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2012/11/12
「やめて。いけないわ」
闇の中で彼女はささやく。
「私には双子の妹がいるのよ」
ほら、彼女の言い訳が始まった。
「その存在を痛いほど感じるの」
会ったことさえないくせに。
「その妹のことが心配なのよ」
彼女の両親は否定しているが。
「だから私に触らないで欲しいの」
暗くて彼女の表情は見えない。
「双子の妹が感じてしまうから」
2012/11/02
とある映画館で
話題の新作を観ていた。
水深が膝くらいしかない浅いプールで
裸の若い男女のグループが戯れている。
そこへ武装警官らしき軍団が現われ、
若者たちを裸のまま拘束してしまう。
そして、手袋をしたまま体を撫でまわす。
「ほれほれ、どうだ、どうだ。
そろそろ密告する気になったか」
若者たちは抵抗できず、苦悶の表情。
女の武装警官もいて
かたわらで笑って眺めている。
やがて水しぶきが青い空に舞い上がる。
(なんなんだ? この映画は)
呆れてしまう。
さすがに映像は鮮明で美しいが
あの名監督の作品とはとても思えない。
わけがわからないまま考えていたら
太腿を撫でられるような感触があった。
見下ろすと
女の武装警官が床にしゃがんで
こちらを見上げて笑っているのだった。
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2012/10/28
その男の手が触れるもの
すべて乱れる。
時計に触れると
針が曲がって逆回転。
定規を使えば
折れて曲がって伸び縮み。
辞書引けば
誤字脱字の上、嘘ばっかり。
絵や写真まで乱れてしまう。
絵の中の裸婦が
卑猥なポーズ。
制服写真が水着、
水着写真はヌードになる。
女性に触れたら
さあ大変。
年齢、教養、知性を無視して
乱れに乱れる。
いやらしくも悩ましくも羨ましい。
ゆえに人々、
彼をミダラ王と呼ぶ。
しかしながらミダラ王、
あんまり幸せでない。
清純な乙女を愛すること、
ささやかな彼の望みは叶えられそうにない。
どんなピュアな少女でも
彼が触れたら不純物。
視線が合っただけで乱れちゃう。
だから近頃、
ミダラ王まで乱れ気味。
ミダラ王、
絶望してひれ伏せば
地面揺れ、地上乱れ、
大地、激しく歪み裂け、
やがて悩ましいまでに割れるのだ。
2012/10/19
僕は双子の家庭教師になった。
顔も体つきもそっくりなふたりの女の子。
いわゆる一卵性双生児の姉妹だ。
しかも、どちらも登校拒否児。
双子はなんでも知っているので
僕はなんにも教えることがないのだった。
どんな問題でも自分たちで判断できた。
そうとしか思えないのだった。
「先生。学校の勉強はいいの」
母親が部屋を出ると、そう言うのだった。
「そんなのどうでもいいのよ」
優秀な家庭教師がいればいい。
つまり、母親を安心させたいだけなのだ。
実際、学力は標準以上だった。
姉妹間での情報交換のスピードは速く、
ふたりだけにしか理解できない言葉を使う。
オリジナルの身振りや手話まで駆使する。
テレパシーだろうか、と思うことさえある。
「知らないことは本やパソコンで調べるから」
この家には広い図書室があって
ことに辞典類は下手な公立図書館より豊富だ。
彼女たちは勝手に勉強したり遊んだりする。
それに僕が参加すると邪魔なのだ。
母親の前で家庭教師らしく振る舞うこと、
それが僕の唯一の仕事なのだった。
しかし、僕にもプライドというものがある。
なにか教えられることがあるはずだ。
夢中で勉強しているらしい姉妹の背後で
僕はおもむろに服を脱ぎ始める。
「この部屋、なんだか暑いな」
上着を脱ぎ、下着も全部脱いでしまう。
そして、裸のまま姉妹のまわりを歩きまわる。
「ああ、暑い。とっても暑いな」
ただグルグルまわるだけでなく、
途中、いろんな奇妙なポーズをとった。
さすがの姉妹も僕に興味を持ち始めたようだ。
僕は双子の姉妹の熱い視線を肌に感じながら
逆立ちやトンボ返りまでして見せた。
「なかなか立派じゃないの」
片方が感心すると、もう一方も同意した。
「そうね。前の家庭教師よりはね」
2012/08/17
家に帰る途中、手首が落ちていた。
どうやら若い女の左手らしい。
「なんて愛らしい。
この白魚のような指たちときたら」
嬉しくなって、それをポケットにしまった。
足取りが軽い。
交番の前なんか知らんぷりして素通りだ。
角を曲がると、腕が落ちていた。
「なんて柔らかい。
この肘の内側の折れ線ときたら」
左腕であろうそれを手提げカバンにしまった。
不思議なことは意外に続くもので
さらに右の手首と腕も拾うことができた。
驚いたというか呆れたことに
両脚も別々に落ちていた。
「なんて絶妙なバランスなんだろう。
このふとももとふくらはぎの重さと弾力」
自宅の前にも落ちていた。
それは女の尻だった。
「いやいや、まいったな。
目のやり場に困ってしまうではないか」
玄関にも落ちていた。
女の胴体だ。
「おやおや、なんということだ。
この形の良い胸には見覚えがあるぞ」
寝室には女の首が落ちていた。
美しい顔だった。
それは妻の顔だった。
「なんだ。
せっかく楽しみにしていたのに」
2012/08/10
なぜか解剖されている。
腹を解剖バサミで切り開かれ、
そのまま皮を広げられ、
寝台の両端にピンで留められている。
執刀者はマスクをした女。
その切れ長な目に見覚えがある。
「どうして血が溢れないのでしょう?」
迷惑にならぬよう
小声で女に話しかけてみる。
「それはね、血抜きしてあるからよ」
意外と優しい人かもしれない。
腹の中から様々なものが取り出される。
ペンライト、馬蹄磁石、天体望遠鏡、・・・・・・
「これ、何かしら?」
ピンセットでつまんだものを見せつける女。
思わず赤面してしまう。
血が抜かれているのに不思議な事。
「なんでもありません」
「本当になんでもないの?」
「本当になんでもありません」
それがなんなのか
知られているような気がしてならない。
「あら、そうなの」
それを足もとのバケツの中へ投げ捨てる女。
話題を変えなければならない。
「麻酔はしないのですか?」
「あら、もう忘れたの?
あんなに太い注射、お尻にしたでしょ」
たしかに痛みは感じない。
痛みとともに記憶も消されたのだろうか。
「見つけた! こんなに爛れてる!」
眉間にしわを寄せる女。
「そんなにひどいのですか?」
「ひどいなんてもんじゃないわ!
完全に手遅れよ」
患部に解剖バサミの刃を当てると
いかにも汚らわしそうに目をそらし、
それを完全に断ち切ろうとして
女は歯を喰いしばった。
2012/08/04
妹は父の子を産んだ。
女の子だった。
でも、母に食べられてしまった。
私の妻も一緒に食べられた。
この妻は、私の姉でもあった。
私が父を殺すと、母は自殺した。
この母は、私の祖母でもあった。
妹は頭がおかしい。
だから、私の子も産んだ。
生まれた息子は狂っていた。
少なくとも、私より狂っていた。
私は息子に殺されるかもしれない。
なんとなく、そんな気がする。
私には息子を殺す資格がない。
なぜか、そう思う。
私が殺されたら、妹はどうするだろう。
泣いてくれるだろうか。
息子を食べてくれるだろうか。
それとも、息子の子を産むのだろうか。
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2012/07/02
まず、力を抜いて。
そう、身も心も楽にして。
さあ、私の目を見なさい
両目で両目を見るようにして。
恥ずかしがらず、物を見るような目で。
少しずつ近寄りますよ。
私の目が大きく見えてきますよ。
そのうち境界があいまいになり、
ふたつの目がひとつになりますよ。
あなたは眠くなるはずです。
ほら、あなたはだんだん眠くなる。
まぶたが重く、重くなる。
ほら、もう目を開けていられない。
目を閉じてもかまいませんよ。
どうぞ目を閉じてください。
あなたは我慢する必要ありません。
おやおや。
ゆっくり頭が前後に揺れていますね。
いいリズムです。
それは、あなたが望むリズムです。
あなたは、あなたです。
あなたの望むようにすればいい。
落ちたければ、どうぞ落ちなさい。
楽な世界へ、楽な世界へ。
下へ下へ、深く深く、どこまでも。
私の声が遠くから聞こえます。
はるか遠くから聞こえます。
意識が体から離れそうです。
もう体に触れられても感じない。
こんなことをされてもわからない。
いや、わかるかもしれませんが
いやな感じはしないはず。
こんなことをされても平気。
むしろ、なんだか気持ち良いくらい。
ほら、こんなことさえ許してしまう。
そう、自然に。
それでいいのです。
それが本来のあなたです。
いいですか、ほらほら。
もっともっと、こんなことだって・・・・・・
はい、目を開けてください。
いかがですか?
なにも覚えていないのですね。
大丈夫。
心配いりませんよ。
無事に治療は済みましたから。
そうです、そうです。
なんだか、すっきりしたでしょ?
そうでしょう、そうでしょう。
なんだか私まで
すっきりしてしまいましたよ。
2012/05/29
下校途中の小学生の女の子だった。
あんまり可愛らしかったので
俺は衝動的に誘拐してしまった。
通りすがりに、むんずと小脇に抱え上げ、
そのまま自宅まで駆け足で持ち帰ってしまったのだ。
しかし、さすがに誘拐はマズかろう。
仕方ないので、俺は言い訳として
彼女の家庭教師をしてやることにした。
「ところで、君の名前は?」
「あたし、ぱんちゃん」
「えーと、何年生?」
「小六だよ」
「得意な科目は?」
「国語!」
「苦手な科目は?」
「うーん。算数かな」
そういうわけなので
算数を教えてやることにした。
分数の足し算くらいなら教えてやれるはず。
「使ってる教科書、見せて」
「うん。いいよ」
ぱんちゃんは、赤いランドセルから
算数の教科書を出してくれた。
「ここの問題、わかんないの」
「どれどれ」
日本の国旗「日の丸」は、旗のたてと横の比が、2:3。
同じく、円の直径と旗のたての比が、3:5です。
では、横の長さが1mの旗を作る場合、
旗の中心に半径何㎝の円をかけばよいでしょうか?
「えーと、ぱんちゃん」
「なーに、センセー」
「先生、ちょっと片づけなきゃならない仕事あるから、
それまで、そこの本棚にあるマンガ、読んでていいよ」
彼女、ちょっと軽蔑するような目付きになったが、
マンガの量に驚いて、すぐに本棚に跳びついた。
やはり、まだまだ子どもである。
俺は、なんとか算数の問題を解くことに成功した。
「さて、仕事が片付いたぞ」
「ねえ、センセー」
「なんだ?」
「エッチなマンガ、ばっかりだね」
やれやれ。
「あのね、ぱんちゃん」
「なーに、センセー?」
「答えと同じ長さのもの、見たくない?」
「見栄はるな!」
まったく、近頃の小学生ときたら。
2012/05/12
「喘ぎ声が凄い洗濯機」という動画が
かつて話題になったことがある。
洗濯槽が回転する時、擦れるのか軋むのか
女性の喘ぎ声に似た騒音が出る洗濯機の話。
不況下の苦肉の策であろう。
これを応用した独身男性向けセクシー家電を
某家電メーカーが大量生産してしまった。
洗濯機の場合、声質が選べて
水量によって発声が微妙に変化する展開。
冷蔵庫の場合、モーター音を喘ぎ声に似せ、
さらに扉を開ければ「イヤ〜ン」と悩ましい声を出す。
エアコンや空気清浄器の稼働音も同様。
これらがメディアや口コミで話題になり、
意外なヒット商品となった。
調子に乗って、炊飯器、ジャーポット、パソコン、・・・・・・
そのうち腐女子向け男声仕様まで登場する始末。
すると、某ガス器具メーカーまで便乗し、
風呂釜や湯沸かし器まで喘がせてしまった。
台所用品のメーカーでも
笛吹きケトル「セクシーブロー」が販売された。
さらには、某自動車メーカーまで参入。
さすがに露骨な喘ぎ声は出せないものの
「性的1/fゆらぎ」のキャッチコピーで販売。
国内に限らず、海外でもそこそこ人気とのこと。
まったく嘘みたいな話である。
なんということはない。
つまり、「不況下でもエロなら売れる」という
情けなくも切ない事実。