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Tome館長

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  • 美しい髪

    2013/03/07

    変な話

    その昔、たいそう美しい髪の女がおりました。

    流れるごとく滑らかな黒髪だったそうです。

    「そなたの髪は天の川より美しい!」
    などと人々は褒めそやすのでした。


    ところが、この女は若くして亡くなりました。

    その長く美しい髪をみずから切り、
    それを結んでつないで首を吊ったのでした。


    坊主頭のまま女の亡骸は埋葬されました。

    残された美しい髪は
    子孫の方々によって引き継がれ、

    今でもどこかに大切に保管されているそうです。


    伝わっているお話はこれだけです。


    さて、よくわからないのですが

    本当のところ
    この女は美しかったのでありましょうか。
     

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  • 壁の凹み

    2013/03/02

    変な話

    洞窟を利用して築かれた寺院がある。


    奥の壁には古代文字らしきものが刻まれ、
    ところどころに凹みがあり、

    何事か意味のありそうな気配を漂わせつつ
    様々な供え物がはめ込まれている。

    ある物は猿のヘソの緒であったり、
    また別のある物は髪飾りであったりする。

    それがビールの空き缶であったりするのは
    おそらく心ない観光客の仕業であろう。

    だが、たとえ高徳の僧侶であろうとも

    それら供え物を差し替えること
    信者の掟として許されていない。

    腐れば腐ったで
    盗まれれば盗まれたで

    凹みから転がり落ちれば転がり落ちたで

    なんらかの象徴であり、
    受け入れるべき運命である、と言う。


    信者は理解せずとも受け入れねばならぬ。


    この寺院もいつか埋もれるであろう。

    しかしながら
    それもまたやはり

    なんらかの象徴であり、
    受け入れるべき運命なのである。
     

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  • 石段の途中

    2013/02/24

    変な話

    恐ろしく長い石段だった。

    その石段を俺は上っている。
    どこまで続くのか、上は霞んで見えない。

    足が疲れたので、途中で休むことにした。

    石段に腰かけ、ぼんやり見下ろす。
    どこから続くのか、下も霞んで見えない。

    やがて下の霞の中から片腕の男が現れた。

    さっき追い越したばかりの男だった。
    黙ったまま俺の横を通り抜ける。

    無愛想で目付きの悪い男だ。

    (なぜ奴は石段を上るのだろう)
    なんとなく考えてしまった。

    (なぜ俺も石段を上るのだろう)
    休んでいるのに胸がドキドキしてきた。

    (いつから俺は上っているのだろう)

    思い出せない。
    記憶も霞んでいた。

    上っても下っても
    なんだか同じような気がしてきた。

    休んでいても同じかもしれない。


    しばらくして立ち上がった。

    一段一段、俺は石段を下り始めた。
    下るのは上るより楽だった。

    しかし、どこまでも石段は続いていた。

    (この石段はなんなのだろう)

    よく似ているような気がした。

    この石段も、その次の石段も、
    その前の石段にしたって・・・・


    こちらへ石段を上ってくる者がいる。

    あの目付きの悪い片腕の男だった。
     

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  • 雨が降ったら

    2013/02/19

    変な話

    彼女、雨が降ったら酒を飲む。
    すぐに川に変身してしまう。

    ボロボロの傘が流れて来る。
    競技用のプールも流れて来る。

    ついには海まで流れて来ちゃった。

    このままでは溺れちゃう。
    もう川のままではいられない。

    彼女、立ち上がり、教会へ行く。
    懺悔室で告訴する。

    「神父様はタマネギなのよ!」

    市民は怒り、司祭を鍋で煮てしまう。

    彼女、悔い改めて尼になる。
    そのまま映画に主演で出演。

    腰を振り振り、川で拾った傘を差す。
    傘はボロボロ、気分は上々。

    その途端、窓からプールがなだれ込む。

    「水が汚れ、本日の競技は中止です!」

    ショックで彼女、死んでしまった。

    彼女の死体を海に捨てる。
    だって海は拒めない。

    やがて、妙な噂が巷に流れる。

    あの行方不明のボロボロの傘、
    じつはプールが隠し持っている、と。

    そこで彼女、
    やっと酔いから醒めたのだ。
     

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  • あやしい美術館

    2013/02/17

    変な話

    家の近所に古臭い美術館がある。

    あやしい美術館
    と呼ぶべきかもしれない。

    奇妙な作品ばかり展示されているのだ。


    たとえば
    『散歩させる犬』

    着衣の犬と鎖でつながれた裸婦の絵。
    散歩道には糞まで描かれてある。


    それから
    『不潔な自画像』

    額縁が立派な、しかし汚れた鏡。
    その前に立つ者の姿が不潔そうに映る。


    そして
    『ギロチン』

    ギロチンの実物、そのままである。
    実際に使える危険物が床に置きっぱなしなのだ。


    さらに
    『絵の中の現実』

    ありふれた窓辺の風景画。
    窓から山並みが見える。

    ただし、見る角度で景色が変わる。

    なんと言う事はない。
    その絵の中の窓は美術館の窓なのだ。

    つまり、窓ごと使って描かれた壁画。
    初心者なら騙されるかもしれない。


    しかし、それにしては
    その窓から見える景色に見覚えがない。

    不思議だ。


    よくよく考えてみると

    もともと近所に美術館なんか
    なかったような気さえしてくる。


    うーん、あやしい。

    じつにあやしい。
     

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  • 瞑 想

    2013/02/13

    変な話

    古い寺院の奥、僧侶がひとり。
    海より深く、瞑想にふけっている。


    そこへ野生の虎が現れる。


    僧侶は虎の侵入に気づかない。

    近づいて、僧侶の鼻を舐める虎。
    まだ僧侶は気づかない。

    虎は僧侶の頭に噛みつく。
    それでも僧侶は気づかない。


    やがて寺院の内は血の海となる。


    古い寺院の奥、野生の虎が一頭。
    その表情の、深く静かであること。
     

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  • 頬叩き

    2013/02/11

    変な話

    寝床に入り、ウトウトしていると
    突然、頬をピシャリと叩かれる。

    痛くはないけれど、驚いてしまう。

    近くには誰もいないので
    気のせいかな、とも思うのだけれども

    あまりにも生々しすぎる。


    こんなふうな見えない頬叩きが
    いままでに4回ほどあって

    あっ、またか、と思ってしまう。


    痙攣の一種なのか
    夢なのか

    どうも納得できない。


    もしも幽霊とか妖怪の仕業なら

    次回からは
    頬を二度叩くように。
     

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  • 熱帯の夢

    2013/01/21

    変な話

    息苦しい夢から目覚めたら
    汗まみれの胸の上に亀が乗っていた。


    「この亀、悪い夢を喰うね」

    細長く黄色い舌を見せて
    混血の案内人が笑う。

    なるほど、どんな夢か思い出せない。


    酔ったようにカヌーが揺れている。

    流れているとも思えない密林の川面に
    牛を食べるという魚の唇が浮かぶ。


    なんの予告もなく
    矢のスコールが頭上を襲う。

    「あんた、酋長の娘に手を出したな!」

    案内人に非難されたが
    とんと記憶にない。

    夢の中で手を出したのだろうか。


    とりあえず頭の上に亀を乗せ、
    矢の雨を防ぐ。


    太腿の上では
    ライフルの銃身が曲がっていた。

    熱帯の暑さに項垂れてしまったのだろう。


    「シリカクセ! シリカクセ!」

    羽ばたきながら
    原色の鳥が警告する。

    しかし、手遅れだ。
    一本の矢が尻に刺さった。

    ストローみたいに空洞の矢。


    「それ、ちょっとだけ吸わせろ」

    混血の案内人の眼が
    飢えた獣のように血走っている。
     

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    • Tome館長

      2013/11/19 23:43

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/11/19 11:37

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • トトカ湾の女

    2013/01/19

    変な話

    ボートを盗み、
    女はトトカ湾へ逃げた。

    艦隊がボートを囲むように追う。

    女を海洋へ逃がしてはならない。
    捕獲が難しくなってしまうからだ。


    すっかり艦隊に包囲された女は
    諦めの表情、濡れたドレス。

    艦隊総指揮官として
    俺は甲板から女を見下ろす。


    女の手に光るものがあった。

    化粧鏡などではない。
    まっすぐ銃口がこちらを向いていた。

    「あんたなんか、大っきらい!」


    さすが、トトカ湾の女だ。
     

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  • どこまでも扉

    2013/01/18

    変な話

      扉を開ける。

    食堂だろうか。
    中央に大きなテーブルがある。

    テーブルの上には白い皿が置いてある。
    その皿の上には女の首が載っている。

    眉と唇の曲線が似ているような気がする。

    「ようこそ、いらっしゃいませ。
     お待ちしておりましたわ」


      違う。
      ここではない。

      扉を閉める。


      次の扉を開ける。

    熱帯のジャングルだろうか。
    天井から巨大な蛇が垂れ下がる。

    蛇の喉は膨らんでいる。
    開いた口の中に女の顔が見える。

    大蛇に飲み込まれつつある女が微笑む。

    「あら、いいのよ。
     そんなに気を遣わなくても」


      違う、違う。
      ここでもない。

      扉を閉める。


    そんなふうに
    扉の列が並んでいる。

    どこまでもどこまでも
    並んでいる。
     

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