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2015/07/03
お手玉のように
男をもてあそぶ女がいた。
逆にもてあそんでやるつもりで
おれは女に近づいた。
「もてあそんでやる」
おれは女をむんずとつかむと
空へ放り上げた。
女は、まるでお手玉のように
空高く舞い上がった。
「すごい。力持ちなのね」
「あ、いや。それほどでも」
落ちてきた女を受け止めると
おれは再び女を空へ放り上げた。
「すてき。お上手だわ」
「まあ、昔取った杵柄でね」
はて、おれは
もてあそんでいるのだろうか?
それとも
もてあそばされているのだろうか?
2015/05/23
ここはエジプト、王家の墓。
額に汗しながら作業していたら
ミイラのファラオが甦えってしまった。
「アゲメデ、ホムルンスク、トピタ」
ひどくかすれた声でなにやら喋るのだが
なにしろ古代語なので、さっぱり意味がわからない。
「あんた、内臓ないくせに、なぜ生き返るか?」
気持ちだけでも伝わるか、と尋ねてみたら
「ヌクルデ、パピパピ、ルステホメ」
どうも伝わらなかったようだ。
「パトラクレオ、テーベストラ、カピオカ」
あんまりうるさいので
「我が仕事さまたげし者、死の翼触れるべし」
冗談のつもりで言ってみたら
「カーメン」
みるみる崩れて砂になってしまった。
信じられなかった。
ちなみに、おれの仕事は盗掘、
墓あらしである。
2015/05/21
2015/04/18
ようこそ、紳士淑女の皆さん。
長らくお待たせいたしました。
これより完全会員制、秘密の妄想大会の開幕です!
えっ? 違いました?
はあ・・・・そうですか。
えー、皆さん、まことに失礼いたしました。
わたくし、ちょっと妄想してしまったようです。
そういうわけで、さらにお待たせいたしました。
好奇心旺盛なる紳士淑女の皆さん。
これより、世界変態選手権の開幕です!
えっ? またですか?
はあ・・・・仕方ないですね。
あー、じつに困ったものです。
わたくし、正常な常識人のつもりでしたが
どうも変態だったようです。
それでは今度こそ、もう絶対お待たせいたしません。
親愛なる紳士淑女の皆さん。
これより、世界最終戦争の開幕です!
2015/03/01
夜が明けたら
男の態度が変わっていた。
「もう帰ってくれ」
我が身を振り返り
女の表情も変わった。
「ああ、尻尾が・・・・」
2015/02/21
鉄琴と木琴がケンカをしました。
互いに相手を叩くので
木琴と鉄琴の音がして
まるで仲良く合奏しているかのよう。
どちらも叩き疲れ
やっとケンカが終わると
閉じていたカーテンが開き
客席から万雷の拍手。
ふたりは顔を見合わせ
目配せすると
寄り添って
しっかり肩を抱き合い
深々と観客にお辞儀をしました。
キン コン カン!
2015/02/13
恋人と待ち合わせていた。
だが、なかなか姿を現さない。
さすがに待ちくたびれてきた。
(まさか忘れたわけじゃ・・・・)
ほとんど諦めかけた頃、ようやく出現した。
「ごめんなさい!」
「まったく、遅すぎるよ」
「だって、仕事が忙しくて・・・・」
彼女の職業は死神だった。
「そんな仕事、やめちゃえよ」
「そうもいかないのよ」
いつも繰り返される会話。
「なあ、俺の番、そろそろか?」
「そんなの、教えられるわけないでしょ」
「でも、俺たち恋人同士だろ?」
「仕事とは無関係よ」
その美しいまでに冷酷な横顔。
「できれば、その、あんまり苦しめないでくれよな」
「ええ、そのつもりよ」
はあ・・・・
惚れた弱みか。
2015/02/08
山頂の城跡で笛を吹いていたら
山の神が姿を現した。
「なかなか良き音じゃ」
なんだか昔話みたいだな、と思った。
「フルートという名の異国の横笛です」
「もっと吹いてくれぬか」
私は喜んで吹き続けた。
山の神も喜んで聴き続けてくれた。
「おかげで、楽しかったぞ」
「ありがとうございます」
「お礼に、わしの笛をやろう」
別れ際に、山の神は竹笛をくれた。
私は恐縮しながら受け取った。
吹いてみると、なかなか素敵な音がする。
そして、たくさんの野鳥が集まってきた。
リスやウサギやタヌキまで。
どうやら寄せ笛らしい。
そりゃ、もちろん
嬉しいには嬉しいんだけど
ヘビやトカゲや虫けらどもまで
ウジャウジャ集まるのには
少々まいった。
2015/02/01
妹には友だちがいない。
それこそひとりもいない。
「どうして友だちを作らないんだ?」
そう尋ねたことがある。
「他にすることがあるから」
それが妹の返事だった。
けれども、妹は忙しくなにかしてる様子はない。
寝転んでいなければ部屋の中を歩きまわるくらいで
家の外へも滅多に出ようとしない。
「なにしてんだよ?」
「考えごと」
「どうだ、映画館に行かないか?」
「興味ない」
取りつく島もない。
引きこもりではなく、たまに外出すると
一週間くらい家に帰らないことさえあった。
「おれが友だちになってやろうか?」
ある時、ふざけて言ってみたら
「あら、友だちじゃなかったの?」
だって。
まあ、兄と思われていないことくらい
とっくの昔に知っていたけどさ。
2015/01/05
聖なる神殿の中
秘めやかなる祭壇の前で
麗しき巫女がひとり泣いていた。
彼女は知ってしまったのだ。
この身の行く末と
この世の行く末を。
その時
祭壇の上に
神が光臨された。
神はおっしゃられた。
「聡明な娘よ。私を見なさい」
巫女は見上げた。
神は祭壇の上で
裸踊りをなさっておられた。