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Tome館長

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  • 切り抜き

    散歩していると、美しい風景に出会う。
    たとえば、橋の上から眺める夕焼け。

    おもむろに鞄からハサミを取り出し、

    折らなくても鞄に入るサイズで
    その美しい場面を急いで切り抜く。


    瞬時に切り抜かなければならず、
    どうしても切り跡が雑になりやすい。

    だから帰宅したら、仕上げが必要。
    定規とカッターで長方形にカットする。

    それから、分類してファイリング。


    もうかなりファイルが溜まった。
    だから、うるさくてかなわない。

    本日の収穫は、下校途中の女学生。
    ただし、スカートを少し切ってしまった。


    「ひどい! どうして!?」

    切り抜かれた少女が怒ってる。


    「ごめん、ごめん」

    謝りながら、僕はつい笑ってしまう。

    「だって、急に風が吹いたんだもん」
     

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  • 小 人

    幼かった頃、僕は小人を飼っていた。


    ガラス瓶に詰め、しっかり栓をはめ、
    小人が逃げられないようにしていた。

    両親にも兄弟にも秘密だった。
    打ち明けるような友だちもいなかった。


    飢えて死なないように
    小人には砂糖水や果汁を与えていた。

    いつも夜が楽しみだった。

    小人の瓶と懐中電灯を抱えて布団に潜る。
    掛け布団でやわらかな洞窟をつくる。

    懐中電灯を点け、瓶の栓を抜く。
    うれしそうに小人が出てくる。

    指で追いかけると逃げまわる。
    指が逃げると追いかけてくる。

    おかしな転び方をする。
    笑ったり、泣き出したりもする。

    泣き声が聴きたくて
    小人をいじめたこともあったっけ。


    ところが、ある晩のこと、
    小人と遊びながら、つい眠ってしまった。

    翌朝、ガラス瓶は空っぽで
    どこにも小人の姿はなかった。

    とうとう小人は逃げてしまったのだ。

    布団のシーツに染みがついていた。
    嗅いでみると、変な臭いがした。


    それでおしまい。

    あれから小人は見ていない。 
     

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  • 高い塔の上の泥棒

    高い塔の最上階に三人の泥棒が住んでいました。

    階段が壊れていたので誰も訪れず、
    また誰も住んでいないものと思われていました。


    年若いのに、三人は立派な泥棒でした。

    大胆な計画、綿密な準備、巧妙な手口。
    盗まれたことを相手に気づかせないほどです。

    時には、盗んで感謝されることさえあるのでした。


    「僕、侯爵夫人は素敵な方だと思うな」

    「でも、あの宝石飾りの帽子は似合わないわ」
    「そうそう。せっかくの気品が台なしだ」

    「かわいそうだから盗んであげようよ」
    「あら、盗むほどのことかしら」

    「だから、あの真ん中のルビーだけさ」
    「そうか。あの飾りが悪いわけね」


    そんな物騒な相談を、三人の泥棒は
    仲良くいつまでも高い塔の上でするのでした。


    (案外、それほど悪人ではないのかもね)
     

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    • Tome館長

      2013/06/22 01:49

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/06/20 17:32

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/03/18 22:14

      「しゃべりたいむ」かおりさんが朗読してくださいました!

  • 鬼ごっこ

    寺の小僧が指を立て、大声で叫んだ。
    「鬼ごっこするもの、この指とまれ!」

    すぐにいろんなのが集まってきた。

    妙に鼻が高いの。
    手に水掻きがあるの。

    角を生やした鬼の子までやってきた。
    とりあえず、この鬼の子が鬼になった。

    「鬼さんこちら、手の鳴るほうへ」
    オカッパの女の子が囃し立てた。

    すぐに鬼の子は女の子を捕まえた。

    「鬼さん、遊びよ。食べないで」

    でも鬼の子は、やっぱり鬼の子。
    真っ赤な顔して食べちゃった。
     

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  • 暖炉の前

     
    赤々と燃える暖炉の前、
    男の子と女の子が遊んでいます。


    「シュッシュ、ポッポ、シュッシュー」
    「ああ、やっと汽車が入ってきたわ」

    「プシュー、プシュー」
    「さあ、これから遠くへ旅立つのだわ」

    「お嬢さん。お荷物をお持ちしましょう」
    「あら、素敵な方。どうもありがとう」

    「いいえ、どういたしまして」

    「あなたもひとり旅ですの?」
    「そうかもしれません。そうでないかも」

    「どちらまで?」
    「お嬢さんと同じところまで」

    「あたくしの行く先をご存じなの?」
    「知りません。でも同じなのです」

    「あたくしは終着駅まで行くわ」
    「では、僕も終着駅まで」

    「そこからバスに乗るの」
    「だったら、僕もバスに乗る」

    「残念ながら、ひとり乗りのバスなの」
    「ひとり乗りのバスなんてないよ」

    「世界に一台だけ、そこにあるの」
    「そのバスの運転手、じつは僕なんだ」

    「ああ、そうくるわけね」

    「お嬢さん。そろそろ出発しますよ」
    「すると、この汽車の運転手もあなたね」

    「シュッ、シュッ、シュッシュッシュッシュッ」
    「あたくし、次の駅で降りますわ」

    「ポッポー!」
     

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  • ミイラとダンス

    屋根裏部屋でミイラを見つけたのは
    かくれんぼして妹と遊んでいた時だった。

    それは干からびてホコリにまみれていた。


    「ミイラさん、見ーつけた!」

    妹は無邪気な声で叫んだものだ。

    奇妙なことに、ミイラは首を振った。

    「やれやれ、とうとう見つかったか」

    年代を感じさせるミイラのかすれ声。

    おもむろにミイラは立ち上がった。
    古い扉を無理に開くような音がした。

    「久しぶりに動くものだから、体が重い」

    ミイラはううんと背伸びをした。
    そして古い建物が壊れるような音がした。

    そのままミイラは崩れてしまった。
    背骨も腕も脚も首も折れて、崩れた。

    屋根裏部屋全体にホコリが舞い上がった。


    そのままミイラは動かなくなった。
    爪先で突いてみたが、反応はなかった。

    傾いた窓からは、午後の白けた日差し。


    妹はため息をつき、ぼそっと呟いた。

    「あーあ、一緒に踊りたかったのに」
     

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    • Tome館長

      2012/06/18 23:12

      ケロログ「mirai-happiness☆」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/06/07 13:02

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 花占い

     
    やわらかな春の風が吹いています。

    小鳥のさえずる美しい草原で
    女の子が花占いをして遊んでいます。


    「ひとつ、ふたつ、みっつ、・・・・・・」

    そのかわいらしい声。

    「好き、きらい、好き、・・・・・・」

    そのあどけない瞳。

    「大好き、大きらい、大好き、・・・・・・」

    飽きもせずに繰り返します。


    やがて、夕暮れになりました。

    「そろそろ帰るわよ」

    ママが呼んでいます。

    「はーい!」

    女の子は元気よくかけてゆきます。

    「楽しかった?」

    ママがたずねます。

    「うん。すっごく楽しかった」

    その無邪気な笑顔。


    女の子を乗せて扉が閉まります。

    乗り物は空に飛んでゆきました。

    夕焼け空にきらりと輝く一番星。


    翌朝、この星の住民は大騒ぎです。

    「これはむごい。信じられん」
    「ここにも。ああ、そこにも・・・・・・」

    「バラバラ殺人事件だ!」
     

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  • タイル渡り

    待ち合わせ時刻には早かったので
    時間つぶしに近くの公園に寄ってみた。

    地面にはすべてタイルが敷かれてあり、
    見た目のきれいな公園だった。

    心を落ち着かせるなら土の地面だが
    タイルの地面は心を躍らせてくれる。

    赤や青や緑、色とりどりのタイルを
    眺めているだけで笑いたくなってくる。

    ところが、女の子が泣いていた。
    近くに母親はいないようだった。

    見渡しても、公園には母親どころか
    おれと女の子の他に誰もいないのだった。

    しかたないな、とおれは思った。

    「どうしたの?」
    声をかけると、女の子は泣きながら見上げた。

    おれは慌てて膝を折ってしゃがんだ。
    大人が子どもを見下ろすのは賢明ではない。

    泣きながらでは話しにくいのか
    女の子は人差し指で足もとを示した。

    彼女はピンク色のタイルの上に立っていた。

    「これはピンクのタイルだね」
    泣きながら女の子はうなずいた。

    うなずかれてもおれは困ってしまう。
    「ピンクのタイルがどうしたの?」

    ふたたび女の子は人差し指で示した。

    彼女が立っているピンクのタイルから
    少しばかり離れたところ。

    それもピンクのタイルだった。
    「あれもピンクのタイルだね」

    泣きながら女の子はうなずいた。

    あいかわらずおれは困ってしまう。
    「あのピンクのタイルがどうしたの?」

    女の子はピンクのタイルに片足で立つと
    もう片足を前へ伸ばした。

    伸ばした先にピンクのタイルがあった。

    (ああ、そうか!)
    ようやくおれは理解できた。

    この子はタイル渡りをしていたのだ。

    同じ色のタイルだけ踏むことができて
    途中で別の色のタイルを踏んではいけない。

    そういうルールのひとり遊びをしていたのだ。
    いかにも子どもがやりそうなゲームだ。

    途中で渡れなくなって泣いていたのだ。

    「よしよし、わかった」

    おれは女の子の体を持ち上げ
    そのまま別のピンクのタイルに運んでやった。

    彼女はすぐに泣きやんだ。
    「おじさん、ありがとう」

    おにいさん、と呼んで欲しかったが
    こんなに幼くては、まあしかたないか。

    「どういたしまして」

    女の子は兎のようにピョンピョン飛び跳ね
    ピンクのタイルを次々と踏んでいった。

    公園の出口の前まで跳ねると、手を振った。
    「バイバイ!」

    おれも手を振ってやった。
    「バイバイ」

    女の子はピョンと跳ねて公園から消えた。

    おれはベンチに腰を下ろし、腕時計を見た。
    約束の時刻にはまだ間があった。

    暇で、すぐに退屈してしまった。
    (なにかおもしろいことないかな・・・・)

    なに気なく足もとを見下ろすと
    片足がピンクのタイルを踏んでいた。

    公園にはやはりおれしかいなかった。
    立ち上がると、おれはタイル渡りを始めた。

    やってみると、なかなか楽しい。

    かなり離れた場所のタイルに着地できると
    子どもみたいに嬉しいのだった。

    ふと腕時計を見ると、もう時間だった。
    タイル渡りもおしまいだ。

    おれはピンクのタイルから足を浮かせ、
    公園の出口に向かって歩き始めた。

    その途端、おれはひどいめまいを感じた。

    気がつくとおれは、公園の地面の下、
    息もできないくらい深く埋まっていたのだった。
     

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  • 時 震

    毎日のように姉にいじめられていた。


    まだ幼かったから、理解できなかった。
    どうしていじめることができるのか。

    こんなふうにいじめられる者の気持ち
    少し考えれば、すぐにわかるはずなのに。

    姉は想像力が乏しいのだと思っていた。


    だけど、幼かったから忘れていたのだ。


    ある時、世界中の時計が狂ったという。

    つまり時震、時間の大震動が起こったのだ。


    やっと思い出した。
    そうだったのだ。

    昔、姉なんかいなかった。


    そういえば、よく妹をいじめていたっけ。
     

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  • 小夜ちゃん

    明日は、待ちに待った遠足の日。

    小夜ちゃんが楽しそうに歌いながら
    リュックに荷物を詰めています。

    「教科書なんか、一冊もいーらない!」

    もう嬉しくてたまらない様子。

    「お弁当より、お菓子がたーくさん!」


    その時でした。

    突然、リュックの中から何者かが
    小夜ちゃんの手首を強く引いたのです。

    たちまち小夜ちゃんは引き込まれ、
    リュックの底にズドンと落ちてしまいました。

    「うーん。痛いな、もう」

    腰をさすりながら、ブツブツ文句を言います。

    リュックの中は意外と広いのでした。

    中央には真っ白なベッドが置いてあります。

    そのベッドの上には真っ黒な熊がいて
    しきりに小夜ちゃんにお辞儀をしていました。

    「乱暴なことして、ごめん」

    と謝る熊に、小夜ちゃんは尋ねます。

    「あなた、誰?」
    「熊だよ。ぬいぐるみではないよ」

    「こんなところで、なにしてるの?」
    「会いたくて、待ってた」

    「誰に?」
    「君に、小夜ちゃんに」

    「わたしに? どうして?」

    小夜ちゃんにはわけがわかりません。

    熊は、困っているように見えます。

    「明日は遠足だよね?」
    「うん」

    「チューリップ畑に行くんだよね?」
    「うん」

    「そこでね、ぼく、君を食べてしまうんだ」
    「ふーん」

    「小夜ちゃん、食べられてしまうんだよ」

    「そうなの?」
    「そうなんだよ」

    足もとにビスケットの箱が落ちていました。
    それを見て、小夜ちゃんは心配になります。

    (食べられるのは、食べる前かしら?
     それとも、食べられたあとかしら?)


    「わたし、本当に食べられちゃうの?」
    「うん。ぼく、本当に食べてしまうよ」

    「それ、困っちゃうな、わたし」
    「そうだろうね」

    「なんとかならないの?」
    「ダメなんだ。これ、運命だから」

    「そうなの?」
    「そうなんだよ」

    小夜ちゃんはビスケットの箱を蹴りました。

    リュックの中に引き込まれたわけが
    やっとわかったような気がしました。

    「そんなこと、わざわざ教えてくれて
     クマさん、どうもありがとう」

    「いいえ、どういたしまして」

    小夜ちゃんは、急に眠くなってしまい、
    ベッドの上の熊のすぐ横にもぐり込みました。

    ちょっと驚いた表情の熊に
    小夜ちゃんがつぶやきます。

    「クマさん、おやすみなさい」

    なんだか悲しそうな顔で、熊もこたえます。

    「小夜ちゃん、おやすみ」

    毛深い熊のぬくもりを嬉しく感じながらも
    小夜ちゃんは、ふと心配になるのでした。


    (・・・・・・明日の遠足、晴れるかしら?)
     

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