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Tome館長

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Tome館長

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  • 泥と樹

    泥と呼ばれ
     泥のような暮らしを続ける

       その女は 今

         泥の床にすわり
          泥の床になみだする


    暗い部屋の入口

      樹のように痩せた男は
       なすすべもなく

         樹のように立ちつくし
          樹のように見下ろすばかり

    時の屍

      鐘の音さえ届かず
       永遠に救われぬ

         ふたつの影


    泥はさびしく

     樹はかなしい
     

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  • 空の手ざわり

    視界の下半分に大空が広がり、
    私は雲ひとつない青い空を歩いている。

    視界の上半分を大地が覆い、
    私の頭上、逆さまになって浮いている。


    遠い山があり、近くには家もある。

    近くといっても、とても高い。
    いくら飛び跳ねても手は届かない。

    あんなに高くて、しかも逆さま。
    もう家には帰れそうにない。

    山羊も川の水も落ちてはこない。
    つまらない期待などしない方がいい。


    立ち止まって、私はひざまずく。

    そっと両手を足もとに伸ばしてみる。

    いかにも空の手ざわりがする。
     

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  • 倉庫の床

    縛られ、倉庫の床に転がされている。

    コンクリートの床の冷たさとかたさは 
    ああ、拉致されているんだなあ 
    という感慨で私の胸を一杯にさせる。

    肩から足首まで焼き豚のように縛られ 
    さらに両手に手錠までかけられていながら 
    猿ぐつわを口にはめられていないのは 

    ここが、大声で救いを求めたとしても 
    救助される見込みのない僻地であることを 
    露骨に暗示している、ように思われる。

    見張りはいない。私ひとりきりだ。

    見上げると、倉庫の高い天井に
    一匹のコウモリがぶら下がっている。

    まさかあれが見張りとは思えない。

    ときおり遠い汽笛のような音がするのは
    窓の隙間から風が入るためだろう。

    曇りガラスなので屋外の景色は見えない。

    なんとかすれば立ち上がれそうだが 
    なんとなく立ち上がる意欲が湧かない。

    縛られ、倉庫の床に転がされているのも 
    そんなに悪くない、ような気がする。
     

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    • Tome館長

      2014/09/05 10:06

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2011/05/06 12:17

      ケロログ「しゃべりたいむ」かおりサンが朗読してくださいました!

  • 鏡も見ず

      麻痺した触覚を頼りに
       そおっと指先でつまんで

         べりべりべりべりべりべりと

           はがした唇の干からびた皮を
            どこに捨てようか

          考えてない


    痛みを伴い

      錆びついた血の味を
       ぬらりと舌先に感じ

         ぺろぺろぺろぺろぺろぺろと

           濡れはじめる唇のひび割れを
            見せつけようとして

          誰もいない
     

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    • Tome館長

      2011/09/11 19:00

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2011/04/01 00:35

      ケロログ「しゃべりたいむ」かおりサンに朗読していただきました!

  • 危険な丘

    異臭漂う危険な丘の上では

    ドラム缶から黄色い液が流れ
    錆びたボルト草にナットの花が咲く


    六本足のネズミが笑っている横では
    病気持ちの浮浪者が眠っている


    潰れた車体から白い足をはみ出して
    いかれた歌を口ずさんでいるのは

    家を出たばかりの家出少女


      なんだか あたし
      猫に蹴られて 死にたいな

      とっても あたし
      猫に蹴られて 死にたいな
     

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    • Tome館長

      2011/09/27 21:38

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2011/05/27 13:24

      ケロログ「しゃべりたいむ」かおりサンに朗読してもらいました!

  • 亀 沼

    昔、この沼に一匹の亀がいた。


    沼から出たことのない臆病な亀は
    頭さえ滅多に甲羅から出さなかった。

    蛇が首に巻きついたことがあって以来
    首を伸ばすことができなくなったのだ。


    ほとんど動かないため
    亀の甲羅に苔が生えてきた。

    茸が生え、
    やがて草まで生えてきた。


    緑に覆われ、
    甲羅の下から根が伸び、

    ついには水面に浮かぶようになった。


    そして、そのまま
    風に吹かれて漂うのだった。


    ここが亀沼と呼ばれ、
    浮き島があるのは

    つまり
    そういうわけなのだ。
     

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    • Tome館長

      2012/07/03 23:00

      ケロログ「mirai-happiness☆」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/06/25 16:36

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • おもちゃ

    わたしはおもちゃ
    遊んでもらうためにつくられた

    わたしを使ってたのしんで


    なんでもいいの
    どうでもいいの

    見つめられたらほほえむわ
    さわられたら感じちゃう

    こわれるくらいはげしくね
    よろこんでもらえたらうれしいわ


    ねえ 教えて
    どんなことするの

    あんなことするかしら
    こんなこともするかしら

    そんなことまでするなんて


    でもいいの

    なんだっていいの
    どうだっていいの


    飽きられたら
    なんにもできない役立たず

    おもちゃ箱の暗い底
    ほこりにまみれて泣くばかり
     

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  • 雨 女

    ここは
    雨女の通り道

    傘も持たずに
    通しゃせぬ

    濡れたくなけりゃ
    早くお帰り

    途中で会っても
    知らんぷり

    目を合わせちゃ
    いけないよ

    めそめそ泣いても
    いけないよ

    同情なんか
    もってのほか

    濡れるのは
    雨のせい

    通り過ぎるのを
    静かにお待ち

    寂しいだけさ
    雨女

    一緒に虹を
    見たいだけ
     

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    • Tome館長

      2012/06/18 23:13

      ケロログ「mirai-happiness☆」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/06/14 18:36

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • イグアノドン

    イグアノドンが森へ帰ってゆく


      長いのか短いのか
      楽しいのか哀しいのか
      よくわからない一日を終えて


    イグアノドンが森へ帰ってゆく


      夕暮れの赤い空が
      その大きすぎる背中を
      小さなシルエットに変えて


    イグアノドンが森へ帰ってゆく
     

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  • 風のノック

    ある風の強い日に
    誰か

    玄関のドアを
    ノックする。


    「どなたでしょう?」

    返事がない。


    ドアを開けても
    誰もいない。


    ただ風が
    髪をゆらすだけ。
     

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