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2016/11/16
どこか知らない場所に沼がある。
ただし、その沼を見た者はいない。
もともとは水の澄んだきれいな池だった。
魚なども泳いでいたそうである。
それが今では真黒な泥沼。
腐った臭いを周囲に撒き散らしている。
魚どころかイトミミズさえも逃げてしまった。
なぜこんなに汚れてしまったのかというと
じつは沼の底に穴があるから。
その穴の奥は細い管になっていて
地中をどこまでも延びている。
どこか知らないところにつながっていて
そこから汚れたものが送られてくる。
そのために池が泥沼となってしまったのだ。
それにしても沼の汚れはもう限界。
よくもまあ地中の管が詰まらないものである。
そのうち逆流するのではなかろうか。
たまりにたまった真黒な汚泥の逆流。
ものすごいことになりそうだ。
このまま放っておいていいのかね。
どこにつながっているのか知らないけどさ。
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2016/11/13
ある独居老人が行方不明となり
その家の古い箪笥(たんす)の中から赤ん坊が発見された。
その赤ん坊がどうなったかは知らないが
問題の箪笥は今、私の持ち物になっている。
「片付け屋」とも呼ばれる遺品整理業者から流れたのだ。
いわゆる孤独死の汚部屋の遺品ではないから
死臭もなく、由緒ありそうな立派な古箪笥である。
そして、この箪笥をしばらく使っているうちに
私は奇妙な現象に気づいた。
その引き出しの中に物をしまっておくと
そのうち別の物に変わってしまうのである。
まずTシャツの色や絵柄が変わったのには驚いた。
地味なデザインが派手になったのである。
あれこれ中に入れる物を変えて調べてみた。
すると、理屈は不明だが、この現象
どうやら収納する引き出しの位置によるらしい。
引き出しの上の段ほど新しくなり、下ほど古くなる。
同じく左側は特殊になり、右に寄ると一般的になる。
生玉子を入れておいたら消滅したこともあり
例外はあるものの、大体そんな感じなのだ。
ということは・・・・
引き出しの中から発見されたという赤ん坊、
おそらく行方不明の老人その人に違いあるまい。
しかしながら、どうも不思議なのは
上の段の引き出しは小さいのばかりだということ。
たとえ小柄だったとしても
大人が中に入れたとはとても思えないのだが・・・・
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2016/11/07
その少年には見えてしまうのだ。
あやまって普通の人たちが侵入しないよう
選ばれし我々が苦労して隠しておいた秘密の入り口
あれを彼は見つけてしまった。
さらに、そこから延々と続く迷路難所を通り抜け
こんな奥深く、我々のいる秘所まで到達してしまった。
まさに驚くべきことである。
明らかに普通ではない。
いや、違う。
それどころではない。
この我々でさえ見ることのできない出口を
どうやら彼は見つけてしまったらしい。
そして、あろうことか我々を置き去りにしたまま
ひとり未知の世界へ脱出してしまったのだ。
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2016/10/31
これは「ヘビの共食い」という怖い話なんだけど
僕はこの話を友だちのユウキ君から聞いた。
ユウキ君はアカネさんという従姉いとこから聞いたそうで
そのアカネさんがどんな女の人なのか、僕は知らない。
で、その会ったこともないアカネさんが言うには
この怖い話には、ヘビが一匹も出てこないんだって。
「ヘビの共食い」という話なのに変だよね。
それで、なぜなのかユウキ君がアカネさんに尋ねたら
アカネさん、もっと変なことを言うんだって。
この怖い話をアカネさんに教えてくれたのは
アカネさんの家の近所の須藤さんという人らしい。
一人で暮らしてるおじいさんなんだそうだけど
やっぱり僕、そんな老人は知らない。
その須藤さんに、アカネさんも同じことを尋ねたらしい。
すると、これはユウキ君の友だちの僕から聞いた話だから
僕に尋ねてごらん、ってアカネさんに言ったんだって。
なんだよ、それは。
そんな話、もちろん僕は初耳さ。
須藤さんがアカネさんをからかったのか。
それとも、アカネさんがユウキ君をからかったのか。
それとも・・・・
まあ、なんだかよくわからない変な話なんだけれども
まあ、なんとなく怖い話でもあるよね。
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2016/10/26
早朝のオフィス。
主任が下請け会社の課長と話をしている。
これから地方へ出張らしい。
新製品製造現場の立会であろう。
だが、なんとなく気になることがある。
この主任はすでに退職したのではなかったか。
「昨日は飲んだの?」
下請け会社の課長が声をかけてきた。
「いいえ」と、愛想のない私。
「ああ、そう」と、つまらなそうな課長。
「近頃の文学というのは、こんなんでいいのかね」
近頃の文学は知らないが、昨日は飲む暇などなかったはず。
担当していた製品にクレームが発生したのだ。
いや、待てよ。
これから発生するのであったか。
事実の認識は曖昧であるが、いずれにせよ
酒を飲んでも問題の解決にはならない。
ふと気づくと、もう二人の姿はない。
その差し替えのように部長が出勤してきた。
額に汗をかいている。
「チョコレートはあるか?」
記憶を探る。冷蔵庫のイメージが浮かぶ。
「一枚だけあると思います」
「一枚だけ、ということはあるまい」
部長の声は怒りに満ちている。
そう言えば、四箱ほど購入したばかりだ。
なるほど、一枚だけでは納得しかねる。
あやしい。これは何かある。
これまでの悩みが怒りに変わってゆく。
「クレームの原因はチョコレートですね」
部長は返事もしてくれない。
安易な責任転嫁を見抜かれたのであろうか。
私は、あわててデスクの引き出しを開ける。
そこにチョコレート色の沼があった。
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2016/10/20
「先住民の悪しき遺物」と呼ばれているが
この村には至るところに罠がある。
落とし穴、仕掛け弓矢、落石、地雷、
切れる吊り橋、迷路の洞窟、底なし沼。
便利なので使い続けていると
そのうち逆に使われてしまう道具。
美しいので家に飾っておくと
住む人が病気になったり醜くなる人形。
乗物は常に死と隣り合わせ。
たとえ楽でも、安心できない。
薬のほとんどは毒。
うまい話にゃ裏がある。
なので、ここの村人たちは質朴である。
用もなく遠くまで出かけたりせず
必要のない持ち物は増やさないようにしている。
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2016/10/19
よく思い出せないのだけれども
どこかでなにかのイベントがあったのだ。
それが終わって家に帰らなければならないのに
こんなところで僕は雑誌なんか読んでる。
こんなところというのはバス停の前で、その証拠のように
見知らぬ女の子が僕の肩を揺すって問う。
「あなた○○の方ですよね。
○○へ帰るには、このバスでいいのですか?」
そう問われてみると、自然に記憶がよみがえり
自信を持って次のように断言できた。
「ええ、そうです。
△△駅行きのバスなら、間違いありません」
それで彼女は安心したらしく笑顔を浮かべ
辛抱強く待っていてくれたらしい停車中のバスに乗る。
渡りに船とばかりに僕も続いて乗る。
乗車券について運転手に尋ねると
「途中乗車の場合、中央で受け取ってください」
くたびれた老婆が隠すように立っていたが
自動発行機の口から突き出ていた白いベロを引き抜く。
最後尾の座席に腰を下ろせば、やれやれである。
ところが、小学校から下校途中であろう男の子が
馴れ馴れしく声を掛けてくる。
「おい。そんなこと許されると思っているのか」
見知らぬ大人にどういうつもりか、と呆れたが
じつは僕を挟んで反対側の同級生に話しかけたのだった。
しかし、そのように思えないこともない状況を利用して
見知らぬ大人をからかっていないとも限らない。
(なにしろ、近頃の子どもは油断ならないからな)
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2016/10/18
暗いオフィスの狭い一室である。
中央にデスクが寄せ集められ
その上にコンロがいくつか置かれ
丸底の黒い鉄鍋が火にかけられている。
すぐに湯を沸かす必要が先ほどまであったはずだが
なぜか今、おいしそうな鍋料理を煮ている。
デスクに座った数人の従業員たちは呆れ顔だ。
もうひとつ土鍋もあったので
水を入れ、別のコンロで温め始める。
階下からアルミ鍋を持って先輩社員が現れた。
「すまん。ちょっと使わせてよ」
そのままコンロに点火して手持ちの鍋を置く。
階下の部屋にはコンロがないのだが
どうしても貧しさを感じてしまう。
電気保温ポットが故障しているとしても
湯沸しより急がれる仕事がないのだろうか。
そろそろ土鍋の湯を使いたいのだが
取っ手が熱くて素手では持ち上げにくい。
隣室に入り、手頃なものはないかと探す。
使われることなく、誇りをかぶったデスクの群。
殺伐とした広い室内には誰もいない。
ゴーストタウンを連想させる。
粗品の社名入りタオルを見つけたところで
後輩社員が土鍋を素手で持って現れた。
「手、熱くないの?」
「平気です」
かなり無理しているような気がする。
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2016/10/12
他人から借りた傘を返す時に
どのようにすればいいでしょうか?
みたいな知人の問い合わせに対して
なんとか返答しようとしている夢を見て
人は理屈でなく気分で動くのだから
相手の気分に合わせれば良いでしょう。
みたいな話をしようかなと思っているうちに
途中で目が覚めてしまったんですけど
どうすればいいでしょうか?
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2016/10/01
大雨が降ったという記憶もないが
洪水でもあったのだろうか。
道路が川になっている。
これでは買い物に出られない。
二階のベランダから家の前の通りを見下ろす。
通勤のサラリーマンがカヌーを漕いでいる。
通学の小学生はビニールプールごと流されている。
ことさら驚いている様子もない。
まるで私がのほほんと余生を送っている間に
秘密裏に都市計画が進んでいたかのようである。
近頃、世間の流れがわからない。
テレビは家にないし、新聞も取ってないのだ。
それはともかく、なんとかしなければ。
小舟になるようなもの、家にあったろうか。
洗面器やバケツでは役に立つまい。
通販でカヌーでも買うしかないかな。
なんにせよ、面倒臭いし、えらい出費だ。
私は溜息をつきながら
寝ぼけ頭のままパソコンの電源を入れた。
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