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Tome館長

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  • かくれんぼ

     
    「もういいかい」
    「まあだだよ」

    「もういいかい」
    「もういいよ」

    「どこだろう」
    「どこかしら」

    「見つからない」
    「どうしたの」

    「消えちゃった」
    「見つけてよ」

    「教えろよ」
    「しいらない」

    「もう出てこい」
    「まあだだよ」
     

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    • Tome館長

      2012/01/27 12:40

      「しゃべりたいむ」かおりさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2011/08/11 23:18

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 究極の辞典

    2009/01/31

    変な話

    ある図書館に完全無欠の辞典がある。

    この辞典の言葉の定義は完璧である。


    図や写真は一切載せず、

    曖昧さを残すことなく
    言葉だけで言葉を定義している。


    勿論、誤植や落丁などの不備は皆無。

    意味不明の言葉があれば、見出し語で引く。

    そこにまた意味不明の言葉があれば、
    さらにまた見出し語で引く。

    こうして意味不明の言葉がある限り、
    見出し語を引き続けるのである。


    ところで、頁の間に挟まっているのは
    しおりではない。

    つぶれて乾燥した閲覧者である。
    いわゆる押し花のようなもの。

    この辞典に限り、さして珍しくもない。
     

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  • 裂けた恋人

    2009/01/30

    変な話

    ある朝、ベッドの上で目覚めると、
    恋人のからだがふたつになっていた。


    双子のようによく似たふたりの少女。
    どちらも痩せて小さく、かわいらしい。

    肌の色だけはっきり違っていて、
    一方は色黒、片方は色白。

    ふたりを仮に、黒子、白子と呼んでおく。


    「腹減った」
    黒子が寝たままつぶやく。

    「朝食を用意するわ」
    白子が起きながら言う。

    それがほとんど同時。


    黒子も白子も、恋人に似ていた。

    ただし、年齢も体重も、恋人の半分ほど。
    ふたり合わせて、やっと恋人と吊り合う。


    ベッドの上でふたりに挟まれ、
    両方の胸に左右の耳を当ててみると、

    まったく同じリズムの鼓動が聴こえる。


    ひとり分の食事をふたりで食べる。
    外出も入浴も、いつも仲良く一緒。

    呆れたことに、トイレまで一緒に入る。


    結局、恋人がふたつに裂けただけ。

    ただそれだけのこと、かもしれない。
     

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  • 無視されて

    2009/01/29

    切ない話

    なんとか車道を横断することに成功した。
    と思ったら、歩道で男にぶつかった。

    「ちぇっ、ついてねえな」

    唾を吐き捨て、そのまま男は歩み去ろうとする。

    「おい。それはないだろ」

    声をかけたが、男は振り向きもしない。


    またか。
    ため息が出てしまう。

    また無視されてしまった。
    どうして私はこうも無視されるのか。


    存在感がないのは、よく知っている。
    もともと目立たない子どもだった。

    学校では友だちもできなかった。
    誰も私と一緒に遊んでくれないのだ。

    授業中に指名されたこともなかった。
    教師が私を無視するからだ。


    カウンセラーに相談しても無駄だった。

    「僕、みんなに無視されるんです」
    「はい。次の人」


    近頃、ますます目立たなくなってきた。

    ついに親兄弟にまで無視されるようになった。

    きっと僕が死んだって
    ハエの死体ほどにも感じてくれない。


    こんな状態では働くこともできない。

    もっとも、衣食住で困ることはないけどね。
    裸で往来を歩いても注意されないから。

    万引きとか家宅侵入だって平気だ。

    たとえ見つかっても
    盗品を返せば問題にならない。

    盗品の方が私より存在感があるわけだ。


    映画館は入場券がなくても入れる。

    私の存在感は、ほとんど路傍の石。

    透明人間より便利かもしれない。
    覗き見できるし、痴漢で捕まる心配もない。

    そう考えると、少しは気が楽になる。


    しかし、いまだに仲間も友だちもいない。
    もちろん、恋人なんかいるはずない。

    さびしくない、と言えば嘘になる。
    けれど、それほど不満は感じない。

    けっして強がりではない、と思う。

    強がっても、どうせ無視されるし。
     

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  • 背後霊

    2009/01/28

    怖い話

     
    私は背後霊である。
    ただし、背後霊の背後霊である。

    つまり、ある生者の背後に背後霊がいて、
    その背後霊の背後に私がいるのである。

    ゆえに私は背後霊の背後霊なのである。


    生者が自分の背後霊に気づかないように
    背後霊も自分の背後霊に気づかない。

    理屈はわからないが、そういうふうになっている。


    ということは、私に見えないだけで、
    私の背後にも背後霊がいるのかもしれない。

    そして、その背後霊にも背後霊がいて、
    さらにその背後霊にも背後霊がいて、

    そんなふうに、私の背後には
    背後霊の列が無限に続いているのかもしれない。


    い、いやだなぁ〜。
     

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  • 運 河

    2009/01/27

    明るい詩

    たくさんの異国の船が運河を渡る。

    ありとあらゆるものが運ばれてゆく。
    美しく、いかがわしく、危険なものまで。

    この運河がなければ大陸を迂回するしかない。
    想像しただけで、吐き気とめまいがする。


    誰が運河を作ったのか、いまだ謎のままだ。

    「昔ね、幼い神様が砂遊びをしたのよ」

    そんな母の話を信じていた頃があった。
    この砂の海しか知らない船乗りにも。


    青い星が昇る。
    わが祖父の星、水の惑星。

    火のように燃えるこの赤い星の夜空に。
     

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  • 泥棒会社

    2009/01/26

    愉快な話

    これは雑誌で読んだ実話なのだが
    泥棒会社があったのだそうだ。


    事務所があり、社長がいて、社員がいて
    表向きは平凡な会社を装っているが

    彼らは泥棒して稼いだ利益によって給料を得ていた。


    泥棒という手段による会社の運営には
    やらなければならないことがたくさんある。

    地域の下見調査と泥棒に入る建物の選定、
    泥棒のために必要な道具の開発や購入、

    泥棒としての技術訓練ならびに体力づくり、その他。


    企画会議のようなものもあったはずだ。

    盗品を現金化するルートも必要であり、
    開発、営業、経理などの組織化も望まれる。


    結局、この泥棒会社は御用となったわけだが
    逮捕された泥棒社長の供述によると

    泥棒はあまり儲からない、のだそうだ。
     

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  • わき道

    2009/01/25

    怖い話

    帰宅途中、道に迷ってみたくなり、
    わき道にそれてみた。

    見飽きた風景をさけたくなって
    そんな気分になる時がある。

    五階建てのマンションは目立つから
    初めての道でも帰れるはずだ。


    すっかり夕暮れになっていた。

    見知らぬ家並み。
    円形の飾り窓。

    背の高い垣根が続いている。

    吠える番犬。
    死んでる猫。

    表札のない門。
    崩れそうな石段。

    ふざけてるみたいに歪んだ坂道。

    なぜかまったく人影がない。
    夜空に疑問符の形の星座が浮かぶ。

    やはり迷ってしまったらしい。


    あやしげな叫び声が聞こえてきた。
    気のふれたお嬢様だろうか。

    座敷牢の中で怯えていたりして。
    でも、何に怯えているのだろう。


    ようやく見覚えのある場所に出た。
    そびえるマンションのシルエット。

    でも、なぜか四階建てになっている。
     

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    • Tome館長

      2012/09/05 13:08

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2011/05/29 22:05

      ケロログ「山猫亭奇譚」銀猫さんに朗読していただきました!

  • ライフル銃

    細長い沼のように見える川が流れ、
    その土手に沿って壁がめぐらされている。

    壁は一部爆破され、
    無残な裂け目ができている。

    そこから顔を突き出すと、

    草原の疑似地平線を背景として
    墓石のように立ち並ぶ団地の群が見える。

    これら団地には不特定多数の住民が寄生し、
    とりとめのない日常生活が営まれている。


    ある専業主婦たる妖艶なる若妻は
    おそらく違法であろうライフル銃を所持し、

    雀やカラスを撃つのに飽き飽きしている。

    そのため彼女は

    川沿いの壁の穴から人影が現われるや
    その見知らぬ他人の額に照準を合わせる。


    ところが、予告なく夫が帰宅した。


    ライフル銃を電気掃除機に改造すると
    若妻は急いでトイレに隠れ、

    ひっそり静かに用を足す。


    疲れた夫が家に分け入る。

    夫が洋服ダンスの扉を開けると
    なぜか中に下着姿のセールスマンがいる。

    男は単に隠れているばかりでなく、
    汗まみれでラーメンの汁さえすすっている。


    「いやあ、ご主人。
     まったく、ここは暑いですねえ」


    ご主人たる夫は目を宙に浮かせ、
    ぼんやり考え事を始める。
     

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  • 退 屈

    2009/01/24

    ひどい話

     
    突然、同居人が叫ぶ。

    「ああ、退屈で退屈で退屈で
     人殺しでもしなければ脳が腐りそうだ!」

    もう、手遅れかもしれない、と私は思う。

    確認しておく必要があった。

    「想像では不満なの?」
    「だめだ。全然だめだ。想像では罪を感じない」

    「想像力が不十分なのでは?」
    「そうかもしれない。が、もう限界だ」

    やはり手遅れのようだ。
    ちゃんと教えてやるべきだろう。

    「あんた、もう脳が腐ってるわ」
    「なんだと!」

    同居人が私の首を絞める。

    「こ、殺す。殺してやる!」

    苦しい。本当に殺されてしまう。

    でも、これでいいのかもしれない。

    私だって退屈で退屈で退屈で
    殺されなければ脳が腐りそうだったから。
     

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