ花はないから
いくら待っても受粉できない。
しばらくすると、花弁が大きくなった。
その色も口紅のように鮮やかになり、
なんとも言えない香りを漂わせ始めた。
昼間だけ咲いていたのに
そのうち夜も咲き続けるようになった。
かすかに蛍光さえ帯びている。
そして、いつまでも萎まない。
いつまでも枯れず、咲き続ける。
月明かりの夜、ひとりベランダで
この美しい花を眺めていると、
なんだか妙な気分になってくる。
おかしな声まで聞こえてくる。
ネエ オ願イ
オ願イダカラ・・・・・・