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2012/04/01
キノコ採りに人喰い森に分け入り、
すっかり道に迷ってしまった。
もともと道らしい道はなく、
けもの道というか鬼の道に迷ったのだ。
「おい、こっちだ。人の匂いがするぞ」
人喰い鬼どもの声がした。
絶体絶命のピンチだ。
「いたぞ。逃がすな!」
必死になって逃げながら
俺は迫り来る恐ろしい鬼どもに向かって
護身用の光線銃を発射した。
すると、ものすごい悲鳴があがった。
派手に血しぶきを撒き散らしながら
鬼どもは痛々しく地面を転げまわるのだった。
意外にも、鬼は光線銃に弱いらしい。
「ニンゲン様、助けてください。
お許しください」
鬼どもが命を乞うのだった。
俺は人里への道を尋ね、
無心してキノコを山ほどもらった。
日差しの明るい森の外に出てしまうと
なんだか鬼どもに
申し訳ないことをしてしまったような
そんな気もするのだった。
2012/03/18
春はあけぼの、かゆい季節。
眼がかゆくてかゆくて、やりきれない。
花粉アレルギー反応。
いわゆる、花粉症。
まぶたの上から、こすったってダメ。
洗眼しても、なおらない。
かゆい、かゆい。
痛い、つらい。
本当に情けない。
泣きたくなる。
なみだで濡れても、症状はかわらない。
もうダメだ。
もう我慢できない。
このままでは狂ってしまう。
目に指ズブリ、突っ込んで
ムンズと眼球つまみ出し、
爪を立て
バリバリバリバリ
ひっかいた。
ああ、その気持ちのよきことよ。
もう目の前、真っ赤。
マッカッカ。
2012/03/10
水を飲んでいたら
ワニに噛みつかれた。
あの巨大な洗濯バサミのような顎に
おいらの頭が丸ごと挟まれてしまったのだ。
まったく油断していた。
想像さえしていなかった。
そのまま水中に引きずり込まれ、
死ぬほど水を飲まされた。
さらに上下左右に激しく振りやがる。
おいらの首を喰い千切るつもりだ。
さすがワニだけのことはある。
どうにも逃れられない。
ああ・・・・・・
痛い。
ものすごく痛い。
まるでワニに噛まれているみたいだ。
ああ・・・・・・
もうすぐ死ぬ。
ワニに喰われて。
ああ・・・・・・
それにしても、おいらの人生、
短くもなく、長くもなかったな。
ああ・・・・・・
ワニの背中で洗濯してみたかったな。
着物が洗えるか、それとも破れるか。
ああ・・・・・・
もっと立派なことを考えられないものか。
ああ・・・・・・
もうダメだ。
意識が遠のいてゆく。
ああ・・・・・・
それにしても
納得してから死にたかったな。
そもそも近所の公園の噴水の池に
なんでワニがいるのだ。
2012/03/04
ミツバチの働きバチはメスである。
主に花粉と蜂蜜を食べて育ち、働きバチとなる。
働きバチの頭部から分泌されるローヤルゼリー、
これのみで育てられたメスは女王バチとなる。
オスは、巣の中では餌(えさ)をもらう以外特に何もしない。
ある晴れた日、オスは交尾するため外に飛び立つ。
オスバチは空中を集団で飛行し、
その群れの中へ女王バチが飛び込み、交尾を行う。
オスバチは交尾の際に腹部が破壊され、死亡する。
女王バチは巣に帰還し産卵を開始する。
交尾できなかったオスも巣に戻るが、繁殖期を過ぎると
働きバチに巣を追い出され、死に至る。
(「ミツバチ-Wikipedia」より、要約引用)
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(なぜ俺は結婚したんだろう?)
はっきりとした理由が思い出せない。
好きな女と一緒に暮らしたかったはずだが、
その気持ちは長く続かなかった。
けれど、子どもができた。
別れられなくなった。
まるで罠、または詐欺。
遺伝子に組み込まれた増殖装置。
もう増殖する必要などなく、
むしろ間引きすべき状況ですらあるというのに・・・・・・
愚かな、あまりに愚かな。
しかし、繰り返される。
「おじいちゃん!」
あまりにも愛らしい、孫の顔。
2012/02/19
どうにも腹の立つことがあって
おれはむしゃくしゃしていた。
おれは空に向かって叫んだ。
「バカヤロー!」
すると、空が返事をした。
「なんだと?」
おれはポカンと口を開ける。
なんにも言えない。
空が追求する。
「強い悪意を感じたぞ」
おれは我に返る。
「す、すみません」
「謝って済む問題か。
空をやめてやろうか」
「いえいえ。
そればっかりは、ご勘弁を」
「なら、誠意を見せろ」
「はっ? ・・・・・・誠意とは?」
「おまえ、そこで裸踊りをやれ」
「えっ?」
「その場で真っ裸になってな、
わしが笑えるような滑稽な踊りをして見せろ」
おれは途方に暮れる。
「・・・・・・あ、あのですね。
ここ、通学路で、今、ちょうど下校時間で・・・・・・」
「空をやめてやろうか」
「・・・・・・あ、あのですね」
「誠意が見られないな。
よし、決めた。わし、空をやめてやる」
「あの、ええと、その、なんと言いますか。
あなたが空をやめると、どうなるのでしょう?」
「こうなるのだ!」
「バリバリバリ」と亀裂が走ったと思ったら
「パリン」と割れ、
「ドドドドドー」の大音響とともに
空が落ちてきたのだった。
2012/02/11
弓道の基本動作に「射法八節」がある。
足踏み:的に向かって両足を踏み開く。
胴造り:両脚の上に上体を安静に置く。
弓構え:矢を番えて弓を引く前の構え。
打起し:弓矢を持った両拳を上に持ち上げる。
引分け:弓を押し弦を引き、両拳を開きながら引き下ろす。
会(かい):弓を引き切り、矢は的を狙う。
離れ:矢を放つ。
残心:矢が放たれた後の姿勢。
そうやって射たのだが、また的を外してしまった。
「お嬢様。いい加減になさいませ」
婆やが私をたしなめる。
「これで五人目でございますよ」
今日だけで、私への求婚者が五人も亡くなったのだ。
求婚者は正座させられ、頭頂にリンゴを載せられ、
その的の置台になってもらう。
途中で逃げたり、リンゴを落としたりしたら、失格。
甲矢と乙矢の二本一組で一手というが、その一手二射で
私がリンゴを射抜くことができたら、合格。
リンゴが射抜かれず、かつ勇気と恋心と命が残っておれば、
再度挑戦のための順番を待つことになる。
あまりに前近代的な仕組みであるが、仕方ない。
これが我が総領家の婿選びの儀式なのだ。
私は目を閉じ、再び射位に立つ。
射法八節。
(・・・・・・今度こそ!)
2012/02/05
あんたは死刑囚。
目隠しされ、杭に縛られ、
標的ですよ、と言わんばかり。
この俺は死刑執行人。
制服を着て、ライフル銃を持ち、
撃ちますよ、と言わんばかり。
あんたに恨みはないが、
これが俺の仕事だから、勘弁してくれ。
普通は三人ぐらい執行人がいてよ、
恨みや罪悪感やら分散させるもんだが、
財政赤字なんで、俺ひとりが精一杯なんだと。
情けねえ話だが、あんたもあんただよ。
まったく、犯罪なんか儲からねえのによ。
まあ、財政赤字だから犯罪も増えるんだけどな。
どうも、気が乗らねえな。
あんたを殺したって、なんにも変わらねえよ。
あんた、この国の一番偉い人、殺しちゃったけど、
結局、なんにも変わってないんだもんな。
2012/01/31
魔女であると容疑をかけられた人間は
審問官の前に引き出されることから始まる。
まず告発文の朗読。
内容は、たとえば胎児を殺して食ったとか、
魔法の秘薬を作ったとか、呪いをかけて災いを招いたとか。
容疑者は、私は魔女ではありません、陰謀だ、
などと絶叫するが、なにを言っても無駄である。
悪魔はお前たちの方だ、などと毒づく者もいる。
しかし、それは教会にはむかう悪魔の言葉であると判断され、
そのまま拷問台に送られるのだった。
審問によって自白しなければ、次は拷問。
被告は裸にされ、きつく縛られて宙釣りにされた。
その際、苦痛を高めるために、足には錘をぶら下げられる。
そして、体中くまなく点検され、証拠探しが行われる。
証拠とは、悪魔のマークと呼ばれる刻印。
悪魔との性交時につけられ、
悪魔に対する忠誠心をあらわすものとされる。
あざ、いぼ、ホクロなどが悪魔との接触による痕跡とされ、
魔女と断定する有力な決め手とされた。
それでも発見されない場合、
咽に棒を突っ込んで胃の中のものをすべて吐かせる。
さらに大量の水を飲ませたうえ浣腸までして排便させ、
大便と吐瀉物を探索するのだった。
魔女を泳がすこともよく行われた。
被告の頭や手足を縛り池に放り込むのである。
魔女は水よりも軽い超自然的な存在と考えられ、
被告が浮けば有罪で魔女だと見なされた。
沈んで溺死すれば無罪ということになる。
いずれにせよ、被告は生き延びることはできないのだった。
自白を強要するための拷問には様々なものがあった。
鉄製の長靴が履かされ、
靴と足のわずかな隙間にくさびが打ち込まれる。
第一撃で鮮血が噴出し、あまりの痛みに受刑者は絶叫する。
第三撃目で膝の骨は砕かれて骨の髄が飛び散ったという。
魔女の椅子という拷問もあった。
尻を乗せる部分に穴の開いた鉄製の椅子に座らされ、
その下からロウソクであぶられる。
陰毛や肛門、尻の肉が焼けただれて恐ろしい苦痛を伴い、
排便も満足にできぬような哀れな体と成り果てる。
水責め、指つぶし、目つぶし、舌抜き、・・・・・・
その他、ありとあらゆる恐ろしい拷問が行われた。
ほとんどの人間は、一時的に苦痛を逃れたいがため、
ありもしないことを自白した。
自白すれば、受刑者は魔女ということになり、
生きたまま火刑に処せられることになるのだった。
(「不思議館〜中世の血塗られた史実〜魔女狩りの時代」
より、要約引用)
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「あの女は魔女よ!」
恋敵の女に密告されてしまった。
私は審問官の前に引き出された。
「おまえは自分が魔女であることを認めるか」
教会の司祭でもある審問官が問う。
「そうよ。私は魔女よ」
私は、あっさり認めてやった。
「そして、あなたも魔女よ」
審問官はうろたえる。
「たわけたことを。私は男だぞ」
「あら。魔女なら、男にだって化けられるはずよ」
裸にされた審問官の尻には黒い尻尾が生えていた。
やがて、私を密告した恋敵の女と一緒に
審問官は火刑に処された。
「ふん。本物の魔女を見くびらないことね」
私は審問官の席から
愚かな人間どもに宣告した。
2012/01/30
市立図書館から借りた推理小説を読んでいたら、
その本の途中にボールペンで書き込みがあった。
ある登場人物の名前を四角く囲み、下手糞な字で
[こいつが犯人]
世の中には親切な人がいるものだ。
ぜひとも、厚くお礼を申さねばなるまい。
というわけで、これを書き込んだ奴が誰なのか、
犯人捜しをすることにしたのだ。
まず、人物分析。
どう考えても、いやな奴であることは確信できる。
こいつと共同生活だけはしたくない。
マナーは守らず、自分勝手で、近所迷惑な嫌われ者。
自転車泥棒や万引きくらい、平気でやりそうだ。
この推理小説を読み終えたくらいだから
それほど知能が低いわけではあるまい。
しかし、この字の下手糞さ加減からすると、
先天的にだらしない感じはする。
詳細な筆跡鑑定もしてみる。
筆圧やペンの流れからのタイプ分類。
どうやら犯人は左利きで、男性である可能性が高い。
その他、この推理小説の内容、作家の傾向なども考慮。
年齢や家族構成、学校または職業の範囲など、
とりあえずの大まかな仮説的人物像を割り出す。
友人の知り合いの自称ハッカー君を崇め奉り、
市立図書館の登録データ、貸し出し情報を不正入手。
近所の小学生をそそのかし、少年探偵団を結成。
容疑者たちの張り込み、聞き取り調査。
その他、なんだかんだ半年近くも手間取ったが、
ほぼ犯人を特定することに成功した。
ただし、限りなく黒に近い容疑者がふたり。
どちらが犯人であっても不思議ない。
どちらが犯人だとしても納得できてしまう。
悩んだ末、ふたりの容疑者のどちらにも
匿名の手紙を送ることにした。
宛先の本人の名前をパソコンとプリンターで印刷し、
その活字をボールペンで四角く囲み、下手糞な字で
[おまえが犯人]
これだけ。
それにしても、まさか
あんな結果になるとは思いもしなかった。
ひとりの容疑者は
ある強盗傷害事件の真犯人として自首。
もうひとりの容疑者は
なんと自殺してしまったのだ。
2012/01/27
僕が幼かった頃の
ある大雪の年のこと。
僕が外で遊んでいて
雪玉をつくって
屋根に向かって投げたら
一本の氷柱に当たって
根もとから折れて
それが下で雪かきしていた
お爺ちゃんの頭に刺さりました。
お爺ちゃんがビクンとして
それから枯れ木のように倒れると
一面まっ白だった雪が
まっ赤に染まって
なんだか
紅白の錦鯉みたいで
とってもとっても
きれいでした。
雪国の子どもの
不思議な思い出です。