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  • またくそ

    2011/10/12

    愉快な話

    また雷が落ちてきた。

      くそっ。
      頭に避雷針なんか立てるんじゃなかった。



    また火事だ。

      くそっ。
      おちおち放火もできんぞ。



    また「ワン、ワン」吠えてやがる。

      くそっ。
      変な牛だ。



    また妊娠してしまった。

      くそっ。
      おれは女だったのか。



    また殺された。

      くそっ。
      命がいくつあっても足らんぞ。
     

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  • 不完全犯罪

    2011/10/11

    愉快な話

    夜明け前に帰宅できた。

    呼吸を整え、なんとか鼓動を鎮める。
    ゆっくりと汗が冷えてゆく。

    「とうとう、やってしまった」


    計画通り。
    完全犯罪の達成だ。

    目撃者は皆無。
    アリバイは完璧。


    指紋を残すようなばかじゃねえ。

    盗みじゃねえ。
    そんな安っぽいもんじゃねえ。

    ばかにするな。

    そうさ、殺しさ。殺人だ。


    とうとう恨みを晴らしてやったぞ。
    あいつ、おれをばかにやがって。

    ばかにされて生かしておけるか。
    いいや。おれは絶対に許さねえ。

    この手で殺すしかなかったのだ。

    この手で、あいつの・・・・・・


    そこで、気がついた。

    凶器がない。捨てた記憶もない。

    なんということだ。
    失敗か。

     
    いやいや。
    違う、違う。

    思い出したぞ。
    凶器を用意するのを忘れたのだ。

    凶器がないから、あわてて・・・・・・


    おれは頭を抱えてしまった。
    とんでもないミスを犯していたのだ。

    完全犯罪ではなかったのだ。
    いや。犯罪ですらなかった。


    「おれは、本当にばかだ」


    あいつを殺すのを忘れていた。
     

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    • Tome館長

      2014/09/17 15:47

      「ゆっくり生きる」はるさんが動画にしてくださいました!

    • Tome館長

      2012/08/15 10:33

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 動物の顔

    2011/10/07

    愉快な話

    あらゆる人の顔が動物の顔に見えてしまう。


    キリンであったり、キツツキであったり。
    熱帯の珍しいカエルの顔さえ見たことがある。

    あまりに奇妙な顔が多いので
    分厚い動物図鑑を購入してしまったほどだ。


    もちろん最初は驚いた。
    信じられなかった。

    ある朝、目覚めたら妻の顔が黒猫だったのだ。

    夜だったら、気絶していたかもしれない。
    なにかの冗談か、と寝ぼけ頭で考えた。

    「あなた、顔色が悪いわよ」

    猫の鳴き声ではなかった。
    妻の声だ。

    冗談にしては中途半端な気がした。

    「君ほどじゃないさ」

    黒猫の顔が妙な表情になった。


    ともかく、寝ぼけたまま家を出て
    冗談ではないことに出勤途中で気づいた。

    なにしろ、会う人会う人
    すべて動物の顔だったのだから。


    カバの学生とか、深海魚のOLとか。

    警察官は犬。
    タクシー運転手はラクダ。

    ミニスカートのペンギンにはめまいがした。


    人の顔はどこにも見当たらない。
    選挙ポスターまで動物の顔だった。

    さすがに怖くなってきた。


    駅の改札を走り抜け、
    構内トイレに駆け込んだ。

    そこの壁にある大きな鏡の前に立った。


    思わずため息が出た。

    心配する必要などなかったのだ。


    とりあえず、それは
    かわいらしいアライグマの顔だった。
     

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  • 裸で散歩

    2011/10/03

    愉快な話

    真夏の真夜中、灯りもつけず書斎にひとり。

    昼寝をすると眠れなくなるのは知っていた。
    それでも、暑くて明るすぎる昼は眠い。

    それで、こんな真夜中に目が冴えてしまう。


    あれこれ、色々なことを考えていた。
    そのうち、裸で散歩したい気分になってきた。

    裸で人通りの絶えた月明かりの夜道を歩く。

    近所の誰かに見られてしまうかもしれない。
    あるいは誰にも見られないかもしれない。

    いずれにせよ、スリルがあって面白そうだ。


    さっそく下着を脱いで裸になる。
    もともと下着しか身に着けてなかったのだ。

    静かに書斎を出て、音を立てずに廊下を進む。
    眠っているはずの妻と娘を起こすべきではない。

    玄関でそっとサンダルを引っかける。
    裸足が理想だが、足の裏が痛そうだ。

    勇気を出して玄関の扉を開けた。


    そこに妻が裸で立っていた。

    「あら、おでかけ?」
     

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  • バスの受身

    2011/10/02

    愉快な話

    バスに乗っている。
    もうすぐ終点に着くはずである。


    降車するなら前から三番目の席が良い。
    そのことは過去の経験から知っていた。

    だが、前から三番目の席は塞がっている。
    過去の経験を活かせないとは残念だ。


    前方より大型トラックが突っ込んでくる。

    バスの運転手は素早くハンドルを左に切り、
    サイドミラーを失いながらもやり過ごす。

    ところが、バスは右に傾き、そのまま横転する。


    バスが停止する時は傾かなければならない。

    そのことは過去の経験から知っていたので
    私はあまり驚かなくて済んだのだが

    ほとんどの乗客は戸惑いの表情である。


    やがてバスは起き上がり、時刻表を守り、
    終点のバス停に着くと、さらに横転する。

    私は運転手と抱き合って歩道に投げ出される。
    模範的な停車であるとは認めにくい。


    乗客の一人、老人が怒って文句を言う。

    「もっと受身を習いなさい」


    ごく常識的な忠告ではないかと思うのだが
    運転手の頬は涙で濡れている。
     

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  • 爆 薬

    2011/10/01

    愉快な話

     
    「これは大変だ」

    「博士。どうしました?」
    「どうにもこうにも動けないのだ」

    「すると、研究は失敗ですか?」
    「いや、成功だ。だから、大変なのだ」

    「超高性能爆薬は完成したんですね」
    「そうだ。惑星なんか一瞬で消滅する」

    「すごい。博士、おめでとうございます」
    「喜ぶな。爆薬はこの中にあるんだ」

    「手に持ってるのは、試験管ですね」
    「そうだ。見てわからんか」

    「ほう、液体ですか。きれいな色ですね」
    「わあっ、触るな。爆発するぞ」

    「爆発! なんですって?」
    「大声を出すな。音波でも危険なんだ」

    「博士、それは大変ではありませんか」
    「大変だ。だから動けないのだ」
     

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  • なんでもない

    2011/09/30

    愉快な話

     
    あら、なにを期待しているわけ?
    あんたを喜ばせるつもりなんかなくてよ。

    あたしが勝手に喋ってるだけ。
    だから、べつに聞かなくたっていいの。

    まあ聞いてくれても、かまわないけどさ。

    新聞を隅から隅まで読む人みたいにね。
    そう、まったく変な人がいるわよね。

     
    おかしい? どこが? おかしくないよ。
    ちょっとばかし酔ってるだけ。

    あはは、酔ってる。ほんとに酔ってるわ。
    世界がグルグルグルグルまわってる。

    簡単なもんだわね。世界をまわすのなんか。


    大丈夫だってば。つまんない冗談だって。
    そうなの。ふざけてみたい年頃なの。

    だいたい世の中、ふざけてんだから。
    真面目にしてたら笑われちゃうよ。

     
    で、あんた、あたしのこと好き?

    ああ、そう。そうなの。やっぱりね。
    どうでもいいんだけどさ、そんなこと。

    ふん。あんたなんかきらいだ。

     
    うっ。

     
    ちょっと、ちょっと。
    もう、する前に断ってよ。

    唇で唇に接触していいですか、とかさ。
    いきなりだから、びっくりするじゃない。


    ふん。まあ、いいけどさ。
    こんなの、どこで習ったの?

    ああ、そう。なるほどね。

    でも、やればいいってもんじゃないのよね。
    そういうの、なんか空しくてね。

    けものと同じことやってると思うとね。
    子どもなんか残してもしかたないし。

    ふん。まったくさ。
    こんなに人があふれてるってのにさ。

    世界の人口は、今の半分だって多すぎるくらいよ。


    残すなら、やっぱり文化よ。文化。
    悪しき文化を排し、良き文化を残す。

    ウェブだとか本だとか音楽だとか、
    世界中にある文化の半分以上は整理しなくちゃ。


    わかる? へえ、あんたでもわかるんだ。

    たいしたもんね。とても人間には見えないけど。
    あんた、この星の者じゃないでしょ?

    やっぱりね。そんな気がしてたんだ。
    どこから来たか知らないけどさ。


    あは、どうでもいいって。
    もう、そんなに真剣にならないでよ。

    こんなの、ただの酔っ払いの愚痴なんだから。
    そう、ただの愚痴。ただの・・・・・・


    ふん、なにさ。
     

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    • Tome館長

      2012/01/01 21:43

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2011/10/17 18:22

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • なつかしい泉

    2011/09/28

    愉快な話

    山道が途切れてしまった。 
    それでも藪をかき分けて進んだ。

    子どもの頃の記憶だけが頼りだった。


    追われる獣の気分にさせる、蜂の羽音。
    あやうく転落しそうになる、崖。

    顔や腕に蜘蛛の巣が絡みつく。
    服は露と汗で濡れ、不快で重かった。


    (ここだ。やっと見つけたぞ!)

    なつかしい泉。
    昔の思い出のままだ。


    おそるおそる水面に顔を映してみた。

    (やっぱり、そうだった!)


    そこには、男の子の顔があった。

    子どもの頃にも同じことをした。
    あの時、水面には大人の顔があった。


    そうなのだ。

    今の私の顔が映っていたのだ。
     

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    • Tome館長

      2013/01/15 13:26

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2011/10/02 19:35

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 空の笑顔

    2011/09/25

    愉快な話

    随分前に寝床に入ったのだが
    外が騒がしくて眠れない。


    「わあ、すごい! すごい!」

    近所の奥さんの声が聞こえる。

    らしくないな、と思う。
    彼女はインテリだ、と近所で評判なのだ。


    起き上がり、窓を開け、外を眺める。

    渡り鳥の群のようなジェット機の編隊が
    青い空を横切るように飛んでいるのが見える。

    航空ショーだ。
    けれど、感激して騒ぐほどでもない。

    「あれじゃなくて、真上よ。真上」

    近所の奥さんが親切にも教えてくれる。

    見上げると、巨大な美女が見下ろしていた。
    大胆な水着姿で空中に浮かんでいる。

    巨大な笑顔でこちらに手を振っている。
    しばらく状況を理解できなかった。


    ようやく実体でないことに気がつく。
    空をスクリーンとした映像なのであった。

    これには感心してしまった。
    どうやって空に投影しているのだろう。

    いくら考えてもわからないので
    とりあえず空中の美女に手を振ってみた。

    驚いたことに
    彼女、ウインクを返してくれた。


    よくわからないまま呆然としていると、
    やがて空中の美女は手を振りながら消えた。

    続いてジェット機の編隊も消えた。

    さらに、青い空まで消えてしまった。

    星も月もない真っ暗な夜空だけが残った。


    呆れてしまった。

    みんな映像だったのだ。

    「それじゃ、おにいさん。おやすみなさい」

    近所の奥さんも手を振りながら消えた。


    窓を閉め、また寝床に入る。

    静かだ。
    かすかな物音も外から聞こえない。


    でも、それなのに
    やっぱり眠れないのだった。
     

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  • 交換屋

    2011/09/17

    愉快な話

    楽な商売は少ないだろうが、交換屋も楽じゃない。
    交換できそうもないものを交換するのが仕事だ。

    今日もまた、どんどん難しい注文が入ってくる。

    「古女房を新しいのと換えてくれ」
    「カモシカのような脚にしたいのだけれど」
    「家の方角が悪いから、直してよ」

    こんな注文は、まだいい方だ。
    といあえず不可能ではないのだから。


    とにかく非常識な注文が多すぎる。

    「やばくて、指紋を取り換えないと。あっ、性別と人種も」
    「うちのバカ息子の脳を、天才児の脳にしてちょうだい」
    「こんな星、いいかげん住み飽きたからさ」
    「宇宙の切れ目をつまんで、次元の表裏を交換しろ」

    まったくもう、こっちこそ商売を交換したいよ。
     

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