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Tome館長

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  • 操縦室

    2011/09/24

    変な話

    航行しているようだが海ではない。
    海よりもっと港や人々から離れた場所。

    乗り物はとりあえず「船」と呼んでおこう。
    この船は果てしない闇に包まれている。


    操縦室と思われる部屋も明るくはない。

    私は中央の操縦席に座っている。
    どうやら船長の立場にあるらしい。

    といっても乗組員は他に一人しかいない。
    この船とセットで購入した操縦説明者。

    操縦方法がわからない時に説明してくれる。

    なかなか端正な容姿の若い女性である。

    なぜか抱く気になれない。
    奇妙な存在だ。


    ところで、緊急事態が発生したらしい。

    操作パネルの機能がどうもおかしい。
    いくら指示を入力しても反応がないのだ。

    あちこちで非常警報が鳴り出した。
    操縦説明者に助けてもらうべきだろう。

    それなのに操縦室に彼女の姿はない。

    いまさら彼女の名を知らないことに気づく。
    だが、知らない理由を考えている余裕はない。


    ともかく操作パネルを素手で叩いてみる。

    簡単に操作パネルが割れてしまった。
    ブロック状の部品が床に転がり落ちる。

    どのように見ても精密部品とは思えない。
    いろいろな形の積み木にしか見えない。


    頭を抱えていると、操縦説明者の声。

    「おしまいよ。おしまいよ。おしまいの船長さん」

    彼女は踊りながら操縦室に入ってきた。

    明らかに操縦説明機能が壊れていた。
    折れた首から火花と金属棒が見える。

    つまり彼女は人間ではなかったのだ。
    擬人化された精密機械だったのだ。

    どうりで抱く気になれなかったわけだ。
    しかし、それならそれで抱いてみたい気もする。


    だが、それどころではなかった。


    知らないうちに装置が埋め込まれていたのか

    私の頭の中ので
    けたたましく非常警報が鳴り出した。
     

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  • 石碑の前

    2011/09/23

    変な話

    この石碑には見覚えがある。

    彫られた文字は違うが
    読めないのは同じだ。

    根元の苔の生え方だってそっくりだ。


    同じような道、似たような場所。

    くそっ!
    どうなっているのだ?

    動物園の熊みたいに
    檻の中をぐるぐるぐるぐる
    ただまわっているだけじゃないか。


    どこか少しずつ違っているような気も
    しないこともない。

    けれど、まわってる間に誰か手を加えれば
    景色はいくらか違って見えるものだ。

    そんな誤魔化し、騙されるもんか!


    途中で道が枝分かれしていたから
    そこで選んだ道が悪かったのかもしれない。

    でも、どの道を選んでも、結局
    ここにたどり着いてしまうような気がする。

    この石碑に吸い寄せられるみたいに。


    おそらく原因は別にあるに違いない。


    道があるから、道をたどってしまう。
    道をたどるから、道に迷ってしまう。

    道がなければ、道に迷いようがない。


    いっそ、道を外れてしまおうか。


    いやいや。
    危険すぎる。

    崖から落ちてしまうかもしれない。

    そうならないように道があるのだから
    道から外れるだけでは救いにならないはず。

    まあいい。
    それは最後の手段にとっておこう。


    とりあえず、できることは試行錯誤くらいか。

    なにか新しいことをしてみるか。


    よし、決めた。

    とりあえず、この石碑を倒してやれ!
     

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  • 三人の妻

    2011/09/20

    変な話

    深夜に帰宅すると
    妻が一人になっていた。

    「あなた、おかえりなさい」
    三人の妻の声がひとつに重なって聞こえた。


    その女は三人の妻の誰でもなかった。
    だが、三人の妻の誰とも似ていた。

    「誰だ、おまえは?」
    「あなた、また酔ってるのね」

    たしかに酒は飲んでいた。
    家もぐるぐるまわっている。

    「あいつらは、どこだ?」
    「もう、いいから早く寝なさい」

    知らないうちに寝かされてしまった。


    翌朝、その妻の横で目が覚めた。

    妻を挟んで、向こう側に男が寝ていた。

    なんとなく納得してしまった。


    たぶん、もう一人の夫に違いない。
     

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  • 三角関係関数

    2011/09/19

    変な話

    三角関数は、直角三角形の角の大きさで定まる関数。
    三角関係は、三人による恋愛関係。

    そして三角関係関数は、三角関係において
    関係の深さ、愛情の強さで定まる関数を意味する。


    一般化のため、性別は無視する。

    三角関係ABCにおいて
    ∠Cを直角とするΔABCを考える。

    ΔABCにおいて、3頂点の角度は愛情を表わし、
    3辺の長さは関係距離を表わすものとする。

    さて、ΔABCは、∠Cを直角(CはAともBとも恋愛関係)とし、
    ABの長さ(関係距離)が1(完全な敵対関係)の直角三角形である。

    三角形の内角の和が2直角であるため
    ∠Aと∠Bの内角の和は、∠Cの直角に等しい。

    すると、∠Aの角度(AとCの愛情)により
    ∠Bの角度(BとCの愛情)が定まり、

    ACおよびBCの長さ(AおよびBとのCの関係距離)が定まる。

    逆もまた同様である。


    もし、ACが接近すれば(関係が深くなれば)
    ∠A(AとCの愛情)が大きくなり、

    逆に∠B(BとCの愛情)は小さくなる。

    このため、BCは離れる(忘れられる)。

    逆もまた同様である。


    愛情が偏っては問題なので

    ∠Aと∠Bがほぼ等しいままACとBCの長さ(関係距離)を
    0(理想としての一心同体)に近づけようとすれば

    ABの長さである1(無関係または完全な敵対関係)が邪魔をして
    せいぜい2の平方根の半分くらいまでしか近づけない。

    それでも無理に双方への接近を続ければ

    やがて想定される臨界点を超え、周辺の座標平面を巻き込み、
    ΔABCは大崩壊してしまうであろう。
     

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  • 空中蟹バサミ

    2011/09/16

    変な話

    いかにも手強そうな相手だ。
    目付きも体付きも只者じゃない。

    まともなやり方では太刀打ちできまい。
    先手必勝を狙うしかなさそうだ。


    真上に跳び上がり、下半身を水平に保ち、
    両脚を開いてから、鋏のように交差させる。

    両脚の交差地点に相手の頭部があれば
    鼻を境に額と顎とが左右にずれるはずだ。

    いわゆる「空中蟹バサミ」である。
    じつに恐ろしい必殺技である。

    ただし問題は、頭部を挟めるかどうか。


    躊躇したため、相手に先を越されてしまった。

    不意に相手は、真上に跳び上がったのだ。
    下半身を水平に保ち、両脚を開いた。

    なんと、これは空中蟹バサミではないか。
    あわてて俺は空中に浮かぶ相手の鼻をつかむ。

    鼻を引っ張って、頭部を手前に持ってくる。
    目の前で相手の両脚が交差した。


    なんとも無残な光景であった。
    必殺技の切れ味が鋭すぎたのだ。

    鼻だけ残して相手の頭部は千切れていた。


    やはり、空中蟹バサミは危険な技だ。

    なにしろ、足が地に着いていないのだから。
     

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  • あべこべの世界

    2011/08/24

    変な話

    あべこべの世界、なかなか簡単ではない。


    「愛しているから、あなたを抱けないの」
    突然、恋人があべこべの人になった。

    「でも、抱きたいの。だから、殺すの」
    そんなふうに説明されても理解できない。

    死にたくないので彼女から逃げた。
    拾った石を手に彼女が追いかけてきた。

    「逃げるから追いたくなるのよ」
    彼女が叫ぶ。

    痛い。
    肩に石が当たった。

    彼女は正しい。
    立ち止まるしかない。

    彼女は追いつき、そのまま追い越す。

    さらに走り続ける。
    小さくなる後姿。

    やがて、はるか前方の壁にぶつかった。

    痛々しい音がした。
    恋人は倒れるはず。

    ところが、倒れたのは壁の方だった。


    あべこべの世界、なかなか簡単ではない。
     

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  • 門 番

    2011/08/20

    変な話

     
    それはそれは立派な門であった。

    絵にも描けないほど立派だった。
    つい入ってみたくなるのだった。


    「いらっしゃいませ」

    高過ぎず低過ぎず、
    じつに感じの良い声だった。

    「お待ちしておりました」

    おそらく門番とでも呼ぶのだろう。

    その男に家まで案内された。


    意外に狭い庭である。
    家も小さかった。

    玄関を抜け、居間らしき部屋に入り、
    そこで主人と対面した。

    「つい入ってしまいました」
    「そうでしょう、そうでしょう」

    この主人とは初対面であった。

    「私を待っていたそうですが」
    「話し相手が欲しくてね」

    幸せそうな笑顔の老人である。

    「それにしても、立派な門ですね」
    「そうでしょう、そうでしょう」

    「不思議な門と言いますか」

    老人の笑顔はそのままであった。

    「あれは、あとで建てたんですよ」
    「あと、と言いますと?」

    「あの門番を雇ったあとですよ」

    そう言えば、好感の持てる男だった。

    「なるほど。確かに立派な門番でしたね」
    「そうでしょう、そうでしょう」

    「そうですね、そうですね」


    もうなにも話すことがないのだった。
     

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  • 知恵の鍵

    2011/07/18

    変な話

    人影まばらな夕暮れ時の動物園。
    閉園時間を知らせる音楽が寂しく流れる。


    浮浪者らしき男が鉄柵にもたれ、
    猿山の猿を眺めていた。

    酔っているのかよろめいて、
    男はなにかを踏んだ。

    「ん?」

    拾い上げたそれは
    複雑に折れ曲がった鍵のように見えた。

    わけのわからない代物だった。

    男は怒って、鉄柵越しに投げ捨てた。

    「くそっ! どいつもこいつも、
     おれを馬鹿にしやがって!」

    そのまま男はふらふらと出口に向かった。


    その鍵は、猿山の子猿の頭に当たった。

    子猿は鍵を拾い、噛み付いて歯を痛めた。

    どうやら食べ物ではないらしい。
    子猿は、それを興味深く見つめた。

    おもちゃにして遊べるような気がした。
    実際、遊んでみると面白いのだった。

    頭がだんだん熱くなってくるのだった。


    毎日毎日、鍵で遊ぶ子猿の姿があった。


    どれくらい時が流れたものか。
    とうとう鍵がふたつに割れてしまった。

    もう子猿は子猿ではなくなっていた。


    大きくなった猿は鍵を捨てて立ち上がった。
    なんだか賢そうな顔をしていた。

    そして、檻の外で見物する入園者の顔を眺め、
    生まれて初めて言葉を発した。

    「ふんっ! どいつもこいつも、
     おれよりたいしたことないぞ!」
     

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  • 生卵の夕暮れ

    2009/02/21

    変な話

    崩れそうな塀の上、

    キツネ顔の少女は
    首にヘビを巻いている。


    「今、何時?」
    「昨日の今頃かな」

    「なら、昨日の今頃は何時?」
    「明日の今頃じゃないかしら」


    お日様が割れて
    中身が海に垂れ落ちる。

    どことなく生卵の黄身に似てるのは
    きっと夕暮れが近いせいだろう。


    塀にハシゴを立てて登る
    一頭の牛。

    長さと太さと形の違う左右の角。

    少女は素足の指で
    右の角に触れてみる。


    「なにか喋ってごらん」
    牛そっくりに牛が鳴く。

    「あはは。まるで牛みたい」
    少女そっくりに少女が笑う。


    塀の向こうの斜め上、

    獄舎の窓が音もなく開いて
    ふたりの女の顔が闇に浮かぶ。


    眉のない女と髪のない女。

    彼女たちには
    表情というものがない。


    夜になるまで待っても
    黙ったまま。
     

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  • 奇妙な部屋

    2009/02/01

    変な話

    なんとなく奇妙な部屋なのである。

    どこが奇妙なのかよくわからないので 
    なおさら奇妙な感じがする。

    壁と床と天井があって、家具もある。
    普通の部屋のはずだが、どこか違う気がする。

    そう言えば、出入り口らしきものが見当たらない。
    ところが突然、ドアが開いて誰か入ってきた。

    こんなところにドアがあるとは・・・・ 

    そうか。思い出した。

    忘れていたのだ。
    ここから私も入ってきたというのに。

    ドアが閉まると、出入り口は再び消えてしまった。
    もう記憶としてしか残っていない。

    もし忘れてしまったら・・・・ 

    この部屋の中には様々な人たちがいる。

    ソファーの上で逆立ちしてる人。
    壁を黙々と叩き続ける人。

    床を舐める人。
    立ったまま裸で抱き合ってる人たちもいる。

    何人いるのか数え切れないほどいる。
    つまり、それだけ部屋が広いわけだ。

    広い部屋なのに、なぜか窓はひとつしかない。
    そして、その窓の向こう側には風景がない。

    この部屋のある建物のすぐ隣に別の建物があり 
    その壁面によって窓は塞がれているらしい。

    その別の建物も、その壁面すら見えないのだが 
    風景が見えない以上、そう考えるのが自然なのである。

    私は一度だけ目撃したことがある。
    この窓から黒くて長い腕が部屋に侵入するのを。

    その腕の先にあるクモの脚のような毛深い手は 
    ソファーに座っていた人の頭を鷲づかみにした。

    そして、その人をそのまま窓から連れ去った。

    結局、その人は二度と戻って来ることはなかった。

    このような腕の出現は稀にあると言う。

    それを目撃したことがある人なら

    あるいはソファーに座らず、
    逆立ちするようになるかもしれない。

    私は、ソファーは勿論のこと 
    なるべく窓に近づかないよう注意している。

    それでも、なかなか安心はできない。

    なぜなら、ぼんやり壁際で考え事などしていると 
    こっそり窓の方から近寄って来ていたりするから。

    そんな時、どうしても私は思ってしまう。
    やはり奇妙な部屋なのだな、と。
     

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