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Tome館長

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  • とかげ

    ある不毛の大地に一匹のとかげがいる。

    とかげの目の前にも一匹のとかげがいる。

    すぐ後ろにもやはり一匹のとかげがいる。

    このことはどのとかげについても言える。

    とかげによるそのような列が実在する。

    とかげの列は前方に果てしなく続く。

    とかげの列は後方にも果てしなく続く。

    どのとかげも身動きせずに並んでいる。

    どのとかげも一瞬にしてある決意をする。

    とかげは目の前のとかげの尻尾を噛む。

    と同時に後ろのとかげに尻尾を噛まれる。

    とかげの尻尾は途中でぷつんと切れる。

    その尻尾が暴れるために列が乱れる。

    暴れる尻尾をとかげは苦労して飲み込む。

    尻尾は喉を通り胃袋を通り腸を通る。

    さらの尻尾の断面を通って尻尾が生える。

    再生した尻尾はぬらぬらと濡れている。

    そのためにとかげの抑制がきかなくなる。

    とかげは目の前のとかげの尻尾を狙う。

    すると自然にとかげの列が再びできる。

    不毛の大地に見事なとかげの列ができる。
     

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  • 蝶の沖合

    濡れた靴下を脱ぎ捨てて
    波に揺れる夕暮れの海面を

    ひたひたと裸足で歩いていたら

    まるで霧に包まれたように
    無数の蝶の群に囲まれてしまった。


    こんな遥か沖合まで
    あたりまえのような顔をして

    歩いてきたりしてはいけなかったのだ。


    途中で沈むとか溺れるとか
    せめて泳いでみるとか

    そういうことをすべきだったのだ。


    まあ、いまさら遅いけど。


    それにしても
    こんなふうに蝶の群に歓迎されたら

    そんなに悪い気はしない。


    このまま夜になってしまえば
    きっと蝶の群は蛾の群となるだろう。


    やがて水平線から朝日が昇れば
    びっしりと海面に敷き詰められた

    美しく眩い銀色の絨毯になるはずだ。


    そんな優雅な絨毯の上で
    ゆらゆら波に揺られてのんびりと

    いつまでも眠っていられたら
    ちょっと素敵な気がする。
     

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  • 水面の神話

    まず最初に、水面があった。
    それは厚さのない鏡であった。

    水面には表裏の区別はなく、
    そこに姿を映す者はいなかった。

    音も光もなんにも存在しないので
    やがて水面はいたたまれなくなった。

    わだかまりが生まれ、
    悶え、歪み、乱れ、

    ついに水面に波紋が広がった。


    限界を超えた水面は千切れ、
    あるいは泡、あるいは雫となった。

    表裏の区別がないため
    泡と雫の区別もなかった。

    それらは光となり、
    また闇となった。


    やがて光は星屑となり、
    闇は神話となったのである。
     

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  • 魚眼石

    なんと美しい宝石でしょう。


    ほら、よくごらんなさい。
    小さな魚が泳いでいますね。

    石の中に閉じ込められた魚です。

    もちろん生きています。
    優雅な姿ではありませんか。


    もっとよくごらんなさい。

    この魚の眼は石なのです。
    美しいではありませんか。

    これより美しい石ですか?


    さらによくごらんなさい。
    石の中の魚の石の眼の奥。

    あなたの瞳が映りますね。

    その石のように冷たい瞳。
     

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    • Tome館長

      2012/07/03 23:01

      ケロログ「mirai-happiness☆」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/06/30 16:52

      ケロログ「Spring♪」武川鈴子さんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/06/29 03:12

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 鏡の回廊

    貴婦人が鏡の回廊を渡っておられました。


    鏡の回廊の左右の壁には珍しい鏡が
    いくつもいくつも飾ってありました。

    ある鏡には、上品なドレス姿の貴婦人が
    その麗しき横顔とともに映りました。

    別の鏡には、夢見る表情の貴婦人が
    裸で歩いておられる姿が映りました。

    また別の鏡には、床に跪いた貴婦人が
    背徳の儀式に耽る姿が映るのでした。


    じつに色々な鏡があるのでした。

    美しい少女が映る鏡もありました。
    醜い老婆が映る鏡もありました。

    まったくなにも映らない鏡もありました。


    わずかに傾いた合わせ鏡のように
    どこまでも鏡の回廊は続いているのでした。
     

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    • Tome館長

      2012/06/22 16:09

      ケロログ「mirai-happiness☆」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/06/21 20:51

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 夜が笑う

    弓なりに月が裂け、ニヤリと夜が笑う。
    鳴く猫の気持ちが今宵は犬にもわかる。


     闇に浮かぶ街灯の下、少女が泣いている。

     鬼に見つけてもらえなかったかくれんぼ。
     靴を片方なくして少女は家に帰れない。

     街灯に群がる蛾の羽ばたきを真似、
     路地裏の闇から手品師が手招きする。

     少女の耳の中、羅針盤が音を立てて壊れ、
     幼くて小さな頭が麟粉の波に揺れる。


      フクロウのふりをしてカラスが鳴く。
      尻尾と片目のない白猫が黒猫に化ける。
      頭をなくした鶏が交差点を横切る。


     門を閉ざされた夜の公園の奥深く、
     美しい貴婦人が立ち木に縛られている。

     血の匂いのする風が上から下へ流れ、
     長い髪は垂れて地面に溶けている。

     乱れた夜会服から零れ出た乳房。
     その乳首を少年の青白い指がつまむ。

     半ズボンを穿き、三日月に似た口の穴。
     「いけないのはあなた。ぼくじゃない」


    白い光を月が垂らし、ニヤリと夜が笑う。
    吠える犬の気持ちが今宵は猫にもわかる。
     

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  • 月夜の兎狩り

    だから僕は反対したんだ。
    月夜に兎狩りだなんて
    まさに狂気の沙汰だよってね。

    それなのに無鉄砲な君は
    猟銃なんか担いじゃって
    平気な顔をして家を出たんだ。

    藍色の嘘っぽい夜空に
    山より大きな三日月が昇って
    ゲラゲラゲラゲラ笑ってたっけ。

    君は月の光にあてられてね
    猟銃を捨てて裸になってね
    センザンコウを家来にしたんだ。

    それで兎は捕まったのかって?
    ああ、そりゃ捕まったさ。
    君が耳をつかんでるじゃないか!
     

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  • 湖の雪

    湖に浮かんでいたら
    雪が降ってきちゃった


      白くて
      ふわふわしていて

      夢みたいで

      とってもきれいだった


    あんなに濁った空

    なのに
    こんなに白い雪


      湖に浮かんでいても
      あったかいよ
     

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    • Tome館長

      2012/12/10 11:10

      「しゃべりたいむ・・・」かおりさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/03/24 12:20

      「こえ部」で朗読していただきました!

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