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    Works 3,356
  • ほっといて

    みんな、どうしたの? 

     

    仕事で忙しかったり 

    日帰り旅行に出かけたり 

     

    たまには顔だって見たいのに 

    なかなか会えない。

     

    「悪い。また今度」

     

    スケジュールぎっしり 

    連絡すら ままならない。

     

     

    そんなのやめて 

    そんなのほっといて 

     

    やらなくてもいいことなら 

    やらなきゃいいのに。

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  • もどかしい音頭

    2016/08/20

    愉快な話

    ミシン目でつながった1枚の書類には
    2件の請求額が記されてある。

    それを役所の窓口に提出して手続きをしているところ。

    「片方の分しか支払ってませんね」
    パソコンのモニター画面を見ながら受付けの女性職員。

    「ああ。それはですね・・・・」
    過去のやり取りを思い出しながら説明する私。

    両方やる予定だったが、実際には片方しかやらなかったのだ。
    だから支払いも半分だけ。

    けれども、なかなか込み入った事情があり 
    うまく内容を伝えることができない。

    もどかしい。
    どうやらボケてきたらしい。

    それで、もどかしい音頭を踊りたくなったが 
    あいにく、そんな変な踊りは知らない。

    まったくもって、もどかしい。
    もどかしいったら、ありゃしない。

    ああ、こりゃこりゃ。

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  • おぞまむし

    2016/08/19

    怖い話

    なにやら土壁の傷のようなものが 

    あちらこちらに散在している。

     

    だが、よく見ると、それらが動いている。

    しかも徐々に大きくなる。

     

    どうやら虫の巣に遭遇したらしい。

    節足動物の無数の脚がもぞもぞ蠢うごめいている。

     

    絶望的な予感と悪寒がする。

     

    片手ほどの大きさの虫の群が足もとに落ちる。

    そのままこちらに這い寄る。

     

    クモかもしれない。

    ゴキブリのような気がしないこともない。

     

    手の甲になにやら触れた。

    必死に腕を振る。

     

    うなじに冷たいものが落ちてきた。

    あるいは、この生臭い雨はヒルであろうか。

     

    イカの塩辛のような水たまりができる。

    裸足なので踏んではいけない。

     

    しかし、それとは別のものを踏んでしまった。

     

    とぐろを巻いたヘビ。

    おそらく冬眠明けのマムシであろう。

     

    悲鳴をあげ、飛びのいて逃げる。

    ところが、逃げ切れない。

     

    ぬらぬらしたタコまで這いずってくる。

    カエルのように跳びはねもする。

     

    おぞましさが頂点に達する。

    なのに、いまだ目覚める気配はない。

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  • 歯医者さんごっこ

    「はい。お口を大きく開けて」

    「あーん」

     

    「おやおや。虫歯が多いね」

    「あああ」

     

    「甘い夢ばっかり見てるからだよ」

    「んあああ?」

     

    「ええと、この奥歯は抜かなきゃいけないな」

    「ああ?」

     

    「痛くないよ。麻酔注射するからね」

    「んあんあ」

     

    「治療中、これを右手でつかんでいてもらおうかな」

    「んあ?」

     

    「もし痛かったら握って教えるんだよ」

    「ああん」

     

    「どれどれ。ちょいちょい、と」

    「んあっ!」

     

    「痛い。つ、強く握り過ぎだって」

    「んああっあ」

     

    「やさしく治療するから、やさしく握り返すんだよ」

    「んああんあ」

     

    「ほら。そっと、なでなで」

    「あああん」

     

    「うううん」

    「あー。もう、やだ。歯医者さんごっこなんか」

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  • 諦観の念

    2016/08/17

    論 説

    不安ゆえに苦心するとしても 

    安心したいがため苦しむは愚かなり。

     

    確証もなく防波堤を築かんとするは 

    気休めになれど、対策にあらじ。

     

    安心できぬなら無理に安心せず 

    上手に諦めるが上策なり。

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  • 野菜の路上販売

    2016/08/16

    変な話

    その町には商用で訪れたはずなのに 

    なぜか故郷の町、いや、村になっている。

     

    T字路のような場所で野菜が売られている。

    スイカやカボチャ、長ネギや白菜など。

     

    舗装された路上だが、クルマが通る気配はない。

     

    一台の一輪車の上に大きなキャベツが載っていた。 

    ところが、よく見るとそれは老婆だった。 

     

    買い物中の近所のおばさんが教えてくれる。

    「あなたのお母さんですよ」

     

    なるほど。

    いかにも私の老母に違いない。

     

    しかも、野菜のように売られているのではなく 

    どうやら野菜を売っているのが老母であるらしい。

     

    このような動けない姿になっても 

    どうにか野菜を栽培して販売することにより 

    その対価として周囲の世話になっているようである。

     

    収穫時期を逃したキャベツのように仰向けに寝そべり

    頭を持ち上げる首の筋肉も残っていないらしい。

     

    なのに私は、居たたまれない気持ちのまま 

    老母に近寄ることも声をかけることもできない。

     

    そうすべきだとは思いながらも 

    泥だらけのゴボウみたく、ただ立ち尽くすばかり。

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  • そら君の冒険

    2016/08/15

    愉快な話

    長く寒かった冬が終わり、ようやく 

    北の大地にも待ちに待った春が訪れました。

     

    ぽかぽか暖かい日差しに心うきうき。

    はるさんちのそら君は冒険の旅に出かけるつもりです。

     

    夜ふかしはるさん、ただいまお昼寝中。

    今が旅立つチャンスです。

     

    苦労してこしらえた秘密の通路をくぐって 

    そら君、はるさんちを抜け出しました。

     

     そらそら 空は よい天気

     そらそら そら君 ごきげんだ 

     

    時計台なんか見上げもせず 

    テレビ塔だって関係なし。

     

    赤レンガがどうしたって? 

    クラーク先生、なに言ってんの? 

     

    ラーメン横丁でチャーシューもらって 

    すすきもないのにすすきのとはこれいかに? 

     

    「これいかに?」と目覚めたら 

    はるさんが写真を撮っていました。

     

     そらそら そら君 夢見てた

     そらそら そら君 変な顔

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  • 台所の若妻

    2016/08/12

    愛しい詩

    若妻が台所で 料理をしている 

    まな板たたく 包丁の音の 心地良さ 

     

    指を切って 赤く染まる 青野菜 

    なんて素敵な ドレッシング 

     

    魚を三枚におろす 錆びた釘抜き 

    骨が砕ける その痛々しい音響 

     

    カビの浮く味噌汁 泡立つ醤油 

    母親直伝 殺意を秘めた隠し味 

     

    若妻は初々しく 台所で舞い踊る 

    皿とグラスと ひたいを割りながら

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  • 夜の闇の記憶

    夜の闇を恐れなくなったのは 

    いつの頃からだったろう 

     

     

    太古から綿々と続く 

    おぞましき体験の集積であろうか 

     

    形定まらぬ恐怖の対象が 

    無数に蠢うごめいていた 

     

     

    あんなものがいるかもしれない 

    こんなものがいそうな気がする 

     

    そんな恐ろしいところに顔をさらしたままでは 

    不安で不安で とても眠れなかった 

     

    小さくて 弱くて 

    どうしようもないくらい臆病だった 

     

     

    あの頃 あんなに怯えていたのに 

    今では その記憶すら消えそうになる

     

    いつか平気でいられる夜は訪れるのかと 

    遠い将来まで心配していた 

     

    あのまだ幼き頃の 

    あの漆黒の 夜の闇

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  • アニマル交響楽団

    2016/08/10

    愉快な話

    私は老いさらばえた指揮者である。

     

    長年、地元の交響楽団を指揮してきたが 

    そこを引退してからは趣味で動物たちを指揮している。

     

    クマに楽器を演奏させるサーカスみたいなのではなく 

    持ち前の発音発声の特技を活かしてやるのだ。

     

    スズムシの鈴の音、ウグイスのさえずり、

    キツツキのドラミング、ウサギのスタンピング、

    猫の甘え声、犬の吠え声、などなど。

     

    ライオンの咆哮なども加えたいのだが 

    さすがに世話が大変だし、そんな予算もない。

     

    ともかく、これら雑多な音声を組み合わせ

    適宜タイミングよく発するよう仕向けるわけだ。

     

    複数の犬が吠え合って収拾がつかなくなったり 

    肝心な時に眠ってしまったり、なかなか大変。

     

    それでも、ウサギにニンジン与えるフリして与えなかったり 

    猫にマタタビ嗅がせながらくすぐったりしているうちに 

    偶然のように見事なハーモニーを奏でる瞬間が訪れる。

     

    「ささやかな奇跡」と呼んでいるが 

    なかなか楽しいものである。

     

    音声だけならパソコンのソフトで編集することも可能で 

    実際にそれでCDを作ってみたこともある。

     

    しかしながら、仲間内ではウケたものの 

    やはり生演奏が一番だと思う。

     

    指揮者の動物的勘が試される 

    というものだ。

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