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  • けだるさのこもれる

    2013/07/25

    怖い話

    けだるくて
    何もする気になれない。

    起きたくない。
    外に出たくない。

    本も読みたくない。
    夢だって見たくない。


    そう言えば
    食欲もないな。

    最後に食べたのは
    どれくらい前だっけ?

    去年の夏から
    まったく食べてない気がする。

    すると、常識的に考えて
    生きていられるはずがない。


    それはまあ
    そうなのだが

    それを確かめるのも
    なんだかとっても

    億劫だ。
     

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  • 若い男

    2013/07/23

    怖い話

    おれは歩き続けていた。

    やっと自動販売機が見つかった。
    そのすぐ横に若い男がひとり立っていた。

    黒いサングラスをかけ、その口もとに
    不愉快な薄笑いを浮かべている。

    おれは自販機にコインを入れるのをやめ、
    おもむろに男を殴り倒してやった。

    そいつは地面にひっくり返ったまま
    おれを見上げ、まだ薄笑いを続けている。

    気持ち悪い奴だ。

    こんな野郎にかまっていられない。
    おれは再び歩き始めた。


    やっと新しい自販機が見つかった。

    そのすぐ横には、黒いサングラスをかけ、
    不愉快な薄笑いを口もとに浮かべ、

    若い男がふたり立っていた。
     

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  • 闇 女

    2013/07/21

    怖い話

    これは、私の友人の話。

    その友人が暗い部屋にひとりでいる。
    すると、音もなく女が部屋に侵入してくる。

    普通の女ではない。
    扉は閉まったままなのだ。

    友人は、この女を闇女と呼んでいた。
    闇に潜んでいると考えたのだ。

    闇女は長椅子に横たわる友人を見下ろす。

    暗くて見えないはずなのに 
    見下ろされているのがわかるそうだ。

    やがて闇女は友人の上に覆いかぶさる。

    闇女は裸だ。
    友人も裸にされてしまう。

    友人は信じられないような経験をする。

    汗とよだれを垂れ流し 
    牛のようにうめき続ける。

    本当に死にそうだった、と友人。
    いつか闇女に殺されてしまうだろう、とも。


    それは友人の孤独な妄想だと思っていた。

    ところが発見された時 
    友人は長椅子の上で死んでいた。

    部屋は内鍵が掛けてあり、密室なのだった。
     

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  • 廃線の駅

    2013/06/19

    怖い話

    ここは山の中。
    とうの昔に廃線となった駅。

    今は草木が茂り、錆びたレールを隠している。

    さきほど汽笛が聞こえたような気がしたが
    おそらく空耳であろう。

    脱線事故やら人身事故が頻発し、
    それら諸事情により使われなくなって久しい。


    もともとは炭鉱のための線路であった。
    草木に埋もれる前に時代に埋もれてしまったわけだ。


    駅のホームから下の線路に降りてみる。
    おそるおそる茂みを掻き分けて歩く。

    すぐにレールを見つけることができた。
    意外に原型を留めている。

    そんなに錆びてもいない。
    まるで、つい最近、列車が通過したような・・・・


    ふと、このレールの上に石ころを載せてみたくなった。

    今、石ころを載せたため、昔、脱線事故が起きた。
    歪んだ時空を運行する四次元鉄道。

    そんな想像をしてみたのだった。


    再び、汽笛の音を聞いたような気がした。
    それは空耳ではなかった。

    奇妙な鳥の鳴き声なのであった。
     

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  • 忠 告

    2013/06/09

    怖い話

    殴られた記憶がある。
    かなり昔の話だが忘れてはいない。

    殴られたら誰だって痛い。

    誰だって痛いから、誰だって 
    相手の痛みを想像できないはずはない。

    それなのに相手を 
    なぜ殴る事ができるのだろう。

    自分がされて困る事を相手にする人は 
    まったく理解に苦しむ。

    本当に困った人だ。
    嫌われても仕方ない。

    それでも構わないとしたら
    不幸な人だ。

    いつか殴り返されるだろう。

    あるいは
    刺されるかもしれない。

    たとえば、ほら 
    こんなふうに背後から、不意に。
     

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  • 墓前の指輪

    2013/05/13

    怖い話

    行き交う人の姿もない
    夕暮れ近い外人墓地。

    墓石の列が夕日に赤く染まっていた。

    そのひとつの白い墓の手前で
    私は美しい指輪を拾った。
     
    「ねえ、お願い。はめて欲しいの」

    ふと、そんな声を聞いたような気がした。
     
    ふざけて左手の薬指にはめてみた。
    不思議なくらい軽くはまった。
     
    だが、自分には似合わない。

    (彼女にプレゼントしようか?) 
    そんなことを考えたりした。
     
    (とりあえず指輪をはずしておこう)

    それは簡単にはずれるはずだった。 
    だが、なかなか抜けない。
     
    「いやいや。お願いだから、抜かないで」

    そんな声が聞こえる。 
    指輪がきつく指を締めつける。

    さらに指をグイグイ引っ張る。
    下へ、地面へと引き下げようとする。
     
    あらがいがたい力だった。
    もう立っていられなかった。
     
    私は名も知らぬ墓の前にひざまずいた。
    指が地面にズブズブ埋まってゆく。
     
    「あなた、お願い。早く、早く、来て」

    女の声が地面のすぐ下から聞こえる。
    それはもう気のせいではない。
     
    墓碑銘など読む暇はなかった。
    しかし、私は確信する。

    おそらく、これは
    不幸な花嫁の墓に違いあるまい。
     

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    • Tome館長

      2014/02/26 00:06

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/05/13 00:17

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 三本目の手

    2013/05/08

    怖い話

    ひとり、部屋の床に座っている。
    開いた窓から空と建物の屋根が見える。

    突然、部屋が回転を始める。
    遊園地のコーヒーカツプの動きだ。

    (これは夢に違いない)

    ただちに確信する。

    夢にしてはリアルだが、こんな事
    どう考えても現実に起こるはずがない。

    (どうせ夢なら好きな事してやろう)

    ところが、あまりにリアルであるため
    状況を変える操作ができない。

    やがて、勝手に部屋が移動を始めた。
    遊園地のジェットコースターの動きだ。

    窓から見える光景が目まぐるしく変わる。

    都会の鳥瞰図、針葉樹林、冬の山岳地帯、
    野原、夕焼けの赤い海、花火、舞う粉雪、
    稲妻の嵐、吹き上がる溶岩・・・・

    そこで、目が覚めた。


    不思議な夢だった。


    起き上がり、
    パジャマを脱ごうとして異変に気づく。

    見ると、手が三本あるのだ。

    右手と左手、そしてヘソのあたりから
    三本目の手首が生えている。

    しかも、この三本目の手は勝手に動く。

    左手と右手で押さえつけようとするが
    なかなかうまくいかない。

    困ってしまった。
    このままでは誰にも会えない。

    そこで、本当に目が覚めた。


    本当に不思議な夢だった。
     

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  • おぞましき告白

    2013/04/22

    怖い話

    私は人を殺したことがあります。
    夜道で痴漢に襲われた時のことです。

    私はもう必死で抵抗して暴れました。
    持っていた傘で男の顔を突いたのです。

    その石突が男の眼窩に刺さりました。
    先端が脳まで達して、男は即死。

    正当防衛で私は無罪になりました。

    その時、私は右肩を負傷。
    狂暴な痴漢の爪に引き裂かれたのです。

    右肩の傷はなかなか治りませんでした。
    むしろ悪化していくようでした。

    痛くて痛くて
    右腕を上げることもできないのです。

    化膿した肩は赤く腫れてしまい、
    その傷痕はひどく醜いものでした。

    まるで人の顔のように見えました。
    誰かに似ているような気さえします

    やがて、傷口が裂けました。
    膿が出て、そして・・・・

    「おい、お嬢さん」

    信じられないことでした。
    裂けた傷口が喋り出したのです。

    「よくも俺を殺してくれたな」
    いやらしい男の声でした。

    「こんなにかわいい顔してさ」
    右手が私の頬を撫でました。

    「ちょっと触っただけなのに」
    右手が私のお尻に触れました。

    「ちょっと揉んだだけなのに」
    右手が私のお乳を揉むのでした。

    「もう、ちょっとじゃ済まねえぞ」
    右手が全身を這いまわるのでした。

    私は、左手で右手を押さえようとしました。
    でも、どうしてもかなわないのです。

    右肩から先の感覚がなくなっていました。
    もう右腕は私のものではなかったのです。

    太くて浅黒くて、まるで男の腕です。
    おそろしいほど力があるのでした。

    そのうち右腕は
    私の着ている服を破り始めました。

    「誰か、助けて!」

    でも、家には誰もいないのでした。
    私は一人暮らしを悔やみました。

    右肩の顔は醜く笑いました。
    あの死んだ痴漢の顔にそっくりでした。

    「おいおい、お嬢さん。
     こんな姿を誰に見せるつもりだ?」

    私は愕然としました。

    そうです。
    誰にも見せられません。

    見せられるはずがありません。
    こんなおぞましい姿。

    ついに私は右手に屈したのです。

    そうです。
    もう抵抗するのを諦めたのです。

    この右手の責めは執拗で陰湿でした。
    とても言葉にできません。

    もう私は、ただひたすら
    声を殺すだけで精一杯なのでした。
     

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  • 真っ暗闇

    2013/04/19

    怖い話

    はかどらぬ仕事に疲れ果てた。

    もう深夜だった。
    少し寒かった。

    「そろそろ寝よう」

    立ち上がり、照明を消した。

    真っ暗闇。
    何も見えなかった。

    ともかく手探りで歩いた。
    あれこれ考え事をしながら。

    しばらくして、気がついた。
    まだ扉に手が触れていない事に。

    窓や壁にさえ当たっていない。
    こんなに家は広くなかったはず。

    街明りも星明かりもなかった。

    「ここはどこだ?」

    わからない。
    誰からも返事はない。

    ひどく寒くなってきた。
    とても耐えられそうもないほどに。
     

    Comment (1)

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  • 首の吊り橋

    2013/04/10

    怖い話

    若者がひとり山道を歩いていた。

    前方には深い谷がある。
    やがて、吊り橋が見えてきた。

    たった今、向こう側から
    老婆が渡り終えところである。

    不気味なほどに腰が曲がった老婆だった。

    「あんた、よそ者だな」
    「ええ、道に迷いまして」

    「それにしても、大きくて重そうだな」
    おかしな事を言う老婆だった。

    「この先はどこへ行くのでしょうか?」
    吊り橋を指して若者は尋ねた。

    老婆はシワだらけの顔をゆがめた。
    「そりゃ、あの世だな」

    「おかしな地名ですね」
    「つまりな、死ぬんじゃよ」

    吊り橋の先は行き止りだという。

    山道は森の中へ分け入り、
    その途中で消えているらしい。

    この吊り橋を渡るよそ者は少ない。

    少ないが、必ず自殺する。
    なぜか首吊りをするのだそうだ。

    「おどかさないでくださいよ」

    またもや老婆は顔をゆがめた。
    笑ったつもりなのだろう。


    若者は吊り橋を渡り始めた。

    深い深い谷底。
    古めかしい木と縄の通り道。

    歩くたびに揺れるので怖い。
    だが、怖くても渡らなければならない。

    若者は自分を励ますのだった。

    (これから首を吊る者が
     吊り橋を怖がってどうする)
     

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    • Tome館長

      2014/02/02 00:43

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/05/20 10:21

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

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