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Tome館長

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Tome館長

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  • 逃げ切れない

    あなたは密かに視られてる。
    ジッと盗撮されている。

     あなたはキョロキョロ
     あたりを見まわす。

      それらしき不審人物見当たらない。
      それらしきカメラも穴も見つからない。


    あなたは密かに聴かれてる。
    シッカリ盗聴されている。

     あなたはオドオド
     声をひそめる。

      いくら盗聴器さがしても
      そんなものは出てこない。


    あなたは尾行されている。
    常に監視されている。

     逃げ続けるのはあなたの定め。
     棲家を移り、雑踏に紛れ。

      それでも、あなたは逃げ切れない。
      あなたの中の消せない他人。
     

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  • あえぎ声

    俺は独身。
    時は真夜中。

    場所はマンションの一室。

    隣の部屋から壁越し、
    かすかに声が聞こえる。


    俺は耳を壁に押し当てる。

    「ああ、あああ・・・・・・」

    女のあえぎ声が聞こえる。


    俺は首をひねる。

    (はて、隣は空き家だったはず・・・・・・)


    そっと玄関のドアを開け、
    共用階段の踊り場に出る。


    隣の玄関ドアの新聞受けには
    「入居者募集」のステッカーが貼られたまま。

    見上げれば、電力量計。
    そのアルミニウムの円盤は微動だにしない。

    金属製のドアに耳を押し当てても、無音。
    自分の鼓動が聞こえるくらいだ。


    俺は自室に戻る。
    内鍵を閉める。

    まだ壁越しに声がする。


    マンションの構造上、天井から物音がしても
    真上の部屋が音源であるとは限らない。

    壁の場合も、そういうことがあるのだろうか。
    真横の部屋ではなく、その上下階であるとか・・・・・・


    再び俺は、壁に耳を押し当てる。

    「ああ、あああ・・・・・・」

    その声に聞き覚えはない。
    女の切なく悩ましい、あえぎ声。


    俺は、だんだん興奮してきた。

    股間に手が伸びる。


    その時だった。

    壁越しの女の声が大きくなったのは。

    「ああ、あああ、あんた・・・・・・聞いたわね」
     

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  • ほどけない帯

    彼女は若くて賢くて美人。
    大富豪ゴルディアス家の一人娘。

    「私を抱きたかったら、この帯をほどくことね」

    彼女の着物をきつく締める帯。
    その結び目は複雑怪奇。

    これまで多くの殿方が挑戦してきた。
    しかし、その結び目をほどいた者はいない。

    帯を切ろうとしても無駄。
    特殊な超合金繊維で織られてあるから。


    ある日、一人の若者が彼女の前に現れた。

    「我が名は、アレキサンダー」

    若者は、帯には手も触れなかった。

    ただ服を脱いで裸になっただけ。
    その美しい肉体を誇示するかのように。


    ・・・・・・そして、
    彼女の帯はほどかれた。

    彼女みずからの手によって。
     

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  • 帰りたくないの

    その女の髪には花が飾ってある。
    造花ではなく、本物の花。

    切り花ではない。
    頭に生えているのだ。

    花蜜に誘われ、蝶や蜂が寄って来る。
    そして、花粉にまみれて飛んで行く。


    「今夜、帰りたくないの」
    花弁に似た唇が囁く。

    「わかるでしょ?」
    その手相は、まるで葉脈のよう。

    「本当の私を見せてあげる」
    風に揺れるような悩ましい動き。

    「とても綺麗な花が咲いているの」
    甘く切ない蜜の香り。
     

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  • 子どもたちの時間

    お医者さんごっこをするというので
    タケシ君の家に僕たちは集まったんだけど、

    なんだか話が違っていた。


    「さて、具合はどうですか?」
    「ちょっとオナカが痛むんです」

    「そうですか。では、診察しましょう。
     まず、服を脱いでください」
    「はい、センセ」

    タケシ君はいつものようにミヨちゃんを診察する。


    僕はミヨちゃんが好きだから
    ミヨちゃんを診察したかったんだけど、

    タケシ君もミヨちゃんが好きで
    タケシ君は僕より年上で力も強いから

    僕はミヨちゃんの担当医になることができない。


    それならそれで僕は
    タケシ君の助手でも看護師でもかまわないというのに

    もうひとりの女の子のチーちゃんがいて
    僕はチーちゃんの相手をしなければならないのだった。


    僕はチーちゃんが苦手だ。
    ちょっと気が強い。

    それに、なぜかチーちゃんは患者になりたがらない。

    「あたし、女医をやりたい」
    「えー。それ、おかしいよ」

    「おかしくないよ」
    「だって、お医者さんごっこなんだよ」

    「女医さんごっこだっていいじゃない」
    「そりゃまあ、そうだけど・・・・・・」

    チーちゃんが怖い顔をする。

    実際、チーちゃんが本気で怒るとちょっと怖い。


    僕は聴診器をチーちゃんに手渡した。
    白衣も脱いで渡した。

    席も交代しなければならなかった。


    タケシ君のお父さんは本物のお医者さんなので
    僕たちの使う医療器具は、みんな本物。

    僕たちのお医者さんごっこは、なかなか本格的なのだ。


    「さて、おカゲンはいかが?」
    「どこも悪くないです」

    「どこも悪くないのに、どうしてここに来たの」
    「あの、ちょっと居心地が悪くて・・・・・・」

    僕はイスの上で、腰のあたりをムズムズさせて見せた。


    「それはいけませんね。では、診察しましょう」
    「えー。いいですよ」

    「良くありません!
     命にかかわるかもしれないんですよ」
    「ま、まさか」

    僕はちょっと気が弱いのだ。


    チーちゃんは一番大きな注射器を手に取った。

    「さあ。 半ズボンとパンツを脱いで
     センセにお尻を見せなさい!」
     

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  • あせらないで

    「ねえ、おまえ」
    私のことである。

    「これ、欲しいの?」
    私は首を縦に振る。

    「ダメよ。おあずけ」
    私は激しく首を横に振る。

    「そんなに欲しいの?」
    私は激しく首を縦に振る。

    「どうしようかな」
    私は身悶える。

    「それじゃ、ちょっとだけよ」
    私は息を荒げる。

    「あせらないで」
    私はヨダレを垂らす。

    「しょうがないわね」
    私は転げまわる。

    「はい。どうぞ」
    私は踊りかかる。

    「ああ。ダメよ」
    私は腰を振る。

    「まあ。すごい」
    私はもっと激しく腰を振る。

    「ちょっと待って」
    私はようやく気づく。

    「これをつけなくちゃ」
    私はそれをつける。

    「さあ。続けて」
    私はそれを続ける。

    「ああ。上手よ」
    私は悩ましく踊る。

    「とても似合ってるわ」
    お気に入りの腰ミノつけて。

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  • マッチ売りの女

    おれは暗い裏町を歩いていた。

    どこまでも暗かった。
    気が滅入りそうだった。


    「おじさん、マッチ買ってよ」

    若い女に声をかけられた。

    「いくら?」
    「いくらでもいい」


    一本だけマッチを買った。

    女はスカートの裾を持ち上げた。
    下着はつけてなかった。

    「いいのか?」
    「どうぞ、おじさん」

    マッチを擦った。
    火がつかない。

    もう一度擦った。
    火がつかない。

    きっと、しけてしまったんだ。

    「おじさん、なかなかつかないね」
    「ああ、つかないね」


    まったく、おれはついてない。



      まっち擦ッテ 燃エテルウチガ 人生サ
     

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  • 垂直の関係

    おれは浴室の床に裸で立っている。
    彼女は浴室の壁に裸でしゃがんでいる。

    つまり、おれたちは垂直の関係にある。

    湯煙の中、おれは彼女を見上げる。

    「いやーっ! あっちへ行って!」
    壁の彼女は天井ぎりぎりまで逃げる。

    なに、あせることはないのだ。
    どうせ浴室から逃げられやしない。

    浴室から出たら彼女、横に落ちてしまう。

    脱衣所を真横に抜けて 
    廊下の突き当りの窓から外へ落ちて 
    そのまま地平線の果てまで落下するのだ。

    彼女を狙って、おれはジャンプした。

    惜しい。
    もう少しで足首をつかめたのに。

    「だれか、助けて!」

    笑える。
    この家にいるのはふたりだけだ。

    近所に他人の家はない。

    もう一度、おれは思いっきり床を蹴った。

    (・・・・あれ?)
    なんとも妙な感じだった。

    着地したところに浴室の照明があった。
    それに、彼女がすぐ近くの壁にいる。

    すぐに彼女は上へ逃げてしまって
    見上げたところに浴槽と床があった。

    見下ろすと、足もとは天井だった。
    つまり、おれは浴室の天井にいるのだった。

    壁の彼女がくすくす笑い出した。

    いったい彼女 
    なにがおかしいというのだろう。

    おれたちはまだ 
    垂直の関係のままだというのに。
     

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  • 絡まる糸

    「愛してる、って言って」

    彼女が糸を吐く。


    「愛してる」

    その糸が僕に絡まる。


    「愛してる、ってやってみせて」

    僕は彼女にやってみせる。


    「愛されてるのね」

    彼女の糸が僕を操る。


    「私も」

    そして、僕を縛る。


    「愛しているわ」

    彼女が僕を食べ始める。
     

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  • 美しい花

    この花の名前は知らない。
    けれど美しい花だと思う。


    初めて咲いたときは
    小さくてつまらない花だと思った。

    でも、球根を譲ってくれた知人は言う。

    「もしも君が、花を美しくしたかったら、
     雄しべをね、すべて切ってしまうといいよ」

    それで僕は、ピンセットを使って

    花粉が雌しべに触れないように注意しながら
    全部の花から雄しべを抜いたんだ。

    こうすると、近くに同じ花はないから
    いくら待っても受粉できない。


    しばらくすると、花弁が大きくなった。

    その色も口紅のように鮮やかになり、
    なんとも言えない香りを漂わせ始めた。

    昼間だけ咲いていたのに
    そのうち夜も咲き続けるようになった。

    かすかに蛍光さえ帯びている。
    そして、いつまでも萎まない。

    いつまでも枯れず、咲き続ける。


    月明かりの夜、ひとりベランダで
    この美しい花を眺めていると、

    なんだか妙な気分になってくる。

    おかしな声まで聞こえてくる。


      ネエ オ願イ

      オ願イダカラ・・・・・・
     

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