1万8000人の登録クリエイターからお気に入りの作家を検索することができます。
2009/03/13
この家の玄関の扉を開ける時、
軋んだ音がする。
その音が
猫の鳴き声そっくりなのだ。
知らない客は驚いて
キョロキョロする。
いくら探しても
どこにも猫の姿はない。
その昔、
扉に挟まって猫が死んだのだろうか。
この扉を閉める時にも
軋んだ音がする。
なぜだろう。
女の泣き声そっくりなのだ。
知らない客は驚いて
キョロキョロする。
いくら探しても
どこにも女の姿など・・・・・・
おやおや。
この家の奥さんが扉に挟まっていた。
2009/01/28
私は背後霊である。
ただし、背後霊の背後霊である。
つまり、ある生者の背後に背後霊がいて、
その背後霊の背後に私がいるのである。
ゆえに私は背後霊の背後霊なのである。
生者が自分の背後霊に気づかないように
背後霊も自分の背後霊に気づかない。
理屈はわからないが、そういうふうになっている。
ということは、私に見えないだけで、
私の背後にも背後霊がいるのかもしれない。
そして、その背後霊にも背後霊がいて、
さらにその背後霊にも背後霊がいて、
そんなふうに、私の背後には
背後霊の列が無限に続いているのかもしれない。
い、いやだなぁ〜。
ログインするとコメントを投稿できます。
2011/07/01 20:54
「こえ部」で朗読していただきました!
2011/01/24 13:50
朗読していただきました!
ケロログ「しゃべりたいむ」かおりサン
2009/01/25
帰宅途中、道に迷ってみたくなり、
わき道にそれてみた。
見飽きた風景をさけたくなって
そんな気分になる時がある。
五階建てのマンションは目立つから
初めての道でも帰れるはずだ。
すっかり夕暮れになっていた。
見知らぬ家並み。
円形の飾り窓。
背の高い垣根が続いている。
吠える番犬。
死んでる猫。
表札のない門。
崩れそうな石段。
ふざけてるみたいに歪んだ坂道。
なぜかまったく人影がない。
夜空に疑問符の形の星座が浮かぶ。
やはり迷ってしまったらしい。
あやしげな叫び声が聞こえてきた。
気のふれたお嬢様だろうか。
座敷牢の中で怯えていたりして。
でも、何に怯えているのだろう。
ようやく見覚えのある場所に出た。
そびえるマンションのシルエット。
でも、なぜか四階建てになっている。
2009/01/08
美しい顔を歪め、派出所に女が駆け込む。
「た、助けてください」
真夜中の派出所には、若い警官がひとり。
「どうなされました?」
「お、追われているんです」
歩道に出て、警官はあたりを見まわす。
「誰に?」
人気のない寂しい通り。
「鏡に、追われているんです」
「ははあ、鏡ですか」
「そうです。鏡です」
ため息をつき、警官は胸のボタンをはずす。
「その鏡というのは」
たくましい胸に埋められたもの。
「こんな鏡ですか?」
警官の胸に映る、女の歪んだ顔。
2009/01/04
霊柩車が黒猫を轢くと
車中の仏が生き返る。
水中に潜って呼吸を止めていると
あまり長生きできない。
貧乏人に情けをかけると
借金を申し込まれる。
朝、クモを見て殺さないと
夜、クモの巣が張られている。
同一人物が出会ったら
先に目をそらした方が消える。
ひどいことをした仕返しに殺されそうになったら
そこで殺せば正当防衛が成立する。
右頬を叩かれたら
左頬も叩かれないと顔がゆがむ。
もの凄い勢いで男女が正面衝突すると
互いの意識が入れ替わる。
生前に親の首を絞めると
親の死に目に会える。
夢から目覚める夢を見ると
永遠に夢から目覚める夢を見続ける。
2009/01/03
大きな家に、かわいらしい坊やがいた。
ある日、ひとり土蔵で遊んでいたら
鬼の面を見つけた。
鬼の面があるという話は聞いていた。
家宝として秘蔵されている、と。
これをかぶると人の心が読める、と。
さっそく鬼の面をかぶるや、坊やは
そのまま家を出て、近所を歩きまわった。
人の心がおもしろいように読める。
鬼の面に驚く人などいなかった。
かぶっていても誰も気づかないのだ。
坊やの心に大人の心が入ってきた。
家に帰っても面をはずさなかった。
おもしろくてはずせなかったのだ。
そして、坊やは知ってしまった。
坊やが知ってはいけなかったことを。
坊やの顔を見て、母親が悲鳴をあげた。
驚いて、坊やは走って逃げた。
鬼の面をはずすと、鏡の前に立った。
夕陽が坊やの顔を赤く照らす。
坊やの顔は鬼になっていた。
2008/12/23
真夜中に聞こえると言うのですね、
身の毛もよだつような呻き声が。
そうですか。やはり聞こえますか。
隠しておくことはできないものですね。
それに、あなたは娘の命の恩人だ。
秘密にせず、すべて話してしまいましょう。
ご覧のように当家はじつに古い建物ですが、
じつは、この真下に地下牢があるんですよ。
ええ、時代劇に出てくるようなあれです。
私もそれを実際に見たことはなくて
ただ話に聞いているだけなんですけどね。
今でも地下牢は残っているのですが、
誰も地下へ降りることはできません。
あの写真の祖父がまだ生きていた頃、
地下の出入り口を埋めてしまったのでね。
ひどい話ですが、生きてる人を残したまま。
つまりその、生き埋めということですね。
男だけでなく、若い女もいたそうですよ。
あの呻き声は幽霊なんかじゃありません。
まだ生きてるんですよ。嘘じゃありません。
あなた、聞いたことがありませんか、
人魚の肉を食うと不死身になるという話。
あれですよ。あの話は本当なんです。
よっぽど祖父は恨んでいたんでしょうね。
人魚の肉を食わせて死ねない体にさせ、
そうしておいて地下牢に生き埋めにした。
用心して、自力で脱出できないように
丈夫な鎖で幾重にも体を縛り付けてね。
生きながら永遠に苦しみ続けるように
真鍮の棒で串刺しにしたとも聞きます。
だから、いまだに苦しんでいるんですよ。
ええ、私もそう思います。
地下から掘り出してやるべきでしょう。
ですが、あまりにも恐ろしすぎる犯罪ですから
いまさらそれをする勇気が私にはないのです。
あなたは祖父との血の繋がりがない。
当家に婿入りして、やがて私が死んだら
あなたが掘り出してやってください。
頼みますよ。
2008/12/10
「地下室への入口よ」
廊下廊下廊下廊下廊下
階段
階段
階段
階段
階段
階段
階段
「暗いから、気をつけて」 踊り場
階段
階段
階段
階段
血 階段
血 階段
死 体 階段
床床床血血血血床床床
「きゃあああああ!」
2008/12/09
カラスの鳴き声で眠りから覚めた。
かなり近くでカラスは鳴いている。
いつも私は頭を窓に向けて寝るのだが
カラスは外のベランダにいるらしい。
スズメやハトならともかく
なぜカラスがこんな近くにいるのか。
寝たまま考えるのだが、よくわからない。
眠りから覚めても目は閉じたままだった。
仰向けに寝ているのだが
まるで起きる意欲が湧かないのだった。
すでに夜は明けているはずだが
それでも網膜に薄暗く感じられるのは
カーテンが窓を覆っているからだろう。
さきほどまで夢を見ていたはずだが
その内容はどうしても思い出せない。
そういえば、昨日なにをしたのか
それさえ思い出せないのだった。
ふと、異臭がするのに気づいた。
肉が腐っているような臭いだった。
ベランダに猫の死体でもあるのだろうか。
だから、ベランダにカラスがいるのか。
寝たままでは確信など持てなかった。
そろそろ起きなければいけない。
社会人として許されないことであり、
体にとっても寝すぎるのは好ましくない。
どうすれば起きることができるのか
仰向けに寝たままで私は考えてみた。
まず寝返りを打って、うつ伏せになり、
膝を突き、尻を持ち上げた姿勢になれば
もう素直に起きた方が楽になるはずだ。
けれども、理屈はそうなのであろうが
最初の寝返りさえ、私は打てないのだった。
あいかわらず目も開けることができない。
カラスの鳴き声さえ気にしなければ
あたりは信じられないくらい静かだった。
家人の足音も、扉が開閉する音も
近所の奥さんの笑い声も聞こえなかった。
私自身の息や鼓動の音さえ聞こえなかった。
カラスは一羽ではないような気がした。
二羽か三羽か四羽か五羽か六羽か
あるいは、もっといるかもしれなかった。
その生きた心地のしない不吉な声が
寝たままで動けないわたしの体を覆っていた。
耳を塞ぎたくても、指さえ動かせなかった。
あの肉の腐ったような臭いが
ますます強く感じられてくるのだった。
2008/12/06
夕暮れが迫っていた。
急がねば。
村はずれに首切り地蔵が祭ってある。
罪もなく打ち首にされた村人の慰霊だ。
道の真ん中、地蔵の首が落ちていた。
気味悪いが拾い上げ、戻そうとした。
だが、首切り地蔵の首はちゃんとついてる。
慈愛の表情。
あわてて首を投げ捨てた。
ますます暗くなってきた。
急がねば。
まもなく足引き池の横を通ることになる。
池に近づくと、足を河童が引き込むという。
その澱んだ水面から腕が二本突き出ていた。
顔も出ていた。
だが、河童ではなかった。
それは村の子だった。
見覚えがある。
そのまま引き込まれるように池に沈んだ。
すっかり日も沈んだ。
とにかく急がねば。
ぼんやり遠く、身投げ橋が見えてきた。