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2015/01/13
夢中になって踊っているうちに
しらじらと夜が明けてしまった。
「わあ、どういうことだ」
ここは外人墓地ではないか。
パチンコ屋の駐車場だとばかり思っていたのに。
それに、仲間はどうしたのだ。
見まわしても誰もいない。
さびしい外人墓地にひとりっきり。
ステテコ姿の自分だけ。
異常だ。
なにか間違ってる。
しかし、なにはともあれ
足もとの畳みたいに大きな墓石を持ち上げ
その下に逃げるように隠れてしまおう。
やれやれ。
ああ、重かった。
ホント、死ぬかと思った。
でもまあ、ともかく、そういうことなので
みなさん、おやすみなさい。
2014/12/28
ようこそ。
不幸なる紳士および淑女の皆さん。
なにはともあれ
本日はまことにご愁傷様です。
あなた方がまずすべきことは
すべてに対して諦めることです。
ここは呪われた運命の吹き溜まり。
わずかな希望の光さえ届かず
どこまでも漆黒の絶望の闇が続くばかりです。
ここでは
悪意と不信が手を組み
天災と人災が腕を組み
厄病神と死神が肩を組みます。
ここでは
過ちが事故を呼び
事故が惨劇を呼び
惨劇が破滅を呼びます。
まったく救いがありません。
ただし
ほんのわずかな希望さえないと
あらかじめわかっているということが
あるいは
いくらか救いと言えないこともありませんね。
2014/12/04
手招きされると僕たちは
その手の持ち主がどんな人物であるか知りもせず
そちらへそちらへと吸い寄せられてしまう。
いろいろ批判はあろうけれども
ともかく
そういう習性なのだから仕方ない。
僕たちの目の前には
とんでもなく大きな扉が立ちふさがっている。
それはとても僕たちに開けられそうもないけれど
その大きな扉の右下あたりに
とても小さな扉があって
その扉はすでに開かれている。
そこからこちらにのびた手だけが見えていて
おいでおいでと
さきほどから僕たちを手招きしている。
ともかく今は
そういう状況なのだ。
僕たちは小さな扉に近づき
勇気があるのか無謀なのか
好奇心が強いのか軽薄なのか
よくわからないまま
よくわからない経験を重ねる。
不意に先頭の一匹が
手招きされた手に捕まったみたいになり
扉の奥に引き込まれて扉が閉まる。
それっきり。
2014/11/18
ここは大きな橋の上。
大きな川が下に流れる。
私はその橋の片側の歩道を歩いていた。
そう、確かに歩いていた。
なのに、なぜか今はバスに乗っている。
どうやらこのバス、その気になれば
簡単に乗り降りできるシステムらしい。
そして私は立ったまま、バスの窓から
あたりをキョロキョロと眺める。
クルマの列が前後に延びている。
ただし、渋滞しているのでピクリとも動かない。
たくさんの歩行者の姿も見える。
彼らは車道さえ歩行者天国のように歩いている。
なんだか落ち着かない気分。
バスに乗ったのは失敗だったかもしれない。
その時である。
ふと、歩行者の一人が倒れた。
白いワイシャツの背中。
その情景が視界に入り、確認のため視線を戻すと
倒れているのは二人だった。
寄り添うような二枚の白いワイシャツ。
どうしたのだろう。
わけがわからない。
いや、二人だけではない。
いぶかしんでいるうちに次々と歩行者が倒れてゆく。
日射病などではない。
変な感じ。
まるで、まるでそう、毒ガスのような・・・・
私はパニックに襲われる。
こんな橋の上にいてはいけない。
逃げなければ、確実に死ぬ。
私はバスを降り、走り出す。
橋を渡り終えると、商店街が続く。
やがて地下鉄の入り口が見えてきた。
地下が安全とは限らない。
が、ともかく
ここから逃げるにはそこしかない。
私は地下鉄へと続く階段を必死に駆け下りた。
2014/09/17
いつもの駅と違っていた。
どうやらひとつ手前の駅のようだ。
失敗した。あれが最終電車だったのに・・・・
タクシー乗り場には長い列ができていた。
仕方ない。
家まで距離はあるが、歩いて帰ろう。
知らない道だが、だいたいの方角は見当がつく。
まあ大丈夫だろう。
暗い舗装道路に靴音が響く。
その音に違和感を感じて振り返る。
やはり気のせいだ。
誰もいない。
だんだん道が狭くなってきた。
やがて霊園の入り口に出てしまった。
こんなところに霊園があるとは知らなかった。
縁起でもない。
酔いが醒めてしまった。
道を間違えたのだ。
途中まで引き返そう。
振り返り、来た道を逆に戻る。
おかしい。
ますます道が狭くなるような気がする。
同じ道を引き返すのだから、そんなはずはない。
まだ酔いが残ってるのかもしれない。
だが、確実に道は細くなってゆく。
とうとう前に進めなくなってしまった。
やれやれ、情けない。
戻る道も間違えたのだ。
引き返すしかない。
立ち止まり、振り返って歩き始める。
しかし、変な道だな。
こんな細い道、誰が通るというのだろう。
やがて、再び霊園の入り口に出てしまう。
一本道なのに、どうなっているのだ。
しかし、この道を戻るしかなさそうだ。
疲れてきた。
うな垂れたまま振り返る。
おかしい。
さらに道が狭くなっている。
狭くて、もう一歩も前に進めない。
なんなのだ。
戻ることもできない。
わけがわからない。
呆然と振り返る。
やはり、そこに霊園の入り口がある。
2014/09/11
狐の姿が草原に現われた。
犬どもが茂みから追い出したのだ。
「逃がすな!」
猟師が犬どもをけしかけ
六匹の犬が狐をとり囲んだ。
狐の退路は断たれた。
「お、お助けください」
狐が人の声で喋った。
猟師はもちろん、犬どもまで驚いた。
裸の女が倒れていた。
狐ではなかったのだ。
「さては化けたな」
猟師はだまされなかった。
荒縄で女の手足を縛った。
「殺さないでください」
「ええい、黙れ!」
猟師は獲物を担いで引きあげた。
猟師の家の土間に女は裸のまま座らされ
猟師は腕を組み、それを見下ろす。
女の姿では殺す気になれない。
だが、このままでは毛皮もはがせない。
「尻尾も隠してしまったな」
「そんなものありません」
女の目は吊り上った。
猟師の目は垂れ下がった。
「とりあえず、俺の嫁になれ」
その女を猟師は女房にしてしまった。
やがて、女は子どもを産んだ。
人の子ではなかった。
ただし、狐の子でもなかった。
犬の子であった。しかも六匹。
犬の子らはあっという間に大きくなり
すぐに猟師より大きくなってしまった。
それとも猟師が小さくなってしまったのか。
「逃がすんじゃないよ!」
けしかける女の声がした。
六匹の犬が猟師をとり囲んで吠えた。
猟師の退路は断たれてしまった。
思わず猟師は叫んだ。
「た、助けてくれ!」
それは人の声にならなかった。
断末魔の獣の声に似ていた。
その時、猟師は狐の姿を見たような気がした。
草原のはずれ、茂みの陰に。
2013/12/03
白クマさんの家における
午後のお茶会に招待されたのは
青キツネさん
赤ウサギさん
緑キャベツさん
の3名でした。
お茶会が始まってすぐに誰かが
こっそりと誰かのカップに薬を入れました。
全員がお茶を飲み終えると
1番目に 緑キャベツさんが殺されました。
2番目に 赤ウサギさんが殺されました。
3番目に 青キツネさんが殺されました。
4番目に 白クマさんが眠りました。
さてさて
この忌まわしき事件の真相は
いったい
どうなっているのでしょうね。
2013/10/11
無精者なので無精ひげを生やしている。
面倒臭いから
ひげそりはしない。
気になるとハサミで切る。
髪も同様。
床屋へ行ったのは小学生までだ。
頬やまぶたなど
位置的に見っともない部分は毛抜きで抜く。
手持ち無沙汰だったりすると
指の爪で挟んで抜いたりもする。
ある日、パソコンをいじりながら
あごひげを片手でつまんでいた。
すると、妙に長い毛に触れた。
条件反射のように引き抜く。
・・・・つもりだったが
その毛がなぜかズルズル伸びるのだった。
抜けないままの毛の先端を見ることさえできた。
小指ほどの長さ、色は真っ白。
さらに引っ張ると、さらに伸びる。
どう考えてもおかしい。
そこで思い出したのが都市伝説。
皮膚から綿が出る、耳から糸が出る、
そんな話。
それによれば
耳から出た糸を引っ張り続けると
やがてプツンと音を立てて糸が切れ
同時に視力を失うのだそうだ。
思わずゾッとして
その白い毛から指を離す。
おそるおそる根もと近くをハサミで切る。
糸ではない。
ごく普通の白髪に見えた。
それだけ。
以後、その近くのひげは
なるべく引き抜かないようにしている。
しかし、それにしても
あれはなんだったのだろう。
いまだに謎である。
2013/08/20
短大を卒業したばかりの仲良し三人娘。
列車に乗り、バスに揺られ、旅館に泊まり、
そこから歩いて山奥までやってきた。
「やっぱり空気がうまいね」
「さっきの清水もおいしいしかった」
「もう最高!」
元気いっぱいである。
「でも、なんか出てきそうね」
「あっ、空飛ぷ円盤だ!」
「あはは、まさか」
にぎやかに山道を上ってゆく。
一本道は大きな森を左右に分けていた。
「ちょっと待ってよ」
ひとりが山道をはずれ、森に入ってゆく。
「あっ、またオシッコだな」
「あたしもする」
「しょうがないな。それじゃ私も」
で、三人とも森の茂みに分け入った。
そこで偶然、それを見つけたのだ。
青く塗装された小型ボート。
船底を上にしてひっくり返っていた。
「うわあ、不思議」
「どうしてこんなところにあるの?」
「きっと誰かが捨てたんだよ」
「誰が?」
「私にわかるはずないじゃん」
廃品とは思えなかった。
どこも傷んでないように見える。
木漏れ日を反射して、まるで新品のよう。
「わあ、揺れる」
ひとりがボートの竜骨の上に乗った。
「あっ、向こうになんか見えるよ」
それは鏡のように光る水面なのだった。
こうして偶然に池が見つかった。
森の中にしてはちょっとした池である。
コンパスで線を引いたように丸い。
水は澄んでいるが、水草が茂っているため
ほとんど池の底は見えない。
深いところはかなり深そうだ。
「うわあ、すてき!」
「伝説の池みたい」
「なかなか神秘的じゃないの」
三人娘は大喜び。
「あのボート、浮かべてみようよ」
誰も反対しない。
距離はあったが、三人は苦労して
なんとかボートを池まで運んでしまう。
きっと森の空気がそうさせたのだろう。
さっそく池にボートを浮かべてみる。
大丈夫みたいだ。
水漏れの心配はなさそうである。
ただし、一人しか乗れそうもない。
「私が乗ってみる」
最初にボートを発見した娘だ。
オールがないので、適当な木の枝を
竿代わりにしてボートに乗り込んだ。
「ちょっと怖いな」
「気をつけてね」
「無理しないでよ」
どうやら沈没する気配はない。
竿の端を岸のひとりに握ってもらい、
そのまま少しだけ岸から離れてみた。
「やったあ!」
「よし、次は私よ、私」
次に乗った娘は、竿で池の底を押し、
もっと岸から離れてみせた。
「へへへ、楽しいなあ」
「早く早く。次はあたしが乗るんだから」
最後は池を最初に発見した娘。
思い切って池の真ん中まで進んでいった。
「あつ」
油断して、竿を手放してしまった。
「なにしてるの。早く拾うのよ」
岸に残るふたりが騒ぐ。
ボートの娘があわてて竿に手を伸ばした。
ところが、竿は水中に沈んでしまい、
水草に隠れたまま浮かんでこない。
突然、池の真ん中でボートがまわり始めた。
ボートの上で一緒に娘もまわる。
池の水は渦巻いて、水面の中央が凹み、
見る見る巨大なすり鉢の形になった。
「助けて!」
娘を乗せたボートは、渦に巻き込まれ、
娘の悲鳴と一緒に、あっという間に
すり鉢の底に沈んでしまった。
そのまま池の水は急速に減っていった。
渦巻の底はそのまま池の底になった。
まるで隕石が落ちたクレーターみたい。
その真ん中に穴があいていた。
池の水は全部、娘とボートもろとも
この穴から流れ落ちてしまったらしい。
それっきりである。
置き去りにされたふたりの娘は
ほとんど反狂乱になって麓に辿り着き、
地元の駐在を連れて森に戻ってきた。
けれども、あの池は見つからなかった。
いくら探しても、ありふれた森でしかない。
ただし、ボートが置いてあった跡だけは
地面の上にしっかりと残っていた。
でも、それだけ。
どうしようもない。
あの消えた娘は
今でも行方不明のままである。
2013/08/01
寝静まった夜の町をひとり歩いていると
少しずつ不安になってくる。
大人だから幽霊なんぞ怖くない。
野良犬が寄ってきて、死んだ親父の顔で
「おまえ、あっちへ行け!」と怒鳴ったら
それはそれで怖いものがあるだろうが、
そんなことは絶対に起こるはずがない。
そう確信できるのが大人なのだ。
大人の不安は外側になく、内側にある。
考え事をしているうちに
正当であると確信できる理由を見つけてしまい、
道端にあったレンガのかけらを拾い上げ、
見ず知らずの家の窓ガラスに投げつける。
そんな犯罪行為をしないとも限らない、
という自分自身の可能性に対する不安なのだ。
悪いことに私は今、拳銃を握っている。
さっきゴミ置場で見つけてしまったのだ。
見つけても拾わなければいいのに
どうしたわけか拾ってしまったのだ。
拾ってもそのまま捨てればいいのに
まだ捨てられずに握っているのだ。
拳銃の引き金を引きたくて引きたくて
人差し指がウズウズしているのがわかる。
何か狙って撃ちたくて撃ちたくて
心臓がバクバク吠えているのもわかる。
これから何をしてしまうかわからない。
あんなこともこんなこともそんなことも
みんな自分自身の可能性のひとつなのだ。
たった今、
よそよそしく寝静まった夜の町でひとり、
銃声を聞いてみたい気がする。