Tome Bank

main visual

Tome館長

m
r

Tome館長

CREATOR

  • 3

    Fav 1,206
  • 9

    View 6,102,307
  • p

    Works 3,356
  • 鼠の檻

    2008/11/14

    暗い詩

    狭い檻の中にたくさんの鼠がいる。
    動かないのも動きまわっているのもいる。


    動かない鼠は檻の隅に丸まり、
    自分自身の前脚を齧っている。

    出血はない。
    すでに前脚は死んでいる。


    この檻の中には、逃げる場所がない。


    檻の隅で逃げたつもりになるしかないが
    動きまわる鼠に尻を齧られることになる。

    それでも隅の鼠は動こうとしない。


    動きまわる鼠は暴れるだけ暴れ、
    齧る、引っ掻く、引きずりまわす。

    わけもなく暴れずにいられないのだ。


    狭い檻の中でうごめく無数の鼠の群。

    尻尾の千切れてない鼠は一匹もいない。
     

    Comment (2)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
    • Tome館長

      2011/10/09 00:17

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2011/10/08 13:21

      「さとる文庫」もぐらさんが朗読してくださいました!

  • 爪の絵

    2008/11/04

    暗い詩

    高名なる爪彫師に白い手首を贈ります。

      細い華奢な指たちが泳いでいます。

        いったい誰の髪を撫でたのかしら。
         それとも誰の背中を傷つけたの。

           ほら、ひどく懐かしい気がしませんか。


    思い出の指輪の跡が残っているみたい。

      あら、まさか忘れたのかしら。
       それとも、忘れたふりかしら。

         これもあれも、爪の絵だって消えるもの。

           ほら、彫刻刀の先が少し震えませんか。
     

    Comment (2)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
    • Tome館長

      2012/04/08 01:29

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2011/10/04 20:39

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 大 砲

    2008/11/02

    暗い詩

    じつに立派な大砲である。
    太くて長くて黒々と光っている。

    大砲は二つの車輪の上に乗っており、
    牛馬で引いて移動することができる。


    その大きな二つの車輪のどちらにも

    頭と手足が正五角形になるような状態で
    若い女が鎖で縛りつけられている。


    敵国の皇族の姉妹だということだが

    破れた皮衣を着せられているだけで
    その白い両脚はむき出しになっている。


    今は車輪の上の位置に彼女たちの頭があり、

    豊かで長い髪が垂れ下がっているために
    彼女たちの顔を見ることはできない。

    だが、弾丸が発射されると

    その反動で大砲が後退し、
    いくらか車輪が回転するため

    彼女たちの美しい顔を見ることができる。


    そうやって顔を見ることはできるが

    いくら続けて弾丸が発射されても
    彼女たちの悲鳴を聞くことはできない。


    それが彼女たちに残された唯一の抵抗、
    あるいは誇りであるらしい。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 姿 見

    2008/10/30

    暗い詩

    嫁入り道具の箪笥に貼りついた姿見が
     ある朝、めりめりと音を立てて剥がれ、

       戦場で消息が途絶えたはずの夫が現われる。


    割れた硝子の破片が女の手首に突き刺さり、
     手首から床に垂れ落ちる血を女は見詰める。

       それを夫も表情のないまま見詰めている。


    ねじ切れそうなくらいに首をねじ曲げ、
     女は項垂れたまま窓から曇り空を見上げる。

       醜くなるほんの手前まで歪んだ美しい顔。


    やがて女の悲鳴が陰々と響き始める。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • ガラス瓶

    2008/10/20

    暗い詩

    ガラス瓶に占領された部屋の中で
    男はガラス瓶を眺めて暮らしている。


    ガラス瓶の中には
    様々な美女が入っている。


    好みの美女を街角で見つけると
    男は卑怯な手段で部屋に連れ込み、

    眠らせて無理やりガラス瓶に詰め込むのだ。


    囚われの美女たちにプライバシーはない。
    充血した男の眼から逃れることはできない。

    ときどきガラス瓶の首をつまんで振ったり、

    気が向けば逆さにしたり、
    空中に放り投げたりもする。


    美女たちが泣くと
    男はガラス瓶に耳を押し当てる。

    溜まった涙で溺れそうな幼女もいる。
    死んだふりしてる少女もいる。
    諦めて笑ってる女もいる。


    彼女たちがいつまでも若々しく見えるのは

    おそらくガラス瓶の口にしっかりと
    コルク栓がはまっているからだろう。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 遺 書

    2008/10/11

    暗い詩

     
    このまま生き続けてゆくと

    くだらないことやつまらないこと
    いやらしいことやみじめなこと

    そのほかどうでもいいような
    やりたくもないことをどうしても

    やらなければならなくなる。


    それはもう
    はっきり決まってる。


    でも、
    まあそういうのは

    おいおい慣れてしまえば
    なんでもないことなのであって

    なかなか楽しいこととや
    いいことだってあるわけだから

    そんなに気にすることはない。

    気にすることはないのだ。

    そう思う。


    そう。

    たしかに
    気にすることなんかない。

    たしかに
    そう思う。


    そう思うんだけど

    それはまあ
    そうなんだけど

    うまく言えないんだけど

    そういうのは
    なんというかな

    とにかく



    いやだ!
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 幼い魔女

    2008/08/19

    暗い詩

    まだ魔法は うまく使えない
    なかなか呪文 おぼえられなくて

    空飛ぶホウキも 折っちゃたし
    わたし 魔法なんていらないの

    ああ なんだかとっても 眠くって

    だって あんなに空が 高いのは
    ほら こんなに地面が 低いから

    うまく笑顔 つくれないのは
    嘘つき手鏡 割れたから

    いいの 冒険なんか したくない
    ほっといて 恋なんか 知りたくない

    暗い屋根裏部屋で 猫と遊ぶの
      

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • ブロイラー

    2008/08/15

    暗い詩

    魔法の箱の前

      なにもせず
       待っている

         欲しいものは
          与えられるもの


      だから
       おまえは

         ぶよぶよで

           ぶよぶよぶよぶよ
            ブロイラー

     

    逃げようとして

      気がつけば
       そこにいる

         魔法の箱から
          こぼれる餌


      だから
       おまえは

         ぶくぶくで

           ぶくぶくぶくぶく
            ブロイラー
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 生 肉

    2008/08/09

    暗い詩

    腐ったと気づいたのは、
    捨てられた後だった。


    可能性として、
    あいつが先に腐ったと気づいて、

    あたしが気づく前に捨てたのかもしれない。


    ありそうな話だ。

    というか、
    ありふれた話か。


    どうして食べてもらえないのかなって、
    随分と悩んだもんだよ。


    本当に腐っていたのなら仕方ない。
    まあ理解できる。

    だけど、
    まだそんなにいたんでなかったと思う。

    まだそれなりにおいしかったはずだ。


    そう信じたい。


    あいつの舌が肥えたのかな。
    鼻が鋭くなったのかな。

    腐りかけが旨いという俗説も
    聞いたことがある。


    なんにせよ、
    こんなに腐ってしまってはおしまいだ。

    こんなに崩れて、
    こんなに蛆まで湧いてしまって。


    ああ、蛆さえ愛しいよ。
    おいしそうに食べてくれるから。


    そのうち誰も相手にしてくれなくなるんだ。
    決まってる。

    土になるんだ。
    堆肥かな。

    まあ、似たようなもんだね。


    そこから雑草なんか生えたりして、
    嫌われたりして。

    庭の掃除の日、
    あいつに鎌でスパッと刈られたりして。

    それでおしまい。


    笑っちゃうね。
    もう笑うしかないよね。

    いまさら笑ったって
    どうにもならないけどね。


    あはは。
     

    Comment (2)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
    • Tome館長

      2012/04/15 10:12

      「Spring♪」武川鈴子さんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/04/10 16:41

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • なくした顔

    2008/07/28

    暗い詩

     
    顔をなくして しまったの。
    どこかに落として しまったの。
    さがしたけれど 見つからないの。
    こまってしまって 泣きたいの。
    でも 顔がないから 泣けないの。


    あんたの言葉 思い出すの。
    「おまえの顔なんか 見たくない」
    あんまりだなって 思ったけど、
    そんなこと 言わなくたって
    もう あわせる顔が ないの。
     

    Comment (2)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
RSS
k
k