Tome Bank

main visual

Tome館長

m
r

Tome館長

CREATOR

  • 3

    Fav 1,206
  • 9

    View 6,102,236
  • p

    Works 3,356
  • 片眉の老人

    2012/07/31

    愉快な話

    「あっ、落としましたよ!」
    老人を呼び止めた。

    歩道に落ちたものを拾ってやる。

    それは眉であった。
    真っ白な眉。

    「これはこれは。すまんすまん」

    老人に白い眉を手渡す。

    なるほど。
    老人の顔には片方の眉がない。

    「ありがとうな。助かったよ」
    「いいえ。どういたしまして」


    先を急いでいたら、老人に呼び止められた。

    「もしもし。これは違うぞ」
    片眉の老人が追かけてきた。

    「これは左の眉ではないか」

    老人の手のひらの上のそれを見る。
    言われてみると、確かに左眉だ。

    老人の顔を見る。

    「落としたのは右の眉だ」
    片眉の老人は断言するのだった。

    なるほど。
    老人の顔には右側の眉がなかった。

    その反対側の眉を見る。
    なんとも異様な眉であった。

    なぜなのか、その理由がわかった。

    「この左側の眉は、右眉ですね」

    そう言われて、老人は驚いたらしい。
    異様な眉が異様に下がったから。

    おそらく、吊り上げたつもりなのだろう。
    上下も逆さまだったから。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 語られぬ昔話

    2012/07/30

    変な話

    昔、あるところに、ある人物がいた。

    いつの時代で、どこの国の人物か、不明。
    そいつの素性もよくわかっていない。

    性別も職業も当時の年齢も、さっぱりである。


    さて、それはともかく
    そいつは、ある目的のために行動したという。

    その目的は不明である。

    行動の内容も、伝わってはいない。
    それに関する記録が残っていないのである。

    極秘に行われる必要があったのだろう。

    そうでなければ
    なにかしらかの痕跡が残ってしかるべきである。

    ただし、これはあくまでも推測にすぎない。

    その行動に、どのような意味があったのか。
    その行動により、いかなる結果がもたらされたのか。

    残念ながら、知る者はいない。

    闇に葬られたのか。
    皆、忘れただけなのか。

    それすら判然としない。


    つまり、そういうわけで
    わけのわからない話なのである。

    しかしながら
    まあ、よくある話ではある。
     

    Comment (2)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
    • Tome館長

      2013/06/25 14:47

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/08/09 15:30

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 不思議な本棚

    2012/07/29

    愉快な話

    本棚の本が入れ替わったような気がしてならない。


    書斎にある大きな木製の本棚。
    そのガラスの引き戸の奥に本がある。

    本は大きさもジャンルも様々。
    並び方も整然と雑然の中間ほど。

    これら本の配置が変わった気配がする。

    どの本がどの位置へ、とは指摘できない。
    けれども、なんとなく違和感を感じる。


    独身の一人暮らしである。
    また、滅多に訪問者はいない。

    他人が動かしたとは考えにくい。

    ならば、犯人は自分か。

    そこそこ高齢ではある。
    物忘れがあっても不思議ではない。

    だが、納得できない。
    まったく見覚えのない本まであるのだ。

    その一冊を引き出し、ページをめくる。
    年甲斐もなく顔を赤らめてしまった。

    こんな過激な写真集、まったく記憶にない。


    少ないが、文庫本もある。
    お気に入りの推理作家の未読の小説を見つけた。

    この作家は生涯に四冊しか作品を書かず、
    その四冊とも確かに読んだはずなのに。


    驚いたことに、私の伝記まで見つけた。

    著者名に記憶はない。
    なかなか立派な装丁である。

    よくも調べたものだ。
    ほとんど内容は合っている。


    ただし、没年はとうに過ぎていた。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 小さな花

    2012/07/27

    切ない話

    道端の草が小さな花を咲かせた。

    派手でもなく、鮮やかでもない。
    地味で淡い色の花だった。

    「おかしなところに咲く花もあるものだ」
    散歩中の紳士が呟いた。

    「喜んで咲いてるわけではありません」
    小さな声で小さな花が言い返した。

    「おやおや。かわいらしい声ではないか」
    「声だけはね」

    「その声をもっと聴きたいものだ」

    紳士は荒々しく地面から草を引き抜いた。
    小さな花は悲鳴をあげ、うなだれた。

    「ひどい人。死んでしまうわ」

    「大丈夫。すぐに家の庭に植えてやる」
    「うそつき」

    「いいね、いいね。その、うそつき、って」

    小さな花は黙ってしまった。
    紳士も黙って家路を急ぐのだった。

    しばらくすると、小さな花が尋ねた。
    「その庭、広いかしら?」
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 思い出にしないで

    2012/07/26

    怖い話

    どうか私を
    思い出にしないで


    お願いだから

    もう会うこともない
    過ぎ去った人にしないで


    なにかの拍子に
    ふと思い出すような

    記念写真みたいな

    そんな
    アルバムの1ページにしないで


    いっそ破って捨てて

    どうせなら
    燃やして灰にして


    あなたの思い出になんか
    私はなりたくない

    私の思い出になんか
    あなたになって欲しくない


    ああ

    それができなければ
    これまでね


    そう
    これまで

    死がふたりを
    分かつまで
     

    Comment (2)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
    • Tome館長

      2013/06/22 19:02

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/07/27 22:39

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • カラスの羽

    2012/07/25

    変な話

    最近、カラスが増えたような気がする。


    真っ黒な姿。不吉な鳴き声。
    鋭い目とくちばし。

    ゴミ置き場を漁っていたりする。

    むやみに生ゴミを捨てるからだろうか。


    帰宅の途中、カラスの羽を拾った。

    とても大きくて美しい羽だった。
    捨てるのが惜しかった。

    でも、それを飾る場所が見つからない。


    悩んだ末、鉢植えの土に挿し、
    そのままベランダに置いておいた。

    やがて、その羽が膨らんできた。

    おかしなこともあるものだと思った。


    ある朝、カラスの鳴き声で目が覚めた。

    鉢植えに一羽のカラスが生えていた。


    なるほど、カラスが増えるわけだ。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 懺悔室

    2012/07/24

    ひどい話

    司祭と信者:

     父と子と聖霊の御名において、アーメン。


    司祭:

     回心を呼び掛けておられる神の声に心を開いてください。


      もし人の罪をゆるすなら
      あなたがたの天の父もあなたがたをゆるしてくださいます。

      しかし、人をゆるさないなら
      あなたがたの父もあなたがたの罪をおゆるしになりません。


     神の慈しみを信頼して、あなたの罪を告白してください。


    信者:

     はい。
     それでは告白します。


     ゆるされないことをしてしまいました。

     僕は昨日、姉の部屋に忍び込んだのです。

     姉は旅行中で、明日まで帰りません。
     まだ幼い弟と一緒に出かけたのです。

     僕は姉の机の引き出しを開けました。
     そして、姉の日記を読んでしまいました。

     すごいことが書かれてありました。
     僕はおかしな気分になりました。

     その日記によると、僕は不幸な子です。
     ゆるされない存在なのだそうです。

     つまり、姉は僕の母親だったのです。
     しかも、弟が僕の父親なのでした。


     以上、おもな罪を告白しました。

     ゆるしをお願いいたします。


    司祭:

     なるほど、それはいけませんね。

     お姉さんの日記、
     あとで私にも読ませてください。


    信者:

     はい。


    司祭:

     それでは、神のゆるしを求め、
     心から悔い改めの祈りを唱えてください。


      神よ。
      あなたの慈しみによって私に情けをかけ、

      あなたの豊かなあわれみによって、
      私のもろもろのとがをぬぐい去ってください。

      どうか私の不義をことごとく洗い去り、
      私の罪から私を清めてください。


     父と子と聖霊の御名において、あなたの罪をゆるします。


    信者:

     アーメン。

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 不服従な従者

    2012/07/23

    愉快な話

    昔、ある国の王宮に
    不服従な従者がいました。

    国王が命令を下しても
    従者のくせに従わないのです。


    王宮から追い出そうとしても従いません。

    国王の弱みを握っているのか
    従者は拘束されることもありません。


    「国王は先代の遺言に縛られているのだ」

    そのような
    まことしやかな噂さえ聞こえます。


    そういうわけで
    国王の悩みは尽きませんが

    国の治世は立派になされていました。


    ある時、国王が側近にもらしたそうです。

    「あいつを従わせるくらいなら
     国民を従わせるなど、たやすいこと」


    なるほど。
    そういうこともあるかもしれませんね。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 考える機械

    2012/07/22

    愉快な話

    考える機械に問うてみた。
    「真理とはいかに」

    考える機械は答えた。
    「考えさせてくれ」と。


    半年後、再び問うてみた。
    「真理とはいかに」

    考える機械は答えた。
    「よくわからぬ」と。


    ふむふむ。
    なかなか考えておるわい。
     

    Comment (2)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
    • Tome館長

      2013/06/18 23:37

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/06/18 23:36

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

  • 流されるまま

    2012/07/21

    変な話

    いらっしゃい。
    どうぞ、こちらへ。

    ようこそ。
    初めまして。


    あなたも流されて来たんでしょ?

    そうでしょうね。
    みんなそうよ。


    流されるままに生きていると

    なぜかみんな
    ここに到着してしまうらしいのよ。


    ええ。
    いろんな人がいるわ。


    流されそうな芸能人。
    流されそうもない相撲取り。

    流れに逆らいそうな競泳選手まで。


    流される基準って

    正直なところ
    よくわからないのよね。


    他の多くの人たちが流されているものだから

    じつは流されてない人たちが
    逆に流されているように

    見えるだけなのかもしれないし。


    なんにせよ
    あまり気にしないことね。

    気にしていても
    そんなに流れは変わらないものよ。


    とりあえず
    過去のことは水に流して

    まずは乾杯しましょ。


    はい、乾杯!


    うふっ。

    あなたって
    本当に流されやすいのね。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
RSS
k
k