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2012/04/25
凍った岩肌に
骨が喰い込む。
肉を破り、
血に染まった指の骨。
吹雪は背に爪を立て、
男の耳を噛み切る。
鼻毛が凍り、
音を立てて涙が割れる。
垂直の崖を抱き、
男は喘ぐばかり。
男の望みは
山頂に咲くという
氷の花。
それに触れる者は
幸せになるという。
さびしい男。
哀れで惨めな雪男。
もう食料も感覚も
生きる気力もない。
(・・・・・・だめだ・・・・・・もう登れぬ)
その瞬間、
男の指が花に触れる。
落ちてゆく。
落ちてゆく。
落ちてゆく。
きれいな
一枚の
氷の花びら。
2012/04/19
白痴はいつも
太鼓を叩いていた。
近くにいれば
必ず太鼓の音がした。
太鼓を叩いていなければ
眠っているのだった。
きっと太鼓を叩く夢でも
見ているのだろう。
いつも白痴は
どこか旅していた。
太鼓が唯一、
白痴の道連れだった。
白痴だから
ほとんど言葉は話せなかった。
その代り、
太鼓で話をするのだった。
太鼓の音だけで
意味が伝わるのだった。
鳥や獣とも
話せるようであった。
風や雨の音とも
合奏できるのだった。
ドム ドム ドム
ドム ドム ドム
太鼓の響きが
大空に広がってゆく。
それだけで
なぜか泣けてくるのだった。
まだ白痴は
旅を続けているだろうか。
あの太鼓の響きが
今でもまだ
耳から離れない。
2012/03/31
待つのはきらい
消えたくなる
泣くのもきらい
捨てたくなる
こんなことするため
ここにいるんじゃない
こんなことしたいため
生きてるんじゃない
2012/03/23
わかってもらいたい人に
わかってもらえないのは
とてもつらく、
とても哀しい。
人と人とが互いに
わかり合える部分は
気持ちや考えの
ほんの表面的な
ほんの一部に過ぎない
ということ、
せめてそれくらいは
君と
わかり合いたい。
2012/02/10
私の心は海の底
大きな貝の殻の中
もしも朝日が射したなら
真珠色に輝いて
うっとりさせて見せようものを
なかなかに
貝の殻は開かない
ましてや
海の底なれば
2011/08/26
夜が始まって夜が終わるまでのどこかで
彼女は跡形もなく消えてしまった。
すうっと音もなく切り開いた夜の隙間から
するりと音もなく抜け出たかのように。
「逃げたのではなく、隣の部屋に移動しただけ」
そう言わんばかりの鮮やかな手口。
彼女に見えて僕には見えない出口。
酔いたくなる夜にふと探してしまうけど、
見つからないことはとうにわかっている。
わかっていてもやめられない。
そんな夜だってあるさ。
2011/07/05
静かな
静かな
月の砂漠
誰もいない
たまに
隕石が落ちて
砂が舞う
でも
それだけ
誰もいない
ある日
青い星が光って
灰色になる
でも
それだけ
やっぱり誰も
誰もいない
2011/06/04
もしも夏に
雪が降ったなら
それはきっと
涼しかろ
だけど雪は
夏に降っても
きっとすぐに
消えるだろ
夏に降る雪
きのふれた雪
2011/06/02
降る雨に
あわてて逃げ込む
軒下あれど
ふられる恋に
あたたかく迎える
胸はなし
2011/05/21
さびしくなんかない
ちょっとつまんないだけ
さびしくなんかない
ちょっとかなしいだけ
さびしくなんかない
ちょっとやりきれないだけ