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2016/09/24
僕には対立者がいる。
この際、敵と呼んでもいい。
とにかく、僕が良いことをしようとすると
必ずと言っていいほど、そいつに邪魔される。
そいつには共存共栄という考えはないらしい。
どちらが勝つか負けるか、だけである。
なので、しばしば僕もそいつの邪魔をする。
不本意ではあるが、仕方ない。
それに、うまく邪魔できると嬉しくなったりする。
そいつの泣きっ面を見るのも楽しみになる。
性格が悪くなりそうである。
勝ち負けだけで物事を判断するのは
どこか偏っている気はする。
けれども、偏っているゆえに面白くもある。
面白ければいいのか、と反論されそうだが
あいにく、そういう議論は概ねつまらない。
なので、時間の無駄のようではあるけれど
つい今日もまた、そいつと対立してしまうのだ。
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2016/09/23
その建物は巨大な電話BOXに見えなくもない。
だけど、じつは公衆浴場かもしれない。
たくさんの裸の人たちが右往左往している。
若い女の人もいたりして、ちょっと嬉しくなる。
ところが、やがて様子が変わり
醜い姿、汚れた老人ばかりになる。
うんざりする。
あわてて建物の外へ出る。
雨など降っていないのに傘を開く。
直射日光が苦手なのだ。
「だって僕、幽霊なんだもん」
その証拠のように体が軽い。
跳ねると、建物の屋根より高く舞い上がり
しばらく傘の柄にぶら下がっていられるのだ。
なかなか楽しい。
でも、興奮するほどじゃない。
だって、こんな楽しいことをしている僕を
誰も見上げてくれないんだもん。
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2016/09/18
神はいるか?
いるかもしれない。いないかも。
奇跡が起これば?
とりあえず、いるとしようか。
とりあえずだと?
そうだ。
どういうことだ?
たとえば、この世界に神はいるとする。
うん。
ところが、別の世界にはいないかもしれない。
別の世界とは?
この世界とは無関係な世界さ。
それは空想だ。
空想と決めつける根拠はあるのか?
この世界と無関係な世界の根拠はこの世界にない。
しかし、別の世界がないとは言えまい。
もてあそんでいるだけだ。
何を? 世界を? それとも論理を?
両方だ。
ならば、私こそ、神そのものではないのか?
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2016/09/16
ふと思い出した。
それは遠い昔に夢で見たかもしれない
というほどの、ほんのかすかな記憶なのだ。
断崖絶壁にある洞窟居住地。
鍾乳洞のような自然の空洞を利用したものらしい。
壁面にあいた穴を窓として見える正面の風景は
こちら側と同じような形状の穴だらけの断崖絶壁。
その隙間は、上も下も霞んで見えないほど高く深い。
たとえるなら、いびつで巨大な先史時代のマンモス団地か。
アリの巣を連想させる洞窟内で出会う半裸の住民は
人間に似ているが、どことなく違う。
その若者は考えていた。
鳥のように空中を飛べないものか、と。
そうすれば、向こう側へ行ける。
向こう側には、時折り見かける気になる少女がいる。
翼のようなものを両腕に付けたらどうだろう。
しかし、その考えは古老らが否定する。
飛べずに落下して二度と帰らぬ者たちを知っているから。
しかし、若者は諦めきれない。
なんとか工夫して・・・・
物語は続くが、その先はどうも思い出せない。
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2016/09/04
その人は男か女かわからない。
とりあえず彼と呼んでおく。
彼は珍しい技術を持っている。
めくるのがうまいのである。
めくらせたら彼の右に出る者はいない。
本のページをめくるとか
婦人のスカートをめくるとか
そんなの誰でもできるけれど
彼のめくる真似はなかなかできない。
眠っている人のまぶたとか
黙っている人のくちびるとか
本人に気づかれずにめくる。
池の水面だってめくってしまう。
夜の帳とばりだってめくってしまう。
白日のもとにさらされる宇宙の神秘。
心の覆いなんかわけもない。
その透けるように白い指先が
見た目優雅に弧を描く。
すると、この人は彼ではなく
彼女とでも呼ぶべきかもしれない。
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2016/08/27
忌まわしき殺人事件が発生した。
容疑者は三人。
せむし男、富豪の老女、美少年。
犯行現場は三ヶ所。
王立博物館、山林、防空壕。
動機は三つ。
嫉妬、趣味、神の啓示。
凶器も三つ。
毒薬、ノコギリ、呪いの泥人形。
さて、ここに探偵が登場する。
じつは彼、霊能力者である。
それぞれの三つのうちから一つずつ選ぶと
合計いくつ正解か、彼の守護霊が教えてくれる。
この選択と正解数の確認を四回繰り返せば
必ず事件は解決するという。
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2016/08/16
その町には商用で訪れたはずなのに
なぜか故郷の町、いや、村になっている。
T字路のような場所で野菜が売られている。
スイカやカボチャ、長ネギや白菜など。
舗装された路上だが、クルマが通る気配はない。
一台の一輪車の上に大きなキャベツが載っていた。
ところが、よく見るとそれは老婆だった。
買い物中の近所のおばさんが教えてくれる。
「あなたのお母さんですよ」
なるほど。
いかにも私の老母に違いない。
しかも、野菜のように売られているのではなく
どうやら野菜を売っているのが老母であるらしい。
このような動けない姿になっても
どうにか野菜を栽培して販売することにより
その対価として周囲の世話になっているようである。
収穫時期を逃したキャベツのように仰向けに寝そべり
頭を持ち上げる首の筋肉も残っていないらしい。
なのに私は、居たたまれない気持ちのまま
老母に近寄ることも声をかけることもできない。
そうすべきだとは思いながらも
泥だらけのゴボウみたく、ただ立ち尽くすばかり。
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2016/08/09
家の中から彼の声がする。
「窓が明るかったら入っていいよ」
ところが、どこにも窓がないのだ。
ただし、壁板の隙間から光が漏れている。
これが窓であろうか。
それで、そのまま家に入ってしまったのだが
なぜか玄関を通り抜けた記憶はない。
広くて薄暗い浴室には湯気が立ちこめ
石造りの浴槽に湯があふれている。
いや、違う。そうではない。
むしろ、石造りの浴槽が湯であふれているから
その部屋が湯気の立ちこめる浴室なのだ。
浴槽はいくつもあり、それぞれ形が異なる。
それらすべて中央付近で卍の形の溝でつながっている。
古代遺跡にある謎の巨石を連想させる。
見渡せば、浴槽の湯に野菜や肉が浮き沈みしており
いかにも栄養豊富そうに見える。
さっそく裸になり、浴槽のひとつに入る。
いい湯加減だ。じつに気持ち良い。
やがて、奥の別室から裸の彼が現れる。
「少なくとも四つの風呂に入ってくれよ」
彼の笑顔は相変わらずである。
「もちろんさ。全部入るよ」
嬉しくなって、すぐに隣の浴槽に移る。
そうやってしばらく楽しんでいたのだが、ふと
故郷の友人が着衣のまま近くに立っているのに気づく。
「あんな奴と付き合うな。
あいつはな、じつに恐ろしい男なのだ」
そう囁く友人に腹が立つ。
「うるさい! あっちへ行け!
そんなこと忠告する資格もないくせに」
友人の顔を狙って殴りかかったが
踊るようにやすやすとかわされてしまう。
体勢を立て直して振り返ると
裸の彼が着衣の友人の腕をつかんでいる。
「出て行け。
もうおまえは、あの人の友人ではない」
凄みのある彼の低音が室内に響き渡る。
いつであったか、これに似た情景を
どこかで見たことがあったような気がした。
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2016/08/08
ある夏のとある海水浴場。
水着の蜜蜂たちとパラソルの花畑。
海水浴と日光浴を楽しむ老若男女の群。
「見てよ。こんなに焼けちゃった」
「あらあら。真っ赤じゃないの」
「紫外線が強いのね」
ある浜茶屋の日陰に白い犬がしゃがんでいた。
むく毛の大きな犬だった。
むく犬はおもむろに立ち上がると
そのまま海へ向かって歩き始めた。
その先には真っ黒に焼けた背中を見せて
若い男がうつ伏せに寝ていた。
むく犬は男に近寄り、鼻先を近づけた。
それから、男の背中を舐め始めた。
男は眠ったまま気づかない。
それを近くにいる人たちが笑って眺めている。
むく犬が舐めると男の背中の皮がむけた。
きれいにペロリとむけてしまった。
そのむけた黒い皮をむく犬は食べた。
うまそうにペロリと食べてしまった。
それでも男は気づかない。
むく犬は男の背中を舐め続けた。
黒い背中が赤い背中に変わってしまうと
むく犬は舐めるのをやめた。
それから、あたりを見まわした。
眺めていた人たちは視線をそらした。
むく犬はつまらなそうな表情をして
そのまま浜茶屋へと引き返すのだった。
むく犬は同じ日陰に元のようにしゃがんだ。
なんとも監視員の風格があるのだった。
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2016/08/02
山奥の廃村は草木に埋もれていた。
どこまでも明るく
どこまでも静か。
ああ、楽しい。
ここは誰もいないから。
汗に濡れた服は脱ぎ捨てよう。
裸踊りしたってかまわない。
のどかな風景、クルクルまわる。
山も川も雲も、なにもかも。
おや、あれはなんだろう?
視線が合った。
麦わら帽子かぶった美しき蝶。
今、朽ちかけた廃屋の陰に隠れた。
よし、追いかけよう。
捕まえてやる。
逃すもんか。
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