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    Works 3,356
  • 首のない人形

     

    あやしげな薬を飲んだ。
    彼に無理やり飲まされたのだ。

    彼も一緒に飲んでくれたけど。

    「心配ない。楽しくなるだけさ」

    でも、別に変わったことはない。
    彼が消えてしまったことくらいかな。

    それで部屋を見まわしてみたら
    首のない人形が床に落ちていた。

    ミニ断頭台とセットの人形だろう。
    彼はとても悪趣味なのだ。

    かわいそうに思って拾ってやる。

    かわりの首をつけてやろうと探したら
    ベッドの上に適当な首があった。

    よく見たら、彼の首だった。
    彼の首は心配そうな顔をしている。

    「どう? 大丈夫?」
    「ええ、大丈夫みたい。あなたは?」
    「うん。平気だよ」

    それを聞いて安心した。
    安心したら嬉しくなってきた。
    嬉しくなったら笑いたくなってきた。

    笑い出したら止まらなくなって
    死ぬかもしれないくらい笑ってしまった。

    彼の首が困ったような顔をしている。

    またそれがおかしいのだけれど
    さすがに心配になってきた。

    笑っている場合ではなかったのだ。

    「で、接着剤はどこ?」

     

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    • Tome館長

      2012/05/19 00:16

      「しゃべりたいむ」かおりさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2011/09/18 16:52

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 木の枝の上

    僕は熱血野球少年だった。

    ある朝、バットを持って玄関を出たら
    女の子が生け垣に絡まっていた。


    「キミ、そんなところでなにしてるのさ」
    「なんでもないの」

    「そんなふうに見えないけど」

    「ところで、ねえ、知ってるかしら」
    「なにさ」

    「あのね、あたしがまだ小鳥だった頃、
     木の枝の上で、リスさんに聞いた話なの」


    僕が女の子に暴力を振るったのは
    あのときが最初だった。
     

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  • 神々の遊戯

    「もう準備できたんじゃない?」
    「うん。そろそろかな」

    「それにしても、手間かかったね」
    「なにしろ、立体ビリヤードだもん」

    「じゃ、みんなを呼んで始めよう」
    「OK!]


    宇宙空間に巨大な棒が次々と出現した。

    そのうちの一本が地球を
    「ドン!」と突いた。
     

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  • 御守り

    大型旅客機が墜落した。
    機体は跡形もなく大破した。

    原因不明の大惨事であった。

    ところが一名、
    奇跡的にも生存者がいた。

    しかも、まったくの無傷なのだった。

    さっそく病院にて記者会見が行われた。
    それは生中継で全国に放送された。

    「まさに奇跡ですね」
    「ええ、まあ」

    その男は落ち着いていた。

    「どうして助かったのですか?」
    「たぶん、この御守りのせいでしょうね」

    男はありふれた御守りを取り出して見せた。


    全国の視聴者から冷たい視線が注がれた。

    (なんだって? 御守りだって?)


    その瞬間だった。
    病院が爆発したのは。

    建物は跡形もなく崩壊した。
    全員が即死であろうと思われた。

    ところが、たった一名、
    生存者がいた。

    しかも、まったくの無傷なのだった。


    男は深くため息をつき、
    御守りを見下ろして呟いた。

    「・・・・・・そんなに自慢したいわけね」
     

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    • Tome館長

      2012/06/23 11:36

      ケロログ「しゃべりたいむ」かおりさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/05/01 15:37

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 丘へ続く小道

    遠い海鳴り、
    忘れられない記憶。


    海岸から丘へ這う蛇のような小道があった。

    目を閉じたまま
    僕はその小道を歩いていた。

    そんなふうに歩くのが好きだったのだ。

    小道は丘の上の白い家まで続いていた。

    大きな別荘で
    誰も住んでいなかった。

    こんな秘密の家が欲しいな、
    と思っていた。

    もうすぐ夏。
    海風が気持ちよかった。


    女の子の笑い声がしたので
    目を開いた。

    「だめよ。見ちゃダメよ」

    白い家の窓から
    小さな顔がのぞいていた。

    「そっちへ行くから、目をつむってなさい」

    玄関の扉が開き、
    あわてて目を閉じた。

    いかにも軽そうな足音が近づいてきた。

    「昨日も、同じことしてたよね」

    恥ずかしかった。
    どんな女の子だろう。

    「見ちゃダメよ。今、裸なんだから」

    思わず目を開いてしまった。

    ウソだった。
    彼女は水着姿で笑い転げた。


    「あのね。いいもの見せてあげる」

    彼女に手を引かれ、
    白い家の中に入った。


    それだけ。

    あとは記憶がない。
     

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  • 海の王子

     
    もう随分昔のことですが、
    珊瑚の髪を波に洗う海の王子がおりました。


    王子がヒトデを枕に海面を見上げると、
    クラゲがいくつも浮かんでいたそうです。

    「ああ、海の王女はどこにおられるのか」

    呟きは泡となり、海中をのぼるのでした。


    夕焼けより美しいという伝説の王女。

    魔女にさらわれた王女をさがし求め、
    王子は長く苦しい旅を続けていたのでした。


    ふと、王子の耳もとで囁く声がしました。

    「王子様、私が海の王女です」

    それは真珠のように美しい声でした。

    ところが、その姿ときたら、
    まるで排泄物のように醜いのでした。


    「・・・・・・かわいそうに」

    王子はすぐに理解しました。

    海の王女は、嫉妬深い魔女のせいで
    ナマコに変身させられていたのです。


    「王子様の接吻で、もとの姿に戻れます」

    醜いナマコの美しい声でした。


    さて、ここで王子は困ってしまいました。


    王子は決意していたのです。
    美しい海の王女を見るまでは死ねない、と。

    また、王子は覚悟もしていました。
    醜いナマコにキスするくらいなら死ぬ、と。


    そこで、海の王子は悩んでしまいました。

    ナマコのまわりを歩きまわりながら、

    首を振ったり、ため息をついたり、
    いつまでもいつまでも悩むのでした。


    美しい珊瑚の髪をかきむしりながら、
    今でも王子は悩んでいるかも知れませんよ。
     

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    • Tome館長

      2012/08/17 17:53

      ケロログ「しゃべりたいむ」かおりさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2011/10/17 19:32

      「瞬きすれば、まぼろし」アカリさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2011/09/12 20:48

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • リンチ

    海岸の波打ち際に首だけ出している。
    手足を縛られ、砂浜に埋められたのだ。

    打ち寄せる波が首を越えて顔面を洗う。
    もうすぐ満潮になる。なったらおしまいだ。

    じわじわと苦しみながら溺れ死ぬ恐怖。
    古典的で典型的な血も涙もないリンチ。

    「畜生ども。いっそ一撃で殺せ!」

    いくら叫べども届く耳のない寂しい場所。

    いやだ。じわじわ苦しむのはいやだ。
    確実に窒息死する舌の噛み方を考えよう。

    うまく噛まなければ成功しないだろう。
    一度失敗したら、二度目には噛む舌がない。

    練習している暇はない。もう限界だ。
    この波が引いた瞬間に舌を噛むのだ。

    「なにしてるの?」

    子どもの声だった。しめた!

    「おお、いい子だ。助けてくれ」

    まだ幼い女の子だった。

    顔のすぐ横にしゃがむので
    スカートからパンツが丸見えだ。

    「なにしてるの?」

    説明している場合ではないのだ。

    「なんでもいいから、助けてくれ」
    「なにしてるの?」

    ああ、時間がないのに。

    「リンチだ」
    「リンチ?」

    「そう。リンチされたんだ」
    「リンチってなに?」

    かなり海水を飲んでしまった。

    「こ、殺される。し、死ぬ」

    女の子が笑う。

    「あはは、おもしろい顔」
    「た、助けてくれ」

    「どうすればいいの?」
    「ここの砂を掘ってくれ」

    あごと目で必死に場所を示す。

    女の子は素直に砂を掘り始めた。
    ありがたい。なんとかなりそうだ。

    ようやく肩が見えてきた。

    「いいぞ。もっと急いでくれ」

    胸も現われた。かなり砂がどけられた。
    かたわらに砂の小山ができた。

    途中で女の子は掘るのをやめてしまった。

    「どうした? もう少しなのに」

    女の子は砂の小山を撫でながら

    「お城、つくるの」

    また大量に海水を飲んでしまった。
    咳き込む。苦しい。涙が出る。死ぬ。

    「お、お願いだから、もう少し」
    「疲れちゃった」

    「なんでも言うことをきくから」
    「ほんと?」

    「本当だ。命をかけて誓う」

    女の子は再び掘り始めてくれた。

    上半身が自由になれば、もう大丈夫。
    必死に腰をくねらせて脱出に成功した。

    縛られた手足のまま乾いた砂浜に倒れる。
    助かった。生き延びた。奇跡だ。

    びしょ濡れの女の子が見下ろしている。

    「ありがとう。お嬢ちゃん」

    おろかな子だが、心から感謝する。
    命の恩人だ。女神だ。

    「なんでも言うことをきくのね?」
    「ああ、嘘はつかない」

    「ほんとね?」
    「本当だ」

    「あのね、わたしね」
    「うん」

    「リンチしたい」
     

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  • 大いなる兵士

    のどかな平和そのものの田園風景。
    風そよぎ、木漏れ日は揺れ、鳥が鳴く。

    緑の海を渡るように草原を渡る、少女。
    草原の真ん中で、少女は兵士を見つけた。

    とんでもなく大きな兵士だった。
    少女の腰がやっと兵士の小指の太さ。

    兵士は草の上に仰向けに倒れていた。
    巨大な機関銃をしっかり抱えている。


    少女は唇を少し開いて、夢見る表情。

    片耳に足を掛け、少女は兵士の顔に登る。
    剃り残しの髭があるから登りやすい。

    上唇を踏みながら鼻の穴を覗いてみる。
    穴は暗く、鉄柵状の鼻毛が伸びている。

    顎の端に立つと断崖にいるような気分。
    遠くに教会の屋根の十字架が見えた。


    鎖骨近くの皮膚に触れてみたら温かい。

    耳を当ててみると鼓動が聞こえた。
    木の幹の樹液の流れる音に似ている。

    (この人、生きているんだ!)

    世間知らずな少女は頬を赤らめる。
    その途端、兵士の胸から転げ落ちた。


    どこかに穴でも空いていたのだろう。

    落ちたところは、とても不思議な場所。
    まるで戦車の操縦室のように見えた。

    操縦席もあった。すぐに少女は腰掛ける。

    奇妙な形のハンドルとレバーがある。
    わけのわからないボタンが並んでいる。

    ひとつのボタンを少女は押してみる。

    正面の窓が上に開く。青空が見えた。

    レバーを引いてみると、衝撃があった。

    見下ろす風景。見覚えのある家々。
    大きな靴先が見える。兵士の靴だ。

    大いなる兵士が立ち上がったのだ。


    ハンドルをまわすと、風景がまわる。
    窓から見える風景は兵士の視界なのだ。

    少女は適当にボタンを押してみる。
    機関銃が持ち上がり、火を噴いた。

    教会の屋根が十字架ごと吹っ飛んだ。

    さらに少女は別のボタンを押してみる。
    なにかが空を飛んでゆく。爆発する。

    山が消えた。手榴弾かもしれない。


    大いなる兵士の中で少女はもう夢中。
    片っ端から次々とボタンを押してゆく。

    もう誰も少女を止められない。
     

    Comment (1)

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  • 「いってきまーす!」

    「鎖に絡みつかれないようにするのよ」
    「はーい、わかってまーす」

    いつものように家を出た。

    細い鎖が手首に絡みついていた。
    でも軽いから気にもならなかった。

    途中、友だちと待ち合わせをしていた。

    友だちはラクダ。
    それもフタコブの。

    ラクダはバス停の横にしゃがんでいた。

    「おっはよー!」
    あたしは友だちに手を振った。

    「うん」

    ラクダは極端に口数が少ない。
    返事してくれるだけでもマシな方だ。

    バス停には長い人の列ができていて 
    皆、首や肩に太い鎖が絡みついていた。

    (・・・・かわいそうに)

    あたしはラクダの背にまたがった。

    「乗ったよ」
    「うん」

    ぐらぐら揺れながらラクダは立ち上がる。

    振り落とされたら大変だ。
    あたしは友だちのコブにしがみついた。

    すると手首の鎖がほどけて地面に落ちた。
    その程度の鎖だったわけだ。

    バス停の人たちが羨ましそうに見ている。

    「しゅっぱーつ!」
    「うん」

    ラクダはよたよた歩き始めた。

    向こうからバスがやってきた。

    バスはおそろしく太い鎖に絡みつかれ
    そのため車体が醜くゆがんでいた。

    運転手なんか鎖に隠れて見えなかった。

    (そんなに無理しなければいいのに・・・・)

    ラクダは学校へ向かっていた。

    前方に校舎の屋根が見えてきた。
    真っ黒だ。鎖がとぐろを巻いている。

    なんだか気分まで重くなってきた。

    どうしようかな、と考えていたら
    同じ道を同級生の男の子が歩いている。

    「おっはよー!」

    ビクッとして男の子は振り向いた。
    「なんだ。おまえか」

    まぶしそうにあたしを見上げる。

    「なによ。朝の挨拶もできないの?」
    「ああ、おはよう」

    「ふん。もう遅いわよ」
    自分でも生意気と思うが、やめられない。

    「みたいだね。完全に遅刻だ」

    知らなかった。
    そんな時刻だったのか。

    そういえば彼には鎖が絡みついてない。
    あたしは嬉しくなった。

    「ねえ、これから土手まで行かない?」

    ちょっと驚いた表情の男の子。
    少しは迷いがあるらしい。

    「いいけど、ひとつ条件がある」

    子どものくせに大人びた口をきく。
    でもあたし、そういうのきらいじゃない。

    「なによ?」

    男の子はぐるりと背後にまわった。
    それからラクダの尻尾をつかんで

    「ぼくも乗せてよ」

    あたしのかわりにラクダが返事をした。
    「うん」

    で、また今日も学校、さぼっちゃった。
     

    Comment (2)

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    • Tome館長

      2012/09/15 18:36

      「しゃべりたいむ・・・」かおりさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/04/09 00:15

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 紫の姫

    青い騎士と赤い騎士が、決闘をします。


    青い騎士は、賢くて美しい。
    赤い騎士は、強くてたくましい。

    勝者は、紫の姫を妃とします。
    敗者は、死神を友とします。


    紫の姫ときたら、かわいそう。

    「お願い。どちらも死なないで」

    美しい紫の涙がこぼれます。

    「片方だけじゃ、あたし、いや!」
     

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      投稿
    • Tome館長

      2012/10/09 13:56

      「しゃべりたいむ・・・」かおりさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2011/07/21 12:49

      「こえ部」で朗読していただきました!

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