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Tome館長

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  • 流されるまま

    2012/07/21

    変な話

    いらっしゃい。
    どうぞ、こちらへ。

    ようこそ。
    初めまして。


    あなたも流されて来たんでしょ?

    そうでしょうね。
    みんなそうよ。


    流されるままに生きていると

    なぜかみんな
    ここに到着してしまうらしいのよ。


    ええ。
    いろんな人がいるわ。


    流されそうな芸能人。
    流されそうもない相撲取り。

    流れに逆らいそうな競泳選手まで。


    流される基準って

    正直なところ
    よくわからないのよね。


    他の多くの人たちが流されているものだから

    じつは流されてない人たちが
    逆に流されているように

    見えるだけなのかもしれないし。


    なんにせよ
    あまり気にしないことね。

    気にしていても
    そんなに流れは変わらないものよ。


    とりあえず
    過去のことは水に流して

    まずは乾杯しましょ。


    はい、乾杯!


    うふっ。

    あなたって
    本当に流されやすいのね。
     

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  • 教室の赤いしずく

    2012/07/19

    変な話

    ここは教室。
    赤いしずくが床に垂れている。

    見上げると
    天井の隙間から赤い布がはみ出し、
    そこからポタポタしずくが垂れていた。

    教師が教科書を朗読していたが
    赤い布が気になり、
    授業に集中できなかった。

    「さて、続きは誰に読んでもらおうか」
    教師の気配を背後に感じた。

    いかにもやさしそうに肩を叩かれる。

    「ええと、ここまで読んだんですよね」
    確認のため、自分の教科書を指で示す。

    教師も手持ちの教科書を指で示す。
    「ここまで読んだ」

    ページ数も位置も合っていたが
    あいにく教科書そのものが違っていた。

    天井の赤い布から赤いしずくが
    教師の頭にポタポタ垂れ落ちている。

    やがて、教師の前髪からも垂れ落ち始める。


     ポタ ポタ ポタ ポタ
     ポタ ポタ ポタ ポタ

     ポタタ ポタ ポタ
     ポッタタ ポタタ

     ポタタ ポタタタ
     ポッタタタ


    それでも教師は気にならないようだ。
     

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  • 記録の申告

    2012/07/15

    変な話

    学校での泊まり込み合宿の初日、
    さっそく部員全員で徒競走をするという。

    坂道の多いコースを一番で駆け抜け、
    ゴールとなる教室に到着する。

    教卓の上に記録用紙が置いてある。

    記録は自己申告することになっている。
    掛け時計を見ながら必要項目に記入する。

    徒競走は終わった。

    他の選手が記録したものも集め、
    階下にある職員室へ届ける。

    顧問の他にも数人の教師の姿があった。

    なにやら不穏な話をしている。

    「もう持って来たの?」

    差し出された記録用紙の束を見て
    眼鏡の中年女教師が怪訝な表情をする。

    「下駄箱に突っ込んでおきましょうか」

    こちらも反抗的な態度になる。

    「いいわ。もらっておく」

    最初から素直に受け取ればいいのに、
    と言えない自分。

    苛立たしい気持ちのまま職員室を出る。

    あの女が顧問だったのかどうか、
    じつは確信がない。

    いずれにせよ

    我々は陸上部ではないのだから
    大会では他の学校に敵わないだろう。

    そんなことを思う。

    なんの大会か知らないけど。
     

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  • 古代の謎

    2012/07/07

    変な話

    大きな海の真ん中に
    小さな無人島があった。

    津波によって島が洗われた翌年、
    遠い国の船がここを訪れた。

    そして
    古代遺跡が発見された。


    「これは凄い!
     なんという高度な文明だろう」

    高名なる考古学者が感嘆した。

    ある特殊な分野においては
    現代より進歩していた形跡があるという。


    出土した石碑には
    古代文字が刻まれてあった。

    それは次のように読めた。

    「わが謎を解く者、全能なり。
     ゆえに、あえて謎を示すまでもない」
     

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  • 天 国

    2012/06/22

    変な話

    天国は楽しいところです。


    善人が亡くなると魂は天に昇り
    天国で天使と一緒に暮らすことになります。


    気に入られ好かれ愛され注目され
    感心され歓迎され褒められ称賛され

    撫でられ揉まれ抱かれ持ち上げられて

    気候は温かく、または涼しくて
    穏やかな日差し、心地好い風が吹いて

    ありとあらゆるおいしい飲み物があり
    ありとあらゆるおいしい食べ物があり

    また、飲んだり食べたりしなくても一向に平気で

    水中に潜ったり
    空中を飛んだり

    どこへでも行くことができて

    いつも楽しいことばかりで

    刺激があって面白く
    感動や感激の連続で

    なんでもわかるから尊敬され

    信頼され信用され
    意志や信念のままに実行され

    すべてを受け入れ、すべてを与え
    良い方向へ限りなく世界が広がり続け

    飽きることも疲れることもなく
    倦怠も憂鬱も苦痛も困難もなにもなく

    したくないことはしなくてもかまわなくて
    できないことはできなくてもかまわなくて

    もっとも望むままになんでもできるのですけれど

    それら喜びに満ちた出来事の数々が
    永遠のように繰り広げられ続けるのです。


    どんなことでも可能です。

    たとえば、もう一度生まれ変わって
    ふたたび地上に降り立つことさえできるのです。

    また、どんなことでも実現します。

    たとえば、もう一度死に直して
    地獄に落ちることさえできてしまうのです。


    このようなところが天国です。
     

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    • Tome館長

      2013/06/02 02:04

      「Spring♪」武川鈴子さんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/05/31 18:18

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 砂漠の難破船

    2012/06/12

    変な話

    奇妙な難破船だった。

    その形状はともかく、
    置かれた位置が不可解だった。

    海底に沈んでいたわけではない。

    海から遠く、大陸の奥深く、
    砂漠のド真ん中で座礁していたのだ。

    ただし、それを座礁と呼べるとするならば
    ではあるが。


    「こりゃ、かなり古いな」
    調査団の団長が呟く。

    「中世の大型帆船みたいですね」
    と、若い調査員。

    「まったく、信じられん話だ」
    「あの旗は?」

    「ああ。マンガとしか思えん」

    黒地に頭蓋骨および交差した二本の大腿骨。
    あまりに典型的な海賊旗である。

    舷側には砲門まである。
    海賊船と認めるしかあるまい。

    「しかし、なんでまた・・・・・・」
    団長は途方に暮れる。

    「昔、ここが海底だったとか」
    「・・・・・・十億年ほど前なら、あるいはな」


    砂漠のド真ん中に難破船があるばかり。


    「誰か、俺たちの反応を見物して
     どこかで笑ってる奴がいそうだな」

    団長は、疑わしそうに辺りを見まわすのだった。
     

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  • 凍える指

    2012/06/10

    変な話

    そのピアノの鍵盤は氷なのだった。
    とても冷たいのだった。

    ピアニストの指先から熱を奪い、
    心凍らせる音色、響かせる。


    蓋を開いて覗いてみると、
    銀色の弦が液体窒素に浸されていた。

    道理で、寒々しいどころか
    冷え冷えとしているわけだ。


    ピアノ・コンチェルト「氷河期」序曲。

    凍えるように演奏が始まった。


    遥かなる氷原の上、
    聴いているのかいないのか

    皇帝ペンギンが一羽だけ、

    じっと黙ったまま
    直立している。
     

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    • Tome館長

      2013/05/20 11:37

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/06/29 10:47

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 自販機の町

    2012/06/09

    変な話

    暑い。
    喉が渇く。

    もう歩き疲れた。
    苦しいばかりである。

    どうして俺は旅を続けるのか。

    時々、自分でも分からなくなる。


    それにしても・・・・・・


    ここは、まったく妙な町だ。

    町中、至るところに自動販売機、
    いわゆる自販機が置いてある。


    ポケットの中にいくらかコインがあった。

    それで、この町に入ってからずっと
    俺は飲み物の自販機を探し続けている。


    ジュースでもコーヒーでもビールでも
    飲めるならなんでも構わない。

    しかし、なぜだろう。
    ひとつも見つからないのだ。


    ペット専用下着の自販機。
    義足および義手の自販機。

    捕虫網の自販機。
    スコップの自販機。

    葬儀用遺影の自販機。
    ブロック塀の自販機。

    変態判定薬の自販機。
    腐女子向け防腐剤の自販機。


    おかしな自販機ばかりだ。

    自販機の自販機まである。
    とんでもなく大きい。

    興味ないこともないものもあるのだが、
    なにせ高額なので手が出ない。

    というか、それどころではない。

    喉が渇いてかわいてかわいて
    今にも死にそうなのだ。

    もう歩けない。

    俺は、倒れるように地面に寝転んだ。


    静かだ。
    誰もいない。

    通行人もクルマも通らない。
    町なのに建物さえない。

    自販機しかない町。
    自販機のうなる音しか聞こえない町。


    寝転んだ場所のすぐ近くに
    背の低い横長の自販機が置いてあった。


    俺は苦笑する。

    それは、ミイラの自販機なのだった。
     

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  • 窓辺の風景

    2012/06/07

    変な話

    今日は明るい海の風景が見えます。
    沖合に客船が浮かんでいます。

    甲板上で遊びふける
    半裸の乗客たち。

    なにやら恍惚の表情です。


    昨日は暗い寝室の風景でした。

    枯れた観葉植物。
    壁を這うおぞましい虫。

    ベッドにはミイラ化した老人。
    まだ死臭が漂っているような気がします。


    私は窓辺に立っています。
    いつ見ているのです。

    気まぐれに変わり続ける風景を
    こうして黙って眺めているだけなのです。


    誰も私に気づいてくれません。
    誰もこっちを見てくれません。

    呼びかけてもみましたが
    誰ひとり振り向いてくれません。

    こんなにさびしいのに。
    こんなにひとりぼっちなのに。


    ・・・・・・でも、
    もう慣れてしまったのでしょうね。

    心のどこかで
    密かに期待している私がいます。


    眠りに落ちる前に
    つい考えてしまうのです。

    明日の窓は、いったい
    どんな風景を見せてくれるのかしら、と。
     

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  • 白と黒の山荘

    2012/05/27

    変な話

    庭には白い犬と黒い犬がいた。
    白い犬小屋と黒い犬小屋もあるのだった。

    なぜか白い犬は良い犬で
    黒い犬は悪い犬ということであった。

    それはともかく、ここは山荘である。

    共同下宿としか思えないのだが

    山荘であると主張されたら
    宿泊者たるもの、認めざるを得ない。

    左右ふたつの部屋に分かれている。

    右の部屋は自分の。
    左の部屋は若い女の。

    中央にある共同炊事場で自炊しながら
    互いに他人として泊まっている。


    ある日、ひとりの若い男がやって来た。

    左の部屋の女の知り合いらしい。
    にぎやかな話し声が聞こえてくる。

    「君、いくつだったっけ?」
    「十九才でーす」

    そういえば、彼女が痴漢に襲われて
    警察官と話していたのを聞いたことがある。

    「あなたの年齢は?」
    「二十二才です」

    つまり彼女は、相手が違うと
    態度も年齢も異なるというわけだ。

    「おい。あんた」

    共同炊事場の流しで食器を洗っていたら、
    その若い男が因縁をつけてきた。

    「あんたがそんな派手なパジャマ着てるから
     おれが地味に見えてしまうじゃないか」

    なるほど、自分は派手なパジャマを着ている。
    かたや、相手は地味なパジャマだ。

    しかし、それがなんだというのだ。

    開いた窓から夏の積乱雲が見える。
    むくむく腹が立ってくる。

    そいつの襟首をつかんで睨みつけた。

    「ふざけるな!」

    おどしつけたつもりなのだが

    普段おどし慣れてないため
    情けないくらい声が裏返っている。

    それでも、相手は気が弱いのか
    そこそこ怖気づいたようだ。

    その時、女が駆け足で炊事場に現れた。

    裸エプロン姿の彼女は
    気づかないのか無視しているのか、

    白い素肌の背中をこちらに向けたまま
    黙って共同冷蔵庫の扉を開ける。

    丸ごと入っている豚の頭部が
    彼女の腋の下の隙間から見えた。

    その見開かれた両目。

    なにも起こらない
    静かな午後のひと時。

    白い犬も黒い犬も
    眠っているのか

    ちっとも吠えないのだった。
     

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