岡田千夏

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京都府京都市

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  • 対カラス作戦

     夏のあいだ、どこかへ行っていたカラスたちが戻ってきたようである。これから実りの秋本番で、野山にはいろいろと美味しいものがあると思うのだけれど、なぜか人間の出したごみに集まってくるので困る。表でかあかあ、ばさばさと騒がしいから、みゆちゃんは朝から窓辺に張りついてカラスの監視に忙しいが、みゆちゃんがガラス越しに睨んだくらいでは、カラスはなんとも思わないから、肝心のところでは、人間が出て行って追っ払わなければならない。安穏な家猫の地位に甘んじるばかりでなく、たまには、カラスが恐れをなすくらいの猛獣的な霊気を放ってくれればいいのだが、ちっとも役に立たない。もっとも、カラスにもなめられる、そのちょっと抜けたようなところがまた、みゆちゃんのかわいいところなので、仕方ない。
     それで、あんまり趣味がいいとは思われないが、カラスの死体らしきものを作って吊っておこうと考えた。ホームセンターの園芸用品売り場で、カラス除けの小道具としてそういうものが置いてあったのを思い出したのである。
     カラスは、仲間の死体を見ると、なんかあそこはヤバイ、と思ってそこには近づかないらしい。実際にカラスの頭のなかで、どのように情報が処理されているのかはわからないけれど、仲間の死骸をみて、ひどい目にあっている状況を自分に置き換えて想像しているのだとしたら、まったく賢い鳥だと思う。
     黒いゴミ袋を、切ったり貼ったり、ねじって留めたりして、憐れなカラスの死体らしきものを作った。これをゴミ袋のそばにぶら下げておくのである。いくら偽物でも、見せしめというのはなんとなく残酷な感じで気が引ける。どこにぶら下げけようかと考えながら窓の外を覗いたら、すでに表は静かになっている。お腹が膨れたのか、別の餌場へ移ったのか、もうカラスたちが退散したあとらしかった。
     いないとわかったら、気が引けるなどと言っていた気持ちはどこかへいって、せっかくつくったカラスの死体を試せないのが残念になった。
     来週のごみの日が、早く来ないかと思う。

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  • みゆ猫おやつ事情

     台所の真ん中にはダイニングテーブルがあって、一方の壁際には冷蔵庫、その反対側にはコンロや流しの並びとその上の戸棚がある。みゆちゃんの乾しカマは冷蔵庫、煮干は戸棚に入っている。だから、みゆちゃんは、乾しカマがほしいときには冷蔵庫に近い方のテーブルの隅に座り、煮干がほしいときにはそれとは反対の隅っこに座って、にゃあと言ったり、あるいは黙って見つめたりして、催促する。
     乾しカマばかり気に入って食べていた頃があって、冷蔵庫を開けるたびに首を突っ込んでくるから、たびたびやっているうちにとうとう乾しカマがなくなってしまった。もうないよと言っても、冷蔵庫の前でにゃあにゃあ鳴いている。新しいのを買ってくるまでのあいだ、煮干をあげようといっても、煮干にはあまり興味がわかないらしく、しかたなしに、嫌々といった体で食べている。
     待ちに待った乾しカマを買ってあげたところ、しばらくは喜んで食べていたが、やがて少々飽きてきたらしい。あるいは、こちらが気を利かせて「まぐろ味」を選んできたのが、あまり口に合わなかったのかもしれない。今度は、戸棚の前にばかり座るようになった。
     乾しカマに偏り、煮干に偏りしたあとは、また徐々に食べ方が均等になっていって、近ごろはだいたいどちらも同じくらいの割合で食べるようである。
     みゆちゃんのおやつはもうひとつあって、それは、普段主食として食べている安価なドライフードよりも少し値段の高い小袋に入ったカリカリで、私の机の引き出しにしまってある。引き出しを開けると飛んでくるが、自分から催促するということはない。
     それから、最近、缶詰のツナの味も覚えたようである。茹でた青梗菜とツナを和えてテーブルに置いたまま、油断してほかの作業に取り掛かっていたところ、背後に気配を感じてふりむいたら、テーブルの上に乗ったみゆちゃんが、ちょうど和え物のツナに鼻をつけようとしたところであるようだった。こらこらと器を取り上げて、それはそのまま晩のお膳に並んだが、よくよくあとから考えてみると、そのあとみゆちゃんはさも満足げに顔を洗っていたから、あれは鼻をつけようとしたところではなくて、もうツナをひと舐めふた舐めしたあとだったのかもしれない。

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  • 笑う寿司職人

     また回転寿司に行った。
     案内されたのはこのあいだ来たときとは別の席であったのに、カウンターの前で寿司を握っているのは、あの、職人気質を絵に描いたような気難しい顔の職人さんだった。職人はほかにもたくさんいるのに、なぜまたこの人なのだろうと思う。人の顔を覚えるのが不得手なので、もう彼の顔の細かいところは忘れていたのだけれど、あらためて見るに、この前描いた猫化似顔絵はなかなかよく出来ていたと我ながら思った。
     大人は、次に何を食べようかと回ってくる寿司の皿ばかりを注視していたが、子供は、その皿の向こうで職人さんが行っている寿司作りひとつひとつが気になるらしい。かんぱちかなにか白身魚の三枚に下ろした切り身の片側を、まず縦に切ったのを見て、細長くなったね、などといちいち実況中継してくれる。次に、恐ろしいほど刃渡りの長い包丁で魚の切り身を短冊形に切りそろえていく様子を、子供が何か彼のプライドに触れるような余計なことを言わないかしらと思いながら私も見ていた。
     かんぱちを切り終わると、鮮やかな赤い色をしたまぐろの短冊を出して、握った寿司飯の上に乗せた。それを見て子供が、今度は人参作ってはるね、と言った。
     一瞬間があって、彼が、険しい顔をまぐろに向けたまま、口を開いた。これはな、美味しい人参やで。
     そう言って、ちょっと顔を上げて、にやっと笑った。

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  • 琵琶湖のイラガ

     今年の夏は、滋賀県守山市の烏丸半島にある蓮の群生地を見に行った。その規模の大きさは圧倒的であると聞いていたから、前々から一度見てみたいと思っていたのである。
     冬に半島の横を通ったときには、寒々とした湖面に、立ち枯れたような蓮の残骸が点々としているだけであったのに、それがいつしか、半島の北側すべてを多い尽くすように青々と盛り上がった蓮の葉が命あふれる緑の大地のようになっていて、湖面がちっとも見えなくなっている。
     無数の蓮の花が、その緑の茂みにかかる淡いピンク色の靄のように、どこまでも朧朧と続いている。大きな花弁が、琵琶湖を渡る風にそよがれてはらはらと揺れる。
     朝の早い時間に来れば、蓮の花が開く瞬間を見ることができるらしいが、そんなに早い時間には来られないので、着いたのは、お昼前である。8月はじめの頃だから、暑い。しかも、蓮を鑑賞するのに好都合な半島の北側にある遊歩道は、日陰がちっともない。
     暑いさなかを歩いて行って、ようやく向こうに、二本のクスノキが木陰をつくっているのが見えた。一息つけると思って足取りも速くなり、木の下へ入ろうとしたところ、毒々しいほど鮮やかな黄緑色に青い縦縞の入った棘棘のイラガが、木の幹にもまわりの地面にもいっぱい散らばっているのに気づいた。
     イラガの棘は、中が注射針のようになっていて、刺すと同時に毒液を注入するそうであり、刺されるとものすごく痛い。
     毒毛虫がいるのを知ってか知らないでか、気にせず木の下でくつろいでいる人たちもいたが、私はとうていイラガの木陰には入る気になれなかったので、暑いのを我慢して、岸の近くの水底を漁るカモの群れや、長く伸びた蓮の茎の根元を泳ぐ魚たちを見ていた。
     空気のひんやりした今朝、庭木に小さなイラガがついているのを見たので、そんなことを思い出した次第である。

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  • 秋の虫

     今週のはじめあたりに、すっかり空気が入れ替わってしまったようである。日はまだ暑くても、からっと乾いているから肌もさらさらしている。木陰に入ると爽やかな風が木の葉を揺らして、木漏れ日がちらちらする。いよいよ、秋めいてきたなと思う。
     山裾の公園へ出かけて行ったら、背の高い木々のあいだに見える空が秋の青さであった。空気が澄んで、向こうの比叡山が明るくそびえている。
     しばらく、過ごしやすい気候が続くのだろうが、季節の変わり目というのは、春も秋も、鼻や喉の調子が悪くなる。しばらく猫に触れなかったあとに猫と遊んだときのように、入れ替わった先の空気に体がすぐに順応できないのかもしれない。聞けば父がそうであって、どうやらこれは猫おやじの体質らしい。
     昨日から、窓の外で秋の虫の鳴くのが聞こえる。控えめな、小さな透き通った声で、りい、りい、と鳴いている。なんという虫かわからないけれど、どこから飛んできたのか、草むらのある裏庭ではなくて、おもてのどこかで鳴いている。そんなところでいくら鳴いてもつれあいは見つからないだろうから、教えてあげたいけれどそれも叶わず、何となく気の毒な感じがする。

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  • ハリー・ポッターの余韻

     とうとう、ハリー・ポッターの最終巻を読み終わってしまった。残り百頁ほどになって、やめられなくなって、昨日は夜更かししてしまった。
     今までに起こった数々の出来事が、互いに関連性がないようでありながら実は物語の核心の伏線になっていて、はじめはばらばらだったそれらが次第に絡まりあい、最終的に一本の太い線に収束した。その糸のつむがれ方があまりに鮮やかなので、ぼうっとした。
     しかし、なぜ面白いかなどという理由を、私がごちゃごちゃとここで言うつもりはない。面白いものは面白いので、そんなことは必要ない。
     そうではなくて、去年、最終巻が出る前日に、私が書いたことだ。ハリー・ポッターは面白いが、子供向けにしては、もう少し夢があってもよさそうなものだというようなことを書いたのだけれど、それは撤回しなければならない。最後に大どんでん返しがあって、私はすっかり騙された。参りましたとしか言いようがない。
     ページにして三千ページ以上、ハリーが11歳のときから7年に渡って、時間を共有してきたのだから、物語が終わってしまうのは、取り残されたような、寂しい気持ちがする。
     読み終わったけれど、本を本棚に戻すのは、なんとなく忍びない感じがするし、頭のなかにハリー・ポッターの余韻がまだ響いているから、次の本を読み始めるのも躊躇せられる。

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  • 町なかの大とんぼ

     朝、庭で洗濯物を干していたら、うしろの方で、ばさばさ言う大きな音が聞こえてきた。
     鳥の羽のような柔らかい羽音ではなくて、乾いた硬い音であったのだが、まさか虫がそんなに大きな羽音を立てるとは思わなかったので、何かを勘違いした小鳥が、私が近くにいるのに庭に降りてきたのかもしれないと思って振り向いたら、そうではなくて、とても大きな黒いからだのオニヤンマだった。
     子供に見せてやろうと思って、大声で呼んだ。
     オニヤンマは、大袈裟な羽音をばさばさと立てながら、庭を二周りほどしてから、塀の向こうへ飛んでいった。駆けつけた息子は、なんとか、飛んでいく巨大なトンボのうしろ姿を見ることができたようだった。
     近ごろでは、山の近くにある実家でもあまり見ることがなかったから、町なかのここの空にオニヤンマが飛んでいることに驚いたが、あまりにも大きすぎて、なんだか作り物のような感じがした。

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  • SL熱

     乗り物が大好きな息子に付き合って、ときどき梅小路の蒸気機関車館へ行ったり、SLのドキュメンタリー番組を一緒に見たりするから、SLについて少し詳しくなった。
     鉄道全般には特に興味はないけれど、蒸気機関車には、何かしら心惹かれるところがある。蒸気機関車は私が生まれたのと同じ頃に運転が終了したのだから、実際に走っている姿は見たことがないのだけれど、SLに結び付けられた感傷的なイメージが自分にも刷り込まれているのかもしれない。あるいは、子供の頃テレビで見ていた「銀河鉄道999」の影響かもしれない。(実際、私と同世代の人間は、初めて梅田とか難波みたいな大きな駅を見たとき、スリーナインに出てくる巨大な宇宙ステーションを連想するようである。)
     それに加えて、好きでしょっちゅう読んでいる内田百閒がこれまた大の汽車好きで、汽車についてたくさん書いているから、否応なしに汽車に対する思いが掻き立てられる。
     実際の駅のプラットホームに、白い蒸気を吐きながら入ってくる汽車を見たいと思う。百閒も書いているけれど、巨大な黒い塊が堂々とホームに滑り込んでくる様を想像すると、子供でなくても、胸がわくわくする。
     梅小路でも観光用に短い区間、汽車を走らせているが、汽車が牽引する客車もプラットホームも、遊園地の子供だましのようであるし、だいいち、乗り降りの都合上、ホームで汽車を待つことができない。
     新山口と津和野のあいだを走っているC57の1号機に乗りに行きたいが、遠いからすぐにというわけにも行かない。
     さしあたって、11月の日曜日に、湖北の米原から木ノ本までを「SL北びわこ号」と称してC56が走るらしいから、それに乗りに行こうかと考えている。

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