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  • 魔女裁判

    2012/01/31

    ひどい話

    魔女であると容疑をかけられた人間は
    審問官の前に引き出されることから始まる。


    まず告発文の朗読。

    内容は、たとえば胎児を殺して食ったとか、
    魔法の秘薬を作ったとか、呪いをかけて災いを招いたとか。

    容疑者は、私は魔女ではありません、陰謀だ、
    などと絶叫するが、なにを言っても無駄である。

    悪魔はお前たちの方だ、などと毒づく者もいる。

    しかし、それは教会にはむかう悪魔の言葉であると判断され、
    そのまま拷問台に送られるのだった。


    審問によって自白しなければ、次は拷問。

    被告は裸にされ、きつく縛られて宙釣りにされた。
    その際、苦痛を高めるために、足には錘をぶら下げられる。

    そして、体中くまなく点検され、証拠探しが行われる。

    証拠とは、悪魔のマークと呼ばれる刻印。

    悪魔との性交時につけられ、
    悪魔に対する忠誠心をあらわすものとされる。

    あざ、いぼ、ホクロなどが悪魔との接触による痕跡とされ、
    魔女と断定する有力な決め手とされた。

    それでも発見されない場合、
    咽に棒を突っ込んで胃の中のものをすべて吐かせる。

    さらに大量の水を飲ませたうえ浣腸までして排便させ、
    大便と吐瀉物を探索するのだった。


    魔女を泳がすこともよく行われた。
    被告の頭や手足を縛り池に放り込むのである。

    魔女は水よりも軽い超自然的な存在と考えられ、
    被告が浮けば有罪で魔女だと見なされた。

    沈んで溺死すれば無罪ということになる。
    いずれにせよ、被告は生き延びることはできないのだった。


    自白を強要するための拷問には様々なものがあった。


    鉄製の長靴が履かされ、
    靴と足のわずかな隙間にくさびが打ち込まれる。

    第一撃で鮮血が噴出し、あまりの痛みに受刑者は絶叫する。
    第三撃目で膝の骨は砕かれて骨の髄が飛び散ったという。


    魔女の椅子という拷問もあった。

    尻を乗せる部分に穴の開いた鉄製の椅子に座らされ、
    その下からロウソクであぶられる。

    陰毛や肛門、尻の肉が焼けただれて恐ろしい苦痛を伴い、
    排便も満足にできぬような哀れな体と成り果てる。


    水責め、指つぶし、目つぶし、舌抜き、・・・・・・
    その他、ありとあらゆる恐ろしい拷問が行われた。

    ほとんどの人間は、一時的に苦痛を逃れたいがため、
    ありもしないことを自白した。


    自白すれば、受刑者は魔女ということになり、
    生きたまま火刑に処せられることになるのだった。


    (「不思議館〜中世の血塗られた史実〜魔女狩りの時代
     より、要約引用)

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


    「あの女は魔女よ!」

    恋敵の女に密告されてしまった。


    私は審問官の前に引き出された。

    「おまえは自分が魔女であることを認めるか」
    教会の司祭でもある審問官が問う。

    「そうよ。私は魔女よ」
    私は、あっさり認めてやった。

    「そして、あなたも魔女よ」

    審問官はうろたえる。
    「たわけたことを。私は男だぞ」

    「あら。魔女なら、男にだって化けられるはずよ」


    裸にされた審問官の尻には黒い尻尾が生えていた。


    やがて、私を密告した恋敵の女と一緒に
    審問官は火刑に処された。


    「ふん。本物の魔女を見くびらないことね」

    私は審問官の席から
    愚かな人間どもに宣告した。
     

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  • 余計なお世話

    2012/01/30

    ひどい話

    市立図書館から借りた推理小説を読んでいたら、
    その本の途中にボールペンで書き込みがあった。

    ある登場人物の名前を四角く囲み、下手糞な字で

    [こいつが犯人]


    世の中には親切な人がいるものだ。
    ぜひとも、厚くお礼を申さねばなるまい。


    というわけで、これを書き込んだ奴が誰なのか、
    犯人捜しをすることにしたのだ。


    まず、人物分析。

    どう考えても、いやな奴であることは確信できる。
    こいつと共同生活だけはしたくない。

    マナーは守らず、自分勝手で、近所迷惑な嫌われ者。
    自転車泥棒や万引きくらい、平気でやりそうだ。

    この推理小説を読み終えたくらいだから
    それほど知能が低いわけではあるまい。

    しかし、この字の下手糞さ加減からすると、
    先天的にだらしない感じはする。


    詳細な筆跡鑑定もしてみる。

    筆圧やペンの流れからのタイプ分類。
    どうやら犯人は左利きで、男性である可能性が高い。

    その他、この推理小説の内容、作家の傾向なども考慮。

    年齢や家族構成、学校または職業の範囲など、
    とりあえずの大まかな仮説的人物像を割り出す。


    友人の知り合いの自称ハッカー君を崇め奉り、
    市立図書館の登録データ、貸し出し情報を不正入手。

    近所の小学生をそそのかし、少年探偵団を結成。
    容疑者たちの張り込み、聞き取り調査。


    その他、なんだかんだ半年近くも手間取ったが、
    ほぼ犯人を特定することに成功した。


    ただし、限りなく黒に近い容疑者がふたり。

    どちらが犯人であっても不思議ない。
    どちらが犯人だとしても納得できてしまう。


    悩んだ末、ふたりの容疑者のどちらにも
    匿名の手紙を送ることにした。

    宛先の本人の名前をパソコンとプリンターで印刷し、
    その活字をボールペンで四角く囲み、下手糞な字で

    [おまえが犯人]

    これだけ。


    それにしても、まさか
    あんな結果になるとは思いもしなかった。


    ひとりの容疑者は
    ある強盗傷害事件の真犯人として自首。

    もうひとりの容疑者は
    なんと自殺してしまったのだ。
     

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  • 待ちくたびれて

    2012/01/29

    切ない話

    いつまで待っても
    あの人は来ないのだった。

    行く行く、と言ってたくせに
    まったく来る気配がないのだった。


    ただ待っていても仕方がない。
    世間で流行のゲームをやってみた。

    ある目的を達成すれば勝ち。
    できなければ負け。

    なかなか面白かった。

    だが、もともと大した目的ではなく、
    勝っても負けても深い意味はないのだった。

    やがて目も頭も腕も腰も痛くなり、
    疲労と空しさを感じ始めた。

    とうとうゲームはやめてしまった。


    あの人はまだ来ない。


    ふと気まぐれに
    ペットを飼ってみた。

    小さくて、なかなか可愛らしい。

    あの人のことを忘れてしまうくらい
    しばらく夢中になった。

    けれど、やがて大きくなり、
    なんだか可愛らしくなくなってきた。

    餌もやらずに放っておいたら
    そのうち行方不明になってしまった。

    そんなもんか、と思った。


    あの人はまだ姿を現さない。


    港に客船が入る。

    駅に列車が到着する。
    バス停にバスが止まる。

    自動車が家の前に停車する。

    あの人が乗っているかもしれない。
    乗っていないかもしれない。

    どちらにしても、あの人は
    もう降りてくることはないような気がする。


    もう待つのはやめようか。
    そんな気持ちにもなってくる。

    あるいは、あの人は私のことなんか
    もうとっくに忘れているのかもしれない。


    とにかく私、すっかり
    待ちくたびれてしまった。
     

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    • Tome館長

      2013/03/01 23:43

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/02/10 18:10

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • 辿り着けない場所

    2012/01/28

    切ない話

    その輝ける場所は 
    同じ志を持つ者にとって栄光である。

    その聖なる場所は 
    同じ夢を抱く者にとって希望である。


    「また負けたよ」
    「そうか。おまえもか」

    「どうしても勝てねえ」
    「まったく、強い奴が多すぎるよな」

    「くそっ。もう諦めようかな、おれ」
    「おまえ、この前もおんなじこと言ってたぞ」

    「子どもの頃、天才とか博士とか言われてたのによ」
    「おれだって、田舎じゃ神様扱いされてたぜ」

    「そんなのばっかりだもんな、ここは」
    「ホント、凡人もいいところだ」

    「いまさら帰れねえしな」
    「ああ。恥ずかしいよな。馬鹿みたいだし」

    「・・・・おれ、死ぬ気になって頑張ったんだけどな」
    「ふん。本当に死んだ奴だっていたぞ」

    「ああ、知ってる。いたな」
    「ひどい負け方したから、絶望したんだろ」

    「かもな。・・・・死んだ方が楽かもな」
    「へっ。・・・・くそっ!」


    その場所に辿り着くためには 
    累々たる屍を踏み越ねばならない。

    また、奇跡的に辿り着けたとしても 
    そこにいられるのは、わずか一瞬である。
     

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  • 折れた氷柱

    2012/01/27

    ひどい話

     僕が幼かった頃の
     ある大雪の年のこと。


    僕が外で遊んでいて

    雪玉をつくって
    屋根に向かって投げたら

    一本の氷柱に当たって
    根もとから折れて

    それが下で雪かきしていた
    お爺ちゃんの頭に刺さりました。


    お爺ちゃんがビクンとして
    それから枯れ木のように倒れると

    一面まっ白だった雪が
    まっ赤に染まって

    なんだか
    紅白の錦鯉みたいで

    とってもとっても
    きれいでした。


     雪国の子どもの
     不思議な思い出です。
     

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  • 太陽ヨットレース

    2012/01/26

    ひどい話

    第一回太陽ヨットレースは熾烈を極めた。


    光が鏡に当たって反射すると、鏡に圧力が加わる。
    これを光圧と呼ぶ。

    太陽ヨットは、太陽からの光圧を推力源とする宇宙船のこと。
    誤解されることが多いが、太陽風で飛ばされるわけではない。

    太陽風は、太陽から吹き出す電気を帯びた気体の風だが 
    推進力として使えるほどエネルギーはないのだ。


    近年、極めて軽量かつ極めて広い面積を保持できる薄膜鏡 
    および極めて高性能な薄膜太陽電池が開発された。

    イオンの電荷を利用して加速するイオンエンジンとの併用により 
    宇宙空間における推進・姿勢制御が実用可能となった。

    ただし、重量オーバーとなるのため、人は乗せられない。
    プログラムとリモコン制御による無人宇宙船である。


    コースに関して、途中経路の選択は自由。

    地球の衛星軌道上にある宇宙ステーション近くのスタート地点から 
    火星の衛星軌道上にある宇宙ステーション近くのゴールまで。


    レースは、3隻の太陽ヨットによって競われた。
    出場は5隻だったが、うち2隻はスタートさえできず棄権した。


    レース中、たとえ先頭に立つことができても 
    そのまま優位を維持することはできない。

    後続のヨットが太陽との間に割り込んで影を落とす作戦を採れば 
    いくら進路変更を繰り返しても引き離すことは無理なのだ。

    また、それが3隻なので、ゲーム理論として駆け引きが難しい。


    ・・・・というわけで 
    第一回太陽ヨットレースは熾烈を極めた。

    ただし、レース結果は誰も知らない。


    こんな太陽ヨットレースを先進国が宇宙でやってる間に 
    世界最終戦争が地球上で勃発したからである。
     

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  • 諦めなさい

    2012/01/25

    ひどい話

    私はピコモラゲを抱えて審査会場に向かった。

    準備に三年、制作に丸一年かけた苦心の作である。
    トータルの費用も相当なものになった。

    革新的な発想、大胆かつ精緻な構造、有益性と娯楽性、
    あらゆる観点において歴史的な大傑作。

    自惚れても当然であろう。


    審査会場は混雑していた。

    このコンクールは世界中が注目しており 
    年々規模が拡大し、応募者数も急激に増えている。

    しかし、最終的に注目されるのは私に違いない。

    そんなふうに私は希望に燃えたまま作品受付の列に並び 
    書類と一緒にピコモラゲを提出したのだった。

    と、その時、受付担当者が手を滑らせ 
    ピコモラゲが大理石の床に落ちた。


    ・・・・割れてしまった。

    ピコモラゲが真っ二つに割れてしまった。


    「ああ。これは駄目ですね。審査基準を満たしません。
     こんなに簡単に破損してしまうようでは」

    受付担当者は割れたピコモラゲを床から拾い上げ 
    それを私の目の前に差し出した。

    「残念ですが、受理できません」


    私は笑った。

    なんで笑えたのか、私にもわからないが 
    広い審査会場が私の笑い声で溢れんばかりになった。

    この笑い声で、他の応募作品も全部 
    なにもかも世界中が壊れてしまえばいいのに。

    私は割れたピコモラゲをぴったり重ね合せ 
    非常用の緊急作動スイッチを押した。

    もしピコモラゲの機能がまだ壊れていないとしたら 
    きっと私の人格が壊れてしまったのだろう。

    それは決して押してはならないスイッチのはずなのだから。
     

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  • 歴史介入者

    2012/01/24

    ひどい話

    産院で息子が生まれた、
    と喜んでいたら、歴史介入者が現れた。

    「この子は将来において、恐るべき犯罪者になります。
     大人になる前に粛清せねばなりません」

    政府発行の身分証明書を提示しながら説明するのだった。


    タイムトンネルを通って未来から来たのだ、
    と歴史介入者は言う。

    時間移動のための大型設備が完成した、
    という最新ニュースは、俺も聞いて知っていた。

    その結果が、これか。


    あまりのことに信じられず、呆然としていると、

    「待つのだ。その子を殺してはならない」
    新たな歴史介入者が現れた。

    「その子が大人になって殺した青年の一人が、未来において
     とんでもなく極悪非道な犯罪者になってしまったのだ」


    さらに俺が呆然としていると、

    「いやいや。待て待て。やっぱり殺すべきだったのだ」
    さらに新しい歴史介入者が現れた。

    「最新の未来においては、あまりにも平和が続いたために
     人口爆発が起こり、絶望的な惨状を呈しておるのだ」


    呆れ果てた俺の目の前で
    それぞれ歴史の異なる三人の歴史介入者が口論を始める。

    そのうち取っ組み合いの喧嘩をやり出した。


    さすがに腹が立ってきた。

    俺は護身用の銃を引き抜くと、
    彼らに向け、怒りを込めて全弾撃ちまくった。


    「ふん。現在における正当防衛さ」

    どうせ未来がなんとかしてくれるだろうよ。
     

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  • 秘密基地

    2012/01/23

    思い出

    雑木林を抜けると、ちょっとした広場があった。
    近所の子どもたちの遊び場だった。

    寺の裏山なので、墓場から続く小道もあった。


    この広場の端に小さな家を建てた。
    丸太や枯れ枝で組んだ掘っ立て小屋だった。

    ささやかながらも、秘密基地なのだった。


    あれは梅雨の時期だったろうか。
    突然、にわか雨が降り出したのだ。

    あわてて秘密基地の中に駆け込む。


    「えらいわ。ぜんぜん雨がもらない」
    すぐ耳もとで声がした。

    同じ小学校に通う女の子だった。

    「うん。屋根に葉っぱ、いっぱい重ねたからね」
    ちょっと自慢だった。

    屋根や地面を叩く雨音が、僕への拍手のようだった。


    その時だった。

    「ほら、見て。あれ」
    「なに?」

    それは、ヘビだった。
    太くて黒い大蛇が這っていた。

    大粒の雨に濡れた皮が、ぬらぬら光っていた。

    すぐ目の前の地面をゆっくりと横切ってゆく。
    こっちなんか見向きもしない。


    「立派ね。すごいわ」

    彼女は興奮していた。
    小さく拍手さえしていた。

    僕は怯えていた。
    だから、なんにも言えなかった。

    その黒い尻尾が草かげに隠れてしまうまで。
     

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  • 明日の魔女

    カリエは、小さな魔女。
    王立魔法学校初等科の劣等生です。


    魔法の定期試験では失敗ばかり。

    試験官による口頭での出題。
    「このトカゲをヘビに変身させなさい」

    しっかりヘビの変身呪文を唱えたはずなのに
    なぜか恐ろしい姿のドラゴンが現れます。

    もう試験会場は大混乱。


    「あ〜あ。どうしてあたしって、失敗ばかりするんだろ」
    カリエはぼやきます。

    「でも、カリエってすごいよ。
     私なんか、ドラゴンなんて絶対に出せないもん」
    友だちで優等生のメンマが慰めます。

    「あんなの出したって、なんの役にも立たない」
    「そりゃまあ、そうだけど・・・・・・」

    「明日の追試、とっても心配」
    「あのね。きっと呪文、深く唱えすぎなのよ。
     適当に力を抜いてやれば、カリエなら大丈夫だって」

    「そうかな」
    「そうだよ。だから、頑張らないで、気楽にね」

    「うん。なんとか、やってみるけど・・・・・・」


    メンマと別れて、ひとりぼっちの帰り道、
    カリエは夕焼け空を見上げます。

    (明日こそ、うまくできますように!)

    どうしても強く願わずにいられません。


    けれども、その瞬間、

    このまま続くはずの明日でなくて
    まったく新しい明日をひとつ作ってしまったことに

    カリエは気づきもしないのでした。
     

    Comment (2)

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    • Tome館長

      2012/02/10 17:05

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/02/02 23:56

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

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