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Tome館長

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  • 円周率

    2012/08/19

    変な話

    下請け業者と電話で商談中、
    不意に回線が切れてしまった。

    大変なクレームが発生していた。
    在庫部品数の確認を急ぐ必要があった。

    すぐに固定電話機の番号ボタンを押すと
    ボタンがはずれてバラバラになった。

    あわててボタンを拾い、
    なんとかはめ直して押し直す。

    あせっているため最後まで正しく押せない。
    バカみたいに掛け直しを繰り返す。

    さらに、この緊急時だというのに
    隣席の同僚が邪魔をする。

    「3.1415 926535 897932 3846・・・・・・」
    なぜか耳もとで円周率を唱えるのだ。

    (なんだ、こいつは?
     なぜこいつ、こんなに丸い顔なのだ?)

    無性に腹が立つ。

    持っていたペンを逆手に握り、
    同僚の毛深い腕にペン先を突き刺す。

    「殺すぞ! 仕事中なんだからな!」
    感情にまかせて怒鳴りつける。

    ところが、なぜか
    同僚の腕からペンが抜けなくなる。

    どうやら腕を覆う毛に絡まってしまったらしい。

    ペンがなくてはメモを取れないので
    ひたすら後悔するばかりである。
     

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  • オーディション

    2012/08/18

    変な話

    あなた目の前に舞台がある。

    その上には、まだ誰もいない。
    芝居はこれからだ。


    あなたは客席の最前列に並ぶ審査員のひとり。

    高名な舞台演出家や映画監督の横顔が見える。

    真剣な表情。
    息苦しいほどに張り詰めた空気。


    「それではこれより、審査を開始します。
     まず1番の方からどうぞ」

    水着姿の少女が舞台の袖から登場する。

    腰のあたりに1番のプレート。
    なかなかのプロポーション。

    司会者が名前と略歴を紹介する。

    あなたの正面に少女は立つ。
    彼女の緊張が伝わる。


    「1番。勝手に分解します!」

    声が震えている。
    初々しい。

    ぎこちない動作。
    片足を両手でつかみ、そのまま片足を抜く。

    同じく、もう片方の足も抜いてしまう。
    やや単調か。

    続いて、首を抜く。
    その首から両方の眼球も抜いてしまう。

    さらに片腕を、もう一方の片腕で抜いてしまう。
    残された片腕は抜くこともできず、おしまい。

    期待はずれ。
    こんなものかな、とあなたは思う。


    「さらに1番。勝手に組み立てます!」

    なんだなんだ、とあなたは驚く。

    抜いたばかりの部品が本体にはまってゆく。
    元通りの少女の体に自力で戻ってしまう。

    いや。
    両足は左右が逆になっている。

    「これは凄い!」

    舞台演出家が感嘆の声をあげる。


    「さらに1番。勝手に爆発します!」

    いくらなんでもやり過ぎだ。
    しかし、止める暇はない。

    あなたは、むき出しになった眼球に爆風を感じる。


    それでも逃げなかったあなた。

    あなたは審査員として見事に合格である。
     

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  • 落ちていた女

    家に帰る途中、手首が落ちていた。

    どうやら若い女の左手らしい。

    「なんて愛らしい。
     この白魚のような指たちときたら」

    嬉しくなって、それをポケットにしまった。


    足取りが軽い。
    交番の前なんか知らんぷりして素通りだ。

    角を曲がると、腕が落ちていた。

    「なんて柔らかい。
     この肘の内側の折れ線ときたら」

    左腕であろうそれを手提げカバンにしまった。


    不思議なことは意外に続くもので
    さらに右の手首と腕も拾うことができた。

    驚いたというか呆れたことに
    両脚も別々に落ちていた。

    「なんて絶妙なバランスなんだろう。
     このふとももとふくらはぎの重さと弾力」


    自宅の前にも落ちていた。
    それは女の尻だった。

    「いやいや、まいったな。
     目のやり場に困ってしまうではないか」


    玄関にも落ちていた。
    女の胴体だ。

    「おやおや、なんということだ。
     この形の良い胸には見覚えがあるぞ」


    寝室には女の首が落ちていた。

    美しい顔だった。
    それは妻の顔だった。

    「なんだ。
     せっかく楽しみにしていたのに」
     

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  • おれは監督

    2012/08/16

    愉快な話

    おれは監督だ。

    歩き方が気に入らない。

    「こら。そこの女、やり直し」
    おれは怒鳴った。

    「アタシ?」
    「おまえだ」

    「なんですか?」
    「なんですかじゃない。歩き方が悪い」

    「あの、よくわかんないんだけど」
    「まるで女子高生の歩き方じゃないか」

    「だってアタシ、女子高生だもん」
    「文句あるのか」

    「あっ」
    やっと気がついたようだ。

    「いいえ、ありません。やり直します」

    そうだろう、そうだろう。
    なにしろ、おれの指示なのだ。

    おれは監督だ。
    つまり、監督の指示なのだ。

    監督の指示は絶対なのだ。


    道路も気に入らない。

    「なんだ、この舗装道路は」
    歩いていた妊婦をつかまえて怒鳴った。

    「こんなきれいな道路、不自然だろうが」
    「そ、そんなこと言われても」

    「もっと穴だらけにしておけ」
    「そんな」

    「文句あるのか」
    「あ、ありません」

    当然だ。
    監督の指示なのだから。

    誰にも文句は言わせない。


    空模様も気に入らない。

    「おい。目を覚ませ」
    公園のベンチで眠っていた浮浪者を起こす。

    「ううん。なんだなんだ?」
    「なんだじゃない。空が明るすぎるぞ」

    「はあ?」
    「はあじゃない。空がまぶしいではないか」

    「ああ、そうだね」
    「そうだねじゃない。空を曇らせろ」

    「なんだって?」
    「なんだってじゃない。おれは監督だぞ」

    「はあ?」

    話にならん。
    おれは腹が立った。

    隣のベンチにサラリーマンがいた。
    そいつの胸ぐらをつかんで怒鳴った。

    「あの浮浪者は使いもんにならんぞ」
    「そ、そうですね」

    「おまえが浮浪者になれ」
    「し、しかしですね」

    「文句あるか」
    「いいえ、ありません」

    「よし。おまえ、空を曇らせろ」
    「は、はい。かしこまりました」

    言葉づかいが気に入らなかった。

    「こら。浮浪者がかしこまるか」
    「そ、そうでしたね」

    「気をつけろよ」
    「は、はい。わかりました」

    よしよし。
    わかれば許す。

    気に入らないことは絶対に許さん。

    なにしろ、おれは監督なのだ。
     

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  • やってられるか!

    2012/08/15

    ひどい話

    「やってられるか!」

    旦那が会社を辞めた。


    「やってられません!」

    奥さんが家事を放棄した。


    「やってられねえよ!」

    息子が学校を退学した。


    「やってられないわ!」

    娘が家出をした。


    さて、

    それからどうなったのか
    と言うと、

    それから先のことは
    まったく何も考えていないのでした。
     

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    • Tome館長

      2013/07/05 14:12

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/07/04 11:15

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/02/20 13:47

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 女のいる部屋

    2012/08/14

    怖い話

    僕の部屋に女がいる。

    ただし、その姿は見えない。


    触れることもできない。
    声も足音も聞こえない。

    なぜなら部屋には僕しかいない。

    なのに女がいる。


    壁の鏡を覗いてみる。

    そこに僕の姿はない。


    見知らぬ女が僕を見つめ返すばかり。
     

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    • Tome館長

      2013/07/03 13:29

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/08/14 15:59

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 殺人ウイルス

    2012/08/12

    ひどい話

    あちら立てれば、こちら立たず。
    出る杭は引抜かれ、沈む船は船員を巻き込む。


    世の中、問題だらけ。
    地球規模の破滅は近い。

    だから、もう放ってはおけない。
    長年の極秘研究の成果を試す時が来た。


    とうとう生物学兵器が完成したのだ。

    いわゆる人工ウイルス。
    ウイルスは細胞のない遺伝子のようなもの。

    単体では生物とも呼べないが、
    他の生物の細胞内で生きることができる。

    侵入した寄主細胞内でウイルスは増殖し、
    次々と細胞外へ放出される。

    寄主細胞を生かすも殺すもウイルス次第である。


    細かいことはどうでもよい。
    とにかく世界人口を激減させる必要がある。

    誰にも相談できないため
    その選択基準を独断で決めた。

    大胆かつ精密なシステムの上に成立する選択。

    分子レベルから説明するのは難しいが、
    要するに「善良な人」を残すことにした。

    生物学的に善良な人。
    社会学的には知らないが・・・・・・


    なんにせよ、もう誰にも止められない。
    すでに殺人ウイルスは世に放たれた。

    なぜなら、すでに私が感染しているから。

    そして、どうやら私は
    善良な人とは見なされなかったらしい。
     

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  • 解剖バサミ

    なぜか解剖されている。

    腹を解剖バサミで切り開かれ、
    そのまま皮を広げられ、

    寝台の両端にピンで留められている。


    執刀者はマスクをした女。

    その切れ長な目に見覚えがある。

    「どうして血が溢れないのでしょう?」

    迷惑にならぬよう
    小声で女に話しかけてみる。

    「それはね、血抜きしてあるからよ」

    意外と優しい人かもしれない。


    腹の中から様々なものが取り出される。

    ペンライト、馬蹄磁石、天体望遠鏡、・・・・・・


    「これ、何かしら?」
    ピンセットでつまんだものを見せつける女。

    思わず赤面してしまう。
    血が抜かれているのに不思議な事。

    「なんでもありません」

    「本当になんでもないの?」
    「本当になんでもありません」

    それがなんなのか
    知られているような気がしてならない。

    「あら、そうなの」

    それを足もとのバケツの中へ投げ捨てる女。


    話題を変えなければならない。

    「麻酔はしないのですか?」

    「あら、もう忘れたの?
     あんなに太い注射、お尻にしたでしょ」

    たしかに痛みは感じない。
    痛みとともに記憶も消されたのだろうか。


    「見つけた! こんなに爛れてる!」
    眉間にしわを寄せる女。

    「そんなにひどいのですか?」

    「ひどいなんてもんじゃないわ!
     完全に手遅れよ」


    患部に解剖バサミの刃を当てると
    いかにも汚らわしそうに目をそらし、

    それを完全に断ち切ろうとして
    女は歯を喰いしばった。
     

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  • 見えない明日

    2012/08/09

    怖い話

    (・・・おかしい)
    占いお婆は思案顔。

    (明日が見えない)

    水晶玉に明日のイメージが映らないのだ。


    水晶玉に未来を映すのは
    未来における現在を映す未来の自分。

    つまり、未来のお婆が
    その過去である現在へ向け

    水晶玉へ思念を送り込まなければならない。

    当然だろう。

    送る者が送り出さなければ
    受ける者は受け取れない。


    (・・・ということは)
    お婆は水晶玉を撫でる。

    (明日、おまえを愛でられなくなる、ということ)

    その余裕がなくなるのか。
    それができなくなるのか。

    (・・・わからない)

    とにかく、水晶玉の中は空っぽ。

    明日に限らず
    未来からのメッセージは

    ひとかけらも入っていない。
     

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  • 壊れかけた記憶

    2012/08/08

    変な話

    なにかについて考えなくてはならなくて

    でも眠くって

    仕方ないので
    眠りながら考えることにして

    うとうとうとうと
    考えながら眠ったんだけど

    意外なことに
    なかなか良い考えがひらめいて

    これは眠ってる場合じゃない


    あわてて目覚めたのでは
    あるけれど

    残念なことに

    あわて過ぎたからか

    ひらめいた考えの記憶は
    すっかり失われてしまっていて

    さらに
    いけないことには

    そもそも
    なにについて考えていたのか

    という大切な記憶すら

    まったく思い出せないのだった
     

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