灰色ウサギ
2016/02/19
水の入ったバケツを兄の家に届けて帰ると
家には父が帰宅していた。
「風呂に入りたいな」
独り言のように父がつぶやく。
あなたの望みは叶えてやりたいが、あいにく
バケツ一杯の水がなければ風呂に入ることはできない。
「わかりました。すぐ戻ります」
そう言い残し、急いで兄の家に引き返す。
ところが、着いたところは兄の家ではなく
ガラス張りの白っぽいビル。
ガラスのドアを引き戸式に開け
最上階にあるオフィスに侵入する。
休日なのか誰もいない。
バケツが見当たらないので出ようとすると
ガラスの入り口から放し飼いの黒ウサギが侵入している。
このままドアを閉めてしまったら
無人のオフィスの中で飢え死にするだろう。
持ち上げて通路に出てからドアを閉め、鍵をかける。
黒ウサギとは別に灰色ウサギが一羽、通路にいて
開いた引き戸にあやうく挟まるところだった。
こちらを不思議そうな表情で見上げる。
いけないことかもしれないが
持ち帰るつもりで灰色ウサギを抱き上げる。
さて帰ろうとすると
二人の掃除婦がお喋りしながら階段を下りるところ。
彼らをやり過ごしてからビルを出よう。
しかし、よくよく考えてみると
掃除婦ならバケツの一つぐらい持っていたかもしれない。
手持ちぶさたに視線を下せば
じっとこちらを見上げる灰色ウサギ。
いかにも問い質したそうな
そのつぶらな瞳。
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