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  • ゴムの沼地

    2013/04/27

    変な話

    月夜なのに、どこにも月は見えない。

    今晩、どこやら秘密の場所で
    なにやら秘密の集会があるという。

    それに出席することになっているのに
    期待どころか不安で仕方がない。

    さような個人的心情はともかく、
    道端に古いロッカーが置かれてある。

    扉をはずして中に入り、元通り扉をはめる。

    そのロッカーの中はちゃんと
    エレベーターになっているのだった。

    いつも利用しているロッカーなのに
    こんな仕掛けがあるとは、ついぞ知らなんた。

    知らないうちに動き始めているし。

    到着したらしき独特の重力変化を感じた。
    ロッカーの扉をはずして外へ出てみる。

    そこは絵に描いたような月夜の停車場である。

    線路の上には貨物列車が停まっている。
    なぜなら貨物を積んでいるから。

    ゾンビのようなものが石炭の如く
    うずたかく積まれているのがわかる。

    まだ他の出席者の姿はないようだ。

    貨物列車の上に立ってみようとして
    積まれた貨物の上に足をかける。

    その得体の知れないなにものかは
    敏感に反応して、モゾモゾ動き始める。

    お化け屋敷のカラクリ人形のようでもあり、
    腐った酔っぱらい親父のようでもある。

    なんにせよ、足場が不安定だ。
    形容しがたい不気味な動きをする。

    「なんだ、うぐ、おまえは」
    「踏むな。うぐぐ、痛いじゃないか」

    「そこじゃない。うぐ、ここだ、うぐ」
    「うぐぐぐ、もっと、うぐぐぐぐ」

    なんとも気色悪い声である。

    ふと線路の向こう側を見ると
    月光に照らされた組織代表者の姿があった。

    彼の近くへ行かなけれぱならない。
    なのに、なかなか前進できない。

    わけのわからぬ貨物ゾンビを踏みながら
    ゴムの沼地に沈むような予感がするのだった。
     

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  • 彼女は異星人。

    2013/04/17

    変な話

    彼女は異星人だ。

    それを隠すため、子どもを産む。
    たくさん、たくさん、彼女は子どもを産む。


    だから、ほら、もう

    この星の半分ほどが
    彼女の子どもだ。
     

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  • 大きな瞳

    2013/04/12

    変な話

    大きな瞳に見つめられている。


    あたりは深い闇に包まれ、
    その瞳の他に何も見えない。

    触れたくなるほど魅力的な瞳。
    その瞳に吸い込まれてゆく指。

    指先が瞳の中心に突き刺さり、
    そのまま手首まで埋まってしまう。

    さらに腕がズブズブ奥へ入り込む。

    メリメリと音を立て
    肘さえ潜り込む。

    瞳と腕の隙間から
    透明な液が溢れる。

    涙だろうか。
    痛いのだろうか。

    それとも、喜んでいるのだろうか。


    ああ、しかしながら

    瞳の気持ちも推し量れぬうちに
    もう肩まで深く飲み込まれてしまった。
     

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  • 口の中の感触

    2013/04/08

    変な話

    夢から覚めたらしい。

    そこは会社、または教室のようである。
    机が並んでいて、人が歩いている。

    なぜか口の中が異様に感じる。
    グラグラして、歯が抜けそうだ。

    そこで、片隅にある洗面台で歯を磨き始める。

    突然、背後から会社の上司に抱きつかれる。
    「なにをしているのだ?」

    すると、ここは会社なのだった。

    「夢で、ここで歯を磨いている夢を見て、
    だから、ここで歯を磨いているのです」

    上司は呆れた表情になる。
    なに、いつもの事だ。

    そのまま彼の話に聞き耳を立てる。

    これから上司たちは飲みに行くらしい。
    なんだか自慢話を聞かされているような気分。

    そういうつまらない事に出費するくらいなら
    歯の治療でも受けるべきだ、と思う。

    ところが、すでに場所は移動。

    女将が呼んだのか、呼ばなかったのか、
    すでに上司たちは飲み屋に集まっている。

    女将は珍しく着物姿だ。

    それはともかく、食欲もないのに
    今にも食事を始めようとしている自分。

    生のトウモロコシを口に含んだ感触。
    口の中は異物感で一杯である。

    カウンター内に入り、女将にすがりつく。
    「お願い。僕の口の中を見て」

    そして、大きく口を開ける。

    「あら、取れているわ」
    女将は口の中から歯を一本つまむ。

    「一本だけではないはずなんだけど」
    「あら、そう言われてみば、そうね」

    結局、ほとんど全部の歯を抜かれ、
    そのまま女将に体をゆだねてしまう。

    安心してしまった。
    上司たちの食事より優先してもらったのだ。

    大事にされている証拠のような気がして
    口を開けたままボロボロ泣いてしまう。
     

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  • 空白の時間

    2013/04/07

    変な話

    出勤前に立ち寄るところがあった。

    電車の切符代を必要以上に払い過ぎたり、
    閉鎖された改札口を飛び越えたりしながら

    混乱した状態で目的地を目差した。


    そして、空白の時間があった。


    それから出勤してみると、
    今日は得意先への企画提案の日である。

    まだ企画書は完成していない。

    だが、もう出かけなければならない時刻だ。
    部下に残りの作業をまかせるしかない。

    これから得意先に出かけるが

    企画書が完成したら営業に渡し、
    私に届けさせるよう、部下に指示する。

    だが、暇だから自分で届ける、と部下は言う。

    どうせ営業は得意先に行くのだから
    それは無駄手間だ、と部下を説得するが

    なかなかわかってもらえない。

    だが、とにかくもう時間がない。
    急いで出発しなければならないのだ。

    ところが、玄関に自分の靴がないのである。

    その会社らしくない家庭的な玄関には
    ところ狭しと数多くの靴が置いてある。

    しかし、肝心の自分の靴が見つからない。

    ふと思い出したのは、あの空白の時間。
    出勤前に立ち寄った場所に忘れてきたのだ。

    あせってしまう。
    サイズの合う靴さえない。

    裸足で得意先に行くわけにはいかない。
    いくら考えても良い解決策が浮かばない。

    いたずらに
    ただ時間ばかり過ぎてゆく。
     

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  • 霧の講義

    2013/04/05

    変な話

    ここはどこだろう?
    あたりには霧が立ちこめている。

    正面の壇上の老人は教授だろうか?

    その証拠でもあるかのように
    多くの学生が熱心に聴講している。

    「一般に、位相空間上に座標系を導入する場合、
     計算結果は座標系に依存しないという性質を」

    どうも講義の内容が理解できない。

    「かような連鎖移動反応によって
     高分子重合体が多分散系を作り」

    あたりに顔見知りの学生はいなかった。

    若者ばかりでなく、老人や幼児までいる。
    なんと、眼鏡をかけた猿まで。

    「概念は一般に内包と外延を持ち、
     内包が等しければ外延は等しいとされる」

    ますます霧が濃くなってきた。
    もう教授の顔さえ見えない。

    次第に講義の声も遠くなり、
    やがて消え去りそうに感じられるのだった。
     

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  • あいまい宿

    2013/03/22

    変な話

    そこは海辺のようでもあり、
    あるいは山奥のようでもあった。

    またはどちらでもないのかもしれない。

    どこでもあってどこでもない、
    そんないい加減な場所なのだろう。


    その建物の玄関の柱に掲げてあるのは
    あやしげな表札だった。

    なにが書かれてあるのかわからない。
    表札かどうかもあやしかった。

    よくわからないままではあるとしても
    しかし泊まれるはずだ、と私は思った。

    どこにも根拠などないのだけれど。


    半開きの壊れかけた扉をくぐり抜けた。

    「あら、いらっしゃいませ」
    初対面のような顔見知りのような女だった。

    この宿の女将と思われた。
    なぜなら彼女の他に誰もいないのだから。

    「お待ちしておりましたのよ」

    すると予約でもしていたのだろうか。

    なにか伝えたいことがあるはずなのに
    どうしたわけか言葉が見つからなかった。

    「とりあえず、お座りになったら」

    たぷん疲れた顔をしていたのだろう。
    それは悪い考えではないように思われた。

    だが、見渡してもどこにも椅子はない。
    仕方ないので私はそのまま床に座った。

    床には草が生えていた。
    夏草の匂いがする。

    すると季節は夏なのだろうか。

    「あれは、もう随分遠い昔の話だ」
    「ええ、そうでしたわね」

    どうして女将が相槌を打つのだろう。
    唐突に独り言を始める客も変だが。

    いつの間にか女将も床に座っていた。
    その膝小僧がひどく懐かしい気がした。

    「もう娘さんは大きくなったろうね」
    「いやだわ。娘なんかいませんよ」

    女将は口を押さえて笑った。
    どうも私は思い違いをしているらしい。

    「あたしが娘だった頃はありましたけどね」

    恥ずかしそうに女将は床にうつ伏せになる。
    その丸いお尻に蛍が一匹とまった。

    ああ、やっばりあれは夏だったんだ。

    「あの頃の川はまだ澄んでいたっけ」

    ふたたび女将が相槌を打つ。
    「川底にはカワニナが這っていましたね」

    どうして女将が知っているのだろう。

    蛍の幼虫に食べられる細長い巻き貝。
    澄んだ流れの川にしか生きられない弱虫。

    思わず泣きたくなってきた。
    そう言えば泣かなくなって久しい。


    見上げてもそこに夏の星空はなかった。
    ただただ天井の蛍光灯が眩しかった。

    どうして蛍の光なんか見えたんだろう。
    もう見えるはずもないのに。


    なにか間違っているような気がしてきた。


    こんなところでいったい
    なにをしているのだ、私は。

    そもそもここはどこなのだ。


    あわてて私は床から立ち上がった。
    そのために軽いめまいを感じた。

    「悪いけど、今夜は泊まらないよ」

    女将はうつ伏せのままだ。
    その背中が小さくなったような気がした。

    「そうね。その方がいいわね」

    なんだか声まで幼くなったようだ。

    このまま放ってもおけない気がする。
    もう家に帰らなくてはならない気もする。

    そんな気がするだけ・・・・


    そうなのだ。
    確かなことがなにもない。

    つまり、すべてがあいまいなのだ。


    どうしようもない。
    仕方がない。

    とりあえず、これから
    あの壊れかけた半開きの扉をさがそう。

    それから、玄関の柱の
    あの表札をもう一度確認しよう。

    あるいは、もうそこには
    なにもないのかもしれないけれど。
     

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  • 焚火の輪

    2013/03/20

    変な話

    宵闇に焚火が燃えている。

    そのまわりを村人たちが囲み 
    歪んだ大きな人の輪になっている。

    炎の上には巨大な鍋がぶら下がっている。

    鍋の中に何が入っているのか 
    ここからでは見えない。

    さらに

    その鍋を覆うように櫓が組まれ 
    裸の若い衆が祭り太鼓を叩いている。


    彼らは暑さを感じないのだろうか。

    滝のように汗を流しているのだから 
    暑くないはずはない。

    それは分かる。

    あれは大人になれば我慢できるタイプの 
    そういう暑さなのかもしれない。


    村人たちは踊っている。
    どうやら盆踊りの会場らしい。

    つまり、これは盆踊りの輪なのだ。

    その輪を飾る幼なじみの女の子の浴衣姿が 
    なんだかすごく大人っぽく見える。

    陽炎のような父と母の踊る姿も見える。


    友だちや近所の大人たちに誘われるが 
    どうしても踊りの輪に入ることができない。

    ひとり、その輪の外側に立ったまま 
    揺れ動く村人たちを眺めている。

    いったい何を期待しているのだろう。
    結局、何もできないくせに。


    倒れたふりをして地面に耳を当てる。

    または 
    耳を当てるふりして地面に倒れる。

    盆踊りの足拍子が響く。
    いつまでも響く。
     

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    • Tome館長

      2014/11/09 09:24

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/05/01 04:32

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 映画館の噴水

    2013/03/13

    変な話

    高層ビルの地下にある映画館。

    スクリーンには裸婦の背中が映っている。
    その女の顔の前には裸の男の腰がある。

    どうやら成人映画のようだ。

    上映が終わり、館内が明るくなる。
    他人に顔を見られるのが恥ずかしい。

    席を立ち、トイレに向かう。
    我慢していたつもりはないのに激しい尿意。

    廊下の奥にトイレの表示。

    壁の前にずらりと便器が横並び。
    それぞれに人の列が縦並び。

    やっと順番になったが、隣は若い女。
    覗き見られそうだが、仕方ない。

    なぜ女がいて、なぜ立小便するのか、
    激しい尿意のため、疑問にも思わない。

    目の前の壁に窓が開いている。
    雨が降っているのか、顔面にしぶきがかかる。

    気がつくと、そこは駅前広場だった。

    いたたまれなくなって瞬間移動したらしい。
    便器は消え、そのまま地面に放尿している。

    傘を持った人たちが近くを通り過ぎてゆく。

    すぐ目の前に交番の灯りが見える。
    若い巡査がこちらを伺っている様子。

    恥ずかしく、また人々の反応が怖いのだが
    すぐに放尿を止めることができない。

    むしろ、ますます勢いが増している。

    (まるで噴水みたいだな)

    そう思いながらも
    顔面には雨のしぶき。
     

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  • 海の魚

    2013/03/09

    変な話

    なぜか海中に潜っている。

    ぼんやりとした淡い光に包まれ、
    気ままに泳ぐ魚の姿を眺めている。

    呼吸装置を使わないのに息は苦しくない。


    なぜか両手にナイフを持っている。
    これを振りまわし、泳ぐ魚を切りまくる。

    残酷な行為。
    でも、あまり気にしない。

    むしろ夢中になって殺生を続ける。


    奇妙な形の大きな魚が泳いでいた。
    一本足のようなものが腹から下がっている。

    (こいつも追かけて切りつけてやれ!)

    すると突然、小さな丸い物体が飛んできて
    おれの胸にぶつかった。

    (なんだろう?)

    胸に貼り付いて剥がれない。

    すると再び、また同じものが飛んできた。
    今度は首に当たって貼り付く。

    さらに次々と飛んでくる。
    抵抗できない。


    そのうち、なんとなく分かってくる。

    この小さな物体はウロコであろう。

    魚のウロコで全身が覆われてゆく。
    つまり、本物の魚になってしまうのだ。

    両腕が胸びれになる。
    もうナイフは握れない。

    両脚がくっついて尾びれになる。
    こうして海の魚になってゆく。


    やがて言葉も使えなくなるだろう。

    やがて口をパクパクさせ、
    ただ餌を求めて泳ぎまわるだけの

    海の魚になるのだ。
     

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    • Tome館長

      2014/01/31 09:36

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2014/01/12 15:20

      「こえ部」で朗読していただきました!

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