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2008/09/01
夜、学校の音楽室には近寄れない。
壁に貼られた大作曲家の肖像画が笑うから。
ピアノが勝手に演奏を始めるから。
「ふん、笑わせないでよ」
「でも、この目で見て、この耳で聞いたわ」
「それ、いつの話?」
「昨日の放課後。かなり暗かった」
「あら。あんた、昨日は早退したくせに」
「そうよ。あたし、なんで音楽室にいたのかしら?」
2008/08/30
目の前で扉が左右に開いた。
ひとり、灰色のエレベーターに乗る。
狭くて殺風景な直方体の箱。
振り返ると、そこは長方形の闇。
そして、ヒステリックな靴音が響く。
闇の中から誰かが駆けてくるのだ。
あわてて操作パネルのボタンを押した。
見知らぬ女の姿が、闇の奥から現われる。
「閉めないで! お願いだから閉めないで!」
そう叫ぶ女の目の前で扉は閉まる。
扉越しに、扉を叩く音と叫び声が聞こえてくる。
「開けて! 開けて! 開けて!」
不安になる。
扉が開くかもしれない。
もし扉が開いたら、あの女の目が恐ろしい。
箱の中では、もう逃げることなどできないのだ。
しかし、エレベーターは静かに下降を始めた。
思わずニヤリと笑う。
(これで安心だ)
速度を加えながら、下へ下へと落ちてゆく。
操作パネルのボタンに目をやる余裕さえできた。
(はて、どのボタンを押したのだろう)
あわてたから、見もせず適当に押してしまった。
だが、ボタンの数はごくわずかだった。
『天国』と、『地獄』と・・・・・・!
2008/07/21
夜の児童公園はさびしそう。
遊ぶ子どもの姿はどこにもない。
でも、ブランコが揺れている。
誰もいないのに、風もないのに・・・・・・
おや?
白い花束が地面に落ちてる。
わたしは気になって、拾いあげた。
「それ、きれいな花ね」
かすかな声だった。
振り向くと、小さな女の子。
ブランコに乗って、揺れていた。
そして、向こう側が透けて見えた。
(この子、幽霊に違いない!)
怖くて、わたしは逃げたくなった。
でも、足が重くて動かない。
「まだ、わかってないのね」
ブランコから降りると、
女の子はわたしに近づいてきた。
そして、ひどく悲しそうな顔のまま
白い花束を見つめた。
「それ、あんたのよ」