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    Works 3,356
  • レッテルを貼る

    2016/05/29

    変な話

    (あれ?)

    レッテルはどこにも存在しない。

     

    (クスッ)

    想像上の産物である。

     

    (ペタッ)

    しかし、貼ることはできる。

     

    (こいつ、変なやつ)

    貼った本人にはレッテルが見える。

     

    「おい、おまえ。なに笑ってんだよ」

    レッテルを貼られた相手には見えない。

     

    「だって、君があんまり変なことしてるから」

    ただし、教えてやると見えてきたりする。

     

    「おいおい。おかしなレッテル貼るなよ」

    一度貼られたら、なかなか剥がせない。

     

    「だって君の背中、いかにも貼りやすいんだもん」

    貼られたレッテルの上にさらに貼られたりもする。

     

    「いやいや。おまえの方がもっと変だぞ」

    たまに貼り返されたりもする。

     

    「知ってるよ」

    自分で自分に貼ることもできる。

     

    「まったく変なやつだな」

    レッテルの文字が大きくなったりする。

     

    「うん。まあね」

    そうそう。あんまり気にしないことだね。

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  • 卵の反乱

    2016/05/19

    変な話

    たくさんの卵を部屋に集めた。

    いろんな色や形や大きさの卵たち。

     

    ただし、どうやって集めたのか記憶にない。

     

    もらったか、拾ったか、盗んだか。

    あるいは闘って奪ったのかも。

     

    まさか産んだということはなかろう。

    断言できるほど自信ないが。

     

    とにかく部屋には卵が氾濫していた。

    寝る場所どころか足の踏み場もない。

     

    それでも卵を捨てる気になれない。

    また、そういう形をしているのが卵なのだ。

     

    とりあえず温めた方が良さそうだ。

    とりあえす卵なのだから。

     

    それで、ありったけのフトンやら衣類を出して 

    床一面の卵どもの上に厚くかぶせた。

     

    (さて、どこに寝ようか?)

    そのように悩む前に異変に気づく。

     

    かぶせたフトンや衣類のあちこちがモコモコ動く。

     

    早い。早すぎる。

    もうかえった卵があるのだ。

     

    大きな醜いカエルがピョンと跳ねた。

    毒々しい色のトカゲが壁を這う。

     

    フトンを引き裂いたのは大きなゾウカメ。

    ひよこの鳴き声も聞こえる。

     

    さらには、天井からぶら下がるコウモリ。

    (はて、あれは哺乳類では?) 

     

    水面から魚が跳ねた。

    (誰だ、部屋に水をためたのは?)

     

    ふくらはぎに噛みついたのは毒蛇かも。

    毒虫も飛んでるし。

     

    (なんなんだ? どうしろと言うのだ?)

    話が違う。何も聞いてないぞ。

     

    突然の暗転と痛み。

    (誰だ、おれの頭をかじるやつは?)

     

    ワニか? まさか恐竜? 

     

     

    そろそろ疲れた。

    もう卵のカラの中に入らせてもらおうかな。

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  • たまらん授業

    2016/05/18

    変な話

    教室は国語の授業中。

    なのに僕は外国語の教科書を読んでいる。

     

    そのうち教師に叱られる。

    「これから一週間、みっちり海で勉強してこい」

     

    その意味はわからないが、それらしき意図はわかる。

     

    申し訳なさそうに僕は謝る。

    「しっかり溺れるまで頑張ります」

     

    それなのに、どうしても授業に耐えられない。

     

    国語がきらいなわけでなく、外国語が好きなわけでもない。

    なにしろ、外国語の授業中には国語の教科書を読むのだから。

     

    隣席の同級生がこっそり教えてくれる。

    「先生はおまえのこと、ずっと見ていたぞ」

     

    つまり、教師は前から気づいていた。

    授業の終了まぎわ、やっと注意したのだ。

     

    僕はうなだれるしかない。

    (たまらんなあ)

     

    そして、授業終了のチャイムが鳴る。

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  • 陸の孤島のモモンガ

    2016/04/27

    変な話

    さる陸の孤島に一匹のモモンガが生息しており 

    たまに思い出したように滑空するという。

     

    普通のリスではなく、また鳥でもなく 

    なぜ彼女がモモンガなのかは不明である。

     

    おそらく、空を飛びたいのはやまやまだが 

    羽ばたいてまで空を飛びたいほどではないのだろう。

     

    いかにも彼女はくたびれやすそうだから。

     

     

    彼女、鳴き声はバリエーションに富むが 

    地声がもっとも作り声に聞こえるという弱点を持つ。

     

    ただし私は、本物のモモンガの鳴き声を知らない。

     

    たまに木の枝から飛び降りるように滑空するのが 

    モモンガとしての彼女の唯一の楽しみのようである。

     

    毒虫はいまわり、悪臭ただよう環境にじっと耐え 

    彼女は今日も陸の孤島でたくましく生きる。

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  • 山積みのトラック

    2016/04/24

    変な話

    目の前には荷物を積んだトラック。

    缶詰や瓶詰や箱詰が荷台に山盛りになっている。

     

    「安いよ、安いよ。ねえ、買ってよ」

    路上販売なのか、女の子に声をかけられた。

     

    おいしそうな果物の缶詰が目についた。

    「ええと、この缶詰はいくら?」

     

    「それより、こっちのが安いよ」

    女の子は大きな菓子の箱詰を叩き、値段を言う。

     

    「ほう。それはまた安いね」 

    即決で買ってしまう。

     

    そこへ懐かしい知人が現れたので 

    買ったばかりの菓子の箱詰めがいかに安いか自慢する。

     

    自慢しながら、果物の缶詰が欲しかったのに 

    菓子の箱詰を買わされたことに気づく。

     

    あの女の子の姿はない。

    もう山積みのトラックも消えている。

     

    路上に大きな菓子の箱詰が置いてあるだけ。

    ちっとも菓子なんか食べたくないのに。

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  • 曲がりホーム

    2016/04/23

    変な話

    列車に乗るため、地下道を急いでいる。

     

    有名な女優と一緒にいるらしいのだが 

    自分が彼女であるようでもあり、どうも曖昧だ。

     

    突然の腹痛に襲われた彼女あるいは自分は 

    しばらく階段の途中で斜めになって休む。

     

    そのため列車に乗り遅れてしまう。

     

    それでも次発の列車に乗るため 

    ホームにしゃがんで待つことにする。

     

    ここから出る列車はすべて急行であり 

    勢いをつけて地上を走るために地下から出発する。

     

    ホームは弓なりに曲がっており 

    その弓の端に列車が停止しているのが見える。

     

    乗り遅れた先発列車が引っかかっているのか 

    または到着予定の次発列車がつっかえているのだろう。

     

    曲がったホームに誘われるかのように近づき 

    停車中の列車の窓から内部を覗いてみる。

     

    通路を挟んで座席が左右二列ずつ計四列になって奥まで並び 

    どちらも窓側の座席はすべて埋まっている。

     

    もし彼女が自分ではないとしても 

    二人ぴったり並んで着席することはできそうもない。

     

    また、それを彼女が望むだろうか。

    そもそも乗車できるかどうかも不明なままなのだ。

     

    やがてまた腹痛が始まる。

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  • マンモスの坂道

    2016/04/17

    変な話

    布団に入ったものの眠れずにウトウトしていたら 

    真夜中、地響きとともに妙な音が聞こえてきた。

     

    住んでるマンションの前は急な坂道なのだが 

    そこを何か非常に重いものが通過している気配。

     

    大型トラックが通る音とはとても思えない。

    たとえようのない変な音だった。

     

    無理にたとえるなら、巨大なゾウのような物体が 

    横倒しになりながらゴロンゴロン転がる感じか。

     

    やがて音は消え、地響きもしなくなった。

     

    翌朝は休日、集団清掃の日だったので 

    出席された住人たちに尋ねてみた。

     

    しかし、その時刻に起きていた人はおらず 

    誰も気づかなかったとのこと。

     

    「いえいえ、私はしっかり見ましたよ。

     マンモスが群れをなして転がり落ちてゆくのを」

     

    そんな冗談を言ってくれる奇特な住人はいないのだった。

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  • 革命はなかった

    2016/04/14

    変な話

    我々は互いを「同志」と呼び合い、革命の機会を狙っていた。

     

    ただし、血なまぐさい政治革命ではない。

    産業革命やIT革命でもなく、ましてや宗教改革ではあり得ない。

     

    たとえるなら、ルネッサンスに近いだろうか。

     

    既存文化を破壊する軽率な文化革命ではなく 

    文化全般に対する集団的な意識革命のようなもの。

     

    ただし、明確な具体策はなかった。

    漠然とした日常の慢性的な閉塞感が耐え難かったのだ。

     

     

    「同志。なにか面白いことはないか」

    「同志。その問いからして面白くないぞ」

     

    「すると、この考えは粛清せねばならないか」

    「自己批判に任せるが、とにかく、つまらん言動は排除せよ」

     

     

    我々は模範的な優等生になりたいわけではなかった。

    「よくできました」の花丸スタンプが欲しいわけではなかった。

     

    命を捧げねばならぬとしても悔いのない何か 

    やむにやまれぬ「革命のようなもの」が欲しかったのだ。

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  • 筏の家

    2016/04/12

    変な話

    諸事情から陸地に家を建てられず 

    池と呼ぶべきか迷うような湖に家を浮かべた。

     

    太くて長い丸太を並べて縦横二段に縛った大きな筏いかだの上に 

    犬小屋に見えなくもない小さな家を建てたのだ。

     

    風に流されて岸から離れ過ぎないよう 

    また、逆にあまり岸に近づかないよう、錨いかりが沈めてある。

     

    形もそうだが、航行するわけではないので船とは呼びにくい。

     

    なぜこんな湖上生活を始めたのか、と言うと 

    地上があまりにも物騒だったからだ。

     

    長引く群発地震。

    それを起因とする困窮と貧困の深刻化。

    不幸に追い打ちするような犯罪の増加と凶悪化。

     

    つまり、地上では安心して眠れないのだ。

    ひどい世の中になったものだ。

     

    ただし、湖上が安全とも言えない。

    辺鄙へんぴな場所だが、食料を求めて人が現れる。

     

    拳銃は持ってないが、用心のため大量の石ころと 

    鉈なたと柳刃包丁と手作り弓矢とブーメランは用意した。

     

    確保した玄米と釣ったり罠にかかった魚を食べ 

    たまに上陸すると、山菜を採ったりする。

     

    さらに最近では、街に出て買い物だってする。

     

    大人しくなりつつある大地もそうだが 

    そろそろ地上の混乱も落ち着いてきたようなのだ。

     

    それでも筏の家に慣れてしまったので 

    しばらくは湖上生活を続けるつもりでいる。

     

    なにしろ、地に足の着かない生活は気楽だから。

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  • 別の私

    2016/04/11

    変な話

    「ひとつ問いたいのだが」

    「なんでしょうか?」

     

    「私でないのではないのなら、それは私か?」

    「あなたでしょう」

     

    「ところが、そうとも限らんのだ」

    「たとえば?」

     

    「この私ではなく、別の私かもしれない」

    「でも、あなたであることは同じでしょ?」

     

    「しかし、違う私だ」

    「どうも意味がわかりませんね」

     

    「二重否定により、もうひとり別の私が生じてしまったのだ」

    「ええと、つまり否定の否定ですよね」

     

    「私でなくはない私だ」

    「あなたでなくはないあなたですか?」

     

    「その通り」

    「それは困りましたね」

     

    「私を困らせているのは、おまえだ」

    「私が?」

     

    「そうだ。おまえがもうひとりの別の私だ」

    「まさか!」

     

    「こっちこそ、そう言いたい」

    「そう言われてみると、なんだかあなたは私みたいですね」

     

    「おまえが私と言うな」

    「あなたこそ私のことをおまえと言わないでださいよ」

     

    「おまえはおまえだろうが」

    「そう。私は私です」

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