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2016/05/29
(あれ?)
レッテルはどこにも存在しない。
(クスッ)
想像上の産物である。
(ペタッ)
しかし、貼ることはできる。
(こいつ、変なやつ)
貼った本人にはレッテルが見える。
「おい、おまえ。なに笑ってんだよ」
レッテルを貼られた相手には見えない。
「だって、君があんまり変なことしてるから」
ただし、教えてやると見えてきたりする。
「おいおい。おかしなレッテル貼るなよ」
一度貼られたら、なかなか剥がせない。
「だって君の背中、いかにも貼りやすいんだもん」
貼られたレッテルの上にさらに貼られたりもする。
「いやいや。おまえの方がもっと変だぞ」
たまに貼り返されたりもする。
「知ってるよ」
自分で自分に貼ることもできる。
「まったく変なやつだな」
レッテルの文字が大きくなったりする。
「うん。まあね」
そうそう。あんまり気にしないことだね。
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2016/05/19
たくさんの卵を部屋に集めた。
いろんな色や形や大きさの卵たち。
ただし、どうやって集めたのか記憶にない。
もらったか、拾ったか、盗んだか。
あるいは闘って奪ったのかも。
まさか産んだということはなかろう。
断言できるほど自信ないが。
とにかく部屋には卵が氾濫していた。
寝る場所どころか足の踏み場もない。
それでも卵を捨てる気になれない。
また、そういう形をしているのが卵なのだ。
とりあえず温めた方が良さそうだ。
とりあえす卵なのだから。
それで、ありったけのフトンやら衣類を出して
床一面の卵どもの上に厚くかぶせた。
(さて、どこに寝ようか?)
そのように悩む前に異変に気づく。
かぶせたフトンや衣類のあちこちがモコモコ動く。
早い。早すぎる。
もうかえった卵があるのだ。
大きな醜いカエルがピョンと跳ねた。
毒々しい色のトカゲが壁を這う。
フトンを引き裂いたのは大きなゾウカメ。
ひよこの鳴き声も聞こえる。
さらには、天井からぶら下がるコウモリ。
(はて、あれは哺乳類では?)
水面から魚が跳ねた。
(誰だ、部屋に水をためたのは?)
ふくらはぎに噛みついたのは毒蛇かも。
毒虫も飛んでるし。
(なんなんだ? どうしろと言うのだ?)
話が違う。何も聞いてないぞ。
突然の暗転と痛み。
(誰だ、おれの頭をかじるやつは?)
ワニか? まさか恐竜?
そろそろ疲れた。
もう卵のカラの中に入らせてもらおうかな。
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2016/05/18
教室は国語の授業中。
なのに僕は外国語の教科書を読んでいる。
そのうち教師に叱られる。
「これから一週間、みっちり海で勉強してこい」
その意味はわからないが、それらしき意図はわかる。
申し訳なさそうに僕は謝る。
「しっかり溺れるまで頑張ります」
それなのに、どうしても授業に耐えられない。
国語がきらいなわけでなく、外国語が好きなわけでもない。
なにしろ、外国語の授業中には国語の教科書を読むのだから。
隣席の同級生がこっそり教えてくれる。
「先生はおまえのこと、ずっと見ていたぞ」
つまり、教師は前から気づいていた。
授業の終了まぎわ、やっと注意したのだ。
僕はうなだれるしかない。
(たまらんなあ)
そして、授業終了のチャイムが鳴る。
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2016/04/27
さる陸の孤島に一匹のモモンガが生息しており
たまに思い出したように滑空するという。
普通のリスではなく、また鳥でもなく
なぜ彼女がモモンガなのかは不明である。
おそらく、空を飛びたいのはやまやまだが
羽ばたいてまで空を飛びたいほどではないのだろう。
いかにも彼女はくたびれやすそうだから。
彼女、鳴き声はバリエーションに富むが
地声がもっとも作り声に聞こえるという弱点を持つ。
ただし私は、本物のモモンガの鳴き声を知らない。
たまに木の枝から飛び降りるように滑空するのが
モモンガとしての彼女の唯一の楽しみのようである。
毒虫はいまわり、悪臭ただよう環境にじっと耐え
彼女は今日も陸の孤島でたくましく生きる。
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2016/04/24
目の前には荷物を積んだトラック。
缶詰や瓶詰や箱詰が荷台に山盛りになっている。
「安いよ、安いよ。ねえ、買ってよ」
路上販売なのか、女の子に声をかけられた。
おいしそうな果物の缶詰が目についた。
「ええと、この缶詰はいくら?」
「それより、こっちのが安いよ」
女の子は大きな菓子の箱詰を叩き、値段を言う。
「ほう。それはまた安いね」
即決で買ってしまう。
そこへ懐かしい知人が現れたので
買ったばかりの菓子の箱詰めがいかに安いか自慢する。
自慢しながら、果物の缶詰が欲しかったのに
菓子の箱詰を買わされたことに気づく。
あの女の子の姿はない。
もう山積みのトラックも消えている。
路上に大きな菓子の箱詰が置いてあるだけ。
ちっとも菓子なんか食べたくないのに。
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2016/04/23
列車に乗るため、地下道を急いでいる。
有名な女優と一緒にいるらしいのだが
自分が彼女であるようでもあり、どうも曖昧だ。
突然の腹痛に襲われた彼女あるいは自分は
しばらく階段の途中で斜めになって休む。
そのため列車に乗り遅れてしまう。
それでも次発の列車に乗るため
ホームにしゃがんで待つことにする。
ここから出る列車はすべて急行であり
勢いをつけて地上を走るために地下から出発する。
ホームは弓なりに曲がっており
その弓の端に列車が停止しているのが見える。
乗り遅れた先発列車が引っかかっているのか
または到着予定の次発列車がつっかえているのだろう。
曲がったホームに誘われるかのように近づき
停車中の列車の窓から内部を覗いてみる。
通路を挟んで座席が左右二列ずつ計四列になって奥まで並び
どちらも窓側の座席はすべて埋まっている。
もし彼女が自分ではないとしても
二人ぴったり並んで着席することはできそうもない。
また、それを彼女が望むだろうか。
そもそも乗車できるかどうかも不明なままなのだ。
やがてまた腹痛が始まる。
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2016/04/17
布団に入ったものの眠れずにウトウトしていたら
真夜中、地響きとともに妙な音が聞こえてきた。
住んでるマンションの前は急な坂道なのだが
そこを何か非常に重いものが通過している気配。
大型トラックが通る音とはとても思えない。
たとえようのない変な音だった。
無理にたとえるなら、巨大なゾウのような物体が
横倒しになりながらゴロンゴロン転がる感じか。
やがて音は消え、地響きもしなくなった。
翌朝は休日、集団清掃の日だったので
出席された住人たちに尋ねてみた。
しかし、その時刻に起きていた人はおらず
誰も気づかなかったとのこと。
「いえいえ、私はしっかり見ましたよ。
マンモスが群れをなして転がり落ちてゆくのを」
そんな冗談を言ってくれる奇特な住人はいないのだった。
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2016/04/14
我々は互いを「同志」と呼び合い、革命の機会を狙っていた。
ただし、血なまぐさい政治革命ではない。
産業革命やIT革命でもなく、ましてや宗教改革ではあり得ない。
たとえるなら、ルネッサンスに近いだろうか。
既存文化を破壊する軽率な文化革命ではなく
文化全般に対する集団的な意識革命のようなもの。
ただし、明確な具体策はなかった。
漠然とした日常の慢性的な閉塞感が耐え難かったのだ。
「同志。なにか面白いことはないか」
「同志。その問いからして面白くないぞ」
「すると、この考えは粛清せねばならないか」
「自己批判に任せるが、とにかく、つまらん言動は排除せよ」
我々は模範的な優等生になりたいわけではなかった。
「よくできました」の花丸スタンプが欲しいわけではなかった。
命を捧げねばならぬとしても悔いのない何か
やむにやまれぬ「革命のようなもの」が欲しかったのだ。
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2016/04/12
諸事情から陸地に家を建てられず
池と呼ぶべきか迷うような湖に家を浮かべた。
太くて長い丸太を並べて縦横二段に縛った大きな筏いかだの上に
犬小屋に見えなくもない小さな家を建てたのだ。
風に流されて岸から離れ過ぎないよう
また、逆にあまり岸に近づかないよう、錨いかりが沈めてある。
形もそうだが、航行するわけではないので船とは呼びにくい。
なぜこんな湖上生活を始めたのか、と言うと
地上があまりにも物騒だったからだ。
長引く群発地震。
それを起因とする困窮と貧困の深刻化。
不幸に追い打ちするような犯罪の増加と凶悪化。
つまり、地上では安心して眠れないのだ。
ひどい世の中になったものだ。
ただし、湖上が安全とも言えない。
辺鄙へんぴな場所だが、食料を求めて人が現れる。
拳銃は持ってないが、用心のため大量の石ころと
鉈なたと柳刃包丁と手作り弓矢とブーメランは用意した。
確保した玄米と釣ったり罠にかかった魚を食べ
たまに上陸すると、山菜を採ったりする。
さらに最近では、街に出て買い物だってする。
大人しくなりつつある大地もそうだが
そろそろ地上の混乱も落ち着いてきたようなのだ。
それでも筏の家に慣れてしまったので
しばらくは湖上生活を続けるつもりでいる。
なにしろ、地に足の着かない生活は気楽だから。
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2016/04/11
「ひとつ問いたいのだが」
「なんでしょうか?」
「私でないのではないのなら、それは私か?」
「あなたでしょう」
「ところが、そうとも限らんのだ」
「たとえば?」
「この私ではなく、別の私かもしれない」
「でも、あなたであることは同じでしょ?」
「しかし、違う私だ」
「どうも意味がわかりませんね」
「二重否定により、もうひとり別の私が生じてしまったのだ」
「ええと、つまり否定の否定ですよね」
「私でなくはない私だ」
「あなたでなくはないあなたですか?」
「その通り」
「それは困りましたね」
「私を困らせているのは、おまえだ」
「私が?」
「そうだ。おまえがもうひとりの別の私だ」
「まさか!」
「こっちこそ、そう言いたい」
「そう言われてみると、なんだかあなたは私みたいですね」
「おまえが私と言うな」
「あなたこそ私のことをおまえと言わないでださいよ」
「おまえはおまえだろうが」
「そう。私は私です」
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