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  • サーカス

    2009/03/31

    思い出

    昔 サーカスが町にやってきた


    大きなポスターが 町中に貼られ
    大きなテントが 丘の上の公園に張られ
    にぎやかな音楽が あちらこちらに響いて

    トラの火の輪くぐり
    お姉さんの空中ブランコ
    巨大鉄球内を走りまわるオートバイ

    ゾウはいたのだろうか
    体の柔らかい美少女とか

    いなかったはずのないピエロさえ
    今はもう 思い出せない


    昔 サーカスが町にやってきた
     

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    • Tome館長

      2013/02/17 02:41

      「しゃべりたいむ・・・」かおりさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2011/11/12 13:16

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 山頂の城跡

    2009/03/30

    思い出

    少年時代の終わりの夏だった。

    ひとり、城跡へと続く山道を歩いていた。

    城跡と言っても、山頂には形跡すらない。
    立て札がなければ誰も気づかないだろう。


    山頂に着いたら裸になるつもりだった。
    きっと素晴らしい解放感だろう。

    山菜採りの季節でもなければ人はいないのだ。


    身軽でいたいので、荷物は縦笛一本だけ。
    城跡で吹いてやろう、と思っていた。

    つまらないことが楽しみな年頃だったのだ。


    そろそろ山頂が見えてくる場所だった。

    林を抜けると、日差しがまぶしかった。

    そう。
    麦わら帽子をかぶっていた。

    その時、なぜか、ふと立ち止まった。


    何かに驚いて、あたりを見まわした。

    草木が茂り、緑豊かな大地。
    見上げれば、どこまでも青い空。

    そして、自分がここにいる。


    今、気づいた。


    感動して、ぼろぼろ涙があふれた。
    ひざまずき、地面を叩き、草をつかんだ。

    信じられないくらい嬉しかった。
    何か大声で叫んだ記憶も残っている。


    ときどき、あの時のことを思い出す。

    断言できる。
    素晴らしい体験だった。

    なのに、どうしても思い出せないのだ。


    あの時、何に気づき、何に感動したのか。
     

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  • 洗礼の雨

    2009/03/29

    思い出

    大事な試合に負け、その帰り道。

    体がだるく、とにかく疲れていた。
    頭痛もひどかった。

    それにしても情けない試合だった。


    (くそっ!)

    自己嫌悪で気が滅入る。
    出るのは溜息ばかり。

    見上げると、空模様まであやしい。

    ポツリ。

    冷たいものが額に当たった。

    手にも頬にも鼻にも次々と当たった。

    稲妻が走り、雷鳴が轟いた。

    雷雨だ。

    傘など持ってない。
    まだ家は遠い。

    とことん運が悪い。
    まさに土砂降りになった。


    (そういえば、そんな天気予報だったな)

    しかし、そんなのどうでもいい。
    濡れるしかないなら、濡れるしかない。

    瞬く間に髪も服も靴もびしょ濡れになった。

    激しい雨音と雨の感触を全身に感じる。


    こんなの久しぶり。

    懐かしいくらいだ。

    なぜだろう。
    なんだか楽しい。

    不思議だ。
    わくわくしてくる。

    頭痛も消えてしまった。

    思わず笑ってしまう。
    歌ってしまう。

    これだな、と思った。
    生きてる感触って。


    なんだか嬉しかった。

    まだ家が遠くて。
     

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    • Tome館長

      2013/03/07 08:42

      「しゃべりたいむ・・・」かおりさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/10/18 13:07

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 竹やぶ

    2009/03/29

    思い出

    近所の神社を囲むように竹やぶがある。

    市の保護指定を受けているだけあって
    さすがに並の竹やぶではない。


    竹の柵に続いて
    竹で組まれた門がある。

    そこから中に入ると
    別世界が広がる。

    雑木林と違い
    寒いくらい静かだ。

    重なり合った細い葉で日光が濾過され
    幻想的な照明が淡く注がれている。

    厚い落葉で地面は白っぽく覆われ

    今にも竹が輝き
    かぐや姫が現れそうだ。


    竹取の翁のつもりになって
    竹やぶを歩く。

    時間を止め、
    さ迷い続けていたくなる。

    できれば竹の花が咲くのを見てみたい。

    数十年ほど待たねばならないだろうが・・・・・・


    正直、ここから出たくなかった。
    だが、それは許されるはずもない。


    竹の茎に触れ
    服の袖が白く汚れた。

    この表面の白い粉はなんなのだろう。

    昔話の浦島太郎じゃないけれど

    頭が触れたら
    白髪になったりして・・・・・・


    少し怖くなって
    すぐに竹やぶを出た。
     

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  • トンネルと自転車

    2009/03/28

    思い出

    まだ少年だった頃、
    自転車で砂利の坂道を下るのが好きだった。

    車軸潰しの激しい振動がたまらなかった。

    急カーブでもブレーキは使いたくなかった。
    それが自分で決めたルールだった。

    いつ転んでもおかしくなかった。


    あの日も自転車に乗っていた。

    坂道を上るのは苦にならなかった。
    上りの辛さは、下りの楽しみ。

    いかにも山道らしい風景も悪くなかった。


    トンネルの入口、黒い半円が見えてきた。
    長くないトンネル、そこが峠でもあった。

    ほとんど誰も通らないのだった。 
    入口の脇に自転車を置き、奥へ歩いた。

    靴音が反響する。
    照明などなかった。

    真夏でもひんやりと涼しかった。


    トンネルの真ん中で歌ってみた。

    (なんていい声に聞えるんだろう!)

    恥ずかしい言葉だって大声で言える。
    笑い出したら止まらなくなった。

    裸になって踊りたい気分だった。
    誰もいないから問題ないはず。


    そして、あっと言う間に時が過ぎた。
    そろそろ坂道を下り、家に帰らなければ。

    向こう側の出口に小さく自転車が見えた。
    けれど、なんとなく振り返ってみた。

    反対側の出口にも自転車が置いてあった。

    どちらも自分の自転車に見えた。


    冷たい水滴がひとつ、首筋に落ちた。
     

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  • 貯水池の鴨

    2009/03/26

    思い出

    信濃川のすぐ近く、
    水力発電所の貯水池に鴨の群があった。

    適当な間隔を置いて水面に浮かんでいる。
    少なくとも一千羽はいるものと思われた。
     

    私は欄干にもたれ、鴨の群を眺めていた。

    やがて、灰色の空から雪が降ってきた。
    持参の折りたたみ傘を私は差した。


    白く冷たい雪に包まれながら
    鴨の群は白い水面に枯葉色に浮かんている。

    まるで絵のようだ、と思った。


    ときおり鴨が鳴く。

    意味はわからないが
    その鳴き声を口真似してみる。

    なかなか似ているような気がして
    ちょっと嬉しくなる。


    いつしか、雪は雨に変わった。

    冬の雨は雪より冷たいように感じられる。
    さすがに鴨たちも冷たかろう。


    そろそろ帰ろうかと思っていたら
    不意に西日が射した。

    ひょっとして、と期待したその時、
    貯水池の向こうの空に虹が架かった。

    その外側にも二番目の虹が薄く見えた。


    まるで絵のようだ、と再び思った。

    それでも鴨の群は動かないのだった。
    鴨は二重の虹なんかに興味はないらしい。


    もう一回、鴨の鳴き声を口真似してから
    私は貯水池の鴨の群に背を向けた。
     

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  • 古い校舎

    2009/03/24

    思い出

    僕が通った小学校は
    木造二階建ての古い校舎。

    その端の一階に音楽室、
    その真上に図書室があった。


    図書係をやっていた僕。

    その日、当番だったので
    遅くまで図書室にひとり残っていた。

    いつの間にか窓の外は
    すっかり暗くなっていた。

    もう帰るつもりで本を本棚に戻していたら
    かすかにピアノの音が聞こえてきた。

    床下から響いてくるような気がした。

    (音楽室からだ。いったい誰だろ?)

    僕はあわててカバンを背負い、
    図書室の照明を消してから階段を下りた。


    階段のすぐ横に音楽室の入口がある。

    音楽室には明かりがついていなかった。
    ドアに近づいてもなんの音もしなかった。

    なんだか僕は怖くなってしまった。

    玄関へ続く暗い廊下をドタドタと走った。


    それだけ。

    つまらない昔話である。


    僕たちが卒業して、
    やがて小学校は鉄筋の新校舎になった。


    あれは、昼間の音楽の時間のピアノの音が
    音楽室の天井に吸い込まれ、

    夜になって図書室の床から抜け出し、
    やっと僕の耳に届いたのではないか。


    最近、そんなことを考えてみたりする。

    なにしろ、とても古い校舎だったから。
     

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  • 歩道の哲人

    2009/03/23

    思い出

    とある朝、
    駅から会社への出勤途中でのこと。


    上半身裸の男が
    歩道にあぐらをかいて座っていた。

    ボサボサの長髪、
    垢だらけの日焼けした背中。

    いわゆる「浮浪者」に違いない
    と思った。

    広いとは言え
    わざわざ歩道の真ん中。

    通勤通学の人通りが激しいというのに
    まるで無視。

    こういう人にかかわってはいけない
    と思った。


    その浮浪者の脇を素通りしようとしながら
    チラリと見て

    思わず立ち止まりそうになった。


    歩道の浮浪者は食事中であった。

    茶碗と箸を使い、
    朝ご飯を食べていた。

    炊き立てらしく
    湯気が見える。

    手前には炭火コンロというのか
    七輪が置かれ、

    載せた金網の上で魚を焼いていた。

    青い煙が昇り、
    うまそうな匂いもする。

    味噌汁の椀などもあったかもしれないが
    それを確認するほど心の余裕はなかった。

    本当に驚いてしまった。
    まわりの通行人たちも呆れ顔である。

    その浮浪者の横顔はまだ若そうだった。


    とりあえず会社に着いてしまった。
    同僚に確認せずにいられない。

    「あれ、見たか?」
    「うん。見た見た」

    「なんだろうな、あれ」
    「さあ、わからんな」

    「われ思うに、あれは哲人ではないかな」
    「浮浪者の哲人か」

    「うん。ちょっと哲学をやりすぎた方なんだよ」
    「なるほど」


    あの歩道の先には
    有名な国立大学があった。

    あるいは
    現役の哲学科の学生かもしれない。


    「おれなんか、今朝は立ち食いソバだ」
    「おれなんか、朝食抜きだよ」

    そして
    同僚と顔を見合わせ、

    いかにも俗人らしく
    ため息をついたのだった。



    【補足】

    1983年前後。

    東京都文京区湯島一丁目、東京医科歯科大学の前、
    御茶ノ水橋から東京大学へ向かう外堀通りの外堀側の歩道にて。
     

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  • 遊びの輪

    2009/03/22

    思い出

    ひとりぼっち
    昼休みの校庭のすみっこで

    なまいきな男の子たち
    かわいい女の子たちがつくる

    にぎやかな色の
    おもしろそうな形の

    遊びの輪を
    校舎の壁にもたれて

    ポツンと眺めてた。


    楽しそうだった。


    なにが楽しいのか
    よくわからなかったけど

    楽しそうだった。


    ぼくが近づくと
    あの遊びの輪が

    はずかしそうに
    ほんのすこし切れて

    その隙間にするりと
    なんの迷いもなく

    みんなと同じように
    入り込めたら

    きっと
    きっと素敵だろう。


    そう思ってた。


    なのに
    遊びの輪ときたら

    ぼくが近づいたくらいじゃ
    なかなか切れなくて

    うまく入り込めなくて
    ちっとも楽しくなくて

    そのうち
    午後の始業チャイムが鳴ると

    ちょっと悲しくなるくらい
    ホッとするのだった。
     

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    • Tome館長

      2013/04/04 10:29

      「しゃべりたいむ・・・」かおりさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2011/11/13 13:11

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 友だち

    2009/03/21

    切ない話

    僕と、彼と、彼女。

    僕たち三人は仲の良い友だちだった。
    いつも三人一緒、三位一体だった。


    ある日、彼が駄目になってしまった。
    救いようのない人になってしまったのだ。


    僕と彼女は、顔を見合わせて悩んだものだ。
    どうすればいいのかわからなかった。

    会話のための言葉さえ見つからないのだった。


    僕たち、ふたりではうまくゆかない。
    なんというか、そういう関係だったのだ。


    あの日、彼が駄目にならなかったら

    きっと僕たちは、ずっと今でも
    仲の良い友だちのままでいられたはずだ。


    結局、僕たちは別れてしまった。

    あの日から、ずっと僕は
    彼らと会わないようにしている。
     

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